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相棒

「あれでよかったのか?」


 豪邸から出たアデーレは後ろを振り返りながらカレンにたずねる。カレンはそれに前を向いたまま答えた。


「多少危険ではありますが、これであちらが積極的に動くようになれば、何か起こるでしょう。そうすれば手間は省けます」

「そんなこったろうと思ったよ。それで、これからどうする?」

「もっと追い込むために、あの組織の拠点を潰していきます。そうすれば、あちらも焦っていくでしょうし、私達の支援者も増えるでしょう」

「なるほど、そいつはいい」


 アデーレはにやりと笑った。


「儲かりそうだし、俺も一枚噛ませてもらうぜ」

「ええ、それは助かります。では少し、宣伝に向かいましょうか」


 二人がそうしている頃、イシルドは自分が撃たれた崖に来ていた。ほんの数日前の出来事が、今は妙に昔に感じられた。崖の淵まで歩きそこから下を覗き込むと、よくもほとんど無傷で助かったと思える情景だった。


「こんなところで何をしてるんだ?」


 その声にイシルドはゆっくりと振り返る。


「アニエルド」


 イシルドは静かにその男の名前を呼んだ。その視線の先の男、アニエルドは拳銃を腰のベルトの左右に身に着けていて、背中には長い剣を背負っている。


「もう一度そこから落ちたいのか? イシルド」

「いいや」

「じゃあ、今度は俺をそこから落としたいか?」

「いいや」


 イシルドは無防備なまま、アニエルドに向かって足を踏み出し、そのまま数歩歩く。


「俺はお前が何をやっているのか、それを知りたい」

「いいねえ、そうやって落ち着いてこそのお前だよ、イシルド」

「話をそらすな」

「ああ、わかったよ。探しものだ」

「探しものだと? それが俺を裏切ったことと何の関係がある」

「邪魔になったからさ、お前の実力は俺が一番良くわかってるしな」

「つまり、お前は」

「ああ、そうだ。俺は狩るはずのものに惚れこんぢまってな、どうしてもあいつらに、吸血鬼に近づきたい」


 そういうアニエルドは遠くを見るような目をして、芝居のように両手を広げた。


「そうか、そういうことなら」


 イシルドはサーベルを抜いた。


「お前は今ここで倒す」

「そう言うと思った」


 アニエルドは笑いながら背中の長剣を抜いた。先手はイシルドで、サーベルを上から振り下ろす。アニエルドはそれを長剣で受け、逆に押し込んでみせた。


「元気じゃないか、イシルド。とてもここから落としてやったとは思えない」

「運がよかったらしくてな、自分でも不思議なくらいだ」

「それなら次はしっかりと止めを刺さないとな!」


 アニエルドは力を込めてさらにイシルドを押し込もうとしたが、それはイシルドが後ろに跳んだことで空振りになる。


 イシルドはそこに突きを放つが、アニエルドは勢いのまま地面を転がってその一撃をかわすと、すぐに立ち上がって後ろに下がり、長剣を両手で構えなおした。イシルドもすでに身体の向きを変え、右手でサーベルを中段に構えている。


 二人はその構えを維持したまま、円を描くようにゆっくりと動く。そして、二人は同時に地面を蹴った。二本の剣が火花を散らして激しく打ち合い、一度離れると、さらにもう一度剣がぶつかりあう。


「少し勢いが足りないんじゃないのか?」

「それはお前もな!」


 二人はもう一度同時に後ろに飛び退くと、イシルドはサーベルを左手に、アニエルドは長剣を右手で持ち、ほぼ同じタイミングで空いた手で拳銃を抜く。


「どうした、撃たないのかイシルド?」

「お前のほうこそ撃たないのか?」


 それから一拍おいて、二人は同時に横っ飛びをした瞬間、互いに一発ずつ撃った。どちらの銃弾も逸れていき、二人は素早く身体を起こすと、膝をついた状態で向かい合う。


 だが、アニエルドは長剣を放すと、ベルトから煙幕弾を取り出して地面に投げつける。弾が炸裂すると、あっという間にその場に白煙が立ち上ってその姿を隠した。


「今回はここまでだ。お前との決着はまた後でだ、じゃあな」

「待て!」


 イシルドは銃を構えたが、結局撃つことはせず、白煙が晴れてからホルスターに戻し、サーベルも鞘に収めた。


 それからイシルドが町に戻っていくと、なにやらそこは騒がしかった。騒ぎのする方向に歩いていくと、周囲に何人かの武装した人間やそうでない人間が周囲に倒れている小さな小屋を、野次馬が取り囲んでいる。


「何があったんだ?」

「何がって!?」


 手近な野次馬をつかまえると、その野次馬は興奮した様子で口を開く。


「物騒な女の二人組がそこに入っていったと思ったら、いきなり中で乱闘が始まったらしくてさ、ここはくそったれごろつきの溜まり場だったんだけど、中からどんどんそこら辺に倒れてるごろつきが叩き出されてきたんだ。いい気味だよなあ」

「それからその二人組はどうしたんだ?」

「ああ、それなら向こうのほうに向かったらしい」

「そうか」


 イシルドはすぐに男の指差した方向に歩き出した。


「あの二人だな。戦争でも始めたのか」


 そうつぶやいてイシルドが足を速めると、今度は商店が立ち並ぶ通りの真ん中に人だかりが出来ていた。イシルドがその中に入っていくと、やはりそこでも前と同じように何人もの武装した人間やそうでない人間が倒れている。


「これをやった二人組みはどこに行ったかわかるか?」

「それなら向こうらしいけど」

「そうか、ありがとう」


 イシルドはすぐにその場から離れ、教えられた方向に向かう。そこはこの町の中心近くで、役場などもあって、本来なら静かな場所だった。


 だが、今そこは戦闘の現場になっていた。しかし、それは落ち着いて見ると、戦闘というよりはほぼ一方的な蹂躙だった。


 その中の主人公とも言える二人、カレンとアデーレは素手で最後に残っていた武装した者達を打ち倒していた。


 イシルドはすぐにそこに駆け寄る。


「お前達、一体何を!」

「ああ、イシルドか。どうした、そんなに焦って」

「焦りもするさ、一体何をやってるのか聞いてるんだよ」

「この町を開放しようと思いまして、少し荒療治をしているところです」


 カレンは全く息を乱さずに落ち着いた様子で、答えた。


「たった二人でか」

「そうですよ」


 カレンはそう言ってから周囲を見回す。


「戦果は確実に上げていますし、問題も今のところありません」

「しかし!」

「おっと、待てよイシルド」


 アデーレが二人の間に入り、にやりと笑った。


「お前も付き合えよ。こいつはいい儲けになるぞ」

「儲けって、誰が金を出すって言うんだ」

「この町の住人に決まってんだろ。もうけっこう好意を受けとったりしてるんだぜ」


 そうしてアデーレは貨幣が詰まった袋をベルトから取り、イシルドの前で振ってみせる。だがイシルドは首を横に振ってため息をついた。


「まったく、賞金稼ぎってやつは」


 だが、すぐに真剣な表情になると目の前の二人を交互に見た。


「わかった、俺も付き合おう。最近のこの町は息苦しかったしな」

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