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用心棒

 夕方、カレンが椅子に座ってショートソードを研いでいるところにイシルドが戻ってきた。


「あんた、なに考えてるんだよ」


 イシルドはすぐにカレンを見つけると、問い詰める。カレンは特に表情を変えない。


「仕事ですよ。もうあの商店主から前金も受け取りました」

「そうじゃない。あんたが相手にしようとしてるのはこの町じゃ保安官も手を出せないような連中だぞ!」

「そうですか。それならもっと他のところからも賞金が出そうですね」


 カレンはショートソードを鞘に収めて立ち上がった。イシルドはその前に立ちふさがる。


「そんな暢気なこと言ってる場合か?」

「大丈夫だって」


 そこにユースが出てきた。


「昼だって、三人もあっという間に倒しちゃったんだから。銃の弾だってナイフでこう落としたりして」


 ユースはその場でナイフを振り回すようなふりをする。イシルドはカレンのことを見て、感心ともなんともつかない表情でため息をついた。


「ナイフで銃弾を落とすなんて、冗談だろ」

「あの程度の速度なら問題ありませんよ」

「あの程度って、それでももっと大勢に撃たれたらどうするんだ」

「今度は周囲に人もいないでしょうから、避けるだけです」


 相変わらず落ち着き払っているカレンに、イシルドはもう一度ため息をついた。


「わかった、俺も行く。命の恩人のあんただけを危険な目にあわせるわけにはいかない」

「ありがとうございます。ですが、相手には私が一人だと思わせておいたほうがいいので、最初は姿を隠しておいてください。乱戦になったらほどほどに援護してくれればいいです」

「本当にそれでいいのか」

「はい。いえ、そうでした、現場で見たことは他言無用でお願いします」


 それからカレンはユースに顔を向ける。


「ここが開くまでには帰ってきます」

「うん、いってらっしゃい」


 そしてカレンは昼間の場所、市場の入口に到着した。その目の前には、ならず者風から傭兵風まで、見えるだけで二十人という集団だった。その中の一人、昼間の男がにやにや笑っている。


「まさか、本当に一人でのこのこ来るとはな」


 男は玩んでいた拳銃をカレンに向ける。


「今更許してくれっていっても遅いぞ。お前はここで磔にでもしてやる、散々恥をかかせてくれた礼にな」


 男はそこで笑い声をあげ、他のならず者風の者も同じように笑った。だが、カレンは落ち着いた様子でショートソードに手をかける。


「偽造の契約書は持ってきましたか」

「ああ、持ってきてやったぞ」


 男は紙を取り出してそれを見せびらかすようにヒラヒラさせた。


「どうせお前はこれを手に入れられないけどな」

「約束を守ったのは上出来ですね。それを渡せば、この場は見逃してもいいんですが」

「はっ! 寝ぼけたことをぬかすな!」


 男が契約書を持っていないほうの手を上に上げると、同時に二発の銃声が響いた。だが、カレンは少し首と身体を動かした以外は微動だにしていない。


「伏兵ですか。悪い手ではありませんが」


 言い終わる前に前方に踏み出し、ショートソードを抜き放つ。その加速は驚異的で、さらに銃声が響いてもその銃弾は全くカレンをとらえられない。


 それは正面からの銃撃も同じで、全て避けられるかショートソードで弾かれてしまう。


 そこに傭兵風の男が槍を突き出したが、カレンはそれをつかんで引っ張る。傭兵風の男は前のめりになり、その鼻っ柱にカレンの膝がめりこんだ。その傭兵風の男は意識と身体の両方を飛ばしたが、さらに刀のようなものを持ったのと、短剣を持った男がカレンに向かってくる。


「死ねやあ!」


 まず短剣を持った男が身体ごとぶつかってきた。カレンは身を右方向に沈めながらそれをかわし、すれ違いざまに足をすくってそれをひっくり返して、頭から地面に落とす。


 そこに刀が振り下ろされるが、カレンは左足を軸に身体を回転させてかわし、その勢いのまま男の即頭部に蹴りを叩き込んだ。


 そして再びまっすぐと立ったカレンに、残った者達は飛び込めずに距離をとったままとりあえず囲む。さすがに銃弾をかわし、あっという間に三人を無力化したカレンに怯んだ様子だった。


「怯むんじゃねえ!」


 昼間の男が叫ぶが、ゆずりあいのような状況になっていて誰も足を踏み出さない。


「くそっ! 先生はまだか!」

「おーおー、盛り上がってるじゃないか」


 この場にそぐわない、のんびりとした声が響いた。そして姿を現したのは、銀髪を頭の後ろでまとめていて、腰のホルスターの左右に二丁、後ろに二丁と、両脇のそれぞれのホルスターに銃を収めた女だった。


「せ、先生! 遅いじゃないですか」


 昼間の男は満面の笑顔でその銀髪の女に駆け寄った。だが、いつのまに抜いたのか、その男の額には右手に握った銃が突きつけられている。


「気色悪いから近寄るなよ」


 昼間の男は慌てて後ろに下がり、それから銀髪の女はカレンのことをじっと見る。


「なるほど、あんたかなりできそうだな」

「そうですか。それはあなたも同じようですが」


 カレンは油断のない様子だったが、口調は自然で穏やかだった。


「わかってくれるかい、嬉しいねえ。あんた名前は?」

「カレン。そちらは」

「俺はアデーレだ。まあこの連中の用心棒にって雇われてな。あんたに恨みはないけど、そういう稼業だから仕方ないよな」

「それは私も同じです」

「いいねえ。おい! 他の連中は手を出すなよ!」


 アデーレの言葉に周囲の者達は後ろに下がった。アデーレはそれを満足そうに見てから、カレンに向かって笑った。


「さあ、やろうじゃないか」


 そして右手の銃を腰で構えた。カレンもショートソードを構える。アデーレはそれを見て楽しそうに唇を歪めた。


「あんた、銃弾を弾くんだってな。面白い芸だよな」

「それほどでもありません」

「じゃあ、こいつはどうだい」


 一瞬の早撃ちで六発の銃弾が発射された。カレンはその二発はショートソードで弾き、三発はかわした。だが、一発だけはかわしきれずに左の太腿をかすり、ズボンが破れて血が滲んだ。


「なるほど、確かにあなたの銃は早く正確ですね」

「そうだろ。それにしてもとんでもない動きだな」


 そう言うアデーレはすでに今の銃を地面に落とし、左手に新しい銃を構えている。


「まあ、今のはほんのお披露目だ。あと五丁の銃であんたは確実に追い込まれるぞ、カレン」

「私もおとなしくしているつもりはありませんよ」


 カレンはそう言って投げナイフのホルダーに左手をやる。


「いいねえ、ゾクゾクしてきたよ。こんな楽しいのは久しぶりだ」


 二人の間に張り詰めた空気が流れる。


「まさかあいつがこの町にいたとはな」


 ライフルを持った男を気絶させ、イシルドは建物の上階からその様子を見ていた。


「その前にあと一人か、まあちょうどいい」


 イシルドはライフルを手に持つと、それを簡単に確認して窓から構える。ちょうど向かいの建物の窓からライフルを構えている男を見つけると、そこに狙いをつけた。


「悪いな」


 そして引き金を引いた。

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