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祓えない呪物

異能の治療師が、人の心に潜む闇を祓う現代ファンタジーです。

 私が、白川先生に「無事に終わりましたね」と言うと、白川先生は、ゆっくりと首を左右に振って、「まだ終わっていないよ」と呟いたのだ。


「日向夫婦が、その身にはらんでいた魂魄の痼りは小さ過ぎる。

あれだけの雨を宿しておきながら、魂魄の痼りが、あの大きさということはあり得ない」


 すると、驚いた雨森さんが「人が宿した雨から、魂魄の痼りの大きさまで分かるというのか?」と聞いてきたので、白川先生は大きく頷いた。


「お主の霊力はどこまで凄まじいのじゃ。

ワシでは、到底おし量ることなど出来ぬわ。

しかし、お主がそう言うのなら事実なのじゃろう」


 頷いた白川先生は確信を持ってこう答えた。


「ハビーデスチャンネルの中に、魂魄の痼りが存在しています」


 その答えに、私と雨森さんが同時に「ハビーデスチャンネルに?」と声が裏返ってしまう。


「おい、いくらお主の意見でも、生き物ですらないネットのサイトに、魂魄の痼りが生じるのか?」


 白川先生が、その言葉を聞きながら、「でも、例外が有るでしょう」と反論する。

ハッとした雨森さんが「呪物か…」と呟いた。


「確かに、無機物であっても例外的に魂魄の痼りをはらむことが有る。

 念を込めて彫られた木像や石像は、特に魂魄の痼りをはらみやすい。

 それが、仏像のように人から聖気を送られておる分には問題ないが、長年に渡って邪気を送られると、やがて魂魄の痼りが生まれ、そこから雨が溢れることになる。

それが呪物なのじゃ」


 雨森さんの言葉に頷いた白川先生は、「しかし、今回は勝手が違います」と前置きしてから話を続ける。


「呪物であれば、無機物であっても、その存在が明確なので祓うことが出来ますが、今回の敵は、その存在が定かではありません。

 念を込めて作られた闇サイトに、多くの人間が邪気を送り続けたことで、魂魄の痼りが生じたのです。

 ここまでは、通常の呪物と同じですが、この呪物は、まるで木の根のように無数の触手をネット内に広げています。

 パソコン、タブレット、スマホなど、あらゆるデバイスに現れては、雨を撒き散らして消えていくのです。

だから、いくら祓ってもキリがありません。

 問題を解決するには、ハビーデスチャンネルを作り出したデバイスの中にある、魂魄の痼りを供養しなければならないのです」


 白川先生の言葉に、雨森さんは深刻な表情を浮かべた。


「人間は厄介な物を発明してしまったのう。

ネットは、聖気を拡散して多くの人から共感を得られる反面、邪気を撒き散らしても、同様に多くの人から共感を得てしまう。

その上、聖気に対する嫉みまでもが邪気になるのだから厄介じゃ。

 更に、悪を憎む正義感さえも、ともすれば邪気に変えてしまう。

これは、どう考えても聖気には不利な戦いになるのう。

 それが、人間の本質だと言われればそれまでじゃが、邪気にとって、これほど居心地の良い場所も他にあるまい」


 私は、不安になって思わず白川先生に聞いてしまう。


「白川先生は、ハビーデスチャンネルの中に存在する魂魄の痼りを、完全に供養できると思いますか?」


 すると、私と雨森さんに見詰められて、白川先生は首を左右に大きく振った。


「正直、どうやって供養すれば良いのか分かりません。

でも、必ずその方法を突き止めて見せます」


そう言って、にっこりと微笑んでくれたのだ。


 何故か、その笑顔を見ただけで、私は大きな不安から解放された。


 そして、改めて思ったのだ。

 やっぱり、この人は本物なのだと…

最後までお読み頂き、本当にありがとうございます。

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