氷と土の使徒
「タマキさん!」
「心配するなよ、ライト」
タマキはそれだけ言い返したが、状況が厳しいのは変わらない。そして、そこに氷の矢と土のつぶてが飛来した。
タマキは氷の矢を右腕で払い、土のつぶてにはかまわずにそのまま突進した。つぶてでタマキの身体に傷が出来るが、それではその勢いは殺せずに、タマキは屋根のふちで踏み切ってラスレシアに向かって跳んだ。
だが、ラスレシアは隆起させていた地面を引っ込めてそれをすかした。タマキは空中で姿勢を建て直しそのまま地面に着地する。
そこに屋上から跳んだスレドがその背後からハルバードを振り下ろした。だが、タマキはそれが見えているかのように前転をしてかわすと、すぐに立ち上がると同時に振り向いた。
その目の前にはハルバードの先端が迫っていたが、タマキはそれを首を動かしてかわすと、その柄をつかんでスレドを引き込もうとした。しかしすでにスレドは手を放していて、タマキはハルバードだけを引き込むことになる。
そこにラスレシアが放った土の塊が直撃し、タマキはの身体は吹き飛ばされた。さらに、そこにつぶてが集中する。次の瞬間、そのつぶては雷光と共に一斉に砕けた。
「こんな使い方もできるんだな」
タマキは突き出した右手首に左手を当てて構えていた。右手の指先はまだ雷をまとっている。
「なんだ?」
スレドは思わず動きを止めてタマキを凝視した。一方、ラスレシアはそれにかまわずに足を進める。
「待て!」
スレドはそれを止めようとしたが、ラスレシアはそれを無視して膝の刻印を光らせ歩きながら、自分の周囲に無数の土の塊を浮かび上がらせた。
「もう一発! ライトニングボルト!」
タマキの左手から雷が発すると、それが右手を伝う。そして。
「うがあああああああああ!」
右手から増幅拡散した雷がラスレシアの身体を貫いていた。そのままラスレシアは白目をむいてその場に崩れ落ちた。
「ちっ、待てと言っただろうに」
スレドは悪態をついて、警戒するように後ろに下がった。タマキはそれから目をそらさずにゆっくりと立ち上がる。
「あとはお前だけだな。どうする、逃げてもいいんだぞ」
「そうはいかないな。そこの馬鹿も拾って戻らないといけないんだ」
「逃げといたほうがいいと思うけどな。まあ宮仕えの悲しさってやつか」
タマキは右手を鉤爪に変化させ、それを構えた。
「そんなものまで使えるのか」
スレドもハルバードを出して構える。そして二人はほぼ同時に地面を蹴った。タマキは振り下ろされたハルバードを鉤爪でつかみ、それを砕くと同時に左手を突き出した。だが、それはスレドに到達する前にかわされる。
「甘いぞ!」
スレドはハルバードを放すと、その腕をつかんでそのまま投げようとするが、タマキは投げられるよりも先に地面を蹴ってつかまれた腕を放させ、強引に着地してみせた。
「なぜそこまで動ける」
「なんでだろうな、俺にもよくわからないけど、どうも負ける気がしない」
タマキは鉤爪を動かし音を立てるとにやりと笑った。それを見たスレドは今度は両手に氷の短剣を出現させる。
「ここで止める必要がありそうだな」
「評価をどうも。でも、それは無理だな」
タマキはそう言ってから右手首に左手を当てて構えた。
「ファイアボール!」
声と同時に右手の鉤爪の五本の指先から小さな無数の火の玉が激しくばら撒かれた。その火の玉はスレドに迫り、防ぐ間を与えずにその周囲で炸裂した。
その瞬間にはタマキはすでに地面を蹴っていて、炸裂が終わると同時に右手をスレドがいた場所に突き出す。そして、鉤爪からは確実に肉を裂いた感覚が伝わってきた。
「ぐっ!」
スレドは血とうめき声を上げながらも、なんとかその一撃が致命傷になるのはまぬがれていた。しかし、右肩は大きく抉れて大量の血が流れている。
さらにそこにタマキがもう一撃与えようとしたが、スレドはなりふりかまわずに大きく飛び退き距離をとった。
「完璧には決められなかったか。でもまあ、その傷じゃもう戦えないよな」
スレドは右肩を押さえ、肩で息をしながらその場に膝をついた。
「どうやらお前を止めるのは次の機会になりそうだな」
「次があるかな?」
タマキはもう一度右手を構えたが、それより早くスレドは立ち上がって、背中を見せてその場から逃げ去った。それを見送り周囲に他に敵がいないのを確認してから、タマキはその場に座り込んだ。
「大丈夫ですか!」
すぐにライトが駆け寄ってきた。タマキはそれに笑顔で手を振る。
「まあ、死にはしないさ。でもまあ、もう魔法は撃てなかったし、最後のはったりが効いて助かったけどな」
それからタマキはゆっくり立ち上がり、ラスレシアに近づいていく。
「とりあえず、こいつの刻印を消しておくか」
タマキはラスレシアの膝を右手の鉤爪でなぞるように切って刻印を消した。
「これでこいつは放っておけばいいな。でも、ちょっと休んでいくか」
タマキは右手を元に戻してからそこを離れ、てきとうに倉庫の壁にもたれかかった。そのシャツは胸からの出血で赤く染まっている。
「じっとしていてください」
ライトはそのタマキのシャツを脱がせると、傷の様子をしばらく確認してから顔を上げた。
「出血はそれなりにありますけど、傷は思ったよりも浅いですね。でも打撲がひどそうですよ」
「まあ、けっこう色々くらったしな。体中痛んでるよ」
「とにかく、ここじゃ手当てもできませんから、早く戻りましょう」
ライトはタマキに肩を貸して歩き始める。
「悪いな」
「いいえ、僕のほうこそタマキさんだけに戦わせてしまって」
「気にするなよ、俺が勝手にやってるみたいなもんだ」
「でも、この町の人達はそうは思わないですよ。タマキさんの戦いは希望になるんです」
「そういうもんか? まあ、食い物持ってきてくれるんならそれもいいかもな。野次馬もいたみたいだし」
「気づいてたんですね」
「ああ、もういないみたいだけどな。無茶をしないなら別にかまわないさ」
二人はそれからゆっくりと家に戻っていった。
それからしばらくして、倒れているラスレシアの近くに近寄る人影があった。
「ふん、でかい口をたたいてたわりにはざまあないな」
その人影、トレルはラスレシアを肩に担いで、戦闘の跡を見回した。
「あいつを倒すのは俺だ。他の連中なんかにやらせるかよ」




