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遠出

 タマキが目を覚ますと、まだ外は薄暗いようで、ライトも眠っていた。それを起こさないようにゆっくりと歩いて外に出ると、タマキは自分の右腕を引っ張ったり回したりした。


「やっぱり、なにか変わったな。お前を通して魔法を撃ったせいか」


 そして右腕に語りかけるようにしてから、それが軽く振動したのを確かめた。それだけでタマキには何かが伝わったようで、軽くうなずいた。


「まあ今はお前が頼りだ。戦いはまだ続くからな。もっと違う形も考える必要もあるか」


 それからタマキ少し体をほぐして屋内に戻った。それでライトは目を覚まし、起き上がった。


「タマキさん、起きてたんですか」

「まあな、ちょっとこいつと会話をしてたんだ」


 タマキは右腕を顔の横まで持ち上げた。


「僕の知らない力がまだまだありそうですね。進化して、新しいものになっているとしか考えられません」

「新しいものか、まあ俺にも予想がつかないよ。こいつには自分の意思もあるんだからな」

「ところで、怪我はもう大丈夫ですか?」

「少し痛むくらいだな、動くには問題ない。まあとりあえず朝食にするか」

「はい」


 二人で朝食の準備をしてから、手早くそれを済ませた。


「今日はどうするんですか?」

「まあなんとかなりそうだから、早めに十二使徒の連中を片づけていきたいところだな。どうせなら本拠地に殴りこむか」

「それは危険ですよ」

「待ってても似たようなもんじゃないのか。様子を見る意味でも、軽く行っておきたいな」

「わかりました、この町からは少し離れていますけど、案内します」

「なら、弁当でも持って出かけるか」


 それから数十分後、二人は水と昼食を持って町を出ていた。一応道があり、田畑があるのが見える。


「ここは基本的には危険はあんまりなさそうだよな」

「はい、獰猛な獣はいませんし、気候もいいので、今の島民の数くらいなら生活に困ることはほとんどありません」

「問題はあの十二使徒連中か」

「そうです」

「そういうことなら、宿賃変わりになんとかしてもいいかもな」


 そして昼、二人は道の側に座って持ってきたサンドイッチを食べていた。


「あとどれくらいで着くんだ?」

「もう少しです」

「伏せろ!」


 タマキは手に持っていたサンドイッチを投げ捨て、いきなりライトに覆いかぶさった。次の瞬間、その上を何かがものすごい勢いで通過していった。


 タマキがライトを背後にまわしながら立ち上がって顔を上げると、そこには一人の男が背中を見せて立っていた。


「お出ましだな。自己紹介はないのか」

「ガニルだ」


 そしてその男は再び瞬時に移動し、タマキを蹴り飛ばした。その一撃はなんとか腕で防いだが、タマキの身体は弾き飛ばされた。だが、タマキはすぐに体勢を立て直し、膝をついて顔を上げる。


「加速か」


 そうつぶやいたところに、さらにもう一撃が来てタマキは再び転がされた。そして今度は立ち上がる隙をあたえないように、ガニルは続けて攻撃をしかけた。


「タマキさん!」


 ライトは叫んだが、攻撃を受ける中でもタマキが徐々に体勢を立て直しているのに気がついた。そして数秒後、タマキはガニルの攻撃を右腕で受け止めていた。


「ほらよ!」


 タマキは左腕でガニルを殴ろうとしたが、その一撃は素早いバックステップでかわされる。


「俺の動きを見切ったとでも言うのか」


 ガニルは無表情でつぶやいた。タマキはそれにたいして笑ってみせる。


「そんな大したことじゃない。まあこのほうがお前だって面白いだろ」


 そしてタマキが手招きをすると、ガニルは再び加速した。だが、タマキは瞬時に右手を鉤

爪にするとそれを軽く横に払った。


 一筋の血が飛び、ガニルの腕が切れていた。ガニルはその傷を見ると、明らかに苛ついたようだった。


「まだ速度が足りないようだな」


 ガニルの腕の刻印が光り、その姿が消えた。しかし次の瞬間、その首はタマキの右腕でつかまれていた


「足りないのは速度じゃなかったみたいだな」


 そしてタマキは左手を構えたが、それは一つの声で止められた。


「動くな」


 タマキが首を動かして後ろを見ると、そこにはライトをつかまえ、氷の短剣を突きつけているスレドがいた。


「あんたか、一体何のつもりだ?」


 タマキは落ち着いた様子で口を開く。その落ち着きように、スレドのほうが若干ひるんだ様子を見せる。


「その手を放せと言っているんだ!」


 だが、タマキは手を放さず、身体の向きを変えて正面から向かい合っただけだった。


「手を放さなかったらどうなるか、説明してみてくれないか」

「この状況を見ればわかるはずだ」

「そうだな、普通ならライトを人質にとって、一歩でも動いたら命はないぞってあたりか。でもな!」


 タマキはガニルを放り投げると同時に、左手をスレドに向けた。


「アイスバイト!」


 放たれた氷の牙がスレドの肩を抉り、短剣とライトを手放させた。そしてタマキは地面を蹴ってそれに近づくと、そのままの勢いでスレドの顎に膝蹴りを炸裂させた。


 それからすぐに右手を後方に伸ばし、突っ込んできていたガニルの腕をつかんだ。


「これで一石二鳥だな!」


 そのままガニルの身体をスレドの上に叩きつけた。その二人がほぼ同時に息を勢いよく吐き出し、動きを止めた。


「さて、とりあえずは」


 タマキはガニルとスレドを並べると、鉤爪でその二人の刻印をすぐに消した。それからライトに手を貸して立ち上がらせる。


「油断して悪かった、大丈夫だったか」

「大丈夫です」

「まあでも、やっぱりこいつらはお前には手が出せないみたいだったな。お前もそれはわかってたんだろ」

「はい、タマキさんはわかってたんですね」

「お前は落ち着いてたし、このおっさんも迫力がなかったしな。まあそれはいいさ、今は事情も話さなくていい。それより、これで十二使徒のうち三人は倒せたから、このペースなら心配はないよな」

「それはそうですけど、でも、タマキさんはさっき攻撃を受けてましたよね」

「あれくらいなら大丈夫だ。なんかどんどん頑丈になっていく感じでな、回復もかなり早くなってきてるんだよ。たぶんこいつのおかげだ」


 タマキが右腕を軽く叩くと、ライトもそれを見た。


「でも、過信はよくないと思います」

「大丈夫、自分の力一応わかってるつもりだからな。それより、休みが中断したから、もう少し先に行ってからもう一度休むか」


 それからタマキは倒れている二人をチラッと見てから、行く先に視線を向けた。


「まあそっちの二人は転がしておけば問題ないだろ。昼飯が無駄になったのはもったいなかったな」


 そして二人は再び歩き出した。

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