落ちたその先
タマキは光に飲まれてから、意識が戻っても朦朧としていて、自分がどこにいるのかもわかっていなかった。ただ、なにか硬いところに寝かされているのだけはなんとかわかった。そこで意識は途切れる。
そのタマキを見下ろしている、一人の大柄な男と、小柄で髪の長い少年とも少女ともつかない者がいた。
「本当にこれが力の持主なんだな」
男が聞くと小柄なほうがうなずく。
「そうです。しかし、予想よりは小さいようです。それでも十分な力はあるようですが」
「そうか、それならばすぐにかかれ。それと死なないようにしておけ、欠けた腕はアレでも使っておけばいいだろう」
「はい」
大柄な男はその場から立ち去り、それと入れ違いに得体の知れないものを満載したカートを転がして三人の白衣を着た男が入ってきた。
「では始めましょう」
小柄な者ははさみを手に取り、まずはタマキの服を切り、右腕の切断面に緑色の液体を塗りつけた。それから鋭く薄い刃物を手に取ると、タマキのみぞおちあたりを中心としてそれで何かを描くように動かしていく。
刃物の通った後は綺麗に血が浮き出て、まずは円、そしてその中にさらに円を描き、それと外側の間を十二分割した。さらにその中を一回ずつ刃物を浅く刺していく。
「印を」
刃物を隣の男に手渡し、変わりに金属製の印を受け取った。それを内側の円の中心に押し付けると、両手をその上に重ねて目を閉じた。
「始原の炎よ、我が手に宿りこの者に刻印を刻め」
肉が焼ける音がし、印をどけるとそこにはくっきりとした跡がついていた。それから印を隣の男に手渡した。
「次は右腕にとりかかります」
今度は金色の金属のようだが、不思議な弾力がある塊を受け取った。小柄な者はそれを目の高さまで持ち上げると、何かを口の中でつぶやいた。それからその物体をタマキの腕の切断面に近づけた。
すると、その塊から糸のように細い蔓のようなものが伸びて傷口に入り込んでいく。しばらくその様子を見てから小柄な者は塊をタマキの腕の切断面につけた。
少し経ってから手を離すと、その塊はタマキの腕に固定されていた。それを確認してから小柄な者はその周囲を布で拭い、息を吐き出す。
「終わりました。片付けてください」
男達は手早く片づけをし、カートを押して去っていく。一人残された小柄な者はタマキの顔をじっと見ながら、ただ無言でその場にたたずんでいた。
それからどれくらい時間が経ったか分からなかったが、タマキは違和感で再びぼんやりと意識を取り戻した。今度は柔らかい感触が背中にあり、なにか右腕重かったが、それ以上に体の力が抜けていて、指一つ動かせない。
それでもなんとか目だけに意識を集中すると、自分を見ている者がいるのが見えてきた。その人物はタマキの視線に気づいたようで、何か口を動かしたが、何を言っているのかは分からなかった。そこで再びタマキの意識は途切れる。
「様子はどうだ」
大柄な男が戻ってきて尋ねる。
「印は問題なく刻めました。容態もだいぶ落ち着いています」
「そうか、それならば次の段階に移れるな。すぐに準備を始めよう、これから目を離すな」
「はい」
それから数時間後、巨大なホールに十二人の人間が集められていた。その前に立つ大柄な男は腕を後ろに組んで堂々と立っている。
「我が精鋭達よ、よく聞け。お前達に分け与えた力は世界、いいや、あらゆる次元を改変するための礎となるものだ。これからの戦いは厳しいものになるだろうが、あるべき秩序をもたらすためには必要なことだ」
それから男は後ろに組んでいた手を大きく左右に広げた。
「諸君の働きに期待している!」
並んでいた十二人はその言葉にそれぞれ片膝をつき、頭を垂れた。大柄な男はその光景に鷹揚にうなずくと、その場から立ち去って行った。
残った十二人はそれから一斉に立ち上がり、六人ずつに分かれると、そのまま無言でホールから出て行った。
その頃、タマキはまた意識を取り戻していた。脱力感は増していたが、今度は多少頭がはっきりしていて、首を動かすことができた。そして、自分の顔を見ている者に気がつく。
「こ、こは」
かすれた声しか出せなかったが、それでも意図は伝わったようでタマキを見守っている小柄な者は立ち上がってからタマキに顔を近づける。
「ここは危険な場所ではありません。あなたの傷も治療も終わっています」
「そう、か」
それだけ言葉を搾り出すと、タマキは目を閉じて息を吐き出した。
「飲み物が必要ですか?」
タマキがうなずくと、その口に水差しが当てられる。タマキは口を開いてそれから水を数口飲むと、目を開けて少し頭を持ち上げた。小柄な者は水差しを引く。
「ああ、楽になった、名前は?」
「ライトです。あなたは?」
「タマキ」
「タマキさんですね、僕がこれからあなたのお世話をさせてもらいます、なんでも言ってください」
タマキはそれにうなずくと、再び目を閉じた。
「少し、寝る」
「はい、おやすみなさい」
ライトはそう言ってから、タマキの右腕に視線を移した。そこにある金色の塊は鈍い輝きを発し、わずかに脈うっているように見えた。




