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迷いと決意

「おのれ! 姿を真似ただけの下等な存在が!」


 ベンハルトは勇ましく吼えているが、劣勢は明らかだった。レッドバーストドラゴンには明らかにダメージが蓄積していて、攻撃の威力も落ちてきている。


 だが、そこに漆黒の竜が飛来し、いきなり白い竜に長い尻尾で一撃を加えた。それで白い竜の体は大きく傾く。


「なんだあれは!」


 ベンハルトはうめくように言うと、そこにフローニカが走ってきた。


「フローニカ! これはどういうことだ」

「あれは災厄の力です。リシカという少女が発現させたのですが」

「が、なんだ」

「どうやら制御はできていないようです」

「ほう、それでは気を抜くわけにはいかんな」

「しかし、殿下のドラゴンも傷ついています。ここは一旦引くべきです」

「そうだな、ここは様子を見るべきか。戻れレッドバースト」


 レッドバーストドラゴンは姿を消し、ベンハルトは白い竜と漆黒の竜の戦いを見上げてからフローニカと向き合った。


「案内しろ。災厄の力の持ち主を見てみなければならん」

「はい」


 そして二人がリシカの元に到着すると、そこにはただ立ち尽くすリシカと、それを見守るタマキとヒスクの姿があった。


「どういうことだ!」


 ベンハルトの鋭い声にタマキは視線をそちらに向けた。


「話は聞いたんだろ、それだけのことだよ。それより、これからのことを考えないとな。まずはリシカを正気に戻さないと、あの竜が何をするかわかったもんじゃない」

「では、どうするつもりだ」

「リシカが自分の力を使えるようにする。それ以外に手はない」


 それからタマキはヒスクの隣に立ち、その肩に手を置いた。


「やっぱり、お前がなんとかするしかないな。もう一度、やってみるんだ」

「はい」


 ヒスクはリシカの前に立ち、その額に手を置こうとした。


「違う、今度は背中だ。痣に直接触れてみろ」

「わ、わかりました」


 ヒスクが服の上から背中に手を置こうとすると再びタマキが口を開く。


「背中に直接だ。恥ずかしがってる場合じゃないぞ」

「は、はい。ごめん」


 ヒスクは少し躊躇してから、リシカの服をめくって背中の痣に直接手を触れた。


「気持ちを落ち着けて意識を集中するんだ。呼びかけるのも忘れるな」


 タマキの言葉にヒスクは黙ってうなずき、目を閉じた。


「リシカ、戻ってきて。こんなところで、終わるなんて、そんなことあっていいわけないじゃないか」


 その言葉に応じるかのように、リシカの背中の痣が光り、そのシルエットが浮かび上がる。


「これは、なんだというのだ」

「黙って見てろ」


 タマキの制止に、その場の雰囲気は静かになった。その間にも痣のシルエットは光りを増していき、そこからの光で周囲が照らされていく。


「リシカ! 目を覚まして!」


 ヒスクが叫ぶと、リシカの目がゆっくりと開き、ヒスクに向かって振り返った。ヒスクはすぐに手を背中から放すと、前にまわって両肩に手を置く。リシカは正面のヒスクの顔をぼんやりと見つめた。


「ヒスク、あたしは?」

「よかった」


 ヒスクは大きく息を吐き出した。おもむろにその横にタマキが立つ。


「リシカ、今、自分の力を感じられるか?」


 リシカはまだぼんやりとした表情で、首を横にゆっくりと振った。


「わからない。でも、まだあたしの中に感じられる」

「そうか、よし、竜のところに行くぞ」

「待ってください! こんな状態じゃ」

「今は荒療治のほうがいい。安心しろ、お前達は俺とあっちの王子様が守るさ。行くぞ、王子様、いや、ベンハルト!」

「ふむ、まあよかろう」


 ベンハルトはうなずき、五人は二体の竜が見える場所まで移動した。二体の竜の戦いは互角のようで、どちらも目立った傷はなく、戦いは膠着状態にあるように見えた。


 ヒスクに支えられたリシカはその白い竜と黒い竜を見上げる。


「あれは、あたしが出したの?」

「それも覚えてないか、黒いほうはお前が出したんだ。あいつと何かつながりっていうか、そういうものは感じないか」


 リシカはゆっくり首を横に振る。


「わからない。本当にあれはあたしから? そうだとしてもどうすれば」


 その言葉にタマキは少し考え込むような仕草をした。それから、上空の二体の竜を見上げる。


「あれは力のほんの一部でしかないのかもな。それが暴走してるだけなのかもしれない」

「それじゃ、どうすれば!?」

「ヒスク」


 リシカは自分の力で立つと、ヒスクに自分の右手を差し出した。


「リシカ?」

「あたしの手を握って」

「うん、わかった」


 ヒスクは自分の左手をそれに重ねると、リシカと一緒に上空の竜を見上げた。


「ずっと、どこかに自分の力を使うのを怖がって迷ってたのかもしれない。でも、ずっと力を使う練習をしてて気づいたの。一人じゃ駄目なんだってことが」

「でも、僕なんかじゃ」


 リシカはすぐに首を横に振ってヒスクの言葉を否定した。


「ヒスクじゃないと駄目。あたしとずっと一緒にいてくれたあなたじゃないと」


 ヒスクは迷いを捨てた目になり、力強くうなずく。


「うん、わかった」


 二人の握った手に力が込められる。すると、リシカの背中の痣が強い光を発し始めた。


「災厄の力でもなんでもいい、あたしはヒスクを信じるし、自分のことも信じる」

「僕もリシカを信じてる。どんな力だって、きっときちんと使えるよ」

「ありがとう、ヒスク」

「ありがとう、リシカ」


 二人が同時につぶやくと、リシカの背中の痣から発していた光が二人を包み込んだ。それから、その光は二人のつないだ手に集中していく。


 そして、リシカの背中から痣が腕を伝って、二人のつないだ手に移動し、ヒスクは顔を歪める。だが、それでも手は放さず、それを受け入れていった。


「わかるよ、リシカはいつもこんなものを背負っていたんだね。でも、これからは僕も一緒に背負っていく」

「今までだってそうだったじゃない。なにも変わらないよ」


 二人が同時に顔を見合わせて笑いあうと、つないだ手が一瞬強く光った。光りが消え、二人が手を放すと、そこには今までリシカの背中にあった痣が二つに別れ、半分ずつ存在していた。


「ヒスク、もう一度手を」

「うん、今なら僕にもわかる」


 手が再び握られた。それから二人の口が同時に動く。


「全てを統べる英知の存在よ! 現れてその威容を見せよ! ダークネスワイズドラゴン!」

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