地下
カレンにアデーレ、さらにイシルドを加えた三人は、今度はこの町の貧民街に向かっていた。
「貧民街に何があるんだ?」
「地図によると、地下に色々と存在しているようですから、そこを探索してみます」
「地下? そんなところがあるのか」
「まあ、連中のボスの部屋から取ってきた地図だからな、確かな情報だろ」
アデーレはそう言って残り二人の前に立ってどんどん進んでいく。そして三人が貧民街に到着すると、そこには情報が周っているのか、武装した傭兵が十人ほど待ち構えていた。
「意外と対応が早いようですね」
カレンはナイフを抜いてすぐに前方に走り出す。傭兵の持つ銃が撃たれるがそれを弾いて、カレンはナイフの峰でその傭兵達を次々と殴り倒していく。それにアデーレとイシルドも加わり、あっという間に制圧をした。
「入口は、こちらですね」
それを放置して、カレンは地図を見ながら進んでいく。
「ここですか」
何の変哲もないボロ小屋の前でカレンは立ち止まった。とりあえず無言でドアを蹴り破る。中は無人で何も無かったが、カレンは部屋の中心に行くと隠されていた取っ手を掴み、その扉を持ち上げると隠されていた階段が姿を現した。
「暗いな、明かりがあったほうがよさそうだ。探してくる」
イシルドは一度外に出て行き、すぐにランタンを二つ持って戻ってきた。カレンはそれを受け取ると、先頭に立って階段を下り始めた。
しばらくすると階段は終わり、予想外に広くしっかりとした通路に出た。明かりもある程度はあったが、薄暗いのでカレンは慎重に進んでいく。
「こんだけのダンジョンがあるなんてな」
アデーレは石の壁に触りながらつぶやいた。
「確かに、これほどとは思っていませんでした。しかし、嫌な空気ですね」
「そうだな、ここには妙なものがいそうだ。気をつけたほうがいい」
イシルドはそう言うとサーベルを抜いた。それからしばらく歩くと、鉄の扉が左右に向かい合っている場所に到着した。
カレンはランタンを地面に置いてからまずは右の扉に近づいた。取っ手をつかみ、軽く押してみると意外と軽く扉は動き出し、カレンは一度手を止める。それから後ろの二人に目配せをすると、そのまま扉を慎重に押し開けた。
そこに銃を構えたアデーレがまず踏み込み、室内を素早く確認する。その部屋はそこそこの広さだったが、人影はなく、あるのは武器の類ばかりだった。
「ここは武器庫か」
アデーレは銃をしまうと、置いてある剣や銃を調べた。
「けっこう手入れされてるな、人の出入りはあるらしい」
「そのようですね、しかし、これだけの武器を準備しているというのは驚きです」
「戦争でも始めようってのかね」
アデーレはライフルを手に取り、それに火薬と弾を込め、雷管も装着させた。
「せっかくだから貰っていくか。イシルド、お前もなんか持ってけよ」
「そうだな」
そしてイシルドもアデーレと同じようにライフルを手に取った。それから三人は向かい側の扉の前に立った。
今度もカレンが扉に手をかけ、ゆっくり押し開き、イシルドがライフルを構えて最初に中に入る。一瞬その身体は緊張したが、すぐに落ち着いてライフルを下ろした。
カレンとアデーレも中に入ると、そこにはいくつかの檻があり、人間とも獣ともつかない白骨が散らばっていた。
「なんだこれ」
アデーレは檻に近づいて白骨に顔を近づけた。
「なんでしょうか? イシルドさん、わかりますか」
イシルドはライフルを置いて檻の中の白骨をよく見る。
「眷属の失敗作かもな。必ず成功するわけじゃなくて、失敗することもあるというのは聞いたことがある」
「しかし、ここには五体ほどありますし、眷属というのはこれ以上いるということですね」
「そうだな、失敗が多いというのは聞いたことがない。厄介なことになりそうだ」
「そうですね。この先は気を引き締めて行くべきでしょうか」
カレンは廊下に戻るとランタンを持って再び先頭を歩きだした。しばらくするとまた同じように左右に鉄の扉がある場所に到着する。
「またか」
「いいえ、妙な気配を感じます」
カレンは自分のショートソードを抜き、慎重に扉に近づいていく。あと数歩という距離になった頃、いきなり左右の扉が開いた。そして、そこからは全身を鱗のようなもので覆われた人間がそれぞれ一人づつ姿を現す。
「こいつら、吸血鬼の眷属か!?」
「そうだ! しかし完全じゃない」
「早く片付けるべきですね。下がっていてください」
カレンはランタンをアデーレに手渡すと、ショートソードに雷をまとわせ、一気に眷属に近づくと、一撃でその二体を倒した。カレンは手で後ろの二人に合図をすると自分は右の扉に飛び込む。
その中には二人の人間がいたが、カレンの姿を認めると手を上げて抵抗しようとしなかった。
「お、こっちは二人いたのか」
そこにアデーレが入ってきた。
「そちらはどうでした?」
「一人だけだった。まるで抵抗しなかったけど、それはこっちも同じみたいだな」
「そうですね。さて、あなた達はここで何をしていたのか教えてもらいましょうか」
カレンが両手を上げている二人に視線を移すと、その二人はほとんど同時に首を横に振った。
「み、見逃してくれ! 私達はここに無理やり連れてこられただけなんだ」
「どういうことです?」
「それはこっちが聞きたい、それよりもここから逃がしてくれ」
「その前に先ほどこの部屋から出てきたものについて、知ってることを話してもらいましょう」
「いや、それは、それはああぅぅぅぅぅぅぅ」
いきなり男が悶え始め、その身体に鱗が浮き上がってくる。カレンは素早く動いてまだ生身の首筋をショートソードの柄で打った。
男は前のめりに倒れて身体の変化も止まった。もう一人の男も変化し始めていたが、アデーレはすぐにカレンと同じように銃床でその男の意識を刈り取った。
「これはどういうことでしょうか」
「さあな、イシルドなら何か知ってるかもしれないぜ」
そう言ってる間に、イシルドが意識を失った男を抱えて部屋に入ってきた。その男は少しも変態していなかった。イシルドは倒れた男二名を見て、うなずくと抱えていた男を壁に寄りかからせる。
「イシルドさん、これがどういうことだかわかりますか?」
「呪いの一種だな。上級眷属はこういった不完全な眷属になら人間を変えることができる。まあ俺も実際に見るのは初めてだよ。こんなことをやったらその上級眷属はどんどん力を失うはずだからな」
イシルドの説明にアデーレは手を打ち合わせる。
「ああ、あいつだな」
「誰だ?」
「この町を仕切ってるボスっていう奴だよ。ちょっと前に痛めつけておいたからな」
「そうだったのか。しかし、なんだこんな地下で人を集めていたのか」
「夜になったら町に解き放つつもりだったのではないでしょうか。私達の行動は予想していたかもしれませんし、自分の組織の力を誇示して、支配を緩めないという目的にはちょうどいいのでしょうから」
「そうかもしれないな。とにかく奥に進めば、何か見つかるかもしれない。急ごう」
「そうですね」
カレンはうなずき、ランタンを手に取ると再び先頭に立って部屋から出て歩き出した。




