四つ目の世界の罠
「これが四つ目の世界ですね」
カレンが周囲を見渡すと、そこには廃墟が広がっていた。石造りの家はどれもまともな形は残っていなくて、苔が生え、石畳の道も生えてきた植物で滅茶苦茶になっている。
「なんだか荒れ果ててますね」
まもるは崩れた石垣らしいものを触っている。
「人影どころか、生活の痕跡もないですね、なんなんでしょうここ」
要一も周囲を見回してつぶやいた。カレンはそれにうなずきながら足を動かし始める。
「この荒れようは少し異様に見えますね。ただ時間が経過して荒れたという様子よりも、その前に派手に荒らされたという雰囲気があります。前回のエドルという使徒を名乗る男の力はまだわかっていませんし、用心は必要ですね」
「あの男の能力が何か生物を操る力だとしたら、この世界にもあの竜みたいなのがいるかもしれないってことですかね」
まもるがそう言うと、カレンはうなずいた。
「そうです。ああいったものが出てくると少々やっかいですから」
それから三人は荒れた道なりに進んでいくことにした。そして数時間後、三人はまた別の廃墟に到着していた。
「ここも同じですか」
「一体何があったんですかね。要一君、次の世界へ通じる場所はわかんないの?」
「まだわからないですけど」
「それじゃあ、また空から見てきてほうがいいか」
まもるはバックルを取り出したが、カレンはそれを止めた。
「なにがあるかわかりませんから、うかつに動かないほうがいいかもしれません」
「大丈夫ですよ、ちょっと見てくるだけですから。変身!」
さっさと変身したまもるは上空に飛び上がっていった。
「大丈夫ですかね」
「すぐに援護できるようにしておきましょう」
カレンと要一は空を見上げながら、その場にとどまっていた。それから数分後、まもるは何事もなく降りてきた。
「特に変わったものは見当たりませんでしたよ」
「そうですか、いや」
カレンは何かを感じたようで、最初の廃墟のほうに顔を向けた。
「どうしたんですか?」
「いえ、今何かがいたような気配がしたんですが、すぐに消えてしまいました」
「じゃあ、あっちに何かがいるってことですね」
まもるはまた飛ぼうとしたが、今度はカレンがその肩に手をかけて止めた。
「いいえ、しばらくはここにとどまって周囲を調べることにしましょう」
「わかりました」
まもるはうなずいて変身を解除した。
「でも、調べると言ってもどこから手をつけるんですか?」
「廃墟をもっとよく調べてみましょう。さっきの気配も気になりますからね」
「それなら、私はあっちのほうから調べます」
「お願いします。何があるかわかりませんからあまり遠くには行かないようにして、注意してください」
「はい」
まもるは指差した方に走っていった。要一はそれを見送ってからカレンのことを見る。
「俺はどうすればいいんですか」
「ヨウイチさんはここで待っていてください。何かあったら呼んでいただければすぐに戻ります」
「わかりました」
カレンはゆっくりその場から離れていった。それを見送った要一はとりあえずその場に座って周囲を見回す。
要一の目では廃墟はただの廃墟で特に変わった様子はない。そのまま時間は経過していったが、気がつくといつのまにか霧が出てきているようだった。
要一はそれを妙に思ったが、特に気にしなかった。しかし、霧はあっという間に濃くなり、要一に絡み付いてくる。
「これは?」
疑問に思うと同時に要一の周囲の霧が黒くなり、それが異常な重さでのしかかってきた。
「うわっと! なんだよこれ!」
要一はなんとか立ち上がろうとしたが、身体にまとわりつく黒い霧に足元をすくわれてその場に倒れてしまった。そしてその黒い霧はさらに重さを増してくる。
だが、いきなり光がその場で炸裂すると、その重さがなくなった。周囲の霧もあっという間に引いていく。
「大丈夫ですか」
白銀の輝きを放つカレンが要一の側に駆け寄り、立ち上がるのに手を貸した。
「ありがとうございます。あれは一体」
「わかりません。今はマモルさんが心配ですからすぐに合流しましょう」
「はい」
二人は薄い霧の中をまもるがいるはずの方向に走りだした。
「ちっ!」
その頃まもるも霧に囲まれていて、ブレードを振り回していた。だが、いくら切っても黒い霧は徐々にまもるに迫ってくる。
「まったく、霧だけにキリがないってやつ?」
ぼやきながらブレードを振るうがやはり効果は見られず、まもるは徐々に追い詰められていく。だが、頭上から落ちてきた光がその霧を吹き飛ばした。
「カレンさん!」
「無事だったようですね」
空から落ちてきたカレンに続いて、鉄槌をかついだ要一も到着した。
「まもるさんのほうにも出てきてたんですね」
「ほうにも、ってことは要一君のところにもあの変な霧が?」
「そうです、カレンさんに助けてもらったんですよ」
「なるほど」
まもるはそう言ってから自分の手の中のブレードを見た。
「やっぱりカレンさんみたいにはいかないか。でも、あれは何なんでしょう」
「わかりません。しかし、あれがこの廃墟の原因かもしれませんね」
それからカレンは霧の濃い空の一点を見上げた。
「先ほど感じた気配が今はここの上空にあります。恐らくあの霧はその何かが操っているのだと思いますが」
「でも、何も見えませんよ」
「はい、気配はあっても正確な場所はわかりません。近づく必要がありますが、あの霧にも対処しなくてはいけませんから」
カレンには迷いが見えたが、そこでまもるが一歩踏み出した。
「それなら私が見てきます。カレンさんは要一君をお願いします」
「わかりました。くれぐれも気をつけてください」
「任せてください! フルドライブモード!」
まもるはあっという間にそこから飛び立って行った。それを見送ったカレンと要一だったが、すぐにその周囲に黒い霧が現れた。カレンは白銀に輝くショートソードを構える。
「ヨウイチさん、とにかくあの霧につかまらないように注意してください」
「わかりました」
要一も鉄槌を構えたが、そこに小さなナイフが飛来し、カレンに落とされた。
「お前達の相手はそれだけじゃないぞ」
声の方向には宙に浮いたエドルがいた。
「あなたは確かエドルと言いましたか。これはちょうどいいですね」
「言ってくれるじゃないか。まあいい、こいつならお前達でも簡単には倒せないだろうからな」
「どうですかね、ここに姿を現したことを後悔することになりますよ」
カレンの剣と瞳の輝きが増した。




