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真の姿

 リシカとヒスクが互いに握りしめた手を中心に、一筋の闇の柱が空を貫き、それを中心として闇のゲートとでも言うべきものが形成された。


「ダークネスワイズドラゴンだと?」


 ベンハルトはそれを見上げながらつぶやき、フローニカは黙って息を呑む。タマキだけは空ではなく、地上の二人をじっと見ている。


 空中に形成された闇のゲートから徐々に、漆黒のオーラをまとった何かが出てくる。その圧力は戦っていた白い竜と黒い竜の動きも止めた。


 漆黒のオーラをまとったものは、すでにその体の半分を現していた。そして時が止まったと錯覚するような空間の中で、それが全身を現すと、それはスマートで長身な体躯の、翼で体を覆った漆黒のドラゴンだった。


 そのドラゴンはそのまま地面に降り立つと、その瞳でリシカとヒスクをじっと見つめる。


「我が力を求めしは汝らか」


 低く響く声が眼下の二人に問いかける。だが、その迫力にもリスクとヒシカは動じずに真っ直ぐ見返す。


「そうだ!」


 リシカとヒスクは力強く答えた。心なしか立っているドラゴンはその瞳に面白そうな色を浮かべる。


「正解にたどりついた者がいたか。我が力で何を望む?」

「平穏と目の前の危機の解決を!」

「我が力と知の両方を求めるか。よかろう」


 その声が終わると同時にドラゴンは翼を開いた。漆黒のオーラがその身体の周囲に広がり、そのドラゴン、ダークネスワイズドラゴンの格好が明らかになった。


 レッドバーストドラゴンや、今は動きを止めている白い竜や黒い竜のような重厚な姿とは違い、その姿はあくまでもスマートで、二本の足で真っ直ぐに立っているのが印象的だった。


「我が力の持主達よ、その願い叶えよう」

「行け! ダークネスワイズドラゴン!」


 リスクとヒシカが同時に叫ぶと、そのダークネスワイズドラゴンは一気に上空に舞い上がった。


「速い!」


 ベンハルトはその速度に思わずうめいた。そのドラゴンはあっという間に白い竜を貫き、四散させる。さらに、黒い竜の頭をつかみそれを握りつぶすと、その残滓をその身に吸収した。


「大した力だな。でもあんだけ力出して大丈夫なのか」

「それなら心配はないぞ」


 突然タマキの頭の中で次元の管理人の声が響いた。


「不安定さの原因だった力はすでに安定したようだ。だが、その世界にも前と同じような障害が発生しているようだ」

「それなら大丈夫だ。すぐに解決する」

「では、終わったらまた連絡をしよう」


 次元の管理人との話を終わらせたタマキは、再び上空を見上げる。そこでは四散させられた白い竜の欠片と雲から落ちていったものが集まり、再び同じ姿をとっていた。


 ダークネスワイズドラゴンはそれにたいし、あくまで余裕のある様子だった。それから顔をリシカとヒスクに向ける。


「さあ! そいつに止めを!」


 二人が叫ぶと、ダークネスワイズドラゴンは顔を上げた。そして、腕の間に黒いエネルギー球を形成していく。


 白い竜は口に白い炎を漲らせると、ダークネスワイズドラゴンの攻撃よりも先にそれを放つ。その白い炎をぎりぎりまで引きつけると、黒いエネルギー球はゆっくりと前方に動き、一気に膨張した。


 白い炎はそれにぶつかり、激しい衝撃を巻き起こす。しかし、その勢い全てを吸収するように黒いエネルギー球は大きくなっていく。数秒後、最初の数十倍に大きくなったエネルギー球から、巨大な黒い光線が発射され、白い炎を飲み込みながら、白い竜に向かっていった。


 その光線は広がりながら、白い竜の全身を消し飛ばした。後には塵の一つも残らず、再び再生する気配もなかった。


 しばらく後、オーゲンが戻ってきて、町にいた怪物は突然全て消えてしまったことがわかった。


「しかし、これは凄まじいな。こいつとだけは戦う気がしない」


 オーゲンの視線の先には地面に真っ直ぐ立つダークネスワイズドラゴンがいた。


「ふん、情けない」


 ベンハルトはそう言うが、あまりその態度に力強さは感じられない。そんな中、そのドラゴンはタマキのことを真っ直ぐ見下ろした。


「そこの男、少し話がある」

「ああ、別にいいぞ」

「我が背に乗るがいい」


 タマキは言われたとおりダークネスワイズドラゴンの背中に乗り、一緒に空高く舞い上がった。


「お前はこの世界のものではないな。それに、力も隠している」

「ああ、そうだ。さすが、英知の存在ってやつか」

「お前の目的は達成されたようだな」

「幸いな。お前にも礼を言っておこうか。ありがとうな」

「こちらも礼変わりに一つ教えてやろう。お前にはこれから苦しみと激しく孤独な戦いが待っている、だが、その戦いを乗り越えられればお前は更なる力を手に入れることができるだろう」

「ご忠告どうも。ところで、俺のことは聞かなくていいのか?」

「この世界からはすぐに去るのだろう。それに必要なことはすでに知っている」

「そうか。まあ、あの二人のことはよろしくな」

「無論だ」


 その翌日、ベンハルトはレッドバーストドラゴンにフローニカと共にまたがっていた。


「それではさらばだ。お前達も達者でな」


 事情は何も言わず、ベンハルトはそれだけ言うとその場から飛び去っていった。


「あいつはこれからどうするつもりなんだろうな」


 タマキがつぶやくと、オーゲンは自分の顎を手で撫でる。


「まあ、こいつらに手を出そうとは思ってないだろう。あの力がわからないような奴でもないだろうからな」


 それからオーゲンはリシカとヒスクに目を向ける。


「お前達はどうするつもりなんだ?」

「僕達は旅を続けます。そのうち安心して過ごせるような場所が見つけられればいいとは思ってますけど」

「そうか、どうせなら俺もついて行くことにしよう。かまわないか?」


 オーゲンの言葉にヒスクはうなずいた。


「はい、よろしくお願いします。あの、それでタマキさんは」

「俺はここでお別れだ。まあ、また会うなんてことはないだろうけど、もしそうなったらよろしくな」


 タマキは笑顔で手を上げ、三人に背を向けて歩き出す。それからしばらくして、リシカだけが追いかけてきた。


「待って」


 タマキは振り返った。


「どうした、あいつらと一緒に行くんだろ」

「この世界の人じゃないんでしょ、なのになんであそこまで」

「仕事というか、趣味というかな。まあ気が向いたんだよ。それよりもよくそのことに気がついたな」

「あの竜から伝わってきたから」

「そうか。まあ、相棒達と仲良くやっていけよ」

「これからどうするの?」

「色々だ。あんまり俺のことなんて気にするな。じゃあな」


 それだけ言ってタマキは再び歩き出す。リシカはその背中を見送りながら、口を開いた。


「ありがとう! 忘れないから!」


 タマキは振り向かずに手を振りながら去っていった。

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