混沌の覚醒
「これじゃ手が出せないじゃない」
まもるはカレンとイグシーの戦いを距離をとって見ていた。その両者はサイズは全く違うが、互いに素早く動き、他の何者も寄せ付けない。
「カレンさんはともかく、あのロボットがどうしてあれだけ動けんだか」
まもるは独り言以上のことができない自分を歯がゆく思っていたが、とにかくこらえて戦いを見守ることにした。
「こいつ、ちょこまかと!」
イグシーは悪態をついていたが、その機体の動きはカレンに劣るものではない。
「機動力に力をまわさないと駄目だな」
イグシーはコックピット内の装置を動かして調整すると、さらに機動力を上げた。
カレンはすぐに相手の動きが変わったことに気がついた。そして、自らも速度を上げる。
「どうやら、タマキさんの力をほぼ全て使っているようですね」
そしてカレンがロボットの上に出ると、イグシーはすぐに反応して右手のライフルをそちらに向け、ビームを三連射した。
カレンはその三発を避けながら、ロボットに向けて降下するとライフルを破壊しようとした。だが、イグシーは機体を素早く後退させると、さらにライフルを連射する。
カレンはそれを避けようとしたが、避けきれずに自らの剣をビームを迎撃しようと構えた。そこにビームが直撃し、さらにイグシーはそこにライフルを撃ち続ける。
しかし、その中からカレンは下に飛び出し、地面すれすれまで降下すると、そのまま低空飛行をしてイグシーの背面にまわろうとした。
「本当に生身かこいつは?」
イグシーは機体を上昇させると、ライフルを地面に向けて連射するが、カレンはそれを避けながら、ちょうど真下の位置に到達した瞬間に直角に上昇を始めた。
「ちっ」
イグシーは左手を動かすと、腰に装着されている柄だけを抜く。それと同時に、それからビームの刃が伸びた。そして機体を急降下させながら、カレンに向かってそのビームブレードを振り下ろした。
それはカレンの白銀の剣と正面から激突し、激しく光を発した。力は拮抗し、両者は動かない。
「こいつ、機動力に振ってると言っても、普通受け止めるか?」
イグシーはパワーを上げようとしたが、その前にカレンがその場を離脱し、地面まで急降下した。そしてカレンは剣を構えると、輝きが増し、その光で巨大な剣が作り出された。
「正面からくるか」
イグシーはパワーとビームブレードの出力を上げると、カレンより先に動き出し、機体の向きを変えた。カレンはまだ動かず、さらに剣に力を集中させている。
「行くぞ!」
イグシーはブースターを全開にすると、一気に速度を増し、カレンに向かって急降下を開始した。
「行きますよ」
カレンも翼を大きく開くと、それに向かって一気に急上昇を始めた。そして、両者が激突すると、前回とは比べ物にならない光と衝撃が爆発的に発生し、両者の姿を飲み込んだ。
「どうなったの!?」
まもるは光と衝撃に耐え、なんとかその光景を見ていたが、光でどうなったのかは全くわからなかった。だが、その光も徐々に小さくなり、まもるにも状況が見えてきた。
すでにカレンとイグシーの機体は距離をとっていて、どちらにも目立った傷はないように見えた。
「互角とは、とんでもない奴だな」
イグシーの機体から声が響いた。
「そちらも、さすがにタマキさんの力を使っているだけのことはありますね」
「ふん、だがそれだけだと思うな」
イグシーはそう言ってマイクを切ると、足元にあるレバーに手をかけた。
「こいつを使うことになるとはな」
そして、そのレバーを引いてから半回転させ手を放すと、コンソールに手を当てた。すると、そこに機体に現れた刻印と同じものが浮かび上がり、コックピット内に光が満たされる。
「最大開放」
イグシーの機体全体が光り、カレンはそれに今までにない力が満ちていくのを感じ、剣を構えた。だが、イグシーの機体の姿が消えると、カレンはその衝撃を受けて地面まで叩きつけられる。
機体が再び姿を現すと、カレンが落ちた地点に向けてライフルを乱射した。カレンはその中を高速で動き、ビームをかわすと上昇しようとしたが、再びイグシーの機体が消え今度はカレンのすぐ上に現れると、そこからビームブレードを振り下ろした。
「くっ」
カレンはなんとか白銀の剣でそれを受け止めたが、勢いを止めきれずに、再び地面に叩き落される。さらにイグシーの機体はその地点の近くに瞬時に移動し、カレンに向けてビームブレードを振り下ろした。
「そうはさせない!」
その一撃は伸びてきたクレーンアームによって邪魔をされた。
「おおおおおおおお!」
さらにまもるはブースターを全開にしてドリルで突っ込む。だが、イグシーの機体はそれに向けてライフルを連射した。
ビームの直撃を連続で受けたまもるはバランスを崩し、転がされてしまう。そうしてできた隙に、カレンは飛び上がってイグシーの機体に切りかかった。
「遅い!」
イグシーはビームブレードを振るい、三度カレンを地面に叩きつけた。そして、今度は確実に地面のカレンに向けてビームブレードを振り下ろした。
「カレンさん!」
まもるが叫ぶが、イグシーのビームブレードは確実にカレンが落とされた場所を地面ごと抉っていた。まもるは元のフォームに戻ると、突進しようとしたが、そこで声が響いた。
「心配ありませんよ」
カレンの声が響き、ビームブレードが抉った場所から黒い円盤状のものが無数に出現した。それはビームブレードを瞬時に霧散させ、イグシーの機体そのものを後退させる。
そして、今までの白銀の輝きも漆黒の鎧もなく、一見したところ身の回りの黒い円盤以外は何の変化もしていない、元の姿のカレンがゆっくりと立ち上がった。
「ここまで危険を感じたのは久しぶりです。しかし、そのおかげで私も思い切ったことができました」
「カレン、さん? それって」
まもるはようやくカレンの変化に気づいた。それにうなずいてみせるカレンは、ただ髪の毛と瞳が黒く染まっていた。
「私の切り札ですよ。マモルさん、すぐに終わらせますから下がっていてください」
「はい」
まもるはカレンの様子に今までにない力強さを感じ、すぐに後退していった。それを確認したカレンはイグシーの機体に視線を向ける。
「待っていただいて感謝しますよ、イグシーさん」
「ふん、余裕だな」
「すぐにわかりますよ」
「いいだろう!」
イグシーの機体が消えたが、カレンはただ指を少し動かしただけで、その場から動こうとしない。
「こ、これは?」
カレンの背後に現れたイグシーの機体だったが、それには黒い円盤がまとわりつき、動きを封じていた。
「くそっ! どういうことだ! なぜ動かない!」
イグシーはコックピット内で激しく動揺していた。カレンはゆっくりと振り向くと、その黒い瞳でまるで見えているかのように、その目を射た。
「終わりにしましょう」
カレンはごく普通に歩くと、足元に黒い円盤を発生させると、それに乗ってイグシーのいるコックピットの前まで身体を浮かせた。それから剣を軽く振り、そのハッチを弾き飛ばした。
イグシーはその光景をただ呆然として見ていた。
「話は外で聞かせてもらいましょう」
カレンはその目を黒く染まった瞳で覗き込んだ




