第十一話 魔術航法士官達の帰省
大変お待たせしました。
「何故いる?」
眩い外の陽射しに比べ店内は暗かった。その為入り口に立つ小柄な少女の表情は見えない。だが、くるくるとした特徴的な赤毛と、にこにこ笑っている雰囲気はこの二年嫌というほど見てきた。
「えへへ」
抜けた笑い声を上げるのは、レイ・ソルビス。眩しい陽射しを容赦なく反射する純白のワンピースに、白い帽子がよく似合っている。まるで、良家のお嬢様。
ナクル・リンデルは店番と称して読んでいたミステリー小説を閉じると、湿った視線を眼鏡越しに同僚に向けた。
「こら、サボってるのか?私はお客様だぞ」
「だからどうした?」
他に客がいないこともあって、ナクルの対応はつっけんどんそのもの。夏期休暇で実家でのんびりしていたのに、なんでレイの相手をしなきゃいけないのか。それが彼には分からない。
「お?なんだ?ナクル、彼女か?」
奥から顔を出したのは、ナクルの兄。十歳も上で実家の銘菓店を継いで、両親、お嫁さんと切り盛りしている。
「はい。ヴォンデルランドで……」
「違うよ、兄さん。ただの同僚だよ」
「ええ?なんでそんなこと言うの?ヒドいよ」
「だって、違うだろ?」
恋人としての自己紹介を邪魔されたレイが抗議の声を上げるも、ナクルは取り合わない。
ナクルと似た丸顔に朗らかな笑顔を浮かべた兄は、愉快そうに笑い声を上げる。
「なら違うだろうな。――お嬢さん。こっちはちょっと立て込んでてお構いも出来ないけど、ゆっくりしていって下さいな」
そう言ってナクルの肩をぽんと小さく叩き、奥に引っ込んで行った兄。
慌てて一礼するレイ。
「んじゃ、まあ……」
「ナクルってさあ……」
入り口に立たせているのもあれなので、店内に案内しようとしたナクルを遮るレイ。
「意外と信用されているんだね?」
「意外とってなんだ?」
入り口の三和土から右手の一間ほどの幅の座敷にレイを案内し、ナクルは元いたショーケースの裏で腕を組んで何か考えている。
そんなナクルをよそに、レイは店内を見回していた。天井は吹き抜けになっており、古い木造の建物は入口の店舗部分と奥の住居兼作業部に分かれているようだった。入口の引き戸の正面に横長のショーケースがあり、色とりどりの菓子が並んでいて、座敷と反対の壁際には贈答用の包装見本や綺麗な色の食器。
レイが座る座敷は今どき珍しい真新しい本物の畳。壁は土壁のようだ。屋根を支える柱は茶色く艶めいていて、ここで暮らしていた人達のその年代を感じさせる。
「凄いね」
「古いって言っても、二百年前に再建したレプリカだけどな」
レプリカという意味が分からず首を傾げるレイ。
「古代文明のさらに昔々の建築様式なんだと。ご先祖様はその記録を見つけて独学で建てたらしい」
「へえ。お菓子職人なのに?」
「ご先祖様は魔法技師。その息子がお菓子職人。キョーラで修行した、その暖簾分けの時にお祝いで建てたらしい」
「面白いご先祖様だね?」
「まあな」
そう言いながらナクルはお盆を持って、レイの座る座卓に近寄って来た。
「お待たせ」
そう言って卓に置かれたのは、薄い瑠璃色の丸い小皿と藍色の縁取りがされた白く丸い湯呑茶碗。
「へええ」
小皿に乗せられていたのは、白くて丸いお団子状のお菓子。うっすらと中の餡が見える。頂点は緑色の葉っぱのように形作られている。
ふっと笑う気配。
しまったと思ったときには、ナクルは既に背を向けて座敷の縁に腰掛けていた。
「なんですか?」
「いや、やっぱりレイはレイだなって」
「どうせ私はマリみたいに女の子女の子してないですよ」
「まあ、そうだね。今どきの女の子は、余計なパフォーマンスをするよね。レイには似合わん」
顔がかっと熱くなるレイ。この同僚魔術航法士官は苦手だ。苦手なのにわざわざその実家に遊びに来るのだから、彼女も大概だ。
「安心してくれ。お前は甘いのは好みじゃなそうだから、控えめにしておいた。はい、おしぼり」
「あ、ありがとう……」
おそろしく手際のいいナクル。手渡されるおしぼりをおそるおそる受け取る自分が、無性におかしかった。
「じゃ、いただこうかな」
「はい、どうぞ」
そう言ってまた背を向けるナクル。
レイは添えられた幅広の楊枝で、丸い菓子に切り込みを入れてみた。意外に固い。どうやら餅だと思った表面にはうっすらと砂糖で固められているようだ。
本当に甘さ控えめなの?疑いながらさらに差し込んでいくと、弾力のあるやわらかな層。そしてその奥にはすっと楊枝が入っていく。
大福のようなものを砂糖でうっすらコーティングしたもののようだ。一口大に切り分けて、楊枝で口に入れてみる。
甘い。嘘つき。と言おうとしたレイの舌を襲う容赦ない砂糖の甘みだったが、すぐに柑橘系の香りと落ち着いた餡の味が、もちもちっとした感触とともに混ざり合わさる。
「柚子?」
「うん。柚子」
柚子の何が入っているのか分からないが、練り込まれたその香りを引き出すためか、甘さ控えめの餡は小豆の味がしっかりと味わえ、しかも餅との相性もいい。
「美味しいね」
「ありがとうございます」
そこだけ営業用の声を出すナクル。いつもは淡々と辛辣な言葉を発するその声が、柔らかく紡がれるのを聞くと何かがほぐされていくようだ。
安らいだ空気の中、黙々とお菓子を口にしてしまったのは致し方ないと言うべきか。
しかし、ふとレイは手を止め、何も言わずに背を向けて傍らに腰掛けているだけのナクルを見た。
風貌に騙されやすいが、ナクルは意外と大きな背をしている。背丈だって小隊で一番大柄なカツキと同じくらいあるのだ。そんな泰然自若とした背を小さく睨みつけてから、お菓子に楊枝を刺すレイ。
「何も聞かないの?」
そして一口放り込む。
「夏休み中にどうしてこんなところにいるのか?とか?」
「実家近所だから」
「初耳だね」
「初めて言ったからね」
「そっか」
「実家嫌いだからね」
「……そっか」
声そのものは普段通り。その前の間にはどんな意味があったのか。
「ナクルは実家好き?」
「好きって言うか、十八年も住んでたら帰って来るのが当たり前だよね」
「そうなの?」
「最近は、居心地悪いけどね」
「なんで?」
「兄さんが結婚したから」
「まさか、お兄さんのお嫁さんに?」
「違う」
「それじゃ、まさかお兄さんの方に?」
「んなわけあるか。というか、お前そういう趣味あったのか?」
若干腰が引けているナクルを、じっとりと睨むレイ。
「んなわけあるか。第五小隊の女子と一緒にするな」
「ついでに、俺の物真似つきか?」
「そゆこと」
溜息をつくナクルを尻目に、ひとしきり会話を楽しんだレイはお茶に口を付ける。ほどよい苦味とすっきりした味わいの玉露。生菓子と玉露は、神が気まぐれで作り出した至高の組み合わせだろう。
「マジメな話……」
「ん?」
「ここはもう兄さんの家族の家だってことだよ。次第に俺の家じゃなくなっていく。仕方ないことだ」
「それは本当にマジメな話だね」
「茶化してるのか?」
「いえいえ、滅相もございません」
背中に感じる呆れたような空気。
知らんぷりして、お菓子を平らげ、お茶を口にする。
うん。美味しかった。
「どっか遊びに行くか?」
唐突なナクルの問いかけだったが、それは間違いなくレイの望むものだった。
無事に終わった環月祭から三ヵ月が経ち、夏真っ盛りとなった今、ヴォンデルランドの航空魔法士官の卵たちには十日間の休暇が与えられていた。定期的な連休のある教官陣、整備員達と違い、訓練生達は週一の休業以外のまとまった連休は冬季の八日間と夏季の十日間だけに限られている。
その間は自由な行動が許されており、自主的な訓練を行なう者もいたが、設備の稼働率が低い状態では生活も不便なので、何日かは実家に戻ったり旅行に行ったりする者が大半だ。
ナクルも南国の熱帯にあるオフコード諸島に帰り、休暇を満喫するはずだった。
だが、どうやらレイはそうでもないらしい。
「来月には三年だねえ……」
観光を主産業とする島の表通りにある土産物店を物色するレイ。呑気な言い草だ。
「三八六期の先輩達も卒業したしね」
夏季休業は、ヴォンデルランドを卒業して任官される訓練生達の使った設備入れ替えの意味もあった。
「来月には入校式でしょ。それに総隊長も代わるし、戦科対抗戦。今年はマリも出られそう。んでもって、その後は新機授与。いよいよ私たちもブルーレイディか……」
「その前に湿原踏破があるだろ?」
「うへえ。あれどうして年度末にやるんだろね。一週間も泥んこになるなんてマゾだよマゾ」
「今年は新人誘導側だから去年ほどきつくないぞ」
「ねえ、ナクルはわざと言ってる?思い出すだけで嫌だよ、それ。それに最後にはフェルクライン先輩達とぶつかんなきゃいけないんでしょ?」
「それはまあ、イベントだからな」
「うへえ。マゾだよマゾ」
身長差で帽子のつばに隠れた彼女から聞こえるのは明るい声。
「否定出来ないね」
最近の訓練小隊はだいぶ変わった。
ハヤトはもう完全に戦術科訓練総隊の職務にどっぷりだ。もちろん、演習、訓練はハヤトの指示の元に動いているが、平時での管理はハヤトの相棒のリデルと、展示飛行を終えて成長したマリの二人が主体となっている。
シュタンジットとどちらが次の訓練総隊長になるのか楽しみだが、そのシュタンジットの第一小隊との関係も随分改善された。シュタンジットとマリの個人的な繋がりや、いつの間にか仲がよくなっていたレクスとジュピタス、嫌味の応酬を繰り広げるリデルとリーヴハン……なんだか絡み易くなったのだろうか?
「そういえば、カツキとシュタンジットって仲いいの?」
「なんでそう思うんだ?」
「だって、あの二人意外と挨拶交わしているよね、きちんと」
「まあな」
「だけど、なんか微妙な空気」
「まあな」
「やっぱ、アレ?」
「まあな」
「ぐはっ。勝手に青春やってやがれ」
可愛らしい声で、なんてこと言ってやがる。しかも、小さく地団駄踏んでる。
「乙女が台無しだぞ」
「うっるさいな。もう乙女じゃないわよ」
さらっと返されたナクルだったが、なんとなく気まずい。聞かなかったことにしよう。
「そんで、マリは一緒じゃないのか?」
「実家に帰ってるよ。ああ見えてマリは親孝行だよ」
「いや、想像つくな」
「ふうん。リンデル君もマリをそう見てるんだ」
何故か言葉に棘が。
「俺は興味ない」
「ん?ないの?」
「無いね。カツキやシュタンジットじゃあるまいし」
「だね。あの二人は病気だ」
にひひと笑うレイ。散々な言い草だが、ナクルも全くの同感だ。
しばらく物色していたが、結局何も買わずに店を出た。
海水浴場や観光ホテルも多く、観光シーズン真っ盛りのため人通りは多い。眩い陽光の下、眩しいばかりに素肌を晒すような格好の女性達も多く賑わっている。ナクルの実家が通りを一本隔てた商店街にあるせいか、こういう賑わいとは少し縁遠い。
「人が多いね。昔からこうなの?」
「実家こっちじゃないのか?」
「私、高校二年の春にこっち来たから」
何かがひっかかるような感触に、過去に思い至るナクル。
「ああ、あの転校生か」
立ち止まるレイ。母校が同じだったことに驚いていたナクルは立ち止まっていた彼女に気付かず、二三歩前に出てしまった。そんなナクルを、レイは目を丸くして見つめていた。
「どうした?」
「……し、知らなかったの……?」
「ああ」
偉い驚きようである。あの第三訓練小隊の中にいながら、滅多なことではお花畑な笑顔を崩さないレイにしては珍しい。
「なんで?」
噛み付かんばかりの勢いに後退りつつ頷くナクル。
それをしばらく凝視していたレイは、物凄く深い海の底のような溜息をついた。何故かバカにされたような気分になるナクル。
何か言い返してやろうと思った彼だったが、
「あれ?リンデルじゃん」
聞き覚えのある声にナクルは振り向いた。そこに見覚えのある笑顔も見て取り、ナクルも自然と笑みを浮かべた。
「久しぶり。大学は休みなのか?」
高校の同級生で、今は帝都の大学に通っているはずだ。
「ああ。大学の仲間がこっちに遊びに来たついでに俺も里帰りだ」
確か、ホテルの御曹司だった。仲間を呼ぶには絶好の環境だ。
「そっちは空軍で好成績残してるって聞いたぜ。航空祭で飛んだエース様だって」
「まだ訓練生だよ。撃墜数ゼロでエースになれるわけないじゃないか」
「そっか?まあ、そうだな。田舎の噂ってのは、尾鰭が付きやすいんだな……」
言葉を途切れさせた同級生の目が、どこに向いているのか気付いたナクル。ナクルの傍らでうつむきがちに目を逸らすレイだ。
「おい。その女……」
ナクルは、視線を遮るように反射的に一歩踏み出していた。
「ああ。同僚だよ。同じ小隊で組んでるのさ」
とっさに営業用の声が出た。
「俺もさっき、同級生だったこと知ってビックリしていたところなんだ。一年半も小隊組んでたのに気付いたのが、今だったなんて笑っちまうよな」
「あ、ああ、そうだな。リンデルはそういうの気にしない奴だったな」
その仕草でレイが里帰りを忌避する理由をなんとなく理解したが、その原因には思い至れない。本ばかり読んでいた高校時代の自分をいささか呪うナクル。明らかにその頃になにかあったはずなのだから。
「じゃ、じゃあ、俺は行くわ。人を待たせているしな」
少し離れた店先に、数名の男女がこちらを見ている。観光客ならではの華やいだ雰囲気の若者達だ。
「おう。またな」
「ああ。今度、同窓会やるからリンデルも来いよ」
「是非」
と返事しつつ、レイは呼ばないんだなと思ったナクル。
同級生とその仲間達の姿が見えなくなるまで、二人はしばらく佇んでいた。
「ごめん。私帰るね」
硬い声。とっさにナクルの手が伸びる。手を取るつもりだったのだが、身長差で右手首を掴んでしまった。
小さく声を上げて、左手で彼の腕を抑え、くるりと身を翻そうとした彼女に驚きつつも、すぐさま左腕で小さな身体を抱き寄せる。危うく投げ飛ばされるところだったナクル。
それでようやく彼女は止まった。止まったのは止まったのだが、凍り付いていると言った方が正しい。自分が、男の胸に顔を埋めている現象を理解していないようだ。
一方のナクルは、傍からは白昼堂々路上でいちゃつくカップルに見られると思いつつも、路上で投げ飛ばされるよりは遥かにマシだと内心では冷や汗をだらだら垂らしていた。
「落ち着いたか?」
「何してんの?」
幾分、温度の低い声にさらに冷たい汗を垂らすナクル。
だが、負けてはいられない。一体何に?一瞬自問したが、そんなことは関係ない。とにかく負けてはならない。
「泳ぎに行くぞ」
「はあ?」
明らかに怒気を孕んだ声。きっとナクルを見上げ睨んでくる。エリナとどっちが恐いか分からんレベルの怒りを感じる。
「大丈夫だ。穴場を知ってる」
本気で言っているらしいナクルにやっと気付いたのか、レイは少し表情を和らげる。
「水着持ってない」
「なら買いに行こう」
さらりと言い放つナクルに、レイは今度は悪戯を思い付いたような笑みを浮かべる。
「いいの?本買えなくなっちゃうよ」
「何故、知ってる?」
給料の大半が、書籍購入代に消えていることを知ってる人間はいないはずだ。小隊長のハヤトや教官達なら知ってそうだが、同室のカツキとレクスも気付いていないはずだ。
「だって、時々高い本買ってるじゃん。医学書とか建築学とか、何に使うのかとても疑問だったけど」
「講義の中で気になってるところを調べてたらな」
「へええ。でもエロいのは買ってないから許してやろう」
にやりと笑うレイ。何を許されるのか、はなはだ理解不能だが。
「そういうのは、バレないように処理するものだ」
「ってことは、ナクルはネット派か」
くりっと丸い目を三日月に細める彼女は、愛くるしい表情の小悪魔だと遅まきながら気付くナクル。
「さっすがムッツリ紳士さん」
「その呼び方やめてくれないの」
ふふふと笑うレイ。それが今日一番楽しそうな笑顔だと思った。
「二ヵ月くらいは本買えなくしてあげるね」
すぐ隣で息を呑む気配を感じて、ナクルの頬は自然と緩んだ。
南天に燦然と輝く太陽から降り注ぐ陽の光を浴びて、真っ白に煌めく白い砂浜と透き通るような青い海と、うっすらと見える碧い珊瑚礁。この景色を見ているのは、ナクルと隣のレイのみ。
一軒の平凡な蕎麦屋の裏手に広がっていたのは、人っ子一人いないプライベートビーチだった。
「驚いただろ?」
水着の上に白いパーカーを羽織ったレイは呆気に取られたまま、ふらふらと砂浜に足を踏み出した。
「あちっ」
女の子にあるまじき悲鳴を聞きながら、ナクルはカラカラと笑った。
街外れにある蕎麦屋は割と大きな店構えで、小さな湾になっている砂浜を隠すように建っているが、海側に面した窓や席は無い。そこは店主のこだわりらしく、海で商売するつもりは無い蕎麦屋という意気込みが感じられる。プライベートビーチは、そんな一家や従業員への福利厚生という位置付けらしい。
「変なの」
笑われたことが不満なのか、ビーチのあらましを話すナクルにむすっと返すレイ。
「で、部外者であるはずのリンデルさんは、何故か顔パスであると」
「一応、商店会の知り合いだぜ」
たかが次男坊にそんな優遇をするはずがない。そんな内緒話はおくびにも出さないナクル。
「へえー、そぉー」
えらく棒読みである。
そしらぬ振りして店主に借りて来たビーチパラソルを立て、シートを広げ、荷物を適当に重しにして風で飛ばないようにする。妙に手際のいいナクルの手慣れた感は、レイには不満のようである。
急に腕組みして、うんうんと頷き始めるレイ。
「そうよ。そうだよ」
「どうした?」
怪訝な顔をするナクル。
にやりと笑みを浮かべるレイ。その手が素早くパーカーの裾に手を伸ばし、ばっと脱ぎ捨てる。
脱ぎっぷりに感心する間もなく、現れたのは黒とミントの縞模様のホルターネックになったワンピースタイプの水着。小柄、華奢と周りから言われるレイだが、それはマリ、エリナに比べるからであり、戦闘機乗りに相応しい鍛えられた肉感的で魅力的な四肢と明るい赤色の髪に、その水着はとても映えて似合っていた。
「おお。いいじゃん。可愛いよ」
手放しで称賛しながら、目はひそかに、無駄な肉がないにもかかわらず柔らかそうな陰影を見せる二の腕や、すっきりしていながら、それでも肉付きのいい内股のラインを追い、目の前の同僚の生肌に内心では動揺しまくりのナクルであった。ヴォンデルランドでは肌を晒すことはなかったし、水着という華やいだ衣装には心揺さぶられるものがある。
なんて童貞思考……。と自己嫌悪すれすれの感情に捉われながらも、表面上は彼女を絶賛する。
「さすがだね。自分の魅力を分かっているね」
さらりとそんなことを言ってのける自分に、彼は何故か焦っていた。
「そう?」
まんざらでもなさそうに、俯きがちに上目遣いで聞いてくるレイ。そのくりっとした純真そうな瞳にナクルの心臓をわし掴みにされていることに気付かない彼は、またすらすらと言葉を重ねた。
「うん。レイって可愛いだけじゃないじゃん。いつも訓練で鍛えられてる、ていうか、一本芯が通ってる感じ。そういう子なんだなって」
「そ、そこまで言われるとちょっと恥ずかしいな」
そう言って目を伏せる彼女の白い頬はうっすらと紅い。
「ねえ?」
「なに?」
「泳がない?」
「ああ」
そっと左手で右袖を引かれてナクルも歩き出す。
途端、二人は押し黙った。聞こえるのは、打ち寄せる波の音。潮風に揺られて乗る海鳥の鳴き声。そして、白いきめ細かな砂を踏み締める二人のサンダルの音。
自分の手を引く少女の、赤い髪の下から覗く白い肩から背中にかけての曲線が目に入る。下ろされた髪の下はどうなってるんだろう。波音がざわざわと大きく強くなってくる。
ビーチを貸して欲しいと店主に言ったとき、職人気質の厳めしい顔の彼は一瞬、ナクルの隣に佇む彼女を見て一度口を真一文字に締め、そして許可を出した。その仕草を一つ漏らさず見ていたナクルは黙って頭を下げた。
「あのお嬢さんが、この街でどんなをされてるか知ってるか?」
レイが着替えている間、店主の問いにナクルが首を振ると、そうか、と呟き、そしておもむろに口を開いた。
「この街の敵だとさ。狂人の娘とか、悪魔の血とか散々な言い様さ。ここにいたのは、ほんの二年くらいだっただろうけど、嫌な目にたくさん遭っただろうな」
この話はレクスには聞かせられないな。正義感が意外と強い若き魔法使いを思い浮かべるナクル。
「あの子は悪くない……。いや、本当は誰も悪くないのにな」
結局、店主も洗いざらい話すようなことはなかった。
訓練小隊が編成されたとき、初めて会ったレイの第一印象は胡散臭い奴。いつも無駄ににこにこしていて、正直何考えているのか分からない奴だと思った。ただ、相棒のマリと一緒のときだけは本心から笑っていて、その姿は可愛いと思えた。
そのうちだんだん素顔を見せるようになってきて、意外とドライな感覚の、現実主義者の面も感じられて親近感を抱くようになった。
こんな子が、どうしてこういう表情や仕草をするようになったのだろう?
足の指に冷たい感触。考えに耽ってる間に、波打ち際まできていた。サンダルの素足を洗う波。
そこで自分の迂闊さに気付いた。まだ彼はパーカーを脱いでいない。
「待っ……」
何故か反転する世界。頭上にあった太陽が、真正面に君臨していて容赦なく目を射る。全身に水を浴びせられたような冷たさ。いや、自分が頭から海に突っ込んだのか。
何故?
決まってる。レイが投げたのだ。油断していた。右袖を掴んだ形から、左手で左襟を掴み、右足を払う。見事な体落とし。
仰向けに波打ち際に叩きつけられ、呆然としている彼の目を覗き込み、艶のある笑みを見せるレイ。そのまま彼の腹の上に跨る。
水着越しとはいえ、女の子の素肌に直に触れる感触を伴なうしっとりとした重みに、ナクルは呆然としたまま心底愉しそうな微笑を見上げた。
「意外と大きいな……」
という、どうでもいい呟きとともに。
彼女はちらと自分の胸元を見やり、笑みを深くする。
「見たい?」
その両手が首の後へ回され、突き出されるのは意外と豊かな胸の膨らみ。普段は決して見ることの無い腋の下から二の腕へのラインが眩しい。
くりっとした丸い目が細められ、そこから覗く妖しい光に魅せられている自分に気付かないまま、ナクルの口はいつも通り動く。
「無理矢理は嫌だな」
「じゃ、お願いしてみて」
小さく身動ぎするレイ。くにくにと押し付けられる内腿の感触に、頭がかっと熱くなる。
「俺達、そんな仲じゃないだろう」
それなのに口はいつも通り。
「私じゃ、そんな仲になりたくない?」
誘うような声音。耳元の波音もお構いなしにすっと届いた、艶と色香を纏った囁き声。
今頷いたら、この子は俺のものになるのだろうか。
「嫌だな」
レイの両目が見開かれ、そしてナクル自身も自分の発した言葉の意味を理解できずにいた。
嫌だ?何が?
魅惑的な笑みを浮かべていた少女は、呆然とその両手を下ろした。まるで機械仕掛けの人形のよう。さっきまでの躍動感溢れる所作は無く、白く凍りついた表情。失望だろうか。それとも、絶望か。それは自分に向けられているのか、それとも彼女自身に向けられているのか。
「違うな」
吐く息とともに紡がれた感想。
途端、身体が動いた。両手をレイの両脇に入れると持ち上げた。相変わらず軽い。本当に訓練を受けているのかと思う。
そのまま上体を起こし、力任せに小さな身体を海に向かって放り出した。
えっ?と一杯に描かれた可愛い顔がすっ飛んで行き、炸裂する派手な水音。
少し深いところに落ちたレイは、慌てて起き上がり咳き込んでいた。
「わりぃわりぃ」
立ち上がり、にやにや笑うナクル。悪いなんて一欠けらも思っていないのは明白。ずぶ濡れになったレイは信じられない物を見るように、そんなナクルを指差す。
「な、ななな……」
「何するんだ?と聞きたい?」
「なにすんのよおっ!?」
先回りされたことにキレたのか、猛然と噛み付いてきた。
「おお。キレた」
「あったりまえでしょ。あんたカツキに毒されてんじゃないの?あの脳みそお花畑とおんなじこと言ってるわよ」
「あっはっは、違いない」
笑って受け流すナクル。暖簾に腕押しとは、このことか。
再びレイは凍りついた。
「おう、どうした?なんか不満か?」
傍目にも分かるくらいにかちんときたレイ。両手で海面を思い切り殴りつける。
「もうっ!」
水飛沫は上がるが、抵抗の無さに物足りなさを感じて、今度は両足で水の底を蹴り付けようとするが、寄せては返す波の動きで満足な感触が得られず、イライラを急激に上昇させていくのが手に取るように分かる。
「なんなのよ!もう!」
「なにが?」
「なんでそんなに余裕こいてんの?あんたそれでも男?」
「そんなこと言われてもな」
「こんな可愛い子が誘ってんのよ?少しは心動いたりしないの?」
「いやいや、少しどころか大いに心動いて、むしゃぶりつきたくなった」
正直に答えると、今度は真っ青になって自分の身を守るように自身を抱きすくめるレイ。
「そこまで嫌がるなよ」
「変態」
「男だったら普通だろ」
「ムッツリ」
「はいはい。ムッツリですよ」
またさらりと受け流すナクルに、ムッとするレイ。
「ほんっとムカつく。あんたっていっつもムカつく。楽しんでんでしょ?私があんたのことイジって楽しんでんの見て、内心じゃ嘲笑ってんだわ。ひっどい男。紳士ってのは大間違いだったわ」
悪態を吐きまくるレイに、少し嬉しくなってる自分に気付いたナクル。頭がおかしいんじゃないかと思うが、ハヤト、レクス、カツキ、シュタンジットの四人と比べて、いや自分が一番まともだと思い直す。
「レイ」
急に改まった口調で名を呼ぶナクルに、くどくどと文句を言い続けていたレイは目を丸くする。
そんな彼女に歩み寄ると、少し腰を落として目の高さを合わせる。動揺したのか目を逸らすレイ。
「レイは、ほんっとに可愛いな」
ぽんと音を立てそうなほど真っ赤になるレイ。笑顔とは言え、彼の言葉には嘘偽りが感じられず、あまりの直球発言にさすがの彼女も免疫が無かった。
「だから……」
「え?」
だから、続くナクルの行動に対応できなかった。再び両脇を抱えられ、足払いで体勢を崩され、その勢いでぐりんと砲丸投げのように振り回される。
「ちょっと飛んで来いっ!」
そのまま、全力で投げ飛ばされた。
「うっそおっ!」
優に二メートルほどの高さから海中に没する彼女の悲鳴と水音、そして投げ飛ばした本人の笑い声が静かな浜辺に木霊した。
静かだった。
風がやみ、波が弱まった。陽は少し傾いている。
さっきまでは騒々しかった波の音は、まるで小川のせせらぎのように微かにしか聞こえない。
レイは波間に力なく浮かんで、眼前に広がる蒼い空を見上げていた。演習で何度か飛んだ空だった。今まで気付いていなかった。いや、気付かないふりをしてきたんだ。
彼女と、彼女の家族を傷付け続ける島をレイは赦す事が出来ない。ちゃっかりもたらされた恩恵は受け取っている、そんな島、早く無くなってしまえばいい。何度そんな風に思ったことか。
でも、無くならなくてよかった。
すぐ傍らで、同じように浮いているであろう青年のことを思い浮かべる。散々ナクルにおちょくられた挙句、海中での追いかけっこに発展した暗闘は、空軍で鍛えられた体力が底を尽くまで続けられ、疲れた二人は、ここが湾になっていて凪になったことをいいことに、ぷかりぷかりと浮いて過ごしていた。
「私ってさ」
聞いているかどうか分からなかったが、彼女は口を開いた。
「エリナ達が羨ましいんだよね」
「そいつは意外だな」
「そう?」
「そういうのどうでもいいんだと思ってた」
「残念でした」
「色恋沙汰に興味がおありで?」
「違うよ」
「ん?」
「あの二人は色恋じゃないよ」
「ああ、そういえばそうだな。あれは、なんて言うんだろうな……」
「家族だよ」
言ってから彼女の胸に締め付けられるような痛みが走った。
互いに恋して、それが愛に発展し、互いに悪いところも良いところも認め合い、補完し合い、信頼し信頼されて家族になっていくのが普通。でも、エリナとレクスは違う。恋愛をすっ飛ばして、認め合い、補完し合い、絶対とも言える信頼を寄せ合ってる。
「凄いよね。普通は他人とあんなに近づくの恐いんだよ。マリやカツキみたいな分かりやすい人なんて少ないんだよ。何考えてるか分からないもん」
自分を傷付けた者、笑いながら穢した者、家族を壊した者、色んな人達が自分の家族や恋人、友人の前では善良な人として振舞っている、吐き気を催すほどの現実。
汚い現実、汚い大人達、汚い戦争。翻弄されながらも家族になろうとしているエリナとレクスを応援したいけど、自分にはなれないと羨んで嫉妬してしまう。
「がんばろうな」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
右手を握られた。少し傾いたとはいえ、太陽はまだ容赦なく照り付けてくる。それでもはっきり分かるほどその手は暖かかった。
「うん」
自然と返事出来た。
でも、彼の方を見ることが出来なかった。
だって今、私、めっちゃ不細工……。
「ああ、そういうことか」
呆れた。聡いのか、抜けているのか、どちらかにして欲しいと本当に彼女は思う。
「いまさら?」
「ああ、どうも繋がらなくて」
彼女の実家、正確には父親が住まう社宅の前で、ナクルはすっとぼけたことを言ってる。もう陽は水平線の向こうに隠れ、夜の帳に包まれようとしている小高い丘の上に伸びる道を歩いている時のことだ。昼前からずっと一緒に過ごしていたくせに。
「だって、所長さんとレイってあんま似てないからさ」
「所長さんって……。知ってたの?」
「いやいや、所長さんのことは知ってたよ。レイのことは知らなかった」
「はあ?」
「怒るなよ。所長さんは、時々うちでお菓子買って帰ってたんだよ。娘とどう接して分からないから、賄賂かなって言いながら。それってレイのことだったんだな」
「うちのお父さんがここの所長だって知ってたの?」
「そりゃお客さんだからね」
信じられない。街全体が、いや島中が敵視していた相手を常連として受け入れていたなんて。
ことの始まりは五年前。新型魔動発電所が起こした暴走事故。その責任者がレイの父親だった。暴走を食い止めようとしたが、結果は失敗。発電所は崩壊。異常重力と異常事象変換で、周囲二十キロはあと百年は人が住めない土地になった。
その父は、今度はこの島の発電所の所長となった。
どこで知ったのか、起きたのは猛烈な反対運動。自分達の島が危険に晒されるのではないか、同じ悲劇が繰り返されるのではないか。そんな漠然とした不安のようなモノから、魔動炉だけでなく、所長個人や家族まで攻撃された。
耐えられなくなった母は家を出て行った。娘は転入した学校で執拗ないじめに遭っていた。この島の人間であった教師に助けられることもなかった。
思い出すのは身を切るような記憶。無視され、穢され、優しさを装って近づいてきたと思ったら、手のひらを返され地獄のような目に遭わされたこともあった。
人は、あんなにも悪意を振り撒くことが出来る存在だと初めて知った。自分や自分の家族のことをよく知ることもなく、表面的な情報と想像だけで簡単に人を排することが出来る。そんなことがあっさり出来てしまう。集団という意識さえあれば、そこになんの疑問も持たない。それが人間だ。
「レイのお父さんって凄いよな」
その言葉は唐突だった。
あまりに驚き過ぎて、立ち止まってしまったレイ。ナクルはそれに合わせて自然と立ち止まってくれたが、そんなことにも気付けないほど彼女の頭な真っ白だった。
「どうした?」
「凄いって……なにが?」
やっかみも否定もなく、確かに称賛に近いものが含まれていた言葉。この土地では終ぞ聞いたことのない音。なんせ、久しぶりに顔を見ただけで同級生に拒絶される。そんな土地。
「そのことか……。普通の人は、あんな大きな事故起こしたら再起不能になる。でも、レイのお父さんはそれでも立ち続けている。それは、責任者として事故をきちんと清算し、二度と起こさないように対策を立てているからだ。だから、この島は本来どこよりも安全なんだ」
町内会で、うちの親父が見るに見かねて言ったことの受け売りだけどね、とナクルは淡々としている。
それから自分が何をどうしたのか覚えていない。送ってくれたナクルに礼を言って別れ、三棟のアパートで構成されている社宅の入り口に立つ、顔見知りの守衛さんと挨拶を交わし、転勤の多い父の影響で家具の多くないソファで部屋着に着替えた彼女は、いつの間にかぼうっと過ごしていた。
はっとしたのは玄関のドアが開く音と、
「なんだ。カギがかかってないのか?うちの娘は可愛いんだから、気を付けて欲しいもんなんだが」
と、なにやらこぼしている声。事故以来、まともに会話をしていなかった久しぶりに耳にした父の独り言は、不思議と温かかった。
リビングに入ってくる父。しかし、娘が自分をじっと見ていたことにびくっと目を見開いた。
「なんだ。レイ、起きてたのか」
さっきの独り言より固い声音。ノーネクタイのYシャツにベージュのスラックス、そして電力会社のオレンジ色のブルゾンを羽織った父は、そんなに見栄えが悪いわけじゃない。少し表情が草臥れているものの、そこそこいい男だと娘は思った。
「お帰りなさい。いつもこんなに遅いの?」
発電所まで車で十五分。今の時刻は二三四七。そんな時間まで何もせず過ごしていた自分にも驚きだが。
「ま、まあね」
まだ固い。さっきの独り言みたいな声が聞いてみたい。
「何持ってるの?」
父は隠そうとしたが、どこかで見た紋が入ったビニール袋はしっかり見えた。そう、つい最近見たのだ。
「あ、今日、その店行ったんだ」
自然とレイの口から零れた何気ない一言に、目を丸くする父。
「そこの家の人と知り合いなの」
「へええ……。そっか。二番目の息子さんの方かい?」
「うん。そうだよ。実は同僚」
「そういえば軍に入隊したって言ってたな。昔から知り合いだったのか?」
何がそんなに気になるのだろう。あるいは相手が男だから勘繰ってるのだろうか。父の食いつきがすこぶるいい。
レイは苦笑した。
「ねえ、立ち話もなんだし、お茶にしない?どうせ一人で食べる気だったんでしょ?」
「い、いや……」
「お父さん、甘党だったんだね。初めて知ったよ」
「いや、面目ない」
何故か謝る父。だが、だいぶ柔らかくなった言葉に、レイの心は躍った。台所に向かう気持ちは今までになく軽かった。
お茶を淹れ、夜遅くまで親娘は語り合った。お互いの仕事のこと。実は娘が甘いものが苦手なこと。母もそうだということ。お菓子屋の次男坊のこと。仲間や軍でのこと。父の仕事の大変さ、重要さ。
驚いたのは、父と母が未だ別れていなかったこと。
「母さんは体調崩しちゃったからね。お婆ちゃんのところに帰って休んでいるんだよ」
「なんで言わなかったの?」
「面目ない」
どうやら娘が怒っていると感じたらしい父だったが、娘はただ理由が知りたかった。
「お父さん、怒ってないよ。でも、私も高校生だったから教えてくれてもよかったんじゃ」
「いや、そうなんだけどね……、母さんが自分は逃げ出すんだから、悪い女なんだって。レイにはそんな女を赦すような人間になって欲しくないって」
「勝手だね」
ぽろっとこぼれた言葉。
また謝ろうとした父。だが、それは娘を凝視して固まってしまう。
辛かったはずの過去。他人なんかどうでもよかったはずの今。そんな自分でも優しく見守っていた家族がいた。
「お母さん、強情すぎるよ」
笑顔でぼろぼろ涙をこぼしながら、娘は自分に似ているが何かと厳しかった母の面影を思い出す。
そして思った。
「会いたいな」
父は驚いたが、すぐに頷いた。
「ああ。だけど一人で大丈夫か?」
一瞬、父と一緒に会いに行くこと思い浮かべたが、すぐに思い直した。
「ううん。お父さん忙しいでしょ。アテはあるから」
丸いレンズの眼鏡をかけた、丸顔の同僚を思い出す。彼なら何も言わずに淡々と手続きしてくれるに違いない。




