挑戦状
「おはよう、ライト」
タマキは床に敷いたマットから起き上がり、食事の用意をしているライトに声をかけた。
「おはようございます、タマキさん」
「お、今日はパンとハムもあるのか」
テーブルの上に並べられているものを見てタマキは声を上げる。
「はい、昨日タマキさんが助けた人たちが持ってきてくれたんです」
「へえ、それは儲けもんだな」
そこにライトがスクランブルエッグを持ってきた。
「じゃあ、いただきますと」
タマキはパンにハムとスクランブルエッグを乗せてかじった。そうして朝食を終えて食器を片付けるとタマキは勢いよく立ち上がった。
「さて、出かけるか」
「はい、行きましょう」
そしてタマキがドアを開けると、そこに挟まっていたらしい紙が落ちた。
「これは」
タマキはそれを拾って広げる。そこには地図のようなものだけが描かれていた。ライトはそれを覗き込んだ。
「この町の地図みたいですね。この印の場所に来いということでしょうか」
「挑戦状、かもな。とりあえず行ってみればわかるか」
「大丈夫ですか?」
「まあ、なんとかできるだろ」
二人が出かけてみると、朝の町は比較的活気があった。
「今日はなんだか雰囲気が違う気がするな」
「タマキさんのことが噂で伝わっているのかもしれません。この町にあった重石がなくなるかもしれないんですから、明るくもなります」
「よほど追い込まれてたんだな。何にでも期待したい感じか」
「そうかもしれません。でも、ずっと希望なんてなかったんです」
「希望か。それより、その地図の場所はあとどのくらいだ」
「まだ少しかかりますね、町のはずれのほうですから」
「そうか」
そうして歩く二人だったが、町の住人達はそれに陰から注目し、何人かは後についていった。タマキはそれに気がついていたが、特になにをすることもなく、放っておいた。
そしてタマキとライトの二人は地図に示された場所の近くに到着していた。そこはほとんど民家が見当たらず、倉庫のようなものしかなかった。
「このあたりか」
「はい。地図にはここまでしか載ってませんね」
「それなら、後は足で探すしかないのか」
「その必要はない」
上から声が聞こえてきて、タマキとライトはその方向を見た。そこ、倉庫の屋根の上には中年の男、スレドの姿があった。
「あんたか。違う奴かと思ってたんだけどな、スレド」
「覚えておいていてくれて光栄だ」
「まあ、俺はけっこうまめなんだよ。それで、何の用だ? 挨拶か?」
スレドはこめかみのあたりをかいた。
「おとなしくしていれば手は出さないと言ったが、おとなしくしていなかったらしいな」
「そうだったかな。別に覚えはないんだけど」
「とぼけたことを」
「それで、どうするんだ」
「今のお前の力に興味がある。あのできそこないを倒した力にな」
「俺はあんたにはそんなに興味はない。まあでも、相手ならしてやるよ」
「安い挑発だ。だがまあいい」
スレドが手を振ると、そこに氷の槍が出現した。タマキはそれを見て感心したような表情を浮かべる。
「前の二人とは違うな。ライト、下がってろ」
「はい」
ライトはすぐに近くの倉庫の陰に隠れた。スレドはそれを見送ってから氷の槍を構え、屋根から跳んだ。そして空中でその槍を振るうとそこから鋭い氷のつぶてが飛ぶ。タマキはそのつぶてを右腕で払ったが、そこにスレドが氷の槍を叩きつけてきた。だが、タマキはそれを身体をひねってかわした。
だが、スレドはさらに着地と同時にその槍を跳ね上げる。タマキはそれを身をかがめてかわそうとしたが、かわしきれずに頭部をかすった。血が飛び散るが、タマキは槍を受けた衝撃のまま地面を転がってそこから距離をとった。
「前よりも動きがいいな」
スレドは槍を構えなおして口を開く。
「慣らす機会はお前達からもらってるからな」
タマキはこめかみのあたりから流れる血を手で拭った。そしてそれから右腕を前に突き出して構える。
「本番はこれからだろ」
「どうかな」
スレドも氷の槍を構えた。二人はその状態で数秒間、睨み合い、ほぼ同時に動いた。
次の瞬間には氷の槍と黄金の拳が激突した。スレドはそこで右手を槍から放すと、その右手に氷の短剣を精製した。その短剣はタマキに向かって突き出される。
だが、タマキの左手は瞬時に氷で包まれ、その短剣を受け止めていた。スレドはすぐに後ろにステップしながら、短剣をタマキに投げつける。タマキはそれを右手でつかむと、そのまま握り潰した。
「ここまでやるか。それならば」
スレドの背中に刻印が浮かび上がり、手に持つ氷の槍の先端に斧のよう形状が足され、ハルバードのようになった。そしてスレドは今までの数倍の速さで宙に舞う。そのまま空から強烈な一撃をタマキに振り下ろした。
タマキはそれは受け止めようとせずに、横に跳んでかわしたが、その一撃の衝撃波で体勢が崩れた。その隙にスレドはさらに地面を蹴ってタマキを追い、ハルバードを叩きつける。
タマキはそれをなんとか右腕で受けたが、衝撃は殺せずにそのまま倉庫に激突した。そこにスレドは突進したが、土煙の中からタマキは上に飛びだしてそれをかわし、倉庫の屋根まで到達していた。
しかし、間髪いれずにスレドも屋根より高く跳び上がると、ハルバードをタマキに投げつけた。それはタマキの胸に一直線に進み、突き刺さった。だが、タマキはその衝撃で後ろに押されながらも、なんとかそれを右手でつかんで深手を負うのはまぬがれた。
「ほう、やるな」
屋根に着地したスレドはタマキを見ながら笑う。タマキはハルバードを抜くと、それを投げ捨てた。
「ちょっと危なかったけどな」
タマキのシャツには血が滲み、頭部の傷からも再び出血していた。それでもまだタマキはしっかりと立っている。スレドはそれに動じることなく、再びハルバードを手の中に出現させた。
それと同時に上空にいきなり土の塊が出現し、タマキに向かってきた。タマキはそれを無言で右腕で粉砕する。
「また新しい奴か」
「なるほど、これほどの実力でしたか」
その声と同時に轟音が響いて地面が隆起した。その先端には一人の女が立っている。スレドはそれに目を向けてため息をついた。
「何をしていた、ラスレシア」
「それを相手にしてるほど暇ではないので」
その二人の会話にタマキはにやりと笑ってみせた。
「また十二使徒ってやつだな。自己紹介はないのか?」
その言葉にラスレシアは髪の毛をかきあげる。
「ラスレシア、十二使徒の一人です。お見知りおきでなくてけっこう」
「これはまた、面倒くさそうな奴が出てきたな」
タマキはため息をついて右の拳を握った。
「まあ、まとめて相手にできるのは面倒じゃないか」




