意識あるもの
タマキはライトと一緒に森の中の空家に到着していた。ライトは室内のランプに明かりをつけ、タマキは椅子に腰を下ろした。
「ちゃんと手入れされてるんだな」
「はい、僕が人に頼んで手入れをしてもらってたんです。いざという時のために」
「まさか、俺みたいのが来るのを待ってたわけか」
「はい、そうです。水かワインならありますけど、飲みますか?」
「いや、今はいい。それより、この右手の塊のことを聞かせてくれるか」
タマキは左手で右手の金属のような塊を触った。ライトはタマキの向かい側の椅子に座る。
「それは金属のように見えますが、意識を持った生命体です。タマキさん次第でそれは失くした腕の変わりになるはずです」
「これが腕の変わりに?」
「はい、それはすでにタマキさんの身体とは繋がっています。下手をすれば全身を侵食される可能性もあるのですが」
「へえ、けっこう物騒なもんだな」
タマキは聞かされたことのわりには反応が薄い。
「で、どうすればいいんだ」
「力で支配下に置けば大丈夫なはずです」
「力ねえ、でも今の俺じゃな」
タマキはしばらくの間その塊を撫でていたが、それから突然笑った。
「まあこうなったらこいつも俺の一部みたいなもんだ。意識があるっていうなら、こいつと意思疎通っていうやつをしてみるのもよさそうだな」
「意識があると言っても、人間とはまるで違って、植物みたいなものですから、それは難しいと思います」
「どうかな、まあやってみるさ」
タマキは右手の塊に手をあて、目をつぶった。ライトは何も言わずに、甕を持って外に出た。
それから数時間後、その小屋には一人の中年の男が訪ねてきていた。
「ライト、来てるのか」
何気ない様子で入ってきたその男はすぐに椅子に座っているタマキに気がつき、ライトに視線を送った。
「ついに見つけたらしいな、待ったかいがあったか」
「はい」
タマキは目を開けてその入ってきた男を見た。
「手入れを頼んでたっていうのはこのおっさんか」
タマキがそう言うと、その入ってきた男は苦笑いをした。
「こいつは大物そうだな。俺はタスクだ、よろしくな」
「タマキだ、よろしく」
それからタスクはタマキの右腕に目をつけると、顔をしかめた。
「あれを使ったのか」
「そうしなければいけない状況だったんです」
「まあそうだろうが、大丈夫なのか?」
「俺のことを言ってるんなら、なんとかするさ」
タマキがそう言うと、タスクは面白がっているような表情を浮かべた。
「すごい自信じゃないか」
「まあ、そうするしかないからな」
それだけ言うと、タマキは再び目を閉じた。タスクはそれを見てから、ライトに視線を移す。
「それで、これからどうするつもりなんだ」
「あまり落ち着いていることもできないと思うので、すぐに移動し始めようと思ってます」
「それがいいな。こんなところじゃいつ見つかってもおかしくない」
だが、そこで外から爆音が響いた。ライトとタスクが慌てて外に出ると、少し離れた場所で木が倒れるのが見えた。
「もう来たのか!」
タスクがうめくように言うと、ライトはすぐにその手を引いて屋内に戻った。タマキも立ち上がっていて、二人を迎える。
「追っ手だな。逃げるのか」
「そうしたいんですが、ただ逃げるのはもう無理だと思います」
「なら、俺が食い止めよう」
そう言ったタマキが外に出ようとしたが、ライトはそれを止める。
「待ってください。今のタマキさんじゃ無理です」
「必要だからやるだけだ。それに、たぶんなんとかなるさ」
タマキはそれだけ言って外に出た。そしてその前にはすでに一人の男が立っていた。その男は素手で短髪、一見したところ細身の男だった。その男はタマキを見てにやりと笑う。
「へえ、あんたが」
「納得してないで、名前でも聞かせてくれるか」
「ああ、悪い悪い、俺は十二使徒の一人でトレルだ。あんたを連れ戻すように言われてな」
「そうか、その十二使徒っていうのが、俺の力を持ってる連中だな。なんか妙な気分だけど、まあ、おとなしく連れ戻されるわけにもいかないな」
トレルはタマキの言葉に実に楽しそうな笑みを浮かべた。
「ああ、そうだ、そうこないとな。この力はいけてるからな、その持ち主とやりたいと思ってたところだ」
「そいつはどうも」
「いくぜ!」
トレルがいきなり跳ぶと、タマキは前転してそれをかわし、すぐに走り始める。
「ふん、付き合ってやるよ」
トレルはそれを追って走りだした。そのまま二人は併走する形になったが、トレルが腕を振ると爆発が起こり、タマキの進行方向の木が倒れる。
「おっと」
タマキはそれを飛び越え、止まらずに走り続ける。
「本当にぬけがらか? いい動きじゃねえか」
「俺がぬけがらかどうか、確かめてみろよ!」
タマキは方向転換してトレルに向かう。トレルもそれと同じように動き、二人は正面からぶつかろうとした。だが、そこでタマキはスライディングをしてトレルの足元を狙う。
「甘いぜ!」
トレルはそれをかわそうと跳ぶが、タマキはその体勢から足を跳ね上げ、その腹に回し蹴りを食らわせた。トレルはその一撃で崩されるが、身体をひねって足から着地する。
「やるな。これならもらった力を試せそうだ」
トレルの手の甲に円状の刻印が光り、その雰囲気が変わった。タマキはそれを見て身構えようとしたが、その前にトレルはその目の前まで来ていた。
「遅いな!」
トレルの拳がタマキに襲いかかった。タマキはとっさにそれを左腕でガードしたが、衝撃で吹き飛ばされた。
そして木に叩きつけられ、そのまま倒れようとしたが、それはトレルが首をつかみ、そのまま木に押し付けられ、持ち上げられた。
「やっぱりこの程度か」
トレルはそう言うが、タマキはかすかに笑うと、左手でその腕をつかんだ。
「さて、どうだろうな」
その言葉と同時にタマキの左手から炎が発生した。トレルはそれに驚き手を放し、タマキはその隙にそこから逃れ、距離をとった。
「なんだ、この手品は」
トレルは驚いたようで、タマキはそれにさらに笑みを大きくした。
「残念だが、お前らは俺の力を全て奪えたわけじゃない。それに、そろそろ準備ができた」
タマキはそれから左手を右手についた塊に手を触れた。
「そろそろ目を覚ませよ、俺の体ならある程度くれてやる!」
すると、その塊が光った。だが、トレルはそこで間合いを詰め、腕を振ってタマキに爆発を浴びせた。だが、次の瞬間トレルは衝撃を受けて後ろに飛ばされた。
「まあ、なんか妙な感じがするけど、そのうち慣れるか」
爆煙が晴れると、そこには黄金の右腕と、その付け根から、まるで血管のように右目の周りまで伸びた何かという姿になったタマキがいた。
タマキはその右腕を目の高さまで持ち上げ、軽く握ってみせる。
「さて、ここからが本番だ」
トレルは体勢を立て直し、その異形の姿を見て笑った。
「そうかい、やっと楽しめそうだな」




