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暴走

 オーゲンとベンハルトの戦いの衝撃は町にも伝わってきていて、宿のリシカとヒスクは何事かと外に出ていた。町のほかの住人も外に出て空を見ている。


 そしてそこからでも空で光が炸裂したのが見え、少し遅れて衝撃が町にも到達しすると、人々は思わず顔を伏せる。


「今のはまさか」


 リシカがつぶやくと、ヒスクはうなずいた。


「たぶんタマキさんとオーゲンさんの行った方だ。もしかして」

「戦ってるんじゃないの。やる気満々みたいだったし」

「大丈夫かな、二人ともすごく強いのはわかるけど、相手が相手だし」

「さあ、放っておけばそのうち戻ってくると思うけど」


 そう言うとリシカは先に宿に戻っていった。ヒスクはすぐにその後を追わずに空を見上げていたが、すぐにその後を追う。


 だがその途中、突然空に黒い雲が広がっていった。それはあっという間に町の上空に広がり、局地的に夕方のような暗さを作り出す。そして、そこから雲を構成する黒いものが一気に町に降り注いできた。


 それは地面に到達すると、次第に集まっていき、人間の二倍ほどの大きさの塊になっていった。それはどかそうとしても動かず、町の住民達は困りきっていた。


 だが、それだけでは終わらず、その困惑は数十分後には町全体を包むパニックになっていた。黒い塊の中からは雑多な怪物としか言えないものが現れていたからだ。その内容は巨大なサソリやハチ、他にもカエルのようなもの等、サイズからして凶悪そうな生物ばかりだった。


 町の警備兵達が走りまわり、なんとかそれに対応を始めたが、到底手は足りず、町の被害もどんどん広がっていく。


「すごいことになってるみたいだよ」


 宿の部屋に戻っていたヒスクが外を見ながら言った。リシカもその横に並んで外の様子を見る。


「本当、ここも危ないかもね」

「早くタマキさん達が戻ってきてくれるといいんだけど、あの人たちならこの騒ぎもなんとかしてくれそうだし」

「それまで持ちこたえられるかどうかね。あの外の怪物がいつここに入ってくるかわからないし」

「大丈夫、その時は僕がリシカを守るから」


 ヒスクは手槍を持って軽く構えてみせる。


「戦いに飛び出していったりしないでね。いざとなったら別に逃げたっていいんだから」

「まさか、そんなことはしないよ」


 町がそういった状況になっている頃、オーゲンとベンハルトはやっと互いの召喚獣を収めていた。


「やるな。我がレッドバーストドラゴンとここまで戦える者は初めてだ」

「ああ、こっちもだ、と言いたいところだが、お前は二人目だ」

「なに? その一人目というのは何者だ」

「あいつだよ」


 オーゲンはフローニカの前に立つタマキを指差した。ベンハルトはタマキとドゥームデーモンのことを一瞥してから口を開く。


「ほう、お前名はなんと言う」

「タマキだ。こっちはドゥームデーモン、召喚獣だ。それより、少しは自分の従者に気を使ったほうがいいと思うけどな」

「おお、そういえばそうだったな。怪我はないかフローニカ?」

「はい、こちらの方に守って頂いたので大丈夫でした」

「そうか、タマキとやら、とりあえず礼を言っておこう」

「まあそれは受け取っておくとして、町のほうがどうも怪しい状況みたいなんだけどな」


 タマキが町の方角の空を指差すと、そこには禍々しい暗雲が広がっていた。オーゲンはそれを見て顔をしかめる。


「おいおい、あれはなんだ? 恐ろしく危険な気配がするぞ」

「フローニカ、ああいった現象に心当たりはないか?」


 ベンハルトの問いにフローニカは一歩前に出た。


「あのような現象は見たことがありません。何か非常に危険そうですね、興味深いことです」

「そうか、それならば早速行ってみるぞ」


 ベンハルトはレッドバーストドラゴンに飛び乗り、近くに来たフローニカを引っ張り上げた。それからタマキとオーゲンを見る。


「お前達も乗っていくがよい。ただし、召喚獣は消しておいてもらうが」

「そりゃ助かる」


 タマキがそう言うとドゥームデーモンが消え、オーゲンもそれを見て自分のシルバーファングタイガーを消した。


「さあ、どこにでも乗るが良い!」


 タマキとオーゲンはベンハルトとフローニカから少し距離をとった位置に乗った。


「行くぞ!」


 レッドバーストドラゴンは力強く羽ばたき、飛び上がると一気に町を目指す。その速度は驚異的で、瞬く間に町の付近まで到着した。


 上空から見ただけでも町からは火の手が上がっていて、ただ事ではない様子がうかがえる。ベンハルトは町の近くにドラゴンを着地させた。


「よし、お前は町の上空で待機していろ」


 ベンハルトの言葉に四人を降ろしたレッドバーストドラゴンは再び飛び上がった。


「さて、行くぞ者ども!」


 そう高らかに宣言してベンハルトは町に向かって歩き出した。


「おもしろそうだな」


 オーゲンはそうつぶやきながらそれに続いた。タマキはその二人を見ながら、フローニカの顔を見た。


「あの王子様はいつもあんな調子なのか?」

「は、はい。でも悪い方ではないんですよ」

「それはわかるし、俺もあいつとは気が合いそうだ。まあもう少し周りに気を使ってくれてもよさそうだけどな」

「それはそうなんですけども」


 そこで町から轟音が響き、黒い影のようなものが一気に立ち上った。タマキはそれを見ると軽く額に手を当てた。


「これは急いだほうがよさそうか。あんたはここで待ってたほうがいい」


 それだけ言うとタマキは走り出し、前の二人を抜いて町に突入した。そこは巨大な昆虫や良くわからない生物が徘徊したり破壊行為をしたりしていた。


「これはまた、まあ、こいつらの相手は頼むぞ!」


 タマキは後ろの二人にそれだけ言うと、適当に怪物を殴ったり蹴ったりしながら走った。そして、泊まっている宿の前まで到着すると、そこには気を失ったリシカとそれを守るようにして、だがどうすればいいのかわからない様子のヒスクがいた。さらに、背後の宿は燃えている。


「大丈夫か」


 タマキが声をかけると、ヒスクはタマキの姿を認め、構えていた手槍を引いて安心したような表情を浮かべる。


「タマキさん、良かった」

「何があったんだ」

「それが、僕とリシカは宿でおとなしくしてたんですけど、あの怪物達が宿に乱入してきて、そしたらリシカの中からまたあれが出てきたんです」


 明らかにヒスクは動転していたが、タマキは一応状況を理解したらしかった。そしてタマキは上空の黒い影のようなものを見上げる。


「わかった、後からオーゲン達が来るからそれと合流してリシカを守ってやれ。あっちは俺がなんとかするから」

「はい、お願いします」


 タマキはその返事にうなずいてから、上空の黒い影目指して歩き出した。

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