悪魔の力
「さて、あれはちょっと手強そうだな」
「ああ、前回よりも遥かに強い力のようだ。今出せる程度の力でどうになるかな?」
「大丈夫だろ、分身の力を限界まで使えば押さえ込めないこともないはずだ。まあ頑張ってくれよ」
「お前は何もしないつもりか。まあそれもよかろう」
「色々あるからな、それじゃ、頼むぞ」
タマキが指を鳴らすと、ドゥームデーモンとしての分身が現れた。
「行け! ドゥームデーモン!」
ドゥームデーモンは無言で上空の影、さっきまでよりも竜のような形をしっかりととっているものに向かって上昇していった。それを見送ったタマキは周囲を見回して拳を打ち合わせる。
「さて、あっちはとりあえずあいつにまかせて、俺はこっちをやっとくか。おい、そこにいるんだろ、クリーチャーさんよ」
その声に応じたように、人間ほどのサイズのカマキリが姿を現した。タマキは地面を蹴ると、一瞬でそれとの間合いを詰める。
「悪いな」
タマキの拳がカマキリの頭部を一撃で吹き飛ばした。すると、倒れたその生物の残骸は霧となって散ってしまう。
「こいつはなんだ?」
タマキはその霧となったものを調べようとしたが、すぐに背後からまた違う生物、今度は巨大なザリガニのようなものが現れた。
「全く、なんかの博覧会かね」
しかし、それは背後からの大剣の一撃で真っ二つにされた。そしてそれを握ったベンハルトが姿を現す。
「タマキ、あの空の影はなんだ?」
「さあな、とにかく今はあっちの影のほうをなんとかするつもりだ。あんたはあの竜で雲のほうを頼むよ」
「ほう、まあ良かろう。しかし、地上の化物どもはどうするつもりだ?」
「それはまあ、一匹ずつ駆除していけばいいだろ。俺達二人でな」
それを聞いてベンハルトはにやりと笑う。
「いい度胸だ。そういうことならばつきあってやろう」
それからベンハルトは剣を天に突き上げた。
「レッドバーストドラゴン! 天にある暗雲を蹴散らすがいい!」
その声に応じ、空から咆哮が聞こえてきた。
「それでは、お前の力を見せてもらおう」
「その暇があったらな」
さらに姿を現した巨大生物にタマキとベンハルトは対峙した。
そして上空ではドゥームデーモンが黒い竜の影と対峙していた。
「確かに前回よりも強い力のようだな」
次の瞬間、竜の影は黒い火の玉を吐き出していた。ドゥームデーモンは魔法の盾を展開してそれを受け止めるが、四散させることはできずに、勢いを逸らして空に飛ばすのが精一杯だった。
「この体ではこの程度か。だがこれもおもしろい」
それからドゥームデーモンは手のひらに火の玉を発生させると、それを竜の影に向かって投げつけた。それは竜の影に直撃したが、全く動かすことはできない。
「やはり駄目か。まあいい」
ドゥームデーモンは高速で移動し、竜の影の上に出る。そしてそこから細かい氷の牙を降らせた。ダメージは与えられないようだが、竜の影の注意は上空に向けられる。そして、その口にあたる場所から黒い炎が噴出した。
だがドゥームデーモンは高速飛行してそれをうまくさけながら、徐々に竜の影との距離を縮めていく。そして、その頭部にまで到達すると、そこに右手を当てた。
「十倍、か?」
その手から強力な爆発が起こり、さすがに竜の影もいくらか後退した。ドゥームデーモンはさらに間髪入れずにその胴体に蹴りを叩き込み、一気に距離をとる。
竜の影はすぐに体勢を立て直すと、咆哮をあげて連続で黒い火の玉を飛ばした。ドゥームデーモンはそれを回避するが、小さいが速度の速い一発が回避できないタイミングで迫ってきた。
ドゥームデーモンは魔法の盾でそれを逸らすが、その火の玉はさらに連発で放たれる。
「力が増しているのか?」
その火の玉をさばきながら、ドゥームデーモンは余裕が持てる距離にまで後退した。
「このままではどうにもならんな。我が真の力が使えれば簡単なのだが」
そう言っている間にも、竜の影からの攻撃は激しさを増し、どんどん余裕はなくなっていく。
「仕方がない。この体ではあまり長い間は持たないが」
その言葉と同時に、漆黒の甲冑が弾け飛んだ。そして兜の一部だけが仮面のように残り、後はタマキとほぼ同じ姿となった。
「少しだが、我が力見せてやろう」
ドゥームデーモンを中心に力の波動が広がる。次の瞬間には、その体は竜の影の攻撃を潜り抜けてその背後に回っていた。
「静まるがいい」
その左手に雷をまとわせ、竜の影翼の付け根の中心に叩きつけた。激しい雷光が発生し、竜の影はまるで苦悶しているかのようにその身を仰け反らせる。
ドゥームデーモンはさらに力を込め、さらに激しい雷光を巻き起こした。竜の影は徐々に、末端から霧のようになって消え始め、数十秒後には体の全てが霧散していた。
「終わりか。だが、この体も限界だな」
それと同じようにドゥームデーモンの体も消え始める。
「これがこれ以上の力を出したら、この体では止めるのは難しかろう」
そして、ドゥームデーモンの体は消えた。
下で一段落したタマキはその様子を見上げて、一つため息をついた。
「なんとかなったか。あとはあの雲だな」
レッドバーストドラゴンが暴れて雲を散らしていて、多少は小さくなっているようにも見えたが、町の上空の暗雲は依然としてそこにあった。
「我がレッドバーストドラゴンでも消せないとは、一体なんだと言うんだ、あの奇妙な雲は!?」
ベンハルトが吼える。
「さあな、でもあの妙な生物はもう現れなくなってるようだし、ひとまずは大丈夫になったんじゃないのか」
「うむ、確かにそれはそうだな。ここは一度状況を確認すべきか。戻れ、レッドバースト!」
ベンハルトの声に応じて一つ声を上げると、レッドバーストドラゴンはその姿を消した。
「タマキよ、この場を治めるために、貴様にも協力してもらおう」
「ああ、別にかまわないぜ。まずはオーゲン達と合流だな」
「うむ、よかろう。フローニカならば何か考えがあるかもしれん」
「随分信頼してるんだな」
「あいつは器量も要領も良くはないが、頭だけはいい。だからいつでも連れているのだ」
「へえ」




