偽装ドーム
「しかし妙なところだな」
タマキは空を見上げていた。ライトもそれにうなずく。
「そうですね、人も出歩いてませんし、それに」
そこでライトは口を閉じたが、まだ何か言おうとしていた。
「それに、どうした?」
「いえ、なんだか空気が淀んでいる感じなんです」
「たしかにそうだな。まあ、とにかく一度ここを離れてみるか。外から見ればわかることも多いだろ」
「はい」
二人はこの街から出るべく、足を速めた。
「おかしいな」
だいぶ歩いてから、タマキは空を見上げた。
「どうしたんですか?」
「ここの空だ。どうも低いような気がするんだよな」
「そうでしょうか」
「それにな」
タマキは視線を下げ、道の先を見ると、左手を構えた。
「アイスバイト!」
小さなの牙が飛び、それは空中で何かに当たったかのようになって砕けた。
「やっぱりな」
タマキはそうつぶやくと早足で歩き、ライトも黙ってそれについていった。そうしてタマキがさっきの場所に右手を出すと、それは見えない壁に触れた。
「ここは屋内ってわけだ」
ライトもタマキと同じように壁に手を触れてから、空を見上げた。
「あの空も作り物なんですね」
「まるで本物だけどな。問題はこの先がどうなってるかだけど、まあ、何もないってことはないだろうから、とりあえず外に出てみるか」
「でも、どこから出るんでしょうか」
「出口なら作ればいいだろ」
そう言ってタマキは構えたが、何かに気づいた様子で構えをといた。
「どうしたんですか?」
「今、馴染みのある力を感じた。外からだな」
「それは、タマキさんの仲間の方ですか?」
「そうだな。それがわかったんなら、早速外に出てみるか」
タマキは再び構え、右腕を真っ直ぐ壁に叩きつけた。低い音が響き、拳を叩きつけた部分からひびが広がったが、それだけだった。
「分厚いな」
タマキは右腕を引くと、そのひびの部分を見て首をかしげた。
「やっぱりちゃんとした出口を探したほうがいいんじゃないでしょうか」
「いや、どこにあるかもわからないし、それに簡単に通してはくれないだろうから、ここを破るのと大差ないだろ」
タマキはそう言ってから、壁に右手をつき、それに左手をそえた。
「バースト!」
激しい爆発が起こり、壁が吹き飛ぶと、人が一人通れる程度の穴が開いていた。それから二人はその穴を通って外に出た。
そして振り返ると、二人は感心したようにうなずいた。
「なるほどな、外からだとこう見えるわけか」
「まるでなにもないように見えますね」
「ああ、魔法かなんかかな」
「わかりません。しかし、これだとかなり近くに来たとしてもここにこんなものがあるとは気づけませんよね」
タマキは背後の荒野を見回した。
「そうだな、それにこんな荒野の真ん中じゃ、見つかるってことはほとんどなさそうだ」
「これからどうするんですか?」
「一度ここから離れよう」
「タマキさんの仲間の方を探すんですね」
「そうだ、今の俺だけじゃ勝てないだろうしな」
「でも、この荒野では探すのは大変そうですね」
「ああ」
そうしてタマキは歩き出そうと身体の向きを変えたが、そこで背後から低い音が響いてきた。二人振り向くと、今まで何もないように見えた空間の上のほうに灰色の帽子のようなものが現れていた。
そしてそれが開いていくと、そこから巨大なロボットの姿がせりだしてきた。
「またすごいもんが出てきたな」
タマキはのんきにそう言いながら、ロボットが発進していくのを見ていた。
「あんな兵器は見たことがありません」
「俺も現実では初めてだよ。おお、どんどん出てくるな」
ロボットは次々と出てきて、結局六体が出撃していった。
「とりあえずあれで全部か。さて、あれを追うか、それともここにとどまるかどうか、どっちがいいと思う」
「危険かもしれませんけど、追ったほうがいいと思います」
「そうだな、そうしよう。とにかく、あれが飛んでいった方に行けばいいだろ」
そうして二人は歩き出した。だが、しばらくして、タマキは足を止めて振り返った。
「また別のが来たらしいな、ライト少し下がっててくれ」
「はい」
ライトはタマキの側から離れ、近くの岩に身を隠した。それからしばらくすると、カレン達が遭遇したのと同じ、二体のパワードスーツのようなロボットが現れた。
「対人用の小型ロボットだな」
タマキはそうつぶやくと、右手を右目にあてて、姿を変えた。飛来した二体はタマキに向かって両手の銃を撃つが、タマキは右手の翼でそれを防ぐと、地面を蹴り、交錯する瞬間に一体の片腕ごと腹を抉った。
残った一体はすぐに反転し、タマキに向けて銃撃をしたが、それを右腕で防ぐと、タマキは一直線に突進した。
そしてそのまま右腕でパワードスーツのようなものの腹を貫くと、それを無造作に放り投げた。
「単純な機械だな」
そして元の姿に戻ったタマキに岩から出てきたライトが駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
「あれくらいなら問題はないさ。それより、次が来る前に移動しとくか」
その時、遠くから爆音のようなものが響いてきた。
「さっきのがカレン達と接触したのか、急ぐぞ」
「はい」
二人が歩き出そうとしたが、突然その周囲が暗くなると、その頭上の空にスクリーンが現れた。タマキはそのスクリーンを見上げると、苦笑いを浮かべた。
「またあんたか。よほどこういう仕掛けが好きらしいな」
スクリーンの中の男はそれに首をかしげた。
「おとなしくしていれば少しは生き残れる可能性が高くなるのだがな」
「そうかな。俺はそうは思わない」
「そう思いたいならそうしていればいいだろう。だが、これから始まることは止められはしない」
「お祭りでもやるのを教えてくれるわけか、それは助かるな。で、何を始めるつもりだ? 外から見えない場所で何かこそこそやるだけじゃないよな」
「あれは準備が整うまでの保険だ。だが、これからは違う。世界が変わっていくのを見ているがいい」
そこでスクリーンは消え、周囲は元の明るさに戻った。
「またそれか。たぶん無理だと思うけどな」
タマキがそう言うと同時に、巨大なものが落ちた衝撃が響き、続けて爆発音がした。
「やっと合流だな」
そのつぶやきが終わらないうちに、二人の前に一筋の光が降り立ち、そこから一人の人影が姿を現した。
「タマキさん」
「心配かけたかな」
タマキは目の前のカレンに右手を見せるように上げて、それを軽く振って見せた。
「はい」
それだけ言うと、カレンはタマキの右手を握り、そのままその身体を抱きしめた。タマキもそれに応えてカレンの背中に手をまわした。
二人はしばらくの間そのまま動かなかったが、まもると要一も追いついてくると、どちらからともなく離れた。それからタマキは全員を見回し、軽く笑う。
「これから何か始まるらしいから、とりあえず話は手短に済ますか」




