前哨戦
「まさか、あそこまで一瞬で形を変えるなんて」
ライトはタマキの変貌に驚いていた。
「お前でも予想外だったのか」
タスクが聞くとライトはうなずく。
「もっと時間が必要だと思ってましたし、あそこまで完璧な腕に変化させて、しかもあれだけしっかりと融合してるなんて、本当に予想外です」
一方、タマキと対峙しているトレルは凶暴な笑みを浮かべていた。
「お前のことは殺すなと言われてるが、それだけだ。半殺しにしてやる」
「それはありがたいな。俺もやる気が出てきたよ」
タマキは右腕を一回まわすと、地面を蹴った。そのままトレルに殴りかかるが、それは簡単にかわされる。タマキはそのまま連続で攻撃をするが、それも全て空振りか防御された。
「さっきは不意打ちだったが、わかってりゃどうってことはないなあ!」
トレルは右手をタマキの目の前に突き出した。
「これでもくらいな!」
その右手から爆発が起こり、タマキの姿を飲み込んだ。だが、タマキは右手をその前にかざしていて、後ろに押された以外は無傷だった。そしてタマキは顔を上げて笑ってみせる。
「俺の力っていうんなら、もうちょっと強くてもいいんじゃないか」
「手加減してやってれば調子に乗りやがって!」
トレルの手の刻印が光り、その動きは一段階以上鋭くなってタマキに迫る。そして繰り出された拳をタマキは避けられず、まともに顔面に食らった。タマキは倒れずに、そこからカウンターでトレルの顔面に左の拳を叩き込んだ。
しかし、その一撃はあまり効果をあげられずに、トレルはタマキの腕を左手でつかむと同時に、強烈な蹴りをその脇腹に炸裂させた。タマキはその場に膝をつこうとしたが、トレルは腕を引っ張り倒れさせない。
「どうした! さっきの調子は!」
さらにトレルはもう一発同じ場所に蹴りを入れた。タマキは小さくうめいたが、トレルは再び腕を引っ張り上げようとする。だが、タマキはそこで勢いよく地面に伏せ、つかまれていた腕を振り払い、さらに四つんばいの体勢から地面を蹴って、トレルの顎に頭突きをした。
トレルはその衝撃でのけぞるが、すぐにタマキに腕を振るって爆発を起こす。しかし、すでにタマキの姿はそこになく、トレルの左にまわっていた。そして右腕をその喉元めがけて振りぬく。
「ちっ!」
トレルはなんとかそれを身をかがめてかわしたが、タマキはその隙に前方に走って、距離をとって反転する。
「半殺し、じゃなかったのか?」
タマキはまるでダメージを受けていないような調子でそう言った。トレルはそれに歯をむき出して獰猛な顔になった。
「お望みどおりにしてやるよ!」
トレルはそう叫ぶと大きく跳躍してタマキに襲いかかった。タマキはそれを横に転がってかわすと、そこからさらに後ろに下がるが、トレルもすぐに方向転換をする。
だが、タマキは黄金の右腕で地面を殴りつけると、その衝撃で木の上まで跳び上がった。そこに地面を蹴ったトレルが追撃をするが、タマキはそれに合わせて右腕を突き出した。その右の拳はトレルを確実にとらえ、地面に叩き落す。
タマキは着地し、それと同時にトレルも起き上がった。
「くそっ! やってくれたな」
「どうした、力に振り回されてるみたいだぞ」
タマキがそう言うとトレルはまた正面から突っ込む。そしてそれは再びタマキの右腕で跳ね返される。
「さあどうした? お前のほうが力も速さも上なんだぞ」
「なめるなよ!」
だが次の瞬間、その足元に氷の矢が数本突き刺さった。
「落ち着けよ、ぼうや」
「スレド! なんのつもりだ!」
トレルの声に中年の男が木の陰から姿を現した。
「お前が熱くなりすぎてるようだから、止めに来てやったんだ」
それからその中年の男はタマキに顔を向ける。
「十二使徒の一人、スレドだ。少し前から見てたが、タマキだったか、あんたはなかなかやるな」
「そいつはどうも。それで、あんたは何の用だ」
「話がわかりそうだな。まあ、俺は戦いに来たわけじゃあない。とりあえずは伝えることがあって来たんだ」
「伝言か、聞かせてくれ」
「お前がおとなしくしているのなら、こちらからは手を出さない。それだけだ」
「だから、何もしないでいろってことか」
「そうだ」
タマキはそれからしばらくの間、腕を組んで顎をかいていたが、一つため息をついて組んでいた腕をほどいた。
「たぶん無理だろうな。まあ、一応しばらくの間は見るだけにしておいてやるよ」
その返答にスレドは笑いをこらえきれない様子だったが、しばらくしてから立ち直った。
「いいだろう、そういうことならこちらもしばらくの間だけ、見逃しておこう」
「ちょっと待てスレド! こんな奴を見逃してやることはないだろ!」
トレルが声を荒げたが、スレドはそれに笑顔を向ける。
「落ち着けよ、ぼうや。こいつはそう簡単にどうこうできる相手じゃないし、今は無事でいさせるのが必要なんだ」
「クソっ!」
それだけ吐き捨てると、トレルはタマキを睨みつけてから、その場から立ち去っていった。スレドはそれを見送ると、タマキに顔を向ける。
「そういうことだ。できれば、おとなしくしておいてもらいたいな」
「ま、約束はできないけどな」
スレドは軽く笑ってから、トレルの後を追ってその場から立ち去っていった。タマキはそれを見送ると、脇腹をおさえ、近くの木に寄りかかった。
「タマキさん!」
そこにライトが駆け寄る。だがタマキはそれに手を上げて、軽く振った。
「大丈夫だ」
それから黄金の右腕を目の高さまで持ち上げる。
「こいつがこうなってから、かなり力が入ってな。思ったよりも攻撃は効かなかった。まあ、あのトレルって奴にもあんまりダメージは与えられなかったけどな」
「そうですか、それより、その右腕をよく見せてもらえますか」
「ああ、俺もお前に聞きたいと思ってたところだ」
タマキは脇腹から左手を放し、右腕をライトに向けて差し出した。ライトはそれをつかむと、顔を近づけて観察したり、手でぺたぺたと触ってみていた。だが、しばらくしてライトは我に返って慌てた様子になった。
「すみません、僕の興味で、つい」
「別にいいさ。でもまあ、とりあえずはあっちの小屋で落ち着くとするか」
「はい」
それから三人は小屋の中に戻っていった。




