#砂時計の砂が落ちきる前に(16)
受話器からは、いつもの彼の声が聞こえてくる。
『美月?お前寝てたんじゃないのか?』不思議そうに聞く彼。
心に無い嘘を付いた。
『寝てた…』
彼には嘘だとバレていた。そして優しい声で彼は聴く。
『何か、あったのか?言ってみ。聴くから。』
優しい声に彼女はポロポロ涙を流す。
『蓮くん、今日休んだから心配して…』
言葉を詰まらせる彼女。
『今日休んだ理由は、親と用事があって休んだだけだよ。だから、心配するな。明日学校行くから。だから、大丈夫だから。てか、急に電話してごめんな。』
まるで隣にいるかの様に彼女にそっと優しく話をする彼。
『そっか…そうだったんだ。蓮くん、謝らないで。謝るのはオレだから…ごめんね…ごめんね…』謝る彼女はホッとした気持ちと今日あった出来事で涙が止まらなかった。
『美月!何してるの!?』1階から大声で呼ぶ母親の声。
『ごめん、また明日。おやすみ!』慌てて電話を切る彼女。
2階に上がってくる母親。
とっさに電話を元の位置に素早く置き布団を出し始める彼女。
『何してるの!?』またイラつきながら彼女に聞く母親。
『眠くなったから、布団を出そうと思って。』完全に嘘をつく彼女。
『布団出した風呂入って寝なさい!』怒りを彼女にぶつけたい母親。
入浴剤を入れて湯船に入る。
湯けむりに混じる彼女のため息。
"蓮くん…電話くれた…蓮くんに嘘ついちゃった…明日学校行きたくないなぁ…嫌だなぁ…”頭の中で考えながら湯船に顔を沈めた。
ブクブクブク…
『お姉ちゃん、何してるの?息出来なくなるよ。お母さんがお姉ちゃんと一緒に入りなさいって言ってたから一緒に入る!』
ブワァっと顔を上げ手で顔を拭く彼女。
『お姉ちゃん、好きな人居るの〜?』興味津々に聞く妹。
"今、そこ聞くかよ!終わったばかりなのに聞くな!!“
『居るわけないじゃん。』さらっと言う彼女に、ニヤニヤしながら湯船に入る妹。
ひたすら彼女に話しかける妹は思いもよらない事を口に出した。
『お姉ちゃん、知ってた?恋すると女の人はキレイになるんだって〜。"友達“が言ってたよ!だから、私も恋しなきゃ!お姉ちゃんも恋した方がいいよ〜。』
『ハイハイ。』呆れながらも妹の言葉が胸に刺さった。
『先に出るね〜。』湯船から出て鏡を見る彼女。"恋するとキレイになるのかぁ〜。いつもと同じ顔でキレイでもない“鏡に映されてる黒髪ショートヘアー、瞳の色は茶色。いつもの彼女の姿だった。
またため息をし着替え布団に入る。
"蓮くんに会いたいなぁ…でも、また無視されるし嫌がらせされるし…嫌だなぁ…“
気付くと朝になっていた。いつもの声がするが布団から出たくない彼女。
完全に学校へ行きたくなかった。
布団から出て来ない彼女を母親は迎えに来た。
『早く起きない!』
『お母さん、お腹痛いから学校休む。』布団に潜り込み小さな声で彼女は言った。
『ご飯食べれば治る!早く起きて学校行きなさい!』布団をめくり言った母親。
渋々起き上がり食事を摂ろうとするも飲み込めない。コップ半分に入った牛乳を飲み部屋へ戻った彼女はランドセルに目が行った。
"蓮くんに会いたいけど…嫌がらせされたくない…"
だが、家には居れなかった。ランドセルを背負い家を出る彼女。
歩いては立ち止まりを繰り返していたが、学校の前に着いてしまった。
彼女は腹部を押さえしゃがみ込んだ。
『美月!大丈夫か!?美月!どうした!?どこか痛いのか!?美月!オイ!』彼の声だった。彼の声に生徒が集まり囲み始める。
『オイ!お前、先生呼んでこい!』知らない生徒に指を差し指示を出す。次は違う生徒に『オイ!お前、ランドセル持ってろ!』次から次へと指示を出す彼。
そのまま、彼女はふわっと空に浮かぶ感覚があり、意識を失ってしまった。
目を閉じた彼女の頬には涙が伝っていた。




