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真紅の竜

 タマキがリシカとヒスクと出会って数日が経っていた。ヒスクは日に日にその技量を順調に伸ばしていた。だが、リシカのほうはそれほど順調ではなかった。


「ああ! こんなんじゃ!」

「落ち着けって、焦ったところでうまくいくわけじゃない」


 いらついている様子のリシカにタマキはのんびりとした様子で声をかける。だが、リシカはおさまらない様子だった。


「でもこれじゃ」

「一度も暴走させてないんだから大したもんだろ。それだけでも進歩してるさ」


 そう言われて、リシカは少し落ち着いたようだった。だが次の瞬間、タマキは上空を見上げた。


「何か来るな」

「え?」


 リシカがつぶやいて上空を見ると、何か巨大なものがそこを通過するのが見えた。それはよく見えなかったが赤い、竜のように見えた。


「なんなんだ、あれ?」


 タマキの言葉に、リシカは上空を見たまま口を開く。


「聞いたことがあるんだけど、フラウト皇国の王子にものすごい召喚獣を使うのがいるって」

「へえ、じゃああれはその王子かもしれないのか。ひょっとして、俺達目当てかもな」

「そんな暢気なこと言ってられるわけ」

「安心しろ、多分そいつの目当ては俺とオーゲンだ。お前とヒスクはおとなしくしてれば問題ないだろ。まあ俺達が挨拶してこないと駄目か」


 それからタマキはオーゲンと合流してから、リシカとヒスクを宿に置いて町を出た。


「しかし楽しみだな。あの兵士達のおかげでずいぶんでかいもんが釣れた」

「その王子っていうのはそんなにすごいのか」

「ああ、ほとんど伝説みたいになってる奴だ。恐ろしく強い赤い竜を使うという話だけが広がってる」

「そいつには、あの場所に行けば会えるのか」

「まあ報告を聞いて来たんだろうから、俺達が兵士と戦った場所だろうな」

「そこに着くまであちらさんは待っててくれるのか?」

「それなら心配するな」


 オーゲンは右手を上げた。


「鋭き牙を持つ獣よ、その輝きで闇を照らし出すがいい! 駆け抜けろ! シルバーファングタイガー!」


 竜巻と共に白虎が現れ、オーゲンはその背によじ登る。タマキもその後ろにまたがった。


「行くぞ! しっかりつかまってろ!」


 シルバーファングタイガーは駆け出し、わずかな時間で二人の人影が見えてきた。オーゲンはその前で止まり、シルバーファングタイガーの背中から飛び降りた。タマキも同じように飛び降りる。


「あんたが王子様か?」


 見るからに普通ではない、豪奢な服とマントをまとい、身の丈ほどもある大剣を背負っているその大男は、オーゲンとそれから白虎を見ると、満面の笑みを浮かべた。


「どうやら、報告にあったのは貴様か。なるほど、貴様もその召喚獣も中々のものだ」

「俺の名はオーゲン。こいつは俺の相棒、シルバーファングタイガーだ。あんたの名乗りも聞かせてもらおうか」

「よかろう」


 男はマントをひるがえすと、大剣を抜いてそれを両手で逆手に持った。


「真紅の翼の我が従僕よ、その力でこの世の全てを爆砕せよ! 爆ぜろ! レッドバーストドラゴン!」


 大剣が地面に突き刺さると同時に、男の背後で爆発が起こり、そこから巨大な赤い竜が姿を現した。


「よく聞け! 我が名はベンハルト! フラウト皇国第三王子だ!」


 そしてオーゲンとベンハルトの二人とその召喚獣は睨み合った。タマキはその緊迫した空気の中を普通に歩き、もう一人の人影、男装をした女性の側に到達していた。


「もしもし」

「は! はい!」


 タマキに驚いた女性は妙にかしこまった様子でタマキに頭を下げた。


「ああ、別にそう困らなくてもいい。俺はタマキだ、あんたは?」

「はい、私はフローニカ。ベンハルト様にお仕えしています。って、なんですかあなたは!」

「いや、とりあえずあそこのオーゲンの連れだけど。別にあんたをどうこうしようってつもりはないから安心していい。今はじっくり観戦しようじゃないか」

「え、ええ。そうですね、殿下も楽しそうですし」


 フローニカはタマキに押し切られる形で納得すると、視線をオーゲンとベンハルトに向けた。その二人はどちらも楽しそうな表情を浮かべている。


「それが噂の竜か。俺のシルバーファングほどじゃないが、大したもんだな」

「言ってくれるな、確かにお前の虎も大したものだが、我がレッドバーストドラゴンに比べれば児戯にも等しい」

「それがどうか試してみればいい。行け! シルバーファングタイガー!」


 オーゲンの声に応じ、シルバーファングタイガーがレッドバーストドラゴンに飛びかかった。その爪が到達しそうになったが、ドラゴンはそれを防ごうとせずにその体でその一撃を受ける。


「どうした、その程度の攻撃では我がドラゴンには傷一つ付けられんぞ」

「そうじゃないとな。だが、これからだ」


 オーゲンはにやりと笑うと、剣を抜いてそれを掲げた。


「シルバーファング、気合を入れていけよ!」


 声をかけられたシルバーファングタイガーは一つ咆哮すると、四肢にさらに力を込めた。それに応じるかのように、レッドバーストドラゴンも大地を揺るがすかのような咆哮をあげる。


「今度はこちらから行くぞ! 羽ばたけ、レッドバーストドラゴン!」


 レッドバーストドラゴンは翼を動かし、空高く舞い上がった。そして上空から急降下してシルバーファングタイガーに襲いかかる。


 もちろんシルバーファングタイガーもそれをおとなしく待つことはなく、地面を蹴ってそれと激突した。両者が交差すると、そこから衝撃波が発生して二体の獣が位置を入れ替える。そのまま両者は空と大地で円を描くように移動して、ちょうど九十度くらい回った。その瞬間。


「そろそろ決めさせてもらおう! 行け! スカーレットバースト!」


 空中のレッドバーストドラゴンの口から真紅の炎が勢い良く噴出した。


「迎え撃て! シルバーファングブラスター!」


 シルバーファングタイガーの口からも白く輝く光が撃たれた。その炎と光が激突し、激しい奔流を巻き起こす。


「押せ! レッドバーストドラゴン!」

「やれ! シルバーファングタイガー!」


 両者の技の激突はさらに激しさを増し、その空間をかき乱していく。タマキとフローニカもその衝撃を受けるが、それはタマキが呼び出していたドゥームデーモンの魔法の盾で防がれていた。


 それからさらに二つの衝撃の激突が激しく渦巻き、その場を衝撃と光が覆っていった。

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