本当の戦場
「さて、ここが最上階か」
タマキは廊下に立って左右を見回していた。
「それよりタマキさん、まだ魔法は使えるんですか?」
「ああ、それならまだ大丈夫だ。あと二発くらいならなんとかなりそうだな」
「力が増してるんですね」
「そうだな、それでも元からすると誤差の範囲なんだけど、それでも今は助かる。とりあえずこっちから見てみるか」
タマキは自分から見て右に進みだした。ライトもそれに黙ってついていく。ひとまずタマキは一番手近なドアの前で止まり、無造作にそのノブに手をかけた。
「おじゃましますよっと」
ドアを押し開けて中に入ってみると、そこに人の気配は無く、そこそこの広さの中に一人用のテーブルと椅子が並んでいるだけだった。
「なんだ、まるでオフィスみたいだな」
タマキは中に入ると、机に並べられているファイルを手に取って見てみた。
「読めないな、まあこんなところに重要な情報もないか」
タマキはファイルを元に戻すと、室内を見回す。別のファイルを見ていたライトもそれと同じように元に戻した。
「そうですね、ここにあるのは細かいことが書いてあるものだけみたいです」
「それなら次に行くか」
「はい」
二人はその部屋を出るともう一つ奥の部屋に向かった。そこのドアも同じようなものだったが、タマキが手をかけても簡単には動かなかった。
「鍵かな」
タマキは一度手を放すと、勢いをつけて右手でドアを殴りつけた。ドアは勢いよく開き、室内が露になったが、そこにあるのは書棚ばかりだった。
「今度は資料室かなんかか」
「そうみたいですね、役に立つものがないか探して見ます」
「頼む」
ライトが書棚を調べている間、タマキは入口が見える位置で立っていた。しばらくして、ライトは手に持っていた数十冊目の本を戻した。
「ここにも重要なものはなさそうです」
「そうか、こっち側は見たところあと二部屋くらいだな。それにしても人が全然いないんだな」
「僕達が来ることを予期していたのかもしれません」
「それとも今日はちょうど休みだったのか。まあ誰もいないのは都合がいいから問題はないさ」
二人が廊下に出て次の部屋の前に立つと、そこにあるのは今までよりも大きなドアだった。タマキが手をかけると、今度はそれはあっさりと開いた。
室内は今でより広く、椅子と机が並ぶそこは、タマキが受けた印象では教室というものだった。
「ここは特に何もないか」
「そうみたいですね」
「まあ、一応ざっと調べよう」
二人は手分けをしてその部屋を調べたが、特に目立ったものは何も見つからなかった。
「何も見当たりません」
「こっちもだ。次はこの階の反対側だな」
タマキはドアを開けて外に出ようとしたが、その時、突然建物が激しく揺れた。タマキはすぐにライトを支えると、すぐに廊下に出る。そして、廊下の窓から外を見た。
「どういうことだ」
タマキの視線の先、窓の外には何もなかった。しばらくして揺れが小さくなると、ライトは自分で立ち、窓に近づいた。
「建物ごと違う空間に来ているみたいですね」
「移動中かもな。俺達を飛ばすためだけにこんなことをやったのか?」
「いえ、それはないと思います。でも、これで人がいなかったわけがわかりました」
「そうだな、これはお世辞にも上等な乗り物じゃないし」
「でもいったいどこに向かっているのか、それがわかりません」
「向かってるのは違う世界だろうな。多分何かの準備でもできたんだろ」
「もしかすると、いよいよ準備が整ったのかもしれません。それに刻印の力を最大限生かせる状況も」
「全ての世界を一つにしてどうこうするっていうことか。それと、刻印の力っていうのはどういうことだ?」
「刻印が最後の一つになると、力はその最後の一つを持つ人間に集中されるんです」
「なるほど、俺が倒したのだけじゃ足りないから、たぶんカレン達だな」
それからタマキは何もない外に目を凝らした。
「まあ、これの目的地に到着すればわかる話だな?」
「でも、移動した先が本当の本拠地なのは間違いありません」
「ああ、着いてみればわかるから、今はのんびりしておくか」
タマキとライトはこの階の最初の部屋に行って、そこで待つことにした。そして一時間も経った頃、窓の外の景色が変わった。タマキはその景色を見て、思わず感心したように息を吐き出した。
「これは大した都会だな」
その言葉通り、窓から見えるのはタマキからすると現代的なビルと、しっかりと舗装された道路などだった。
「すごいですね、何もかもが大きく見えます」
「そうだな、多分ここは俺の元の世界よりも進んでそうだ」
「そうなんですか」
「ああ、とりあえず外に出てみよう」
二人は階段を下り、玄関ホールに到着した。そしてそこから外を見て、ライトはつぶやく。
「この場所は最初から決まっていたんですね。最初からここにあるべきものとしてこの建物は作られたというのがよくわかります」
「そうだな、不自然な繋ぎ目みたいのもないし、あらかじめここに置くために作ったわけだ。いよいよ隠れる必要がなくなったってところだろうな。それに人がいないのは現地調達するつもりっていうことか」
「そうですね、そうかもしれません」
「まあ、とりあえず外に出てみるか」
そう言ってタマキが玄関のドアを開けようとしたが、それは全く動かなかった。
「おかしいな」
タマキはそう言ってから、さらに力を込めたが、ドアはやはり動かない。そして、いきなりその場の明かりが消え、タマキが振り返ると、テーブルが光っていた。
タマキがそこに近寄ると、テーブルの上に光のスクリーンのようなものが現れた。
「これは?」
ライトがつぶやくと同時に、そのスクリーンには一人の男が映し出された。
「初めて会うな、勇者とやら」
「あなたは、いえ、やはりあなただったんですね」
ライトがそう言うと、スクリーンの中の男はかすかに笑ったように見えた。
「ライトか。お前は役割を見事に果たした。やりすぎというくらいにな」
「ちょっと待て」
そのライトの前にタマキは出た。
「あんたの御託は別にどうでもいいんだけどな、とりあえずここがあんたがやろうとしている中心だっていうことでいいんだろ」
「そうだ。ここから全てが始まる。秩序が全ての世界にもたらされるのだ」
「なるほどな。で、あんたは今どこにいるんだ?」
スクリーン中の男はタマキの問いに両腕を広げた。
「私はいつでも世界を統べる場所にいる」
「なるほどな」
タマキは足を踏み出すと、右腕を机に向けて振り下ろした。机は砕け、スクリーンも消える。
「あいつがこの世界のどっかでふんぞり返ってるのはわかった、それで十分だ」
それからタマキは玄関のドアに近づくと、それを右腕で粉砕し、振り向いた。
「行くぞ。あいつを張り倒してやる」
ライトは少しだけ固まっていたが、すぐにタマキを追って外に出た。




