人ではないもの
銃声と爆発音が響くと同時に、まずはカレンが動いた。二本のナイフを一度に投げると、すぐに空いた左手でナイフを抜く。
アデーレの銃が火を吹き、二本のナイフが弾かれる。そして残り四発の弾がカレンに迫るが、それはショートソードとナイフで落とされた。
だが、アデーレは銃を捨てるとさらに右手で左脇のホルスターから銃を抜く。カレンはナイフを空中に放り上げ、再び投げナイフのホルダーに手をやって今度は残りの三本のナイフをつかんだ。
そしてその三本を一斉に投げたが、その三本はアデーレの銃弾で落とされる。残りの三発はカレンのショートソードで切り払われた。さらにカレンは左手のナイフをアデーレに向けて投擲した。
アデーレはそれに向けて弾を撃ちつくした銃を投げつけて落とすと、左手で右脇のホルスターから銃を抜いている。
二人はそこで睨みあい、膠着状態になった。
「あなたの銃はそれも含めて残り三丁ですね」
「あんただってもうナイフの残りはあんまりないだろ? その剣だけじゃ完全には防げないよな」
だが、そこで上から声が響いた。
「二人とも、もうやめろ!」
「イシルド?」
アデーレは声のした方向を見上げた。そこには建物の上階の窓から身を乗り出し、ライフルを構えたイシルドの姿があった。
「知り合いなんですか?」
カレンはアデーレに尋ねる。
「ああ、まさかこんなところで会うとはな。何の用だよイシルド! さっきの銃声はそのライフルだよなあ、今楽しんでるんだから邪魔するなよ!」
「その前に、お前もそんなくだらないことは止めろ! これ以上続けるつもりなら撃たせてもらうぞ」
「はいはい」
アデーレは銃を下ろした。カレンもそれを見て、ショートソードを下ろす。
「ちょっとちょっと、先生そりゃないですよ」
昼間の男が慌てた様子でアデーレに駆け寄ろうとする。だが、また銃を突きつけられて足を止める。
「気色悪いって言ったよな」
「ぐぅ!」
男はうめいたが、一歩下がると、両手を広げた。
「ハハ、アハハハハハ! 使えない! 全く使えない!」
その妙な様子にアデーレは後ろに下がって銃を構えなおした。
「こんなところでこの力は使いたくなかったよなあ。まあ慣れるにはいいだろ」
次の瞬間には男の身体を霧が包み込んでいた。そして、そこから足を踏み出すと、それはすでに元の男のものではなかった。
さらに、その全身が現れると、それは全身を緑色の鱗で覆われ、トカゲのような顔をした、鋭い爪を持つ化物だった。
「こいつ」
アデーレは絶句した。他の者達はそれどころでなく、一斉にこの場から逃げ出していった。だが、そんな中でもカレンだけは眉一つ動かさない。
「吸血鬼の眷属ですか?」
「グェグェ、その通りだ」
アデーレの問いにすでにトカゲの化物になった男は気味の悪い声をあげた。アデーレは銃を構えるが、その前にカレンが出る。
「とりあえず、私に相手をさせてもらえますか」
「あんた。いや、まあいいか、お手並み拝見させてもらうぜ」
アデーレは後ろに下がり、カレンのことを見守る態勢になった。
「待て! そいつはまずい!」
イシルドが上で叫んでいるが、カレンはそれを無視してショートソードを構える。
「ちっ!」
ライフルが火を吹き、その銃弾は確実にトカゲの胴体をとらえた。しかし、その鱗を貫けずに、それなりの衝撃を与える程度の効果しかない。イシルドはライフルを投げ捨てると、急いで下に降り始めた。
「なるほど、硬そうですね」
「グググ、まずはお前からか。形も残らないように八つ裂きにしてやろう」
そしてトカゲは地面を蹴った。その加速はその重そうな身体に似合わず、凄まじい速度でカレンの横を通り抜ける。カレンは身をかわしたが、頬に一筋の血が浮かび上がった。
「ゲゲ、うまく避けたな」
「思ったよりも攻撃範囲が広いようで」
今度はカレンが踏み込んで、ショートソードを振り下ろした。トカゲはそれを腕で受ける。鱗が一枚飛んだが、それだけで大したダメージはない。カレンはすぐにバックステップで距離をとり、トカゲの反撃をかわす。
そこで出来た隙を見逃さず、カレンは投げナイフを放った。それはトカゲの目に突き刺さり、聞き苦しい絶叫が響き渡った。
「ボ、ボォノレエ!」
トカゲはナイフを抜いてそれをカレンに向かって投げつけた。だが、それはあらぬ方向に飛んでいって地面に落ちた。
「反応はいまいちか。まあ元がアレだしな」
アデーレはすでに落ち着いて戦いを見ている。
「その程度ですか? 見かけだおしもいいところじゃありませんか」
「ボォノレボォノレエエエエエエエエエエ!」
カレンの挑発にトカゲが吼えると、傷ついた目のちかくの皮膚が裂け、そこから新しい目が飛び出してきた。
「げぇ」
アデーレはその気持ち悪さに唾を吐き捨てた。だが、カレンはそれ気持ち悪いものから目を逸らさない。そして、そこにイシルドが戻ってきて、何かを言おうとしたが、アデーレに止められる。
「黙って見てなよ。あんな化物にやられるような奴じゃない」
「しかし相手は」
「できそこないだろ」
その一言でアデーレは再び戦闘に目を向ける。イシルドは自分の銃を抜いていつでも撃てるようにして、同じように様子をみることにした。
「ゲレゲレゲレ、どうだ、お前の攻撃じゃ俺を倒せないのはよくわかっただろオ」
「そうですね、普通にやっていたのでは時間がかかりそうです。なので」
カレンがショートソードを軽く振ると、その軌跡にかすかに雷光が走る。
「一撃で決めることにします」
それから、突き出されたその刀身は激しい雷を帯びた。トカゲその光景に怯み、カレンは一気に距離を詰める。
「ギョワワワワワアアアアア!」
それが胴を一閃し、トカゲは絶叫を上げた。そのまま全身を痙攣させ、その場に崩れ落ちた。ショートソードが直撃した場所は黒焦げになっていて、見るからにすでにどうにもならないような有様だった。
そこにアデーレとイシルドもやってくると、トカゲの身体が霧に包まれ、数秒してそれが消えると、もとの男の姿に戻っていた。トカゲの時の外傷は消えていたが、ダメージはあるようで、虫の息だった。
カレンはショートソードを鞘に収めてから、男から契約書を取り上げ、ベルトにはさむ。それから立ち上がり、アデーレのことを見た。
「これで私とあなたが戦う理由はなくなりましたね」
アデーレはそれに思わず笑い出した。
「ハハハッ! そうだな、あんたと本気でやりあいたいとは思わなくなったよ」
それから、イシルドに顔を向ける。
「イシルド、あんたの話も聞かせてもらおうか。こんな面白い奴とどうして知り合ったのかとかな」
「わかった。それよりこいつはどうするんだ?」
イシルドは倒れている男を指さした。
「とりあえず運んで、話を聞きましょうか。色々知っていそうですし」
「わかった」
イシルドはため息をつくと、男を担ぎ上げた。
「そうだ、そういえばさっきの爆発はなんだったんだ?」
「ああ、あれは狙撃の奴のライフルを俺が撃って、それが暴発したんだ」
「相変わらずいい腕だな。まあ、話は後でだ」




