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愛恋火  作者: うなぎ358
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2、実家


 毎年恒例の●▲中学校のクラスの同窓会は東京で開催されていたみたいだが、オレは今まで参加したことがなかった。さらにいえば新幹線に乗って田舎に帰るのも、同級生たちに会うのも二十年ぶりで緊張してしまう。


「すみません。通していただけますか?」


 物思いに耽っていると声をかけられた。


「あーと、どうぞ」


 オレはなるべく窓に近寄りたくないので、三人掛けの通路側に座っていた。当然、駅ごとに客が出入りする。その度に立ち上がることになるから落ち着かないが仕方ない。オレの前を通って窓側の席に腰を下ろした花柄のワンピースの女性は、昼時ということもあり駅弁を食べはじめた。揚げ物の匂いだろうか? とても香ばしい食欲をそそる匂いが漂ってくる。オレも東京駅で購入した駅弁を食べることにした。


「ん! これは美味いな」


 テレビの旅番組で紹介されていた焼き肉がメインの駅弁だ。冷めてるにもかかわらず口に入れた瞬間に溶けてしまう肉は生姜醤油で味付けされてご飯に乗せて食べるとタレがからんでたまらなく美味しい。並んで買ったかいがある。もう一箱食べたいくらいだ。


「寝ているところ申し訳ありませんが通していただけますか?」


 食後は眠くなる。さらにいえば乗り物は総じて眠気をもよおす。日頃の疲れも相まってガッツリ熟睡してしまっていた。慌てて立ち上がり女性を通す。


「こちらこそすみません。どうぞ」


 ニコリと微笑みながら会釈をして、足早に出口へと向かっていった。花柄のワンピースの女性はファーの付いた茶色のコートを腕にかけ、ハンドバッグとバインダーの入った紙袋を持っていたから仕事なのかもしれない。俺と彼女の間の席は、最後まで誰も来ることはなかった。


 アナウンスが流れ次が降りる駅、名古屋だと気がつく。ある意味、彼女が起こしてくれて助かった。あのままだったら寝過ごしていたかもしれない。


「うわぁ……。久しぶりだと駅も様変わりしてるなぁ」


 マフラーは車内でも巻いたままだったから少し暑く感じる。とはいえ荷物になるからコートも羽織った。旅行鞄を肩にかけ慌ただしく新幹線を降りる。駅の中の人混みをスルスルすり抜け、地元方面行き電車に乗り換えるとビルの群れは次第に姿を消していく。終点までくると人々の雑踏、街の騒めきはすっかりなくなって、代わりに虫や野鳥の鳴き声、風で葉が擦れザワザワとさわがしい。


「寒っ。相変わらず乗り換え面倒くさいな」


 駅のロータリーにちょうど来たバスに駆け込んだ。暖かかった新幹線や電車とは違い、地元方面へ向かうバスの乗客はオレ一人ということもあって暖房も効きづらく肌寒いくらいだ。流れる景色を見ると、まわりは木々に囲まれ民家もポツポツ片手で数えるほどしかない。すでに日が沈みはじめたせいで、まるで真っ暗な森の中へ吸い込まれていくような感じだ。窓の中にうつる”俺”と目が合ってしまいそうになり慌てて目を閉じた。


「終点です〜。お忘れ物の無いようにお降りください〜」


 運転手の声で目が覚めた。いつの間にか寝ていたようだ。バタバタとバスから降りると、街灯は今いるバス停の灯りしかない。はっきり言って進む先は真っ暗闇だ。田舎で唯一、気に入っているのは空気だけは清々しく新鮮なことかもしれない。ただし今は冬、薄く積もった雪と冷たい風でマフラーを巻いてコートを着ていても寒いし吐く息も白い。


「まぁ、分かってだけどな」


 スマホの灯りを頼りに、実家へと向かい歩きだす。途中から砂利道に変わって、腰ほどにまで伸びた草をかきわけながら進むにつれ、更に山深くなっていく。


「はぁ……。やっと着いた」


 東京を出てから八時間。周りにはコンビニも民家もない山の中、一軒だけ建っている古びた二階建て日本家屋が俺の実家だ。かなり大きいので昔はお屋敷といわれていたこともある。ただし長年、誰も訪れることなく放置されていたので壁は蔦が這いまわって草木が玄関先まで茂っているから、まさに。


「……幽霊屋敷だなぁ」


 鞄から出した鍵は、すんなり鍵穴に入った。だがしかし引き戸を開けようとするとビクともしない。以前はカラカラと調子のいい音を立てて開いたが、今は滑りがかなり悪い。


 ガタン! ガガ! ガタガタ!


 力ずくで、こじ開けて入る。玄関を入ってすぐ上にあるブレイカーを操作してから、パチンとスイッチを押すと上がり框と廊下が照らされた。電気と水道だけは会社に連絡してあったので困らない。ガスは面倒くさいから連絡してない。二泊分の、菓子パンやビールといった軽食を、旅行鞄に詰めてきたから大丈夫だろう。


「分かっちゃいたけど、埃っぽい」


 降り積もった埃や、元の正体が分からない虫の死骸が転がった床は、とてもじゃないけど素足では過ごせそうにない。なので靴を履いたまま板張りの廊下を歩いていく。


 ギッシギッシギッシ……。

 コツコツコツコツコツコツ……。


 人の住まなくなった家は、ジメジメして底冷えがする。温度というより、人のぬくもりがない。階段を上がって一番奥の襖を開けた先が、オレの使っていた部屋だ。電気を点けると子供の頃そのままの部屋が現れた。


「懐かしいな……」


 学習机には教科書類が置かれたままだし、本棚には昔流行った漫画が並んでる。埃を払って一冊、手に取ってみると日焼けして茶色に変色はしてるけど、じゅうぶん読めそうだ。本を戻し見渡す。


「……? アルバム類は一冊も残ってないんだな」


 押入れを開けると、オモチャや季節ごとに分けられた服がダンボールにみっちり詰まってる。けどアルバムはやっぱり一冊も見つからない。念の為にベッドの下も探ってみたが、何も無かった。


「う〜ん? 卒業アルバムすら無いのはどういうことなんだ?」


 田舎のこじんまりとした中学で生徒数は少なかった。だからといって他クラスの生徒の顔まで分かるわけはない。まぁ、とにかく二十年ぶりなのだクラスメイトさえ分からない可能性だってある。そんなわけで明日の同窓会のためにせめてクラスメイトの顔と名前くらいは見ておきたいと思ったのだが、不自然なほど写真の類いが見当たらない。


「ん? なんだコレ」


 ほとんどそのままの状態だから、コレも当時のモノなんだろう。ゴミ箱の中、拳ほどに丸められた新聞紙を見つけた。


 カサカサカサカサ……。


 妙に気になって拾う。ボロボロで茶色に変色したソレを広げてみると、かなり文字が擦れて、ところどころしか読めない。


『プール……溺れた状態……。発見され……真冬にも関わらず……』


 赤いペンで囲んである小さな数行だけの新聞記事に目が吸いよせられた。


 瞬間。


【……オ、カエ……リ。●●……】


 耳元で、息を吐くような細い声がする。思わず辺りを見回すけど誰もいない。しかも今まで聞こえていた虫やカエルの声さえ消え、耳鳴りと共に無音と化す。シャツはジワリと汗ばみ、ブルリと身体に震えが走った。


 目を閉じて深呼吸をする。心の中で”気のせいだ”と自分に言い聞かせる。


 しばらく立ち尽くした後、両手で頬をパンッと叩く。


「日付は、だいたい二十年くらい前か? って、この記事の●▲中学ってオレの母校だ。けど、こんな事故あったかなぁ?」


 わざとらしく大きな声を出す。ゴミ箱とはいえ残されたままの記事。気になって仕方がない。が、いまいち記憶があやふやだ。


「同窓会の時に聞いてみるか」 


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