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到頭再生  作者: 荒無
無類之人 編
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2/5

2話 黒い魚/黒いギャル


真っ白な天井だ。


横からは電子音が等間隔で、


ピッ……ピッ……と鳴り続けている。



『お目覚めかな』



声がしたほうに視線を動かすと、サイレン男こと園田さんがいた。


開いた本を閉じ、椅子に座ったまま姿勢を正してくる。


『……麻黄天大さん、意識はハッキリとしますか?』



麻黄…天大…俺の名前、なんで俺はベッドにいる?


確か電車の上に飛び乗って…化け物に立ち向かって……


………




『……類ッ!!!!』


俺は叫び、ベッドの上で身を捩(よじ)らせた。


が、思うように身体が動かない。なんなら痛い。



『無理もないですよ、数日寝たきりだったんだから』


園田さんがサイレン頭を震わせて喋る。


『良かった、ちゃんと意識はあるみたいですね。病院の先生を呼んできます。』


そう言い、園田さんは閉じた本をベッドの隣の机に置き、病室の扉に手をかけた。


『ああそれと……』





『類ちゃんは無事ですよ、よくぞ守ってくれました。本来は私の仕事だったんですがね……力及ばず申し訳ない。』



少し申し訳なさそうに会釈をして園田さんは出ていった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






『………ほんとにもう動けるんですか?えほんとに?』




あのあと、身体に異常は見つからなかったとか、


でも様子見でリハビリがどのくらい時間がかかるとか


色々説明されたが、類に会いたい一心で園田さんに俺はゴネた。


天音にもああ言われたしな。もう止まれない。



しばらく園田さんは悩んだ末、やたら畏(かしこ)まった態度でどこかに電話した。




10分も経たずに病院の院長を名乗る人が目の前まで来て、


『もうリハビリとか病院で様子見とか、結構です』と。



こうして俺は病院前のバスロータリーで園田さんの車を待っている。



去り際の院長の嫌そうな顔が忘れられない…


そうして空を流れる雲を眺めていると、車の音が近づいてきた。



……別に俺は車に詳しいわけじゃない。でも、詳しくなくても分かるくらい



絶対めちゃくちゃ高い車だ……


そんな車が緊張する俺の前で止まった。中から園田さんが顔を出す。



『どうぞ、ほらほら乗って。ンフフ』


サイレン頭じゃ分かりづらいが、園田さんはちょっとプルプルしていた。


……そんな笑わなくても



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




わぁすごいな……運転手のおじいちゃんも付いてるぞ。


類も一緒に乗せたかったものだ。


……というか類とはどう接したらいいんだろうか。

こういうのもどう伝えればいいか分からない。


類と話さなくちゃな。



悩みながら、車の中を舐め回すように眺める俺の頭を、


園田さんはコツンと指でノックした。


『そろそろ本筋を話しましょ?』


『麻黄さん、以前の頭となにかお変わりありませんかね?』


そう聞かれ、俺は自分の頭をさする。


いつものテカテカとしたマイク頭だ。元通り。


ベッドで起きたときには治っていた。




『あの頭は……いや化け物は?聞きたいことがたくさんありますよ』


そうだ、類は無事とはいえ、あんな茨の化け物に襲われた。次襲われない保証はない。


溢れ出る俺の疑問を園田さんは止めた。


『きちんと全て話しますよ、ただ順を追わせて下さい。いっぺんに話せば混乱させてしまう』


こうして園田さんは語り始めた。


あんな体験がなければ、

荒唐無稽(こうとうむけい)だと笑い飛ばすような話を。



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ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





真っ黒な天井だ。


車が揺れるたび、天井もたゆんと揺れる。



『あのぉー……まだ……?』


『えぇ、ま〜〜だ』


……参ったなぁ、なんでこうなったんだっけ?

ええと確か、ベッドで目覚めたとき隣にいたのが……



『あら?類ちゃん起きたかな?聞こえる?』


ああそうだ、褐色肌で170cmくらいの、

顔がたぶん口紅っぽいお姉さんだった。




それで褐色口紅お姉さんは


『まぶっちゃけ退院でよくね〜?電話してくるわ〜』とか言いながら


病室を出て、20分くらいしたら医院長さんと一緒に帰ってきた。

そして医院長さんから『んー帰っていいですよぅ』……と。



そしていま、褐色口紅さんが呼んだこの、

なんというか……すごく高そうな車に乗っている。


すごいよこれ、運転手がドラマで見たみたいなおじいちゃんだよ?



麻黄さんにも乗せてあげたいな……


……でも麻黄さんをどう誘えばいいかな。

まぁ、言葉がなくとも分かるよね。

おじいちゃん見ればすぐ伝わるよ。うん。



ちなみにこの褐色口紅お姉さんこと

結城(ゆうき)さんは、園田さんの同僚らしい。


役所の人?こういうのって警察とかじゃないのかな。



てかなんで膝枕されてるんだろ


結城さんの太ももデカいから、首痛いし早くやめたい…


そんな苦しそうな私を見て、『あごめん』と言いながら結城さんは解放してくれた。



『ほいじゃ少し説明するねー』


結城さんは姿勢を正して、真面目な声色(こわいろ)で話した。



『まず類ちゃんね、たぶん不死身だわ』




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『現代の人類の始まりことホモ・サピエンスが誕生してからおおよそ5万年、人類は様々な戦争、環境問題など色んな壁と衝突してきた。戦争や各国間のいざこざはほとんど既に解決してるし、環境問題もまだ予測の段階で対策が取れてるからそこまで大変じゃない。』



園田さんはまるで歴史の授業のように語り始めた。


『だが世間に未だ公表されていない大きな問題が残っている。5万年もの間、未だ解決されていない大問題が。』




『日常を過ごすなかで突如として人の頭が割れ、異能が顕現するんだ。麻黄さんのようにね。』



『異能………?』



『たとえばね、私の場合は……』



そう言って、園田さんは手を出し、開いたままで力を込めた。




すると手のひらの5cmほど上に黒い液体……墨のようなものが突如として現れ、ぶくぶくと音をたてて膨らんでいく。



『?!』


俺が驚く暇(いとま)もないうちに墨は固まり、



『ギョッギョッ!!』


墨から低く濁った鳴き声がした。


よく見ればジワジワと墨の形が変わり、小魚になっていた。


墨の小魚は車の中をすいすい泳ぎ回る。


水なんてないのに、ただ空気の中を自由に。



固まる俺を見て園田さんは



『これが私の能力ですっ!!』


と自信満々の声で高らかに言った。




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『えーとつまり麻黄さんのマイク頭が爆散?したのは

能力が覚醒したから……ってこと?ですか?』



『もー類ちゃんタメ口いらんよー、爆散は……中々怖いこと言うねー』



そう言いつつ、結城(ゆうき)さんは口と思しき場所を手で覆って震えてる。


……あっ!笑われてるな!これ!



『でさー!るーちゃんもその異能に目覚めてるっぽくて、しかも不死身なんだってさ!』


るーちゃん……?


あ、私か!

強引だなこの人…………



『不死身って、死なないってこと?それってどうやって知ったの?私割れてたの?』


タメ口ってこのくらいでいいのかなー……


って考えつつ聞くと、結城さんはうーーんと唸りだした。



『あーーーいや割れてはないのよぉ、どうやらるーちゃんはね、電(・)車(・)の(・)上(・)で(・)一(・)度(・)死(・)ん(・)で(・)た(・)みたいなの』


『あっ!あーしの名前も教えたんだからさ!ゆ(・)ー(・)ち(・)ゃ(・)ん(・)で!いいからね!!!』


一度死んでた……?


『きっともっと前にさ、もう割れてて覚醒してたんじゃないかなー』


私が……?前に…………


現実離れした話が続く中、私はあることを思いついた。


『それって記憶喪失と関係ある……のかも?』


もし記憶喪失と関係あるなら、あの化け物が私を襲った理由にも繋がったり……?


『あーね、るーちゃん記憶無かったもんね、あるかも!天才じゃん!』


結城さんは自分のことのように喜びながら、

車の中をお尻で跳ね出した。


色々とデカいぶん、こっちに余波がくる……やめて……



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





結城さんの揺れがおさまったくらいで、車は木々に囲まれた場所で停車した。


木々の隙間に小さく見える家などの建築物から、


おそらく住宅街近くの雑木林のようだった。


そういえば車の目的地を聞いてなかったな……


『あー、ここが目的地?ただの雑木林じゃないかな?』


ピチッとしていたはずの、今はもうシワシワの黒スカートを、ポンポンと叩く結城さんに尋ねてみた。



『目的地であってるよー!あーしはここ初めてだけど』


そう言いながら結城さんは、雑木林の中で少し開(ひら)けた場所へと入っていった。


林の間をそそくさと抜けていった結城さんに着いていくと、


……なんか結城さんが屈んでた。



『あーしたちの主な仕事はね、能力者の保護と〜、これなんだ〜』


と言いながら結城さんはこちら側に振り向いた。


彼女の両手には炊飯器が抱えられていた。


炊飯器…?不法投棄…?



『んじゃ行っくよーー!!!!』


突然の大声に驚いた私をよそに、結城さんは炊飯器の蓋を開けた。


瞬間、炊飯器の中から眩しい光が飛び出してくる。


『うわっ!!!』


またまた驚く私を無視しながら結城さんは叫んだ。


『これがねえええええ!!!!あーしたち"到頭(とうとう)"の仕事おおおおおお!!!』


私たちは光に吸(・)い(・)込(・)ま(・)れ(・)


炊飯器だけが、ゴトッと音を立てて雑木林に残った。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



……………


…………………なんだ…


……なんかベチャベチャする


………それでいて生暖かくて気持ち悪いぃぃ



『  起  き  て  ぇ  !!!!!!』


『うひゅあ!!???』


結城さんのバカでかい声で飛び起きた



目を見開いてみると、


足元は泥で埋め尽くされていた。


それだけじゃない


辺りを見回してみれば、さっきまでの雑木林や炊飯器なんかはなく、


美しい青空の下


水平線まで広がっていた泥まみれの地面の上を


私たち二人は立っていた。



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