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三つ目の世界

「じゃあ、ちょっとこいつをあの爺さんに預けてきます」


 要一はそう言って鎖でがんじがらめにしたジャルリと一緒に姿を消した。それを見送ったまもるは一緒に立っていたカレンに顔を向けた。


「とりあえずこれで一人片づきましたけど、これからどうするんですか?」

「情報は思ったより簡単に聞き出せたのが幸いでしたね。軽い拷問も必要ないとは、よほど主という者の力を信頼しているのでしょう」

「拷問、するつもりだったんですか」

「必要なら、です。その必要がなかったのは幸いでした、それほど得意なことでもないので」

「いや、見たくなかったのでよかったです。それで、あの話の内容は途方もない話でしたね、全ての世界に秩序をもたらすとかなんとか」

「そうですね、とても実現できることとも思えませんが、タマキさんの力をうまく使えればかなりの程度のことはできるかもしれません。ただし、今まで戦った様子ですと、あの十二使徒と名乗る者達はその力をうまく使えている様子はありませんでしたが」

「それならそんなに心配する必要はないんですか?」

「いいえ、あの男も表面的なことしか知らないようでしたが、私としては裏にはそれ以上のものがあるのだと考えています」

「裏、ですか」

「はい、十二に分けられたタマキさんの力。ですが、なぜそれをわざわざ分割したのかも謎ですし、わざわざ閉鎖された世界に引きこもっているのも怪しいですね。時間稼ぎなのか、それともそれ以上の理由があるのかどうか」


 それから数分後、要一が戻ってきた。カレンはすぐに気がついて顔を向ける。


「ヨウイチさん、どうでしたか」

「あのじいさんは今の事態が収拾できるまで幽閉しておく、って言ってました」

「それなら安心ですね。次の世界についてはどうでしょうか」

「それなら、ここから近い場所に入口があるみたいですよ。こっちです」


 要一が先頭に立って歩き出した。


 それから一時間ほど後、三人は大きな岩がある場所に到着していた。要一はそれに歩み寄ると、岩に手を当てた。だが、その手は何もないかのように岩を通り抜けた。


「ここみたいです」


 そう言ってから要一が下がると、カレンが前に出てショートソードを抜いた。そしてそれを振り上げてから、一気に振り下ろした。


 岩は切り開かれ、そこに空間の裂け目ができた。カレンはショートソードを鞘に収めると、要一とまもるのほうに振り向いた。


「今度は私が先行するのはやめにしておきましょう。不意をつかれたとしてもなんとか対応できそうですからね」

「もちろん、任せてください!」


 まもるは胸を張って答え、要一もうなずいた。それから三人は空間の裂け目に足を踏み入れた。


 次の瞬間、三人の前には大きな水面が広がっていた。


「これって湖ですかね」


 要一は前に足を踏み出して、それを眺めた。まもるもそれに並ぶ。


「そうみたいだけど、やたらと大きいじゃない。本当にこれ湖?」


 まもるは水際まで歩いていって、それに指をつけてなめてみた。


「ああ、淡水だ」

「まもるさん、いきなり口に入れるなんて危ないですよ」

「それもそうか。まあここは大丈夫みたいだけど」


 それから二人が振り向くと、カレンは湖の反対側、少し先にある林を見ていた。


「カレンさん、どうしたんですか?」


 まもるが聞くと、カレンは振り返らずに口を開いた。


「少し妙な雰囲気ですね」

「妙? どういうことですか?」

「このような環境にしては生物の気配が少ないようです。何かしかけられているかもしれませんね」

「じゃあ、どうするんですか」


 要一が聞くと、カレンはやっと振り返った。


「とりあえずは次の世界へ通じる場所を探しましょう。そうすれば相手も動いてくるでしょうから」

「でも、どこから探します?」

「そうですね、この湖沿いから探しましょうか」


 三人はその場から出発した。それから一時間も経ったが、湖がどれだけの大きさなのかはまだわからなかった。


「本当に大きい湖ですね」


 要一はあくびをしながら体を伸ばしていた。


「そうですね、今までのことからすると次の世界へ通じる場所はそう遠くない場所にあるはずですが、もしかしたらここでは少し違うのかもしれませんね」

「ひょっとしてこの湖の中なんじゃないですかね」


 まもるがそう言うと、カレンは立ち止まった。


「その可能性もありますね。マモルさんのスーツは水中で行動できますか?」

「大丈夫ですよ、でも要一君はできないんじゃ」


 まもるにそう言われると、要一は頭をかいた。


「沈むだけなら大丈夫だと思いますけど、それよりここは歩きまわったりするよりもじいさんからの連絡を待ったほうがいいんじゃないでしょうか」

「それもそうかもしれませんが、少しでも周囲の状況は調べたほうがいいでしょうね。私の勘でしかありませんが、この世界には警戒すべきだと思います」

「世界を警戒ですか、なんだか今までよりも大きな話ですね。なんだか気合が入ってきましたよ」


 まもるはそう言ってから握りこぶしを作った。


「じゃあ、とりあえずちょっと休みましょうよ」


 要一はそう言うと少し離れ、次元の鉄槌を呼び出し、それからそれをテントの形に変えた。


「わかりました。私は少し周囲を見てくるので、お二人はここで休んでいてください」

「それじゃ私も」


 まもるはカレンについていこうとしたが、それはカレンが止めた。


「いいえ、マモルさんはここで待っていてください。ヨウイチさんを一人にしておくわけにはいきませんから」


 そう言われると、まもるは多少不満がありそうだったが、うなずいた。


「わかりました。気をつけてください」

「よろしくお願いします」


 カレンはその場から離れた。要一は地面に座り、まもるは立ったまま首を回していた。それからまもるは要一のことを見る。


「ところで要一君、何かパワーアップとかないの?」

「まもるさんみたいな大幅なイメチェンみたいのはないですよ。一応次元の鉄槌の制限は多少解除されてて、前よりも重くはできますけど」

「つまり、要一君の想像力のなさが伸び悩みの原因ってわけか」

「いや、まもるさんのほうが色々影響受けすぎなんですよ。前はパワードスーツで今度はヒーローものでしょ」

「別にいいでしょ、前よりも汎用性もスピードも、それにパワーの最大値もあがってるし。それにまだフォームはもう一つ残ってるから」

「まだあるんですか」

「使う機会があるかはわからないけどね」

「あれ、ちょっと見てください」


 そこでいきなり要一が立ち上がり、湖面を指差した。まもるが振り返ると、その指差した先の湖面が泡立っているのが目に入った。


「あれは?」


 まもるはそう言いながらもベルトのバックルになるものを取り出した。要一もすでにテントを鉄槌の形に変えている。


 そして数秒後、水柱と共に、湖から巨大な灰色の竜が姿を現していた。

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