賞金稼ぎ
雨が降る中、二人の男が崖で向かい合っていた。
「なぜだ!?」
「答えならわかっているだろ?」
崖の淵の男に、もう片方の男は銃を向ける。
「わかるかよ! その銃を下ろせ!」
「いいや、ここでお前とはお別れだ」
言葉が終わると同時に銃声が響き、崖の淵の男はよろめいた。そしてその身体は崖から海に落ちていく。
「安らかにな、相棒」
銃を撃った男はそれだけ言ってその場を立ち去った。後には何も残ってはいなかった。
その翌日、浜辺に打ち上げられた男は、ある人物に見つけられていた。
「息はあるようですね」
その人物はとりあえず男に水を吐かせると、安全な場所まで運んだ。それから毛布を持ってくると火を起こし、男の服を脱がせて毛布をかけた。
それから数時間後、男は咳き込みながら目を覚ました。そして男は周囲を見回してから、自分を見守っている人物のことを認める。
「ここは? あんたは?」
「ただの通りすがりです。ここは浜辺ですよ」
「そうか、あんたが助けてくれたんだな。ありがとう」
男は身体を起こして焦点の定まってきた目で相手の顔を見た。男から見るとその人物の雰囲気は地味な女という印象だったが、顔の左上部、目と頬を覆う仮面と、所々皮で補強された服と、腰にあるショートソードと大振りなナイフが目に付いた。
「俺はイシルド、あんたは?」
「カレン、賞金稼ぎですよ。とりあえず服は乾いてますから、着替えてはどうですか」
「そうさせてもらおう」
イシルドは今の自分の状態に気づくと同時に、銃弾を受けたはずの肩が、包帯が巻かれているだけでなんともないのに気がついた。
「傷は浅かったので問題ありませんよ。すぐに治るでしょう」
「あ、ああ」
カレンはうなずいてその場を離れた。その間にイシルドは自分の服を身に着け、最後に残った自分の武器、サーベルとリボルバーの銃を見た。
どちらも無事なようだったが、とりあえず銃はシリンダーを外し、弾と湿った火薬を取り出した。それから弾は込めずに、元に戻すと立ち上がり、ベルトにサーベルと銃を収める。
「歩けますか?」
そこにカレンが戻ってきて口を開く。イシルドは軽く身体を動かして確認してみた。
「大丈夫そうだ。礼は町に戻ればできるはずだから、一緒に来てくれ」
「そうですね、付き合いましょう」
イシルドが歩き出すと、カレンはその後について歩き出した。そしてしばらく歩くと二人は港町に到着していた。
「俺の宿はこっちだ」
イシルドが到着したのは普通の宿ではなく、明らかに娼館であった。
「俺だ、開けてくれ」
少し経ってからドアが開くと、カレンは何も言わずに、イシルドに続いてそこに入っていく。中に入ると、そこには年のいった恰幅のいい女がいた。
「あんた、戻ってこないから死んでるかと思ったよ」
「あいにく生きてるぞ、ウィゼ」
イシルドはそう答えてから、後ろのカレンを親指で指差した。
「俺の恩人だ。賞金稼ぎみたいだから、あんたのところで用心棒にでもしてくれないか」
「へえ、それは面白そうだね。あんた、名前は」
「カレン」
「カレンね、うちの用心棒はけっこう忙しいけど」
「それなら問題はありません」
「大した自信じゃないか。まあ、そこまで言うならやってもらおうか、いいかい?」
「ええ、ちょうど仕事を探していたところですから」
「それなら今日から頼むよ」
「話は決まったな、俺は少し用があるから出かけてくる」
「無理すんじゃないよイシルド、ほら、あんたの財布だ」
ウィゼは財布を取り出してイシルドに手渡した。
その日の夜、カレンは娼館の入口に椅子を持ってきて座っていた。その目の前を様々な客が通過していったが、特に問題は起こらない。
「カレン、この人を送っていってくれないかい。後についていけばいいからね」
初老の男を伴ったウィゼがそう言ってきた。カレンは黙ってうなずくと、杖を持った初老の男の後について館を出た。
それからしばらくして、初老の男は口を開いた。
「初めて見る顔ですね。しかし、常連の私の護衛を任されるところをみると、あそこの主に信頼されているようで」
「そうですね。紹介者が良かったのでしょう」
「それはイシルド君かな。しばらく姿が見えなかったが、無事でなによりだ。ところで君の名は」
「カレンです」
「私はハイデル。この歳であんなところに行っているのを見て驚いたかね?」
カレンはそれには無言で答えた。
「まあ話相手もいなくてね。それに酒場なんかでは落ち着かないから、あの店でいつも適当にしゃべらせてもらっているんだよ」
「悪い趣味ではないと思います」
カレンはそれだけ言ってから、いきなりハイデルの前に出た。そして、ナイフを逆手で抜くとそのまま目の前の虚空に突き立てる。そこからは血が流れだし、カレンがナイフを引くと、一匹の大きな蝙蝠が地面に落ちた。
「これは」
「ふむ」
ハイデルは地面に落ちた蝙蝠をしゃがんでよく観察した。
「吸血鬼の使い魔ですよ。こんな町中になんの用があったのだろうかな」
「吸血鬼ですか」
カレンはナイフを鞘に収め、蝙蝠を見下ろすが、それは霧となって消えてしまった。
「確かに、これは普通の生物ではありませんね」
「その通りだよ。吸血鬼というのはその気になれば人間も使役できる存在だ。ハンターはいる、例えばイシルド君がそうだが、うまくいかないことも多い。だからこそ、一攫千金が狙えるのだがね、吸血鬼ハンターというのは」
それだけ言ってハイデルは再び歩き出した。
一方、イシルドは町のうらぶれた酒場にいた。その酒場の隅のテーブルに自分の銃を取り出し、丁寧に分解と掃除をして、火薬と弾を込め直していた。それが全て済むと、イシルドは銃を組み立て、腰のホルスターに収める。
それからイシルドは外に出て夜空を見上げた。しかし、その視界を何者かが遮った。
「アニエルドォ!」
イシルドは銃を抜いて上空に構える。その先には、屋根に立つ一人の男。
「生きていたとは、しぶといな。さすが俺の相棒だ」
「元、相棒だ。お前は俺を裏切った」
「裏切ったか、まあそうだよなあ」
アニエルドはそう言ってから、声を出さずに高笑いをした。
「まあお前が生きてたのは嬉しいよ。楽しみが増えるからな!」
そしてアニエルドはその場から跳躍して姿を消した。イシルドはそれを黙って見送り、静かに銃をホルスターに戻して歩き出した。




