9、探索
砂利道も途切れ、小さな懐中電灯の光で獣道を照らし進む。日が落ちた今はコートとマフラーがあっても寒い。
かすかな虫の声と、強く吹く風でザザァーッと木々がこすれる音。そして枯葉を踏みしめる四人の靴音だけ。
「ちょっとぉ! こんなに歩くなんて聞いてないわよぉ」
ハァハァと息を切らせながらも、ぶつぶつ絶え間なく文句を言う守子はなんだか元気そうにみえてしまう。はじめと洋二はしゃべる話題も無いのか黙々と歩き続けてる。
「ここだ」
「幽霊屋敷みたい……」
「まぁ、二十年放置されてたからなぁ」
前回、訪れたとき同様ガタガタ軋ませ玄関を開け電気をつけた。
「うっ!? 本当に入れるんですか?」
「入れはする。が、靴を履いたままどうぞ」
「同窓会のとき実家に泊まったって言ってなかった? 掃除はしなかったの?」
「面倒くさいからしてない」
ギシギシ、コツコツ、音をたてながら、とりあえず居間に案内した。
「泥棒でも入った?」
「いや、オレが散らかした」
引き出しは開きっぱなしで中身は床に散乱。極めつけに飾ってあった絵画や置物までも床に無造作に置かれ、テーブルも壁に立てかけたままになっていた。
「昔のアルバムとか、そんな感じのを探しまわってたら、いつの間にかこうなったんだ」
「……片付ける気はないのね?」
「無い! それに今から、また家探しみたいなことするんだから問題ないだろ」
さらに散らかること間違いなしだ。なにせ四人で”過去を探す”のだから。
「貴方が荒らしまわっても何も出なかったなら無駄足だったかもしれませんね」
「そんなことはない。実はこの家には奇妙な部屋があるんだ」
一人だと心細いが、四人もいると楽しくなってきた。
「僕はもう帰りたい……。こんな不衛生なところ……いたくない」
「それは同感ですが、奇妙な部屋が気になりますね」
帰りたがるはじめの肩に、洋二が逃がさないとでもいうように手を置く。
「そうよね! まるで廃墟ツアーみたいでワクワクするじゃない!」
守子がぴょんぴょん跳ねる。当然、家がミッシミッシと悲鳴をあげ揺れた。腐ってはいないはずだから床はぬけないと思いたい。
そして突然、灯りが消えた。
「停電ですか?」
「そんなはずないんだが?」
「違うわよ! 廃墟探検っていったら暗闇に懐中電灯でしょ」
「楽しそうだね……。廃墟マニアなの?」
「マニアってほどじゃないけど好きよ。さ! 行きましょ!」
懐中電灯を持っているのも、奇妙な部屋の場所を知っているのもオレだけだ。必然的に先頭を歩いていくことになる。
「この板はなんですか?」
「それで部屋が閉ざされてたんだ」
五枚の板が壁に立てかけてあるのが気になったみたいだ。
「板でドアをふさぐなんて普通じゃありませんね」
「オレもそれは不思議に思ってる」
オレが壊したままのドアを開けて入る。三人共、興味深そうにキョロキョロ見渡す。
「この部屋は誰のだったの?」
「両親が住んでいたはずだ」
写真立てと骨壷を懐中電灯で照らしてみせた。
「わぁ! ヤバ! あちこちの黒いシミも不気味すぎだし、なんか出そうな雰囲気ね!」
「ベッドの下に守子が好きそうな、さらにヤバイ感じの部屋を見つけた」
肩でベッドを押しはじめると、はじめと洋二が手伝ってくれた。ダブルベッドだから、なかなかに重かったから助かった。前回と同じように扉の取手をタオルで小さな机に固定する。静かになった守子を見ると、写真立てが気になるらしく手に取って裏返したり弄くりまわしていた。
「階段? ジメジメしてますね」
「へぇ! ますます廃墟っぽいじゃない!」
「寒いし、どっちかっていうと洞窟に見えるんだけど……」
ぬめる壁をつたいながら降りていく。はじめは少し潔癖があるのか壁には触らず、洋二の服の裾を握りしめてる。五十段ほどの階段を降りた先を見て、さすがに三人は固まってしまった。
「……たしかに普通の民家に存在しないモノですね」
「これって牢屋……だよね?」
「なんでこんなのがあるの?」
「オレも部屋をこじ開けて初めて見つけたんだ。けどここと両親の部屋に過去に繋がる何かがあるって思ってる。まぁ、鉄男が亡くなった理由に関係するかは分からないんだけどな」
気持ちのいい場所じゃないし気味悪さもあるから、三人がいてくれるのは助かる。懐中電灯で隅々まで照らしながら、廃墟好きの守子は楽しそうに、洋二は真剣な表情で観察していく。ただやっぱり、はじめだけは遠まきに見てるだけだ。
「けっきょく何も無さそうだなぁ」
「ですね。怪しさはありますが、これといったモノは見つかりませんでしたね」
「もっとなんかあるって思ったのに残念だわ」
「やっと地上に戻れる……」
これでも一人の時にしっかり見たあとだから何も発見できないのは想定内。とはいえガッカリさせてしまったみたいだ。特に守子は、すっかり興味を失って階段を駆け上がっていってしまった。はじめと洋二も足早に戻っていく。
「ん? なんだこれ……」
地下牢の隅に何か書いてあるのに気がついた。小さな字。けれど、とても気になって近寄って手で触れる。
『ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない……』
道具は見当たらないから、たぶん石を使って彫りこまれた、つたないひらがなの文字。
「……オレは……これを知っている気がするっ」
またズキズキと脳内が揺さぶられるように痛みだす。グラグラする頭を抱えながら這うように地上への階段を上っていく。
〉〉〉9ノ裏、写真
まさか露木くんの実家に入れるなんて思わなかった。どこに住んでるのかも知らなかったってのもあるけどね。
「見つけちゃった」
一足先に地上に戻ると、写真立ての留め金を外し中身を取り出す。表の写真は真ん中が切り抜かてしまってるけど、見えてしまったのだ。写真には重なった二枚目があることに。注意深く見ないと分からないくらいのズレだったんだけどね。
「ふふふ! 小さい頃の露木くん可愛いわね」
二枚目には優しげな両親の真ん中に五歳くらいの男の子が笑顔で写っている。裏返すと三人の名前と日付が記されていた。
「こっそり持って帰っちゃお!」
鼻歌を歌いながら、一枚抜き取った写真立ての蓋をしようとして、更にもう一枚見つけた。というか蓋にテープでしっかり貼りつけられている。破れないように慎重にテープを剥がし、四つ折りにされた写真を開いた。
「!?」
それは、あまりに衝撃的な写真だった。きっと見つかってはいけない、見つけてもいけない、そんな類のモノ。
「何か見つけましたか?」
「戻ってこれた……」
洋二とはじめの声がして、とっさに二枚の写真をコートのポケットにしまった。
「何もないわ。ただなんで切り抜かれてるのかな? って思って見てたのよ」
洋二は探るような目つきをしたけど、ため息を吐き「そうですか。たしかに気になりますね」とだけいって部屋を出ていった。




