本拠地突入
タマキとライトは建物の玄関に立っていた。
「けっこう立派だな」
「そうですね、ここまで立派に作ってあるとは思ってませんでした」
ライトの言葉通り、玄関はこの世界のレベルからはかけ離れた造りと豪華さだった。
「いよいよボスと会えるかと思うと楽しみだな」
そう言ってタマキはガラスの扉に近づき、その取っ手をつかんだ。それからタマキはライトの顔を見る。
「行くぞ」
「はい」
扉は軽く開き、二人は玄関ホールに足を踏み入れた。そこは綺麗に整理されていて、大きなソファー、そしてその前には低いテーブルでそこには花、壁には絵が飾られている。
「これはまた、高級感の演出なのか」
「そうみたいです。僕が知っているものとはだいぶ雰囲気が違いますから、中もどうなっているかわかりません」
「じゃあ、ここからは手探りになりそうだな。相手のボスはどこにいるんだろうな」
「以前は最上階でした」
「じゃあ、上から行ってみるか。その前に階段だな」
タマキはとりあえず通路に向かって歩き出した。廊下は広く、天井も高くて明かりも豊富だった。
「廊下も豪華だ。なんでここまでやってるんだろうな」
「わかりません。前の建物は殺風景だったのに。それにこんな内装はこの世界ではありえません」
「なるほどな」
二人が階段に到着すると、タマキは階段を上ろうとしたが、何かを感じたのか、最初の一段に足をかけたところで動きを止めた。
「やっぱり地下から行ってみるか。近いからな」
タマキは上りの階段にかけていた足を下ろした。ライトはそれに疑問を感じたようだったが何も言わない。そしてタマキは地下に続く階段を下り始めた。
階段は思ったよりも長く、地下一階というよりも二階というくらいまで続いていた。階段を降りきると、大きく重そうな金属の扉が現れ、タマキはその前に立った。
「さて、この先はなんだと思う?」
「わかりません。でもこの扉の大きさからすると、中もかなり広そうですよ」
「そうだな、まあとりあえず中に入ってみるか」
タマキは重い扉を両手でゆっくりと押し開けた。
「おお、広いな」
タマキがもらした言葉通り、そこは体育館のような場所と広さで、多くの照明で非常に明るかった。そしてその中心には一人の男が立っていた。
「久しぶりだな」
タマキはその男、トレルに気安い雰囲気で声をかけた。
「待っていたぞ。お前と思う存分決着をつけられる、この時をな」
「そうか、まあ俺もお前とならそんな悪い気もしないな。ライト、下がっててくれ」
ライトは黙ってうなずくと、扉の側に立った。タマキはそのまま進んでいき、トレルの数歩先で止まる。
「さて、最初に聞いておくけど、お前は今十二使徒としてそこに立ってるのか?」
「そんなことはついでだ。俺がやるのはお前を叩きのめしてやること、それだけだ」
「まあ、悪くはないな」
タマキは右腕を構えた。トレルも姿勢を低くして、二人は睨み合った。それから徐々にその場の空気が緊迫していき、それが最高潮に達した時、二人は同時に床を蹴った。
二人の右の拳が激突し、衝撃がその場を揺るがした。そこから二人は後ろに飛び退き、もう一度対峙した。
「前よりもずっと力が増しているじゃないかよ」
「それはお互い様だろうな。お前は他の連中とは違うみたいだ」
「俺をあんな連中と一緒にするな」
「ああ、そうだよな」
それから、今度は真っ直ぐではなく、二人は高く跳び上がると空中で交差した。そして位置を入れ替え、二人はすぐに振り向く。その額からは双方ともに血を流している。
今度はそこからすぐにタマキが床を蹴ってトレルに迫る。その右拳はかわされたが、タマキは間髪入れずにその勢いを利用して後ろ回し蹴りを放つ。
その蹴りはトレルが後ろに下がってすかすと、そこから飛んで片足を真っ直ぐ伸ばした。タマキは右手でその足を受け止める。そしてそのままトレルの身体を振り回し、放り投げた。
だが、トレルは空中で体勢を立て直し足から勢いよく着地すると、手と膝をついてその勢いを殺した。そしてタマキが追撃をしてこないのを確認すると、ゆっくり立ち上がり、笑った。
「ここまでとは思ってなかったぜ、楽しいじゃないか」
「全力じゃないにしてもな。まあ、そろそろ本番だ」
タマキは右手を右目にあてた。そこから金色の膜が顔の半分に広がり覆う。さらに肩の付け根まで黄金の腕が広がり、それは背中にも達した。そしてタマキが右腕を振ると、そこには蝙蝠の翼のような形の黄金の翼が広がっていた。
「さて、俺は準備完了だ。お前もその刻印を使ったらどうだ」
「そうしてやる」
トレルは手の刻印を光らせた。その輝きは今までのものよりもずっと強い。タマキはそれに感心したような表情を浮かべた。
「なるほど、だいぶ特訓でもしたらしいな。なんだか嬉しい話じゃないか」
タマキは右手を鉤爪に変化させてから、それでトレルに向かって手招きをした。
「行くぞお!」
床を蹴ったトレルは今までとは段違いの勢いでタマキに迫り、その直前で腕を振った。大きな爆発が起こったが、タマキは反射的に右手の翼で自らを守った。
トレルはそこから上に跳ぶ。だが爆煙の中からタマキが飛び出し、一撃を加えようとした。トレルはそれに対して足を振ったが、タマキはそれを右腕で受け、左手で逆の足をつかもうとした。
しかし、トレルは自分の目の前で爆発を起こすと、その衝撃で回避をして離れた位置に着地する。そこにわずかに遅れて着地したタマキが床を蹴って迫った。
トレルは大振りの右手を身をかがめてかわし、足払いをしかけた。タマキはそれをバックステップしてかわすと、右手を前方に突き出し、左手をそれにそえた。トレルもそれに応じるように低い体勢のまま、タマキと同じように構える。
「バースト!」
「食らえ!」
二人の声が同時に響くと、双方の右手から凄まじい勢いの爆発が起こった。その爆煙は地下室に充満し、二人の姿を覆い隠す。
ライトは身をかがめていたが、しばらくして顔を上げると、まだ視界の悪い中でなんとかタマキの姿を見つけようとした。
数十秒後、徐々に煙が薄くなってくると、二人のシルエットがおぼろげに見えてくる。そして、そのうちの一つがその場に倒れた。
「お前はよくやったよ。まあ、やっぱり経験の差ってやつだな」
タマキはその場に膝をつくと、倒れたトレルに優しいと言える調子で語りかけた。それからその刻印がある手を取ると、鉤爪でそれを消した。
「まあ、これで終わりじゃない。お前はまだ強くなれるだろうよ」
タマキはトレルの手を床にゆっくりと置き、立ち上がり、ライトのほうに振り返った。
「ここは済んだ。上に行くとするか」
「はい」
タマキとライトはその地下室を後にした。




