#砂時計の砂が落ちきる前に(15)
『おはよう!』
いつもの様に教室に入る彼女。
シーンと静まる教室。誰も挨拶を返してくれない。
小さなため息をつき自分の席へ行き、準備を済ませいつもの様に生徒に話しかける彼女。
『ねぇねぇ!』
生徒はシカト。
また小さなため息をし、自分の席へと戻る。
彼を探すかの様に周囲を見渡す彼女。
一人の女子生徒が近づいてイラつきながら言った。
『今日、蓮休みだよ。アンタのせいで休んだんだよ。』
彼女は目を見開いた。
そして女子生徒は話し続ける。
『アンタさ、勘違いしてない?蓮と両想いだと思ってるの?もし思ってるならそれは違うから!蓮は誰とでも同じく接してくれてるの!アンタだけじゃないんだからね!ぶっちけ、蓮はアンタのこと迷惑だと思ってるから。』
教室中に広がる声、それと同時に笑い声が聞こえた。
"私のせいで、蓮くん休んだ…蓮くんは誰とでも同じく接してるもんね…私、変に勘違いしてた…馬鹿みたいに…"
いつも優しくいつも一緒にいてくれている彼に彼女は"特別な存在なのかなぁ…“と思っていた自分が恥ずかしく、彼に迷惑をかけていたのだと思い始めた。彼女の心は真っ黒な雨雲が広がり、ポツンポツンと雨が降り始めるかの様だった…
イラつきながらずっと話し続ける女子生徒の声が彼女に全く入って来なかった。
『ちゃんと聞いてんの!?迷惑なの!アンタは迷惑!調子乗らないでよ!私の言ってる事わかる!?ナマケモノだから、理解するまで時間かかるからしょうがないよねー(笑)』
教室中、笑いの渦だ。
石になったかの様に固まり下を見る彼女。
担任教師が教室に入って来た。
『皆んなで何笑ってるんだ?廊下まで聞こえたぞ。』出席簿を開き生徒に聞く先生。
『ナマケモノがめっちゃ面白くてさ』笑いながら男子生徒が話した。
話を聞かなかった様に出席を取る先生。
『今日は、蓮は休みだったなぁ。』独り言を言う先生。そのまま授業に入った。
教科書、ノートを出さず、ずっと石の様に固まったままの彼女は、自分自身を責めていた。
"どうしよう…私のせいだ…“
彼女の頭の中から笑顔の彼の顔は消えていた。"終わった…“たった3日で彼女の初恋は終わってしまった。
ぼんやり外を見つめる彼女。
『美月!美月!!若葉美月!』呼ばれる方へ目を向ける。
そう、主人公となる彼女の名前は『若葉 美月』
『自分の名前忘れたのか?教科書も出さないで何してる?勉強しないと看護師になれないぞ!』冗談まじりで先生は言ったが、彼女はそれどころじゃない。自分自身を責める彼女。目の前が真っ暗になり罪悪感を感じていた。
休み時間になる。トイレへと逃げ込むかの様に早歩きで向かう。
『ナマケモノが何処へ行くぞ!』
完全な嫌がらせが始まる。
トイレに行きトイレに閉じこもり、壁にもたれる彼女。
休み時間終了のチャイムが鳴り響く。
それでも、トイレから出れない。
"こわいよ…おじいちゃん助けて…誰か助けて…"
担任教師が彼女の名前を呼んだ。
『美月!大丈夫か?早く出てこい!劇の台本出来たから皆んなで話し合いだぞ!』
『オレ看護師になるから!』彼に約束した言葉を思い出し、『大丈夫!お前なら最高の看護師になれるぞ!大丈夫。絶対大丈夫。』彼が言ってくれた言葉が、彼女の雨雲を晴らしてくれた。
“大丈夫!絶対大丈夫!"彼女は自分自身に言い聞かせトイレの鍵を開け、手を洗い顔を洗い、ポケットタオルを出し綺麗に拭き教室へ向かった。
扉を開けると一斉に彼女を見る生徒達。
白い目線を感じながら席に着く。
台本が順番に配られる。ホチキスで簡単に止めたプリント。
彼女は看護師役に名前があるか確認した。
"えっ?名前ない。’’
もう一度、指を指しながら確認するも名前がない。
彼女は名前を探しながら彼の名前も探す。
『水上蓮…消防士役』ホッとするも、今度は自分の名前を探す。
"えっ!?なんでないの!?"焦る彼女。
『若葉美月…若葉美月…』指が止まり彼女は凍りついた。
『若葉美月…妊婦役』
"どうゆうこと?何で?私の夢は看護師だったはず“動揺を隠せない彼女。
無理もない。妊婦役になりたいなんて一言も言っていない。妊娠なんてした事ない。どうしたらいいか全くわからず、話はどんどん進んでいった。
周りの生徒は全てなりたい職業になっていたからだ。
"私だけ…どうして…“
『先生!オレ看護師役だと思っていたんだけど、何で妊婦役?』手を上げ発言する彼女。
思わぬ言葉かま帰ってきた。
『看護師役が6人も居てそんなに要らないから若葉は看護師役から妊婦役にしてもらった。妊婦役も凄く良い役だぞ!若葉は将来いい母親になると思ってこの役に決めた』自信満々で言う先生だったが、"もしかしたら先生も嫌がらせしてるのか?”と思う彼女。
周りの生徒達も『ナマケモノは母ちゃんみたいだからいいねー!』『明るいお母さんになりそう!』からかう様に声が飛び交う。
台詞は、なんだろう…?不安がまた襲い
言葉を失う彼女。
『若葉美月…"うっ、産まれるー"と言いお腹を抱え倒れこむ』
"何これ…在校生の前でやるなんて絶対無理…妊娠もした事ない、妊婦さんを見たことない。妊婦さんの気持ちが、どんな気持ちなのかわからない。絶対嫌だ。出来ない…“
彼女は手を上げ発言した。
『やっぱり無理です。』今にも泣き出しそうな彼女。思わぬ言葉がまた返ってくる。
『ワガママ言うな!一番目立つシーンだぞ。』
ある意味目立つが、彼女にとっては目立つ、目立たないは関係なかった。
思春期に少しずつ入っているから尚更だ。
放課後、教務室へ向かい担任教師に話す彼女。
『先生、ごめんなさい。妊婦役やっぱり出来ません。違う役に変えてほしいです。』
めんどくさそうに教師は言葉を返す、『美月、この台本作るのにどれだけ時間がかかったかわかるか?先生は一生懸命作ったんだぞ。』話を割込み『無理です。本当に無理です。』泣きながら話す彼女。周りの教師達は2人を見る。
目線に気付く担任教師。そして焦るかの様に彼女に言った。『わかった!明日また皆んなと話し合おう。』
彼女は泣きながら声を震わせ、『わかりました…お願いします。』
その後もずっとずっと泣いていた。
彼に迷惑かけていた自分、そして、嫌がらせが始まった事で不安だらけでいっぱいだったのだ。
帰宅してからも、無言のまま。
いつも通り、両親も彼女の様子に気付かない。
18時…いつもはならない電話が鳴り出した。
『若葉です。』よそ行きの声で喋る母。
『美月?』母親が電話で話す声に反応する彼女は電話台がある所に近づく。
『ごめんね。美月は、もう寝ちゃったの。また明日ね。』完全に嘘をつく母親。
電話を切ると同時に彼女は元の位置に着く。
『電話、誰だったの?』とぼけた様子で聞く彼女。
『蓮くんよ。電話で話すなら学校で話しなさい。』またイラつき始める母親。
"蓮くん、電話くれたのに…蓮くんと話したいのに…蓮くんにたくさん聞きたいことがあるのに…“
彼女も怒りが爆発しそうだったが、いいことを閃いた。
夕食を終え2階に行く彼女。"子機電話がある!蓮くんに電話できる!“
電話を取り、番号を打ち込む。
『もしもし、水上です。』
彼の声だ。胸が張り裂けそうな彼女。
『もしもし?』再度、彼が言う。
『あっ…あっ…』言葉が出てこない彼女。
『美月か!?』驚きを隠せない彼の声。




