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開いた翼

 時間は夕方より少し前、タマキとライトは五階建て程度のマンションのような建物が見える位置に到着していた。


「ここか。脱出してきた場所と似てるな」

「はい、場所は違いますけど、構造は大体一緒です。以前はあちらが本拠地だったんですけど、今はもうここに移転しているはずです」

「まあ、引越のどさくさで脱出してきたわけか」

「そうです。実は僕もあの建物のことはわかってないんですが」

「何があるかはよくわからないか。それなら、ライト、お前はここで待ってたほうがいいかもな」

「いいえ、僕も一緒に行きます」


 タマキはそう言ったライトの目を見てから、うなずいた。


「わかった、そういうことなら一緒に行くぞ」


 そして二人は建物に近づき始めた。


 その頃、建物の近くには二人の女の姿があった。一人は長身で髪が短く、もう一人は中肉中背で髪を縛っている。


「あいつらはしくじったみたいだな、どうする?」

「黙っていればここに来るんだから、待っていればいいんじゃないの」

「罠くらい用意しないのか?」

「やりたいならやればいいんじゃないの、まあ強い相手らしいから」

「そんなことはしない。お前がしっかり援護すれば問題はないだろ」

「そうなればいいよな」


 髪を縛っている女は投げやりな感じで言うと、頭をかいた。そして、タマキとライトの姿が見えてくると、一歩後ろに下がった。反対に長身の女は一歩前に出る。


「よく来たな。私は十二使徒の一人、レラザリンだ」

「やっぱり待ち構えてる奴がいたか。それでそっちの後ろは自己紹介なしか?」


 タマキがそう言うと、髪を縛っている女は面倒くさそうに首を横に振ってから口を開く。


「キャーサ、一応十二使徒だけど、直接戦闘向きじゃないからよろしく」

「そうか、じゃあ直接戦うのはそっちのレラザリンってあんただな」

「援護はするんだぞ」

「了解」


 キャーサはやる気がなさそうだったが、一応はうなずいた。タマキは特に構えも見せずにそのやりとりを見ていたが、あまりやる気は感じられなかった。


「正直言って、もうお前達じゃ俺には勝てないし、お互い無駄に傷つく必要もないだろ。刻印だけ消させてもらえば、それだけで済ませるけどな」


 レラザリンはそのタマキの言った内容に眉を吊り上げた。


「自信があるらしいが、そんなことが受け入れられると思っているのか」

「どっちも得だと思うけどな。まあ、そうしたくなったらいつでも言ってくれ」


 タマキは右腕を鉤爪に変化させた。レラザリンは腕を突き出すと、そこから一筋の強烈な光線を放つ。だが、タマキはそれを右腕で防ぐと、そのまま前方に走り出した。


 そして、タマキはそのまま跳び上がってレラザリンに一撃を加えようとしたが、それは見えない壁に阻まれ、タマキはすぐにそれを蹴って後ろに飛び退いた。


「あっちのもう一人か」


 そうつぶやいたタマキに、レラザリンの光線が飛んだ。それは右腕で防いだが、衝撃で飛ばされる。そのまま地面に叩きつけられ、土煙でタマキの姿が隠れたが、直後、その中から無数の雷の矢が放たれた。


「キャーサ!」

「わかってるよ!」


 今度はわずかに青味がかった障壁が形成され、その雷の矢を受けた。だが、そこにタマキが突進し、右腕を振るうと障壁は砕け散った。タマキはそのままレラザリンに迫る。だが、直前で方向転換すると、キャーサに向かった。


「悪いが、あんたからだ」


 タマキはキャーサをつかもうとしたが、その横からのレラザリンの放った太めの光線でタマキの身体は吹き飛ばされた。


「危ない危ない」

「油断をするな」


 レラザリンはキャーサとタマキの間に立った。その視線の先でタマキはゆっくりと立ち上がると、服についた汚れをはたき落とした。


「思ったよりやっかいだけど、それだけだな。まだ続けるなら、ここからはさっき思いついた、ちょっと変わったものを試させてもらうことになるぞ」

「何を言っている」

「まあ、見たほうが早いな」


 タマキは右手で右目を押さえた。すると、そこから顔の半分に急速に薄く金色の膜が広がっていき、さらに右腕の形も変わっていく。


「げっ、あれって」


 キャーサはタマキの変貌に思わず一歩後ろに下がる。レラザリンはそこに光線を放つが、それはタマキの目の前で四散してしまう。


「どういうことだ」


 声を絞り出したレラザリンの前でタマキの変貌は続いた。


 顔の金色の膜は、色濃くなりその半分とほぼ同化している。さらに、右腕は肩の付け根、背面は腰のあたりまで金色になって、そこから蝙蝠の翼のような形のものが一気に生成された。


「右半分だけっていうのは、どうもバランスが悪いかもな」


 右の瞳まで金色の膜で覆われているという異相のタマキは、なんの不自由もない様子で、その眼で自分の右腕を確認した。それからレラザリンとキャーサをその不気味な瞳で見る。


「さて、これでもまだやりあいたいか?」


 キャーサはそれにたいして後ずさった。


「こいつはやばいんじゃないの。こけおどしじゃない」


 だが、レラザリンは退かない。


「戦いもしないでなにがわかる!」


 そしてレラザリンは掌の刻印を輝かせ、今までよりもさらに収束させた光線を放った。それはタマキを直撃したが、光が収まると右腕の翼で身体を覆ったタマキはまったくの無傷だった。


「これでわかったか?」


 タマキの声は直接頭に伝わってくるような響きを持っていた。レラザリンは頭を手で押さえたが、もう一度タマキに向けて光線を放つ。しかし、タマキは地面を蹴ると、その光線を右腕で受けながら、今までよりはるかに勢いよくレラザリンにむけて突進した。


 その目の前に障壁が現れるが、ほぼ抵抗なくそれは破られ、そのままタマキはレラザリンの目の前まで到達する。


「悪いな」


 タマキは強烈な膝をレラザリンの腹にくらわせ、それが崩れ落ちるのを確認すると、キャーサに視線を向けた。


「降参」


 キャーサはすでに両手を上げて抵抗する気はないようだった。


「じゃあ、お前達の刻印を消させてもらうか」


 タマキはまずレラザリンの手をつかんでその掌の刻印を右手で消した。それからキャーサに近づくと、キャーサは自分のすねにある刻印を黙って出した。


「あんまり傷はつけないでもらえるとうれしいけど」

「それなら心配いらない」


 タマキは右手で軽く刻印をなでるようにしてそれを消した。キャーサは力が抜けたようにその場に座り込むとため息をつく。


「やっと開放された。これでゆっくり休める」

「そうなのか。それはそうとして、案内をしてもらうのはできるか?」

「それは勘弁。それに案内ならそっちにいるじゃないか」


 キャーサは近くに来ていたライトを指差した。


「本気を出していませんでしたね」


 ライトがそう言うとキャーサは首を横に振った。


「さあね。まあ、あんたの目的が達成できるといいんじゃないか」

「ありがとうございます。キャーサさんも早くここから離れたほうがいいですよ」


 そしてタマキとライトは建物に向けて歩き出した。

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