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刻印と脱出

 タマキが目を覚ましてから数日が経ち、やっと自分の力で起き上がれるまで回復していた。その間、ライト以外の人間が姿を見せることはなく、そのライトはほとんどつきっきりだった。


 タマキはベッドの上に起き上がり、金色の塊がくっついている自分の右腕を見ていた。


「しかし、これは妙な感触だな」

「ですけど、それがタマキさんの命を救ったんですよ」

「ああ、まあ腕がこういう塊ってのは不便だな」

「それなら、そのうち平気になりますよ」

「そういうもんか?」


 それからタマキはベッドに横になり、ライトは部屋から出て行った。部屋のすぐ外には見張りが立っていて、ちょうど大柄な男が部屋に向かってきていた。男はライトの前に立つと部屋の扉を見てから口を開く。


「様子はどうだ」

「順調です。もう起き上がることができるくらいになっています」

「早いな、刻印はしっかり機能しているようだが」

「それだけの生命力があるのだと思います」

「だが、気を抜かずに注意しておけ。あまり元気になられても困るが、死なれるのが一番まずい」

「はい」


 時間は経過してその日の昼。タマキは起き上がって昼食を食べていた。


「物足りないな」


 タマキは具の少ないスープの入った器を見ながらつぶやいた。


「すみません、今はこれしか出せないんです」


 ライトは申し訳なさそうな表情だった。


「まあ仕方ないってのはわかるけどな。それより、ここがどこなのか、そろそろそいつを聞かせてもらおうか」

「わかりました。まずここは、リシルと呼ばれている世界です。今僕達がいるのは小さな島で、この世界のちょうど中心です」

「中心ね、ここに主はいるのか?」

「います」

「そうか、そのうち会ったほうが良さそうだな。で、俺がここに来たのは偶然なのか、それとも、誰かに引き込まれたのか?」

「それは」


 口ごもったライトにタマキは手を振った。


「いや、答えたくないなら別にいい。お前がそんなにいい扱いをされてるとも思えないしな」

「そこまで、わかるんですか?」

「この窓もない部屋を見れば俺が諸手を上げて歓迎されてないくらいはわかるさ。でも、殺すわけにはいかないくらいってのもな」


 タマキの言葉にライトは驚いた様子を見せた。タマキはそれを見てにやりと笑う。


「図星か? まあ俺はそれなりに変な経験豊富だからな、テキトウなことは言える。それで、これから俺はどうなるんだ?」

「鋭いんですね。でも、命の危険はありません」

「命の、ね」


 それからタマキは器に直接口をつけてスープを一気に飲んだ。


「まあ、そういうことなら、少しの間はおとなしくしておくか」

「すみません」


 ライトは器を受け取ってから、頭を下げた。


「いいんだよ、気にするな」


 タマキはそう言って軽く笑うと、また横になった。ライトは食器を持って部屋から出て行った。


 そしてその日の夜。ライトは静かに室内に入ってきた。横になっていたタマキは目を開けると上体を起こす。


「こんな時間になんの用だ」


 タマキの言葉にライトは黙って自分の服の下から布の袋を取り出した。その中から細かいものいくつか取り出すと、それを使って小さな箱のようなものを作り、タマキの枕元に置いた。


「これで落ち着いて話ができます」

「へえ、手先が器用なんだな。それで盗み聞きの防止でもできるのか」

「そうです」

「それで、話っていうのは」

「もう気づいていると思いますけど、タマキさんの身体には僕が刻んだ印があります」


 タマキは自分のみぞおちあたりに左手を当てた。


「こいつか、ずっと妙な感覚があるから何かと思ってたけど、一体これは何だ?」

「それはタマキさんの力を分割して、それを奪うためのものです。今は十二に分割されて、それぞれ刻印を刻んだ者に今も継続的に力を分け与えています」

「それで力が抜けてる感覚があったのか。飼い殺し待遇にも納得だな」

「本来ならこんな短時間でそこまで回復するはずはありませんでした。でも、これだけの回復ということは、タマキさんの力の強さのおかげだと思います」


 それを聞いたタマキは微笑のようなものを浮かべる。


「いや、それは俺の力じゃない。まあそれよりもだ、まずはライト、お前の目的を聞こうか」

「僕の目的は、それはこれから起こることを止めて欲しいという、お願いです」

「これから起こることか」

「はい、それはこの世界だけでなく、多くの世界を巻き込んでしまうことです。次元の壁を壊し、複数の世界を一つにして統治する、そして」

「全てを一つにって話か? なんだか壮大だな」

「夢物語です。そんなことのために多くの人を傷つけることになってしまう。でも僕にはそれが止められない」

「俺にはできるっていうのかな」

「タマキさんのことは知っています。世界を越え勇者と呼ばれ、そして今は次元の管理人を名乗る存在に協力している」

「良く知ってるな。俺もけっこう有名人か」

「だから目を付けられたんです。止められなくてすみませんでした」

「いいや。でも、それはお前にとってはいいことでもあったわけだな」

「協力、していただけますか」

「まあ、ここで閉じ込められててもしょうがないしな。何か脱出の手立てでもあるのか?」

「しかし、その前にタマキさんが動けるようにならないと難しいと思います」

「それなら大丈夫だ」


 そう言うとタマキはベッドから下りてしっかりと立った。ライトはそれに驚きの表情を見せる。


「もう、動けるんですか?」

「ああ、でも服と靴が必要だな」

「それなら」


 ライトは部屋の隅の戸棚を開けると、タマキが元々着ていたズボンと靴を取り出した。


「すみません、上着は切ってしまったので」


 タマキはズボンと靴を履いてから、着せられていた白くゆったりしたズボンをベッドの上にたたんで置いた。


「脱出はどうするんだ? まさかそこのドアからじゃないよな」


 タマキは一つしかないドアを指差した。


「もちろん違います」


 ライトはさっきの小さな箱を手に取ると、ドアの反対側の壁際まで歩く。そしてその箱を持った手で壁を軽く叩くと、ちょうど人が屈めば通れる程度の穴が音もなく開いた。


 タマキはそこから外を見る。素直に飛び降りれるような高さではなく、今の状態のタマキでは難しそうだった。


「これから何か手があるのか」

「とりあえず、外に出ましょう」


 二人はその穴から外に出て、壁に取り付いた。


「それで、これからどうするんだ」

「飛び降ります」


 ライトの言葉にタマキはすぐにうなずいた。


「わかった、頼んだぞ」

「行きますよ」


 ライトはタマキの腰に手を回すと同時に、壁を蹴った。

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