一つ目の世界と鍵
カレン達は最初の世界を数日探索していたが、今のところ目だった成果はなかった。三人の野営地ではカレンが一人で焚き火を見守っている。
「カレンさん、交代しますよ」
そこにまもるがテントから出てきた。だが、カレンは首を横に振る。
「いいえ、私なら問題ありませんから、マモルさんは休んでいてください」
「でも、カレンさんはこっちに来てからほとんど休んでないじゃありませんか」
「これくらいなら大丈夫ですよ。それに、今は急がないといけない状況ですからね」
「確かにそうですけど、いや、そうですよね」
まもるは自分の中で納得したようで、ため息をついた。
「カレンさん、何かあっても一人でやろうとしないでくださいね」
「大丈夫です。ヨウイチさんやマモルさんのことはあてにしていますよ」
カレンが微笑むとまもるは安心したようで、カレンの隣に座った。
「カレンさんはタマキさんといつもどんな生活をしてたんですか?」
「タマキさんと出会ってから数年経ちますが、派手な戦いよりも、旅をしていたりのんびりと過ごしていることが多かったですね」
「家事なんかはどうしてたんですか」
「それは大体半分ずつでしたね。掃除は私がやることが多かったですけど」
「へえ、意外とマメなんですね、あの人」
「そうですよ、それにタマキさんは勇者としての戦いよりも、ひょっとしたら魔法の開発のほうがあの世界に大きな影響を及ぼした可能性があります」
「魔法の開発ですか」
「あの世界では魔法が中心の技術ですから、もっと時間が経てば、タマキさんが残した技術を元にして大きな発展をするでしょうね」
「そこまで影響を及ぼすなんて、とんでもない人ですね」
「タマキさんはそういう人です。いつも、周囲の予想以上のことをするんですよ」
まもるはそのカレンの表情を見て、少し笑った。
「やっぱりタマキさんのことを話してる時は楽しそうですね。今は、不安ですか?」
「タマキさんなら、大抵のことは大丈夫ですから、そこまでの不安はありません。もちろん、タマキさんにも限界はありますし、今の状況がいいものとも思えませんが」
「今は我の力もないからな」
サモンが声を出すと、まもるはそれを覗き込むように首を動かした。
「そういえば、そのサモンっていうのが話すの、初めて見ましたよ」
「まあ、気にすることはないですよ。タマキさんに寄生していたようなものですから」
「奴とは共生だ」
サモンが反論するが、カレンはそれを無視する。
「とは言っても、タマキさんを探すためにはこのサモンの力も必要になります。私ではタマキさんのようにはこの力を使えませんが、この剣は役に立つでしょうから」
「そうなんですか、よろしくね、サモン」
「まあいいだろう、こんなところでは落ち着かんがな」
まもるの言葉にサモンは大体同意の返事をした。それから、カレンは立ち上がる。
「では、私は少し休ませてもらいます。ありがとうございました、マモルさん」
「私のほうこそ話を聞かせてもらってありがとうございます、カレンさん」
そして翌朝、三人は揃って朝食をとっていた。それが一段落してから最後に見張りをしていた要一が口を開く。
「実はさっき、あのじいさんから連絡があったんです。どうも手がかりをつかんだようで、ある場所を指定してきたんです」
「それはどこですか」
「ここから南に半日ほど進んだところだそうです。そこの空間がおかしなことになってるらしくて、至急調べて欲しいと言ってました」
「そうですか、そういうことでしたらすぐに出発しましょう。案内はお願いします、ヨウイチさん」
「任せてください」
そういうことで、三人はすぐにその場から出発した。そして、数時間後、三人の前には小さな山があった。
「この山の中にあのじいさんが言ってた場所があるみたいですね」
要一の言葉にカレンはうなずき、すぐに歩き出した。まもると要一はすぐにその後を追う。
そして山に入って数十分。まだ何も目ぼしいものは見つからなかった。
「要一君、詳しい場所はわからないの?」
「それが、このあたりっていうだけで、なんとも言えないんです」
「とにかくその場所を探しましょう」
三人は手分けをしてその周囲を探り始めた。その中で最初に違和感に気がついたのは要一だった。
「まもるさん! カレンさん! ちょっと来てください!」
要一が叫ぶと、すぐにまもるとカレンがその場に駆けつけてきた。
「どうしました」
聞かれた要一は一本の木を指差した。
「この木なんですけど、ちょっと触ってみてくれますか?」
カレンが言われた通りに木に手を触れてみると、特に何の変哲もない木だった。
「やっぱり。見ててくださいよ」
今度は要一がその木に手を伸ばすと、その手は木がないかのようにそのままめり込んでいく。
「この木が次元の歪みそのものみたいです。もしかしたら、次の世界への鍵かもしれません」
要一はそれから手を引き抜いた。カレンはその木をじっと見る。
「問題はどうやってここから次の世界への扉を開くか、ということですか」
「ちょっと待ってください、あのじいさんからです」
そこで要一はしばらく黙ってうなずいていたが、数十秒後にはカレンの方に顔を向けた。
「その木をカレンさんが切ってみろと言ってます。強引でもそれが一番手っ取り早い方法だとか」
「わかりました、お二人は下がっていてください」
カレンは木の前に立つと、ショートソードを抜き、それを振りかぶった。だが、次の瞬間、木の内部からカレンに向かって雷の矢が飛来した。
カレンはとっさにショートソードでそれを受けたが、衝撃で後ろに飛ばされる。
「我が主の懸念通り、すでに動き出していたか」
低い声と同時に木が歪んで姿を消し、そこには一人の大柄な男が立っていた。その男は金属の胸当てをしていて、大槌を右手で軽々と持っている。
カレンはそれに対し、油断なくショートソードを構えたまま口を開いた。
「何者ですか」
男はその問いに、鋭い視線を送り、大槌を肩にかついだ。
「我が名はジャルリ。世界に秩序をもたらす十二使徒が一人だ。秩序を打ち立てるのを妨害する貴様らを排除する使命をあるお方から授かってここに来た」
それを聞いた要一とまもるは身構えたが、カレンは逆に口の端に笑みを浮かべる。
「なるほど、そちらから来ていただけるとはありがたいことです。聞きたいことは沢山ありますからね」
そしてカレンの髪と瞳が白銀に染まり、その体を漆黒の鎧が包んだ。さらに、背中から白銀の翼が開き、ショートソードも白銀の輝きに染まった。
「次元の鉄槌よ! その姿を現し我が手におさまれ!」
要一が次元の鉄槌を呼び出し、まもるも懐から何かを取り出した。
「ついにこの新兵器の出番ってやつ」
そしてその懐から取り出したもの、四角い手のひらサイズの箱のようなものを腰に当てた。するとそこからベルトが伸びて腰に巻きつく。それからまもるがバックルになったその箱を軽く叩くと、それは中心から観音開きに開いた。そこには三つのボタンが並んでいる。
「こういうの一度リアルでやってみたかったんだよね」
まもるはそのボタンを右手で三つ同時に押した。そしてすぐに左手は腰にそえ、右手は顔の前で握りこぶしを作る。
「変身!」
バックルから光が溢れ、それがまもるの全身を包み込んだ。ちょうど一秒後、その光が消えると、そこには、いわいる変身ヒーローのような真紅のスーツに身を包んだまもるの姿があった。




