アジト
翌日、カレンはルミをウィゼに預けて娼館を出た。アデーレだけが一緒で、イシルドはすでに別に出かけていた。
「まさか、こんな真昼間にあの連中のアジトに殴り込みをかけるのか?」
「そうですね、とりあえず見ておこうと思うので案内してください」
「わかった、面白そうだしな。ついてきな」
アデーレはカレンを先導して早足で歩いた。それからしばらくして二人は高級そうな住宅街に足を踏み入れる。
「思ったよりいいところにあるんですね」
「まあ、この町を仕切ってる連中だからな。そりゃ高級な家だって欲しくなるだろ」
「それもそうですね」
「ほら、ついたぜ」
豪奢な門に門番が立っている、まるで要塞のような豪邸だった。
「また悪趣味な屋敷ですね」
「まあな。センスがありゃもっとそれっぽいところにアジト構えるだろうし」
「そうですね。では、軽く挨拶を始めましょうか」
カレンは何気ない様子で門に近づいていき、いきなり一人を打ち倒した。そしてもう一人も簡単に意識を刈り取る。それから鍵を奪うと、すぐに門の隣の通用口を開けて中に入った。
「これが軽くか?」
アデーレは倒れた二人を見てから、カレンに続いて中に入っていく。巡回していたらしい武装した傭兵風の三人が侵入者に気づいて拳銃を構えた。
「止まれ!」
当然カレンは止まらずに、三本の投げナイフを一気に投げて、それぞれの拳銃を手から落とさせた。カレンは隙をみせた二人、アデーレは残りの一人を倒す。
「で、これからどうするんだよ」
「中に入ります。警備が厳重なほうに進んでいけば、ここのボスというのにも会えるでしょう」
「そりゃいい考えだ」
アデーレは銃を手の中で回してからカレンの後に続いた。豪邸の中は静かで、あまり人の気配がしない。
「少し、妙な気配ですね」
「ああ、やばい感じがするぜ。ここは普通じゃない」
カレンはショートソードを抜き、アデーレも銃を右手に持った。二人はそのまま進んでいくが、予想と違い警備とは遭遇しなかった。
「困りましたね。これでは、どこに向かえばいいのかわかりません」
「困ってなさそうだな。あてがあるのか?」
「妙な気配をたどれば何かに遭遇できるでしょうから」
「すごい勘だな。まあいいか」
それからカレンを先頭にして二人が進んでいくと、妙にごてごてして巨大な扉の前に出た。それを見てアデーレはため息をつく。
「こりゃまた、いかにもだな」
「悪趣味でいいですね」
そう言ったカレンが扉に手を触れると、それはあっさりと開いた。中には霧が立ち込め、その奥には人影が一つ。
アデーレはいきなりそれに向けて一発銃弾を打ち込んだ。だが、人影は少しも揺らがない。
「ちっ、こいつ」
アデーレの舌打ちと同時に霧が晴れていき、そこから人影が踏み出してくる。
「不躾な連中だ」
その人影、上品そうな物腰と容姿の中年の男はカレンとアデーレを見てわざとらしいため息をついた。
「あなたは?」
「見てわからないかね? 私はデズル、ここのボスとでも言えばいいのかな」
「そうですか、あなたには聞いておきたいことがあります」
「何かね?」
「あなたが、あの吸血鬼の眷属を作ったのですか?」
「ふむ、そうだったらどうするかね」
カレンはショートソードをデズルに向けた。
「少し付き合ってもらう必要がありますね。あなたの部下のこともありますから」
「そうか、あれを倒したのは君達か。おもしろい」
そして、デズルは一歩踏み出す。カレンはそれに応じるように一歩踏み出した。
「あなたは吸血鬼ですか?」
「いいや、こいつは違うぜ」
デズルに答えさせず、アデーレがカレンの前に出た。そして残りの銃弾を一気に叩き込む。全ての弾はデズルの腹に命中し今度は一歩後退させる。
「本物の吸血鬼だったら、こんな普通の弾は全然効かないはずだよなあ。それなら」
アデーレは銃を腰のホルスターに収め、腰の後ろのホルスターから銃を抜く。それは今ま
での銃とは違い、銃身に何かの文字が刻まれている。そして、一発の銃弾が放たれた。
「な、なに?」
デズルは右肩を手で押さえた。指の間からは血が流れ出している。
「こいつは吸血鬼にだって効くんだが、眷属なら一発でもかなり効くだろ?」
そう言いながら、アデーレはさらにもう一発、今度は左ひざを撃ち抜いた。デズルは立っていられなくなり、その場に膝をついた。
「なぜ、ぐうぅぅ」
「意外そうな顔だな。まあ上級と言っても、眷属じゃその程度だ。相手が悪かったな。それじゃあ、あんたを眷属にした奴いついて教えてもらおうか。それとも、まだ撃たれたりないか?」
「ま、待て」
デズルからはすでに最初の余裕は消えていた。
「じゃあ少しだけ待ってやる」
だがデズルは口ごもり、三秒後、アデーレは銃の狙いをデズルの眉間に定めていた。
「遅いな」
そして引き金が引かれようとした瞬間、カレンが横から腕をつかんで止めた。
「待ってください、まだ早いですよ」
「そうか? 俺は無駄な時間ってのが嫌いなんでな。それに眷属を片付けていけばそのうち吸血鬼も出てくるだろ」
「それは効率が悪いやりかたです。それに、話さなくてもこの男には利用価値がありそうじゃありませんか」
「利用価値ねえ。わかった、とりあえず止めを刺すのはやめておくか」
アデーレは銃を下ろした。デズルはそれに明らかに安堵したようで、その場に座り込んだ。
「では、この町にあるあなたの組織の拠点を教えてもらいましょうか。地図でもあると助かりますが」
「あ、ああ、それならそこの壁に」
デズルが指さす先の壁に、布でできたこの町の地図が張られていた。カレンはそれに近づいていってはがすと、折りたたんで自分のポケットに入れた。
「行きましょうか」
「こいつはこのままでいいのか?」
「もう大したことはできないでしょうし、無駄弾を撃つこともないのでは」
「それもそうか。じゃあな、長生きできるようにこれからはおとなしくしとけよ」
アデーレはにやっと笑ってから銃をホルスターに戻した。そしてカレンとアデーレはそこから立ち去っていった。
「ぐぅぅ、おのれあいつら」
デズルはなんとか立ち上がり、部屋の奥に足を引きずりながら歩いていった。そして壁に手をつくと、そこが回転してデズルの姿はその奥に消えた
その先は小さな部屋で、壁は全て赤黒く塗られている。中心には燭台が置かれたテーブルがあり、デズルはそこに手をついた。
「この私を愚弄した罪、あいつらの命で贖ってもらおう」




