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ハンター

「どういうことだ!」


 イシルドが叫ぶと、すでに死人よりも白く透明な顔をしているアニエルドは薄ら笑いを浮かべた。


「俺はすでに人間を越えた、吸血鬼もな。だが、まだ足りない」


 アニエルドは視線をルミに向ける。


「そいつの力があれば、もっと、もっと力が手に入る」

「もう正気も失ったのか」


 イシルドは捨てた銃を拾い、左手でそれを構える。だが、引き金は引かない。


「どうしたイシルド? 撃ってみろよ」


 アニエルドは両手を広げて挑発するがイシルドは銃を撃たない。


「ここから撃っても、お前には届かないだろ」

「よくわかってるじゃないか。それなら俺の邪魔をするな」

「いいや、届かせる。必ずな」

「無駄だ」


 そこに銃声が響くが、アニエルドはその横からの銃撃を全て翼を動かして受け止めた。


「ちっ、本当に普通のじゃ無駄みたいだな」


 アデーレは弾を撃ちつくした銃をホルスターに収め、ベルトの後ろのホルスターから銃身に文字が刻まれている銃を抜いた。カレンもショートソードを構える。


「やる気があって鬱陶しい連中だ。まあ肩慣らしにはちょうどいい」


 アニエルドは長剣をかざし、それを一気に振り下ろした。剣の軌道から衝撃波が発生し、イシルドに襲いかかった。イシルドはそれを横に跳んでかわす。アニエルドはさらにカレンとアデーレの方向にも長剣を振って衝撃波を放った。


 アデーレはそれをイシルドと同じようにかわすが、カレンは衝撃波をショートソードで薙ぎ払って前に進む。アニエルドはそれを見ると、カレンに向けて足を一歩踏み出し、二歩目は一気に加速した。


 そして袈裟切りに振り下ろされた長剣をカレンはショートソードでなんとか受け止める。


「どうした、手応えが今ひとつだな」


 アニエルドは余裕の表情でカレンを押していく。


「どうですかね?」


 カレンがアニエルドをいなすと同時に、二方向から銃弾が一発ずつ飛来した。だが、アニエルドは地面を蹴ってカレンの遥か上を飛び越えてそれをかわす。


 カレンはその着地に合わせて突きを入れようとした。だが、アニエルドはその前に翼を動かして滞空時間と距離を延ばし、それを不発に終わらせる。そして着地したアニエルドは素早く振り向いた。


「三人がかりでこの程度とは、俺が強くなりすぎたか?」


 アニエルドは恍惚とした表情を浮かべた。しかし、その表情はカレンが馬鹿にするように口を歪めると消え去った。


「貴様、何が言いたい」

「いえ、その程度の力でそんなに幸せそうにしていられるのなら、なぜ踏みとどまれなかったのかと思いまして」

「なんだと?」

「まだわかりませんか。イシルドさんの元相棒というから、もう少し頭が働くかと思っていましたが、とんだ期待外れですね」


 しばらくの間アニエルドは黙っていたが、満面に不気味な笑顔を浮かべた。


「そこまで言うとは、覚悟の上だろうな」

「なんの覚悟です?」

「貴様等がここで死ぬ覚悟だよ!」


 アニエルドは銃を抜いてカレンに向けて二発撃った。カレンはその飛来した弾丸をショートソードで軌道を変える。アニエルドはすぐに銃を捨てると、長剣をかつぐようにして、力強く地面を蹴った。


 その勢いはまるで弾丸のようだったが、カレンはそれを横に転がってすかし、アニエルドはイシルドとアデーレに無防備な姿をさらした。


 もちろんそこには一発ずつ、イシルドとアデーレの銃弾が飛来する。だが、アニエルドはその二発を素早く長剣で叩き落した。


「ちっ、高い弾を無駄撃ちさせてくれるぜ」


 アデーレは悪態をつくが、イシルドは無駄口を叩かずにアニエルドに向かって走る。


「おお!」


 気合と共に右手のサーベルを振り下ろした。アニエルドはその一撃を長剣で受けるが、全く押されるということはない。


「弱いな」


 アニエルドはイシルドの体ごと押し返した。それを予期していたイシルドは踏ん張らずに素直に後ろに跳躍しながら銃を三連射する。最後の一発は銃が光ったように見えた。


 一発はアニエルドの長剣に防がれたが、残りはアニエルドの肩と腿に命中した。肩は浅かったが、腿の弾は貫通する。それでもアニエルドのダメージは大きくないようで、一歩後ろに下がっただけだった。


 イシルドは弾を撃ちつくした銃を捨て、サーベルを左手に持ち変えると、その刀身を右手の指でなぞる。そしてサーベルの刃全体が光を発すると、イシルドは地面を蹴った。


 アニエルドはその一撃を長剣で受けようとしたが、直前でそれを引き、大きく後方に跳躍した。そこにアデーレが銃を連射するが、アニエルドは今度は地面を蹴って上空に舞った。


 だが、アニエルドが何かを感じて首をひねると、そのさらに上にカレンの姿があった。その瞳は赤く光り、振り上げたショートソードは闇をまとって大剣と言えるサイズになっていた。それが振り下ろされると、アニエルドは長剣で受けようとしたが、カレンは攻撃の軌道を変えてその背中の翼を切り落とす。


 その衝撃でアニエルドは地面に落ち、バランスを崩して長剣でなんとか身体を支える。しかし、イシルドの光り輝くサーベルがその胸に深々と刺さった。


「くはっ」


 息を吐き出す音がし、アニエルドの口から血が流れる。


「これで、終わりだ」


 イシルドがサーベルを引き抜き、三歩後ろに下がると、アニエルドは両膝をつき、そのまま前に倒れた。そして、その傷口から徐々に体が灰になり崩れ落ちていく。


 それでもアニエルドは顔を上げ、イシルドに向かって笑った。


「お前は大した奴だよ。やっぱりあの時、殺しておくべきだったな」

「そうかもな。じゃあな、アニエルド」

「ああ、相棒」


 アニエルドはそこで力尽き、全身が灰になって風に飛ばされたいった。イシルドはそれを見届けてから、すでに光が消えたサーベルを鞘に収めた。


 その戦いから二日後、カレンは朝早くに町の外れまで来ていた。見送りにはアデーレとイシルド、そしてルミがいた。


「あんたのおかげでたっぷり稼げたし、またなにかあったらよろしくな」

「はい、こちらこそ、アデーレさんのおかげでずいぶん助かりました」

「そうだろ。ま、元気でな」


 アデーレが手を差し出すとカレンはそれを軽く握り返した。それからイシルドの方に顔を向ける。


「イシルドさんは、その子と一緒にいるつもりなんですか?」

「ああ、この子はあの吸血鬼が転生のために生み出したのかもしれないが、今は人間だ。それに、あの吸血鬼には興味があるし、転生を阻害したら何が起こるかもわからない。またアニエルドのように力を求めてこの子を狙う者が現れるかもしれないしな」

「それで、ずっと側にいるつもりなんですか。あなたも変わった人ですね」

「まったく、本当に物好きな奴だよ、お前は」


 カレンとアデーレにそう言われるとイシルドは軽く笑い、自分のシャツを掴んでいるルミの頭に手を置いた。


「それでいいんだ。なあルミ」

「うん」


 カレンはその様子を見て微笑むとうなずいた。


「その様子なら心配ありませんね。では、私はこれで」

「あんたも達者でな」


 そして、カレンは様々な事件があった港町を後にした。

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