第十話 月の環で小鷹は舞う(下)
いきなりの迷子発見だった。
人込みの中で周りを心細そうに周りを見回している七、八歳の男の子を見つけたレクス・キャロイはいきなり駆け出し、その子供の前で膝をついて目線を合わせている。
「本部。こちらジュピタス。ブルーレイディ第二格納庫裏で八歳くらいの迷子らしき児童を発見した。現在キャロイが対応中」
まさか環月祭どころか、オープニング展示飛行の離陸準備すら始まっていないのに、さっそく迷子が出るとは思っていなかったアイザック・ジュピタスは咄嗟に動いたレクスの反応のよさに少し呆れ気味だ。
「本部了解。詳細が分かり次第情報送れ。本日の迷子第一号だ。無事に済むといいんだが……」
「ジュピタス了解」
携帯無線機で応えながら周囲に目を配る。男の子の保護者が辺りにいるかもしれない。
「そうか。お母さんと来たのか。お母さん、どこにいるの?分からない?」
レクスが丁寧に男の子の話を聞いている。
見上げれば格納庫の屋根越しに真っ青な空が広がっている。雲ひとつ無い。楽しみにしていただろうに、母親とはぐれるなんて難儀なことだ。
「アイザック」
「ん?なんだ?」
「本部に報告するから、この子の相手しててくれないか?」
「了解」
レクスと代わり膝をついて子供に目線を合わせようとしたが、いかんせん元の上背がレクスよりもあるせいでどうしても見下ろす位置になってしまう。難儀なことだ。
「よう坊主。今日は何処から来たんだ?」
「うち……から」
レクスじゃなくなって心細くなったのか、消え入りそうな声。すまんな、でかくて。
「じゃ、早起きしたんだな」
小さく頷く男の子。
アイザックは、その小さな頭のさらさらの髪に大きな掌を乗せて撫でた。
「偉いな。早起きは三文の得って言って、早起きするといいことがあるんだぞ」
「さんもん?」
「お金のことだよ。お金じゃなくても、いいことだってあるんだ」
「でも……」
早起きしたはずなのに、人込みの中でたった一人になってしまったことを言ってるのだろう。
それを見てアイザックは、わっはっはっと笑い飛ばした。男の子はびっくりして目を丸くしている。
「そんなこと気にするな。すぐにお母さんも来るさ。それより、これからたくさんの飛行機が飛ぶのを見れるんだぞ。とてもいいことじゃん」
「う、うん……」
「今日は何見に来たんだ?」
「ブルーレイディ」
「そっか、男の子はやっぱり戦闘機だよな」
「う、うん」
少し男の子の声が弾んできた。
「おじさんはブルーレイディに乗るの?」
おじさんと呼ばれて気にするような男では決してないアイザック。むしろ、子供から見たら大人なんて区別つかないし、自分だって子供の頃は付かなかったんだから仕方ないと割り切れる。
「おじさんか?」
言って、自分の格好を見る。ヴォンデルランドの水色のYシャツに青いスラックス。左腕には警備と書かれた腕章。腰には特殊警棒と無線機。
「どう思う?
男の子が小首を傾げる。
「分かんない」
それを見てアイザックは笑う。
「そうだな。残念ながら、今日はおじさんは飛行機に乗らないんだ。それにいつもはブルーレイディじゃなくてイーグレットに乗ってるんだ」
「なあんだ」
落胆する男の子に笑いかける。
「坊主はイーグレットって知ってるか?」
「坊主じゃないよ。アキムって言うんだよ」
「そか、アキム君か。俺はアイザックだ。よろしくな。アキム君はイーグレットを知ってるか?」
「イーグレット?」
「練習機だ。オレンジ色の飛行機だよ。ブルーレイディは操縦が難しいから、その前にみんなイーグレットで練習してるんだ」
「え?じゃあ、そのうちブルーレイディに乗るの?」
「そうだ。来年には乗っているはずだ」
途端、男の子が目をキラキラさせる。やはりパイロットというだけで気になるのだろう。
「じゃ、来年も来ていい?」
「おう。もちろんだ」
「やったあ!」
ぱっと輝いて跳び上がったアキムの表情が、横を向いた拍子に強張った。
どうしたのかと思い視線を追うと、ポロシャツにスラックスの身なりのいい三十代の男性が走って来るところだった。
「あ、ありがとうございます」
よほど慌てていたのか、息も切れ切れな様子だった。だが、微妙に証言が食い違う。
立ち上がろうとしたアイザックの前に、すっとレクスが立ち塞がった。おかげでアイザックは立たずに済んだ。アキムが彼のYシャツを掴んでいたからだ。
それにしてもレクスはこういう微妙な事態に疎いと思っていたが、意外に肝が据わっている。男性の前に立ち、表面上は穏やかに、しかし油断なく毅然と対応している。
いや、子供が絡んでいるからだろうか。
「失礼ですが、あなたは?」
一瞬、男性ははっとしたが慌てて名乗った。
「申し訳ございませんが、この子が名乗った姓とは違いますね」
冷淡にレクスが応じると、男性は目を丸くして、そして悲しそうに目を伏せた。
レクスはそれでも淡々と身分証明書の提示を求め、本部に報告している。
その間もアキムはアイザックのシャツをぎゅっと握り締めて、俯いて男性のほうを見ようともしない。
これはもしかして……。
「アキム君。お父さんは何してる人?」
男性に聞こえてもいいとばかりに堂々と聞いてみた。男性が身を強張らせたのは分かった。
「………トだった……」
答えはギリギリ聞き取れた。
「レクス」
「なに?」
「この人で多分、問題ないはずだ」
「でも……」
何か言い募ろうとしたレクスに向かって、アイザックは目を合わせてはっきり頷いた。
念のため、母親が来るまで四人で待った。その時のアキムの様子と、母親と男性が揃いの指輪をしているのを見てレクスはようやく警戒を解いた。
「ありがとう。おじさん、お兄ちゃん」
去り際のアキムの一言にだけは、さすがにアイザックの肩が少し動いた。振っていた左手がぴたっと固まる。
俺はこいつと一歳しか違わないはずだが。ちらっと今日の相棒を見やると、レクスは目を丸くしていた。
「アイザック、ごめん」
何を謝っているか分かるが、何を謝っているんだ?
「いや、どうでもいいけど」
それでこの一件は落着だ。報告を終え、二人は巡回に戻った。
二人で組んでいるのは、例の私闘騒ぎの関係者は環月祭中の警備を命じられたからだ。とは言っても、ハヤト・カルランザはロアシーズ・フェルクライン訓練総隊長の補佐をしており、ユリスタン・シュタンジットは展示飛行小隊の補佐と訓練総隊の手伝いで飛び回っているので厳密には全員ではないが、警務隊の指揮下で業務に就いていた。
ヴォンデルランド航空魔法士官養成課程学校祭、通称環月祭は毎年初夏に行なわれ、南国のこの地では平均最高気温は三十度近い。しかも国内外から延べ二十万人の来訪者が詰めかける。迷子、喧嘩、日射病、置き引き、スリ、不法侵入。当然、警務隊だけでは様々な問題に対応できない。
というわけでその年度の処罰を受けた者達が、志願と称して駆り出されるわけだ。実際にエリナ・フルセクターのように志願した者もいるが――おもにレクス目当てで、巡回の組み合わせを聞いてアイザックに殺意を向けてきたので焦ったのはまた別の話――それは極少数だろう。
そういった志願した訓練生達は警務隊と地元警察の下、巡回任務に当たっているのだ。
二人は来訪者目当ての屋台街を歩きながら、問題が無いか左右を警戒していた。
「そういえば、さっきよく“お父さん”だって分かったね?」
「ん?あの子が、お父さんは“ブルーレイディのパイロットだった”って言ったからな」
「ふうん……ん?」
アイザックの返答にレクスも気付いたようだ。そして、なるほどと呟いた。
「やっぱり戦争中なんだね?」
北西の大陸にあるイグドラシル連邦の侵攻に端を発する異種族との戦争で、この国は六年前、レクスの故郷を含むサウズアイルを含む主要四大州のひとつノウサウェイを失い、いまだ小競り合いは続いている。
「まあな」
とはいえ、空軍の航空魔法士官なんて平時でも危険なことに変わりは無い。
母親はそれが耐えられなくなって、違うタイプの男性を選んだのだろう。
子供は別に“父親”を嫌ってはいないようだ。ただ、どうしたらいいか困惑しているんだろう。
「そういうお前も意外だったな」
「ん?何が?」
「あのお父さんに、最初物凄く辛く対応しただろ?」
「子供を守るのは、大人の役目じゃないか?」
苦笑いを浮かべる。そういえば、レクスも親がいないと聞いた。いや厳密にはいるらしいが、事情は複雑らしい。
だから、かもしれない。
「迷子を見つけた瞬間、一目散だったしな」
あはは。お恥ずかしい。と朗らかに笑っている。
面白い奴だ。ユリスタンの傍に置いたらどうなるんだろう、とアイザックは想像してみた。カルランザがちょいちょい手綱を手放すものだから、ユリスタンがあたふたして、結局はレクスに引張り回されるんだろう。
面白すぎる。
「お前ら、面白いな」
「お前……ら?」
「ああ。第三小隊は愉快だ」
「そうかな?第一小隊も凄いと思うけど」
「ああ、そうだな。俺達は凄い。だけど、お前らは面白い」
「ねえ?バカにしてる?」
「今ごろ気付いたか」
レクスが頬を膨らませる。それでも目は左右にやって職務には忠実だ。
「それってマリ達のこと?」
「ああ、そういうこともあったな」
二週間ほど前、今日のオープニング展示飛行を飾るイーグレット展示飛行小隊が演習時間中に乱闘騒ぎを起こした。ユリスタンの一言を引き金に、マリ・コルリーが暴走。元々反発していたメンバーとマリが乱闘に突入し、整備小隊と偶然居合わせた他の訓練小隊や他戦科の訓練生の衆人環視の中、反発メンバー対第三小隊三名とその応援一人という奇妙な布陣で、凄絶な殴り合いとなったらしい。
さすがの格闘センスのマリと打撃力に勝るカツキ、奇策使いのリンデルの三人は次々と飛び掛ってくる四人を圧倒するものの、四人の方も今までの鬱憤を晴らそうと勢力は拮抗していた。
だが、次第にマリに疲れが見え始め、それに気付いた四人が攻撃をマリに集中し始めたため、彼女が最初に倒れると審判役を仰せつかったユリスタンは思ったらしい。
ところが、
「カツキイイイイッ!」
と、マリが叫ぶと、カツキが彼女の前に立ち塞がり、一斉に飛んで来た二発、カルザイとシエンタのパンチをまともに食らい吹き飛んで、ノビてしまった。
一瞬、殴った本人達が何が起きたのか分からず呆然としていたところ、雄叫びとともに跳び上がったマリが、シエンタの横っ面に膝を叩き込み、そのままカルザイの後頭部にぶち当てるという離れ業で二人を床に沈めた。
それでも、マリはもうフラフラだった。押し切れば勝てると、残ったリョウセイとハインリヒが飛びかかるのは当然だった。
再び、ところが、
「来なさいいいいっ!」
ユリスタンは話すのも憚れるのかその光景について詳しくは語らないが、いくつかの証言を併せるとなまじ整った顔立ちの少女が浮かべていたからか、壮絶で美しく、そして世にも恐ろしい笑顔だったらしい。
何人かは言った。思わず、俺も飛び出そうかと思った、と。
直後、あのナクルがマリの正面に仁王立ちし盾になった。
そして背中から倒れる彼の肩に足をかけ跳び上がったマリが空中で身体を捻り、くるりと回転し、彼女を見失った二人の後頭部に盛大な踵落しを決めた。
くるりと着地を決めたマリは、死屍累々となった格納庫の床を見回し、今にも崩れ落ちるのではないかという生まれたての小鹿のような足取りのまま、右の拳をぷるぷると天井に向かって突き上げた。
「わたしの……、わたしの勝ち……だあああああああっ!」
なんの曇りも無い、晴れやかな笑顔だったらしい。
ユリスタンやその他の目撃者の話を聞く度に、面白くて仕方ない。四人を倒したとはいえ、仲間二人を平気で踏み台にした挙句、その勝ち名乗りは普通に酷いだろう。
「笑う悪魔ちゃんは元気か?」
「元気だよ。元気すぎるよね」
レクスがぶっきらぼうにアイザックに返す。どうやら例の乱闘騒ぎは、レクスの中では第三小隊の汚点らしい。
「そいつはよかった」
「よくないね。基本エレメント組むの僕なんだよ。味をしめたのか、最近の演習での僕達の扱い悪いんだよ」
「そりゃ今度見ておくわ」
笑いながら返してあげると、レクスは盛大に溜息をついた。
「それにしても、よくキリハラもリンデルもマリちゃんの盾になったな?普通そんなことするか?」
疑問を投げかけると、レクスはきょとんと首を傾げた。
なんで?俺、変なこと言ったか?アイザックが戸惑う。
「普通じゃないの?」
「おい。男は普通にマゾなのか?」
レクスはさらに傾いた。そこまで疑問か。
「だって、勝利条件はマリの生存でしょ?だったら、カツキもナクルも迷わないと思うけど?」
「は?なんだって?」
確かにマリが最後まで立っていれば勝ちだろう。そうすれば展示飛行小隊を纏められる可能性が出て来る。だけど、それで仲間を犠牲にしていいわけがあるか。
「普通は味方の被害を減らすことを考えるんだよ」
「ムリムリ」
「はあ?」
「そうゆうのはハヤトの専門だから」
あっさりと言ってのけた。
アイザックはそこで思い出した。レクス・キャロイも変人訓練小隊の一員だった。常人には理解出来ない世界だ。いっそ魔境なのか。
不意に大きな風鳴音が辺りに響き渡り始め、滑走路側にいた観客が一斉にざわめき始めた。機関始動魔法の音だ。どうやらオープニング展示飛行のエンジン始動が始まったらしい。メイン会場は、ここから三キロ離れたヴォンデルランド湖上だが、眼前でエンジン始動を見れる各滑走路も人気のスポットだった。
オープニングは第一から第三全ての滑走路からイーグレット四機、空の淑女二機、攻撃機紅蓮のお転婆二機、早期警戒管制機瑠璃の女主人一機と六機のヘリコプターが順番に湖上に侵入し、航過してみせる。
「うん。いい音だ」
エンジン音がJMSから点火後の轟音に変化するなり、レクスが満足げに頷いた。
「そうか?いつも通りじゃないか?」
「エンジン音はね。でも事象変換言語はとても嬉しそうでわくわくしている感じだよ。マリ達はみんな楽しそうだね」
ユリスタンもシルヴァもそういう話をよくするが、アイザックにはよく分からない。子供の頃からワーズの英才教育を受けた者のみが知り得る感覚なのだろうか。
だが、レクスの言うとおりなら、ユリスタンの溜息も少しは報われるだろう。
「スリだ!」
辺りの轟音を切り裂くように悲鳴が上がった。
見ると、人込みの中、一人の男が駆け抜けようとしていた。
やれやれ仕事だ。
アイザックが駆け出したとき、レクスも何かの詠唱を呟きながら同じように駆け出していた。
「こちらイーグレット・リーダー。小鷹たちは準備完了」
「了解した。そのまま待機せよ」
「こちら、アルテミス時は来た。月光の舞踏会のはじまりだ。麗しきご婦人方、一緒に舞いませんか?」
「了解。こちら、コンダクター。ラピスミストレス1。離陸を許可する」
「ありがとう。コンダクター。ラピスミストレス1、発進する」
「続いて、ブルーレイディおよびクリムゾンフィリィ。離陸を許可する」
「エスコートありがとう。ブルーレィディ編隊、発進する」
「ありがとう。クリムゾンフィリィ編隊、発進する」
環月祭のオープニング航過展示飛行の始まりを告げるアナウンスに続き、三本の滑走路から次々と航空機が発進して行き、ヴォンデルランド湖上空を旋回しながら隊列を形成していく手筈になっている。第三滑走路の南端誘導路に待機していたマリ達の前でも、北端から発進した二機ずつのブルーレイディとクリムゾンフィリィが離陸し、上昇していく。
マリ達イーグレット小隊は、航過飛行に参加する最も軽量な航空機なので、離陸直後に形成された隊列の先頭に立ち、メイン会場上空に進入する。
「イーグレット小隊。滑走路に進入し待機せよ」
管制塔からの指示でマリを先頭に菱形に並んだ四機のイーグレットは、滑走路の南端に進入する。
「イーグレット小隊。こないだの乱痴気騒ぎに負けないガッツを見せろよ」
管制塔からのまさかの野次。いまだタキシング中のイーグレット1の機上にて仲間達の笑い声を耳にして、イーグレット・リーダーは苦笑いを浮かべた。衆人環視の中乱闘騒ぎを起こしたのは彼女自身だったが、いつの間にかそれなりの有名人と化してしまったようだ。
「ごめんなさい。私達はほんのひよっこに過ぎないし、この子達は小さな小鷹よ。だけど、今は私達が主役だわ」
イーグレット四機が離陸位置に到達。
「期待しておこう。イーグレット小隊。離陸を許可する」
「了解。イーグレット小隊、発進する」
マリの左手が、スロットルレバーを速やかにミリタリーまで送り込む。くぐもったエンジン音が獰猛な咆哮に変わり、滑走路を駆け出し始めたタイヤから主脚を振動が伝い、加速感が身体をシートに押し付ける。
第三滑走路周辺に建造物は少なく、自機の加速は非常に分かりづらい。それでも眼下を次々と流れる滑走路中央のセンターラインのリズムから、マリは体感的に機体速度を読み取る。
僚機三機はぴったり付いて来る。
「V1」
後席の小隊全機のナビゲート役、レイが声を上げる。離陸決心速度に到達。通常軽量なイーグレットやブルーレイディ、クリムゾンフィリィにとって三千六百メートルの滑走路は充分すぎるほど長く、半分もあれば離陸可能だ。
しかし、今回マリは小隊四機で編隊を組んだまま離陸するために、敢えて滑走距離を長く取ることにした。
「機首上げ!」
レイの声に合わせ、四機の水平尾翼計八枚が同時に動き、機首が持ち上がる。前主脚が滑走路から離れ、身体に伝わる振動が変化する。
「上昇開始」
イーグレット四機の後主脚もほぼ同時に地面を離れるが、しばらくそのまま滑走路上を這うように進む。
格納庫前の駐機場に居並ぶ観客から、歓声と拍手が湧き起こるが、さすがにそれは彼らの耳には届かない。
「主脚格納。急速上昇五秒前。三、二、一、今!」
レイのナビゲートに従い、四機は機首を一気に引き上げ、急速上昇に入る。濃紺の空を真っ直ぐ突き破るような加速。
「オープニングアクト全機の離陸を確認。以降の管制はラピスミストレス1に移行する」
「ラピスミストレス了解。こちらでもイーグレットの機影を捕捉した。ブルーレイディ、クリムゾンフィリィともに進入タイミング良好。時間に正確なのはいいことだ。予定通り音楽隊の演奏が始まった。ファーストアプローチを開始する」
「イーグレット・リーダー了解。イーグレット全機続け」
「方位〇九〇への転進五秒前。三、二、一、今!」
左へ九十度バンクし、コントロールスティックに引き上げる力を込める。
旋回Gの中、横倒しになった緑の絨毯の真ん中に朝日を受けてキラキラ輝く円形の湖面が見える。あの周囲に観客席が設けられ、式典や音楽隊の演奏、そしてメインの展示飛行が行なわれる環月祭のメイン会場となっている。
「高度指定百五十。機速三百を維持せよ」
「姿勢戻し合わせ、三、二、一、今!」
ラピスミストレスの管制とレイの声に合わせ、一斉に翼を翻すように四機が水平に戻り、翼端が陽射しを受けてきらりと輝く。
「いいね、いいね。のってきたよ」
気分が高揚してきたマリの呟き。耳に届くレイの小さな笑い声。
「レクスに怒られるよ」
「そうだね。引き締めていこう」
マリは先読みも鋭いし、楽しみながら魔法を使うからいい力が出せる。だがノリが良過ぎてイメージを疎かにすることがあるから気を付けなさい、と本番リハーサル前の最後の演習を見学したレクスから小隊全員まとめて滔々と説教されたことを思い出した。まさか、レクスからご教授賜ることになるとは、イーグレット展示飛行小隊の誰も思わなかっただろう。
だが、レクスはこうも言った。
「みんな、楽しく自由にやろう」
楽しく飛べば、イーグレットは応えてくれる。とレクスは笑う。
高い戦績を誇る魔法航空機には、特定の航空魔法師による度重なる魔法行使の影響で擬似的な人格を形成することがあるという。それは精霊体と呼ばれ、ヴォンデルランドの教官になる基準の一つでもあると訓練生は教わる。
不特定多数の訓練生が搭乗するイーグレットは、その意味では精霊体の形成を成すことは難しいはずである。
だが、レクスは言った。
「植物だって虫だって喜んだり、嫌がったりするんだよ。イーグレットだって同じだよ。だから、みんなは楽しく飛んであげて」
レクスはやっぱり違う世界を見ているな、と思わされたマリは、改めて気を引き締めなおす。ことの発端の一人としての責任感で、そうアドバイスしてくれた彼に報いるのも、小隊長の務めだ。
メイン会場上空には、イーグレット四機編隊、ブルーレイディ、クリムゾンフィリィの混成四機編隊、そして殿のラピスミストレスの順に低空進入する。来場者への最初のサービスだ。
「まず最初に登場するのは、イーグレット小隊」
ラピスミストレスが進入タイミングを計りやすくするために、会場のアナウンスを通信帯に同期させる。
「アプローチ十五秒前」
展示飛行の進行表を頭に叩き込み、編隊の動きを指示するレイは正確にカウントダウンを始める。
キラキラ輝いていた湖面が、近づくにつれて深い群青に変わり、湖の南側、木立の淵に設けられた大きな広場に大勢の観客の姿が見えてくる。
「将来、ブルーレイディを操り、帝国の空の守護者となるべく日夜研鑽に励む、戦術科航空魔法士官の卵たちです」
「十秒前。八、七、六……」
「イーグレット・リーダーよりオールイーグレット。オートパイロットへ移行せよ」
マリの指示に、僚機からの了解の唱和。
右手の小指がコントロールスティックにあるスイッチを操作し、HUDにAUTOの表示。
「四、三、二……」
「イーグレット総員、来場された皆様に、敬礼!」
「フライパス!」
小隊八名全員が左下方を通り過ぎる観客席に向け、右手を挙げ一斉に敬礼する。
最大規模を誇るといえども、湖畔のメイン会場の横幅は一キロ弱。四万人もの人々が集まるには広すぎも狭すぎもしないそれだが、三百ノットもの高速で通り過ぎるのは、ほんの一瞬でしかない。
それでもマリは可能な限り多くの人の顔を、心に刻みつけようと思った。今日という日に当たり、多くの人の助けがあった。そして、今日彼女達の飛ぶ姿を、多くの人達が観に来てくれた。その感謝を込めて。
「左旋回開始まで十秒」
「直れ!」
八名揃って右手を下ろす。
「左旋回から周回に入る。予定通り、最後に一発決めてお客さんの度肝を抜くよ」
おう、と揃いの返答に満足のマリ。
「三、二、一」
「旋回!」
コントロールスティックを左に押し付け、引き上げる。ペダルで方向舵を操作し九十度傾いた姿勢を維持し、旋回する。左右の後方監視ミラーに写る二機。右はカルザイ・レオノフ、シエンタ・キュレイの二番機。左にはカツキ・キリハラ、ナクル・リンデルの四番機。急激な格闘操縦が得意な二組は編隊左右を守っていた。
「旋回終了、三、二、一、今!」
横倒しだった風景が水平に戻り、未だ登りきっていないにもかかわらず、太陽が真正面から強烈な歓迎をしている。
照りつける刺すような陽射に、目を細めるマリ。
「変更?」
「お嬢ちゃん、今更何言ってんだ?」
容赦なく照り付ける陽光の中、鉄板のように熱せられた駐機場で、大岩のようなロイド・カッツ大尉と、老獪な雰囲気を持つイクム・リューデロイ曹長の二人が最終リハーサル前の打ち合わせをしている場に、マリは演目の変更を上申しに現れた。オープニング航過展示飛行の教官責任者と整備責任者に上申するために、直談判を選択するのはさすがのマリだ。
当然、風当たりが強まるはずなのに、それを物ともしないのが彼女の長所でもある。
「イーグレットの展示はオープニングの先頭と最後の二回です。その最後に、来場された皆様にサービスを提供したいのです」
言いながらファイルを差し出すマリ。彼らを監督指導する主任教官、そして生命線とも言える整備責任者を前に、たった一人で臆することなど無い。
仲間達はこの場にはいない。リハーサルの準備中で、ユリスタンも彼女の代わりにそちらにかかりっきりだ。
カッツはファイルを受け取ったものの、開きもせずマリを見やった。
「オープニング展示飛行の演習状況に関してはこちらで把握している。貴様は小隊を掌握しておらず、満足な演習も実施出来ていない。進捗度合は最低だ」
荒っぽく嗜虐的な言動の目立つカッツ大尉だが、やはり教官を任されるだけの士官だ。指摘はいちいち重い。
「この状況で飛行メニューを変更?観客席に突っ込んでジコる気か?」
教官の問いかけにマリは笑みを浮かべた。カッツの太い眉が中心に寄る。不謹慎だと思われているに違いない。
それでも彼女は言い放った。
「既に隊は掌握しています」
「こないだの乱闘騒ぎはなんだ?」
「小隊員同士の親睦を深めるための通過儀礼です」
胸を張るマリに元々決して我慢強くはない教官の堪忍袋の緒が軋みを上げた。
「貴様……」
「まあまあ」
割って入ったのはリューデロイ曹長。
「嬢ちゃん、ロイドもお前さんらの心配をして言っているんだ。分かっているな?」
言葉尻は柔らかなものだったが、その視線は鋭くマリを睨みつけていた。そこに一切の妥協は赦さない職人気質を見て取った彼女は、緩んでしまった表情を引き締め、カッツ大尉に非礼を詫びた。
カッツは未だ憮然としていたが、一応話は聞いてやろうと言った。
姿勢を正し、一礼したマリは一瞬目を閉じた。思い浮かぶのは、幼馴染、相棒、仲間達、同期のみんな。手伝ってくれた先輩、後輩。小隊長の職務は、彼らを引っ張ることだけじゃない。彼らの気持ちを、意志を、望みを代弁することでもあるんだ。
そう、このとき、彼女は自分が小隊長だと初めて実感した。
目を開き、小隊長として初めての仕事に取り掛かるマリ。
「自分達は寄せ集めではありません」
カッツがかすかに目を開き、リューデロイが目を細めた。
「自分達の失態とはいえ、我が三八八期生は正規の訓練小隊を展示飛行の代表に出すことが出来ませんでした。ですが、自分達戦術魔法師、魔術航法士官八名はそれぞれ自分達の訓練小隊を代表してきた精鋭です。この誇りゆえにお互いに齟齬を来たしていましたが、その問題は自分が解決しました」
「殴り合いで制圧したと?」
「自分が拝命したのは、あらゆる手段を用いて小隊を掌握しろという命令だったと愚考いたします」
皮肉さえも彼女はさらりとやり返す。大尉がひとつ小さく頷いたのを彼女は見逃さなかった。
「現在、我がイーグレット展示飛行小隊の希望は、第三三八期訓練生として恥ずかしくなく、そして失意の仲間達にとって光となる展示飛行を実施することであります」
「そのために危険を顧みないと?」
「それらを乗り越えるために、自分達は訓練を続けて参りました」
「それが小隊の総意か?」
「はい」
「シュタンジットも同意したのか?」
「シュタンジットは小隊員ではありません。ですが、訓練総隊幹部として自分達の意志に同意してくれました」
立て続けの問いに、マリは明確な返答をし続ける。
「三三八期は同意していると?」
「そこは問題ではありません」
初めて否定を口にするマリ。おや、と思うリューデロイと苛立ちが溢れ始めたカッツを前にしながら、一拍瞑目した彼女は、しかと居並ぶ二人の先達を見据えた。
「必要なのは同意ではなく、希望です」
辛いことはある。譲りたくないことはある。負けたくない、泣きたい、逃げたい、そんな感情や出来心はいくらでもある。
「私達展示飛行小隊は同期の代表です。代表である以上、同期の中で最高の飛行を見せるべきです」
でも、勝ちたい、笑いたい、喜びを分かち合いたい。マリの中ではその気持ちの方が遥かに強い。
「私達は寄せ集めでも、落ちこぼれじゃない」
小隊の仲間にも感じて欲しい。
「ほら、私達でもここまで出来るんだよ」
飛べない人達も感じて欲しい。
「みんなもっと出来るはずだよ」
悩んでいる仲間たちにも気付いて欲しい。
「だから、胸を張れ!」
見る人みんなに伝わって欲しい。
「私達は、最高のイーグレットだ!」
と、伝えたいのです、と言ったマリ。
高鳴る鼓動のまま、湧き上がる衝動のままに言葉を放ち、上気した頬をかすかに赤く染めた彼女は、周囲の空気が全く揺らいでいないことに気付いた。
責任者二人はもちろん、周囲で打ち合わせをしていた十数名の整備員、地上要員、搭乗員までもが茫然とマリたち三人の方を向いている。集中する視線。固まった空気。容赦なく照り付ける陽射にも負けない、背筋を這う寒気。
わたし、何か間違った?
不意に空気が揺れた。堪えていた何かを吹き出す音に振り返ると、長めの黒髪をポニーテールにしたBDU姿の長身の美女が、書類を抱えたまま背中を句の字に曲げてくつくつと笑っていた。
「ディータ教官……?」
マリはもちろん、周囲の人間はみな、普段は何事にも動じない凛とした妙齢の女性が、恥も外聞もなく笑いに身悶える姿を呆然と見守っていた。
シャル・ディータ中尉は膝に力が入らないのか、ふらふらしながらまさに笑い転げていた。
「だ、大丈夫ですか?」
一番近くにいたマリが、思わず手を差し出してしまうほどの醜態。彼女の身に一体何が?
「い、いや、くくくくくく。こ、コルリー……、くっくくくくく。だ、だいじょ、うぶだ」
「いや、ふつーに大丈夫じゃないと思うんですけど」
思わず普段の調子で返してしまう困惑のマリ。
やっとのこと、といった様子でマリの手をやんわりと制し、ディータ中尉は、にやりと相棒を見た。
「懐かしいわね、ロイド。この子、あなたと同じこと言ってるわ」
ロイド・カッツ大尉はびくっと身を震わせ、ついで浅黒い肌が目に見えて真っ赤に染まった。
「シャ、シャルバード、てめえ!」
「ええ?大尉と同じなんですか?」
慌てふためくカッツの前で、心底嫌そうなマリ。
「コルリー、貴様」
「失礼いたしましたぁ」
姿勢を正し、しれっと返すマリ・コルリー訓練生。
「そういや、そんなこともあったな」
「ですよね、リロイさん。あれは南西諸島防空戦の……」
「みなまで言う必要ないわっ!」
明らかに面白がっているリューデロイ曹長とディータ中尉に翻弄される主任教官。周りの古参の整備員やグランドクルーも苦笑を浮かべている。
どうやら似たようなことがあったらしい。マリとしては上申が通るきっかけとなって嬉しいような、あのサディストと同じということにがっかりなような複雑な心境だった。
「コルリー」
「はい」
声をかけてきたのは、次席教官。さっきまで笑い悶えていた姿は鳴りを潜め、凛として美しく鍛えられた古刀のイメージ。だが、その瞳はどこか面白がるような光を孕んでいた。
「そこまで言うからには自信があるんだな?」
鋭い問いかけにマリは背筋を伸ばした。
「はい」
「その勇気に免じて今回は許可しよう。なんせロイドは一人じゃ貴様みたいなことは言い切れなかったからな」
よけいなこと言うんじゃねえ、と罵声を挙げ暴れるカッツ大尉をリューデロイ曹長達が必死に押さえ込んでいる。腕はいいし、情熱があるのも理解しているが、アレが主任教官で本当にいいのか帝国空軍。
「ただし!」
ディータ中尉の声で我に返る。
「リハーサル一回目で確実にキメろ。でなければ赦さん!以上だ!」
弾かれたように右手を挙げ敬礼するマリ。
「はっ。我がイーグレット展示飛行小隊、必ずやヴォンデルランドの全ての人が満足される飛行をご覧にいれます」
ディータ中尉の答礼が終わると、マリは撃ち出された銃弾の如く、仲間達のもとへと駆け出した。
「クルビット態勢まで十秒」
レイのナビゲートに思索から復帰するマリ。
「イーグレットリーダーよりイーグレット3。以降のナビゲートを任せる」
「イーグレット3了解」
「任せてください、おねえさま」
ハインリヒ・リヒターの返答に続いて、リョウセイ・サガラ。ずっと思っていたんだけど、何故におねえさま?
「気にするな小隊長。あんたの踵落し食らってからずっとこんな調子だが、俺が完璧に手綱を引いてやる」
「りょ、了解……」
本当にそれは大丈夫なのか?
「五秒前、三、二、一、今」
レイの合図に合わせマリは左手でスロットルを押し込む。エンジン音と刻印魔法の自動詠唱と心地よい振動が激しく高鳴り、イーグレット1が滑らかにそして鋭く加速する。
直後、レーダー警戒装置が小さく警告音を鳴らす。
「照準レーダー照射。識別、友軍。イーグレット3からだよ」
これから彼らが実行しようとする大技には、精密な相互速度位置情報が必要だった。その為にハインリヒは火器管制用の照準レーダーを使い、イーグレット1との相対速度位置を計測し始めたのだ。
「イーグレット1。規定速度だ。相対位置、相対速度は完璧。さすが、いい腕している」
「了解。しっかり面倒見てね」
「任せろ。イーグレット全機。クルビットまで十五秒。フォーメーション、ナックルチップ」
鬱蒼と茂る見渡す限りの森の梢に胴体をこするように飛ぶ四機のイーグレット。先行するマリとレイのイーグレット1と、先ほどまで菱形を描いていた三機が緩やかに隊形を買え、左右に緩く広がったイーグレット2と4の間、4に寄せた位置に前進するイーグレット3。中央右側が欠けた扇形を作り、イーグレット1を追う。
マリはその隊形の変化を自ら確認することはなかった。信頼する仲間達の実力を彼女は知っている。彼らなら確実にやる。完璧にやる。今までの訓練、演習でそれを見てきた。
ならば、今の彼女がすべきことは、HUDに映し出された速度と方位に気を配り、目に映る景色を認識し、フットペダル、コントロールスティック、スロットルレバーの感触を確かめ、そして、仲間達を信じることだ。
「クルビットまで十秒」
ハインリヒのカウントダウン。
「決めて来い、マリ」
珍しくナクルが最初に声を発した。さすがおいしい瞬間を把握しているムッツリ紳士。
「おう!」
「やっちまえ!」
「男をみせろ!」
シエンタと相変わらず失礼なカルザイ。
「おねえさまは女だ!」
「カッコいいとこ頼むぜ!」
残念キャラに鞍替えしたリョウセイとハインリヒ。
「マリ。見せ付けろ!」
珍しく決めたカツキ。
そして、マリの後席でレイ。
「付いて行くよ」
「行くぞ!」
マリの気合。
眼下に迫る丸く輝く湖。その湖畔に集まる観客。
「Kulbit Now!」
ハインリヒが叫び、マリはコントロールスティックを引いた。固定されたスティックは僅かにしか動かないが、飛行制御魔法がマリの右手に込められた力を正確に読み取り、イーグレットの水平尾翼が大きく傾き、機体が瞬く間に垂直方向へ向く。
途端、主翼と尾翼の付け根からくっきり見える白い航跡が、蒼いキャンバスに筆で引かれるように現れる。同時に機体は胴体と主翼で大気を受け止めたため、急激に失速する。
鳴り響く失速警報。
しかし、マリの操作によって推力偏向ノズルが蠢き、高迎え角でも推力を失わないエンジンが機首をさらに上方、つまり後方へと向かわせる。
目まぐるしく蒼い空と緑の森が入れ替わり、陽射がストロボのように明滅するなか、身体を押し潰そうとする理不尽なまでのGに耐えながら、マリははっきりと認めた。
正確にイーグレット1が入るべきスペースを空けた右手形編隊を組んだ三機がやってくるのを。
そこにわたしたちは戻る。
その意志を込めて機体を、施された刻印魔法を操る。イメージが些細な気流の変化を読み取り、遷移させ、エンジンが微細な出力調整を行なう。マリとレイの訓練の成果が、最高の形でイーグレットにつたわり、小鷹は成鳥に負けない力を発揮し、高難易度の失速戦闘戦闘を制御する。
くるりと木の葉のように宙返りを決めるイーグレット1。
そこに三機の編隊が合流し、四機の編隊を一瞬で作り上げる。
「ブレイク!」
ハインリヒの声に一斉に反応する四人の戦術魔法師。
四機のイーグレットはメイン会場正面で大きく扇形に広がって散開し、銀杏の葉を思わせる大きな扇形の航跡雲を蒼穹に描く。
「よし」
歓声に包まれる管制塔のサポート室でユリスタンは右拳を力強く握り締め、
「お見事」
ブルーレイディ一番機上の戦術魔法師ヒューイ・レイビスは称賛の言葉を贈り、
「あのバカは……」
メイン会場で見守っていた二人の教官と戦術科訓練総隊長は異口同音に柔らかく笑みを浮かべ、
「いい唄だね」
「そうね」
早々にスリを捕まえ、愉しげに笑う休憩中のレクスに付き合っていたエリナも思わず口元を綻ばせる。
そして、大空で高く舞い上がるイーグレット1では、マリの止まらない笑い声が響いていた。




