#砂時計の砂が落ちきる前に(12)
夜中、静まりかえった部屋から出て行く彼女。右手にはハサミ。向かった先は洗面所だった。泣き過ぎて目は赤くパンパンに腫れ、まだ涙でぼんやりしか見えない目で鏡を見る。
バサッ…
バサッ…
バサッ…
細く長くキラキラしていた髪がだんだん短くなる。
『男の子になれば、怒られない。男の子になれば褒められる。男の子になれば蓮くん達とサッカー出来る。』そんなことを思いながら髪を切る彼女。
『バイバイ…女の子の私…』
いつもの朝。夕飯も食べずに夜を過ごしたが全くお腹も減らず食欲もない彼女。
『その頭なに!?恥ずかしい。』笑いながら母親は言った。
『男の子になればいいんでしょ?男の子になればお母さんもお父さんも嬉しいでしょ?だから自分で切った(笑)』笑いたくもないけど、笑って言ってみた。
思いもよらない言葉が返ってきた。
『そうだねー。男の子になれば嬉しいよー。ありがたいねー。早くご飯食べて学校行きな!あと、お金渡すから学校の帰り床屋で整えて来なさい。』彼女に1500円を母が渡す。
彼女の心は、真っ黒い霧が広がった。
いつもの足取りは重く、前に一歩踏み出すのに時間がかかる。
『このまま居なくなりたいなぁ…』
学校に着き、教室に入る。いつもの挨拶ができない。ゆっくり歩く彼女を彼が見た。
クラスの男の子達は彼女をからかい始めた。
『ナマケモノみてぇー(笑)』
肩を落とし歩く、髪の毛はバラバラに短くなった彼女は席につく。一斉にクラス生徒が彼女を見る。そして男女問わず笑い始めた。
『どうしたの?その髪の毛!バラバラだよ!?(笑)』
彼女は人間が変わったかのように口を開く。
『イメチェン(笑)だから、自分で切っちゃった(笑)今日、床屋行って綺麗にしてくる(笑)明日、楽しみにしてて(笑)』
ある意味、この日から違ったクラスの人気者になった。
ひたすら喋り、笑いたくもないのに笑う。変顔したり、皆んなが笑える様な事をする。
また、彼女は確信した。『これでいいんだ。』と…
その日は、彼とは一切話もしなかった。
一人で床屋に向かう彼女。近所の床屋に入って言った。『短く切って下さい。』
鏡の前には、ベリーシートになった彼女が映る。『俺はこれでいい!これでいいんだ!』鏡の自分に言い聞かせた。
自宅に戻り、お釣りを渡す。
また機嫌が悪くなる母親。
『整えてもらうのに1000円もかかったの!?店の人になんて言ったの!?』
『短く切って下さい。って言ったよ。』床屋に行く=(イコール)短く切ると勘違いしていた彼女。また手が出る。
『ごめんなさい!大人になったら返します!ごめんなさい!』彼女は精一杯だった。
夕方になり、両親の顔色を伺う。作り笑いをずっとずっと繰り返していた。
骨折は病院には行かず、自力で治した。自力というよりほっといたら治っていた。だが、彼女の小指は、第二関節から変形していた。
数週間…家でも学校でも笑い続け、笑われ続けた。もぅ、彼女は人間が変わったかのように自分自身で彼女のキャラクターを作り上げた。
月日は流れ、彼女は小学6年になった。相変わらず彼女はある意味の人気者だった。そして相変わらず人気者の彼。彼女の出来事には一切触れず普通に接してくれていた。優しくて、いつも一緒に遊んでくれ、放課後はお互いの家に遊びに行き、キャッチボールしたり、木に登ったり…ずっとずっと…このまま彼と一緒に居たい…彼女の心は彼でいっぱいだった。彼女はいつの間にか恋をしているの自分に気付く。




