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消失と出発

「で、一体何が問題だったのかもう聞かせてくれるよな」


 タマキはテーブルに肘をついて次元の管理人に尋ねた。


「うむ。まず君のほうはあのダークネスワイズドラゴンというのがまともに発現したことで、あの世界は安定した」

「では、私のほうはどうだったのでしょうか」

「君のほうは、あの吸血鬼の転生だったか、それが無事に済むようになった時点で大丈夫になったのだ」


 次元の管理人の言葉に、カレンは顎に手を当てた。


「まるであるべき時間の流れが見えているようですね。そんなこともわかるのですか」

「あまり詳しくわかるわけではないのだよ。それに、何かの妨害もあったようだ」

「妨害か、あの雲みたいな奴だよな」

「それなら私のほうでも現れました。以前ヨウイチさんと一緒に行った世界でも遭遇しましたね。あれの正体は分かっているんですか?」

「それは明確にはわかっていないのだ。私も調べてはいるのだが、まだわからない」


 次元の管理人の言葉にタマキは立ち上がった。


「そういうことなら、ちょっと休ませてもらうか。調べるのはよろしくな」

「うむ、何かわかったら君達に報せよう」


 次元の管理人はそう言って部屋から出て行った。それを見送ったタマキは急須から自分の湯飲にお茶を注いだ。


「なんだか、きな臭い感じになってきたな」

「そうですね、あの管理人という方と同等かそれ以上の力を持つものがどこかにいるということですから」

「それに、どうも後手にまわってる感じもするしな。任せっきりというわけにもいかないけど、だからと言って俺達だけでどうこうもできないか」

「私達だけでは情報収集もできませんし、残念ですがどうしようもありませんね」

「そうだな、管理人さんにがんばってもらうか」


 タマキはそう言ってから立ち上がると、本棚に近づいていった。そして本棚の前まで来た瞬間、その足元が円形に光った。


 ほぼ同時にそこから光の柱が立ち上り、タマキの姿を飲み込む。カレンが駆け寄ろうとしたが、その光の柱は全く人を寄せつけない。だが、そこからタマキの右腕が突き出された。


「タマキさん!」


 カレンはその手を握ったが、次の瞬間には光の柱とタマキの姿は消えていた。カレンの手に残ったのは、肘の上から切断されたタマキの右腕と、そこに握られていた狼の形のアミュレットだけだった。


 呆然としたカレンが顔を上げると、そこにはもやもやとした虚無とでも言うべき塊があった。


「何があったのかね!」


 慌てた様子の次元の管理人が部屋に駆け込んできた。そしてその異様な状況を見ると、すぐに次元の鉄槌を呼び出した。


「とりあえず、そっちの君はこの中に入りなさい」


 次元の管理人がそう言うと、虚無の塊のほとんどはそこに吸い込まれるように消える。残りはカレンの持つアミュレットに入った。カレンはそれを確認するとすぐにそのアミュレットを強く握る。


「何があったんですか、タマキさんはどこに!」

「我にもわからん、いつの間にかあいつの体から放り出されていた」

「それでは何もわかっていないのと同じでしょう!」


 それからカレンは次元の管理人を睨みつけた。


「どういうことですか」


 その剣幕に次元の管理人は思わず一歩後ろに下がった。


「いいや、私にもまだ詳しいことはわからない。だが、彼がどこかの次元に連れ去られたの間違いがない」

「そうですか、ではすぐに調べて下さい」


 それだけ言うと、カレンはタマキの右腕をテーブルの上に置き、自分のショートソードを研ぎ始めた。次元の管理人は足早に部屋から出て行った。


 それから数時間後、要一とまもるもテーブルにつき、次元の管理人が口を開いた。


「どうやらタマキ君はかなり入り組んだ次元に連れ去られたようだ。そこには私でも簡単には干渉できない」

「詳しく説明してください」

「簡単に言うと、その次元に到達するためにはいくつかの次元を通過する必要がありそうなのだ。そのためには、君の力が最適だ」

「つまり、強引に次元の壁を破っていくわけですか」

「その通りだ」

「そういうことでしたら、すぐに出発しなくてはいけませんね」


 カレンは立ち上がったが、次元の管理人はそれを止めた。


「君一人ではいけない。そのためにヨウイチ君達も呼んだのだ」


 そう言われてカレンは少し考え込むように顔をうつむけてから、顔を上げてうなずいた。


「わかりました。何があるかはわかりませんし、力を貸していただけるなら是非お願いします」


 カレンがそう言って頭を下げると、まもるは勢いよく立ち上がった。


「もちろんです! ねえ要一君」

「はい。ただ事じゃないみたいだし、俺もがんばりますよ」

「ありがとうございます。準備もあるでしょうから、それが済んだら呼んでください」


 そしてカレンはその部屋から出て行った。後に残された三人は同時にため息をつく。


「カレンさん、随分様子が違ったけど、大丈夫かな」


 まもるは椅子に座ってから心配そうな声を出した。要一もそれにうなずく。


「確かにそうですね。怖いくらいにピリピリしてる感じでしたよ」

「私も怖いくらいだった」


 次元の管理人がそう言っているのを二人は意外そうな顔で見た。


「彼女の力は特別なのだよ。それより、君達の武器の強化が必要になるだろう。希望があれば聞かせてもらいたいのだが」

「それなら!」


 まもるはリクエストがあるらしく、勢い良く身を乗り出した。


 それから数時間後、三人は出発の準備を済ませて集まっていた。そこに遅れてきた次元の管理人は鞘に納まった一振りの剣を持っている。


「これは君がつかいなさい」


 その剣をカレンに差し出す。カレンはそれを受け取ってから軽く首をかしげる。


「その剣は次元の鉄槌の一部から作り出したもので、君達がサモンと呼んでいる存在の力がこの中にある」

「そうですか。サモン、あなたの力を貸してもらいますよ」


 カレンが首から下げたアミュレットに話しかけると、それはなんとなく渋々という様子で口を開いた。


「仕方あるまい。しばらくは我の力を貸してやろう」


 カレンはうなずくと、受け取った剣はベルトの右側に付けた。


「最初の世界はどのような場所なのですか?」

「君が元々いた世界と大体似たようなものだ。次の次元と繋がっている場所は今は不明だが、ヨウイチ君なら発見できるだろう」

「わかりました。よろしくお願いします、ヨウイチさん」

「はい、やってみます」


 まもるはそう言う要一の肩を叩いた。


「きっと仕掛けてきた相手はその繋がってる場所っていうを守ってるはずだし、そういうのを探せばいいんだから、なんとかなるって。私の新兵器もあるんだし」

「そうですね、カレンさんの足でまといにならないようにがんばりますよ」


 カレンはそれにやっと微笑を浮かべた。


「お二人は私が守りますよ」


 それから次元の管理人に顔を向ける。


「そろそろお願いします」

「うむ」


 次元の管理人が軽く手を上げると、三人は光と共にその場から姿を消した。

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