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人間と吸血鬼

 イシルド達三人は、眷属化させられていた人間達を地表まで連れて行き、とりあえず一息ついていた。


「イシルド、お前の相棒だよな、あの男」

「ああ、元、だけどな」

「何が目的かはわかっているんですか?」


 カレンの質問にイシルドは首を横に振った。


「正確にはわからない。予想はついてきたが」

「予想というのは、なんでしょうか」

「あいつがあの男から抉ったものを食ったのを見ただろう。あれはアニエルドの能力で、眷属や吸血鬼の力を凝縮できるんだ。今までは破壊してただけだったが」

「それを食っちまったってことは?」

「力を自分に取り込んだんだろうな。そんなことができないはずだったが、きっとあいつはそれを見つけたんだ」


 イシルドはそこまで言うと、カレンとアデーレを見た。


「これは俺とあいつの問題だ。だから決着は俺がつける」


 イシルドは二人に背を向け、足早に立ち去っていった。アデーレはそれを見送ってため息をつく。


「真面目な奴だな。ま、こっちはこっちで後始末を始めるか」

「そうですね、あの組織はほとんど力を失ったでしょうから」

「金はがっぽりだぜ」

「その話もつけに行きましょう」


 カレンとアデーレもその場を離れた。


 そして時間は経って夕方。カレンは一人で娼館に戻ってきていた。中に入るとウィゼが立ち上がってカレンを迎える。


「あんた、大変なことをやらかしてきたみたいだね」

「もうここにまで噂が広まってましたか」

「そりゃ、あんだけのことをやればそうだろうさ。無茶をしたもんだ」

「それほどでもありませんでしたよ。私一人ではありませんでしたし」

「はぁ、まあこれ以上言ってもしょうがないか。それより、今夜の仕事はどうするんだい?」

「もちろんやりますよ」

「それなら頼むよ。奥に夕食は用意してあるから、先に食べておきな」

「ありがとうございます」


 カレンが奥の食堂に行くと、そこにはユースとルミがいた。ユースはカレンのことを見るとすぐに立ち上がる。


「カレン! ウィゼから聞いたけど、大活躍してたんだって? 詳しく聞かせてよ」

「少し暴れた程度で大したことではありませんよ。それより、ここでは何か変わったことはありませんでしたか?」

「ううん、別に。このルミっていう子も、わからない、だけで何も話さないで食べてるだけだし」

「そうですか」


 カレンがルミを見ると、ユースの言った通りに、今もパンをもくもくと食べている。


「ずっとあんな調子なの」


 カレンはルミの後ろにまわって、その肩に手を置いた。ルミはパンをくわえたまま振り返ってカレンのことを見上げる。


「何か思い出しましたか?」


 ルミは首を横に振ってからパンを皿に戻した。


「わからない」


 カレンは微笑んでうなずくと、ルミの肩を軽く叩いて手を放した。ルミは再びパンをかじり始め、ユースはカレンの横まで来た。


「ね、言った通りでしょ」

「元気はあるようですから、そのうち大丈夫になるでしょうね」

「それよりさ、まだ仕事までは時間があるし、あっちでお話しようよ」

「ええ、いいですよ」


 それからカレンはユースとしばらく話をして、娼館の営業が開始されると入口横の椅子に座った。しばらくの間は何事も起こらなかったが、ウィゼが前と同じようにハイデルを連れてきた。


「カレン、またこの人を送っていってくれるかい」

「はい」


 カレンは立ち上がり、ハイデルと一緒に娼館を出た。しばらくは無言だったが、ハイデルはおもむろに口を開いた。


「君の活躍は聞いたよ、この町の救世主なんて言われているようだね」

「大したことではありません」

「いやいや、大したものだよ。私からもお礼を言わせてもらうよ、ありがとう」

「なぜハイデルさんが?」

「私はこの町の住人だよ、これでもっとこの町は栄えるだろうし、いいことではないかね」

「それはそうですね。しかしハイデルさん、あなたは人、ですか?」


 カレンの突然の問いにハイデルは少し驚いたような表情を浮かべたが、すぐに楽しそうな笑顔を浮かべる。


「鋭いね、君は。いつから気づいていたのかな」

「最初からですが、今日色々見たので、はっきりとわかりました」

「そうかそうか。しかし、君は何もしようとしないね」

「あなたが害をなそうとする者には見えませんから。狙う者はいるかもしれませんが」

「なるほど、只者ではないと思っていたが、そこまで考えていてくれるとは、ありがたいことですな」

「少し話を聞かせて頂けますか?」

「かまわんよ、私の屋敷まで来るかね」

「はい、そうしましょう」


 そうしてハイデルとカレンは夜の町を歩いて行った。


 一方その頃、イシルドは貧民街に来ていた。夜ではあるが、様々な人間が動いていて、妙な活気がある。イシルドはその中を真っ直ぐに歩き、昼に潜ったダンジョンの近くまで到着した。そこは封鎖されている上に、警備までいて入ることはできない状態だった。


「物々しいよなあ」


 突然背後からアニエルドの声がして、イシルドはその身を緊張させた。


「ここで騒ぎは起こしたくないだろ、着いて来いよ」


 イシルドは黙ってアニエルドについていき、人気の無い場所で向かい合った。


「何の用だ」


 イシルドの問いにアニエルドは肩をすくめる。


「まず落ち着けよ。俺の目的はこの町にいる吸血鬼だ」

「あの男に力を与えてた吸血鬼か? そいつはどこにいる」

「いいや、その吸血鬼ならさっき始末してきた。それなりに力のあるやつだったぜ。まあ俺の本命は他にあるんだが、それはお前で調べるんだな。結局、俺がやることは結局吸血鬼狩りだ、だから本当ならお前が心配することはないはずだぜ」

「お前はすでに眷属の力を取り込んでる、その上に吸血鬼もか。さらにもう一体となると、人間をやめるつもりだな、アニエルド」

「だったらどうする?」


 イシルドは銃を抜いた。


「そういうことなら、お前も俺が狩るべき存在だ」

「それはいい。そうなった時にはお前に狙われるほどになりたいもんだ」


 アニエルドはそう言うと、イシルドの顔を見ながら、後ろに下がっていく。


「待て! お前の言う吸血鬼はどこにいる!」

「それは自分で探すべきだろ、お前なら大して苦労もしないんじゃないか? 今のお前には腕の立つ仲間もいるみたいだしな」


 そしてアニエルドは闇にその身を消していった。イシルドは銃をホルスターに収めると、ため息を一つついて、その場を後にした。

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