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愛恋火  作者: うなぎ358
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〉〉〉13ノ裏、重なる今


 スマホが震えた。けれど今は重要な会議中。というのも最近、連続して起きてる事件についてだったから情報収集のために少しだって聞き逃したくない。そんなわけで放置を決めこんだ。


『やえ子、アタシ今から真実に会いに行ってくる。邪魔されたくないからスマホの電源も切るわね。添付ファイル付』


 たいした収穫が無いわりに会議はダラダラと長引き、メールを確認できたのは二時間ほど経ってからだった。内容を確認した瞬間、放置してしまったことを後悔する。


「キャップ。ちょっとヤバイ案件ができたので早退します」

「あぁ!? んな忙しい時に何言ってんだ! ちっさい新聞社だからって舐めてんのかぁ!!」

「分かってますが、このままだと親友が人を殺すかもしれないんですよ!」

「あぁ!? 嘘つくなら、もっとまともな嘘つけよ!」


 私の上司は声がバカでかく髭もじゃ瓶底メガネのだらしない感じのオヤジだけど、新聞社で働く敏腕キャップだったりする。外見に似合わず何事にも慎重で丁寧な彼は、なかなか信じないのでスマホのメール画面を見せた。プライベートな内容だから本音は見せたくない。けど急がなくては取り返しがつかない事態になりそうな、そんな予感めいたものがある。だから手段は選んでられない。


「……これは本気で本当なのか?」

「本気だと思います。最近、守子……親友の様子がおかしかったんです。この間、調べさせていただいた中学校のプールの件と露木邸の事件とも関係あると考えています」

「仕方ねーなぁー!! ついでにネタになりそうなもんがありゃ拾ってこい!」

「ありがとうございます! いってきます」

「気ぃーつけろよ!」


 親友をネタにするつもりはない。けど私が気になるし心配なのよね。


 スマホの添付ファイルは二枚。

 一枚目は、セピア色の露木家の家族写真。笑顔の母に抱かれた女の子と、少し難しい顔した父におんぶされた男の子が写っている。

 二枚目は、写真の裏を写したように見える。

『ついに我が家に新しい家族が仲間入り。なんと双子です。名前は男の子が竜志、女の子が叶無』


 露木家には子供が二人いたのだ。しかも双子。これはたしかに見分けがつかないかもしれない。こういう時にかぎって混み合う社内エレベーターに無理矢理に体をねじこみ乗る。幸い定員オーバーにはならなかった。一階に到着するとエレベーターから飛び出し、総合ロビーを横切り外にでた。雨足は少し弱くなっていた。


「K市の●▲中学までお願いします」

「はいよ」


 ちょうど目の前で客を降ろしたタクシーに乗り込む。少しだけ雨に濡れたけど、すぐ乾く程度で助かった。幸い名古屋での会議だったから二時間くらいでつきそうだ。着くまでの間に露木くんのことを調べることにした。本当は持ち出し厳禁だけど、キャップが社外秘の資料を出かける間際に紙袋に入れて渡してくれたのだ。


 だいたいのことは今までの新聞の切り抜きと変わらない。ただ露木邸の事件の三日後に隣県で、彷徨っていた子供が保護されたと書かれている記事を発見した。たぶん間違いなく露木妹。そして私たちの前に現れた”竜志”が”妹”だと確信する。補足として付箋が貼られ、両親が占いにハマっていたことと、その占い師が両親が亡くなった二年後に詐欺で捕まったことも記されていた。


「着きましたよ。雨ぇ、やんで良かったねぇ」

「はい。ありがとうございます」

「あれぇ? もう一台タクシーがいるねぇ」

「本当ですね。たぶん同級生が先に向かったんだと思います」


 タクシーを降りると、運転手まで降りてきて向かい側に止まるタクシーまで歩いていった。知り合いだったりするのかな? なんて思ってる場合じゃない。


「よし! 行こう!!」


 何が起こっているかわからないから気合いを入れた。


 守子の行き先はプールで間違いない。こんなときほど、いつも運動靴ばかり履くクセがついていて良かったと思う。雨で泥クチャになった運動場も全速力で走れる。


 バキン! バシン! バキン! バシン!


 プールに近づくにつれ嫌な音が響く。


 バキン! バシン! バキン! バシン!


 ガシャガシャガシャガシャガシャ!


 時短するため金網をよじ登りプールサイドに着地した。


 バシャーン!!


 灯りに照らされたプールには、顔を般若のように歪め、口元の紅が汗と涙と雨で流れ血を啜る鬼のようになってしまった守子がいた。


「守子! もうやめて!!」

「いやよ! まだ偽物が生きてるわ! アレがいなくなれば竜志が帰ってくるはずよ!」

「竜志くんは死んだの! 二十年前に!!」

「知ってるわよ! アタシ見てたもん! でもさ! あれは妹だったんでしょ!」


 毛の無くなったモップを振り回し続け、言っていることも支離滅裂だ。守子はもう自分が何をしてるのかすら分かってないのかもしれない。


「しっかりしなさい! あんたは私の大切な親友なの!」


 私も何度かモップで叩かれた。かなり痛いし額から血が流れてくる。けど今、見離したら守子が壊れてしまいそうで、だから命懸けで飛びかかった。


「あぁ〜! あああぁ〜!!」


 守子が言葉にならない叫びをあげ暴れ続け、黒い喪服のようなワンピースの裾はビリビリに裂けてしまっている。またモップで殴られた。けど引いたりなんかしない。


「戻ってこい! 風音守子!!」


 何度目かで、ようやく背後から捕まえることができた。それでもなお暴れて叫び続ける守子を渾身の力で抱きしめる。


 どのくらい時間が経ったのだろう?


 モップが守子の手からガランッと音を立てて落ちた。


「や……やえ子? ア、アタシ……どうしよう。アタシ、どうしちゃったの?」


 ヒックヒックとしゃくり上げながら守子は座りこんで、うずくまってしまった。抱きしめてた私も一緒に座った。


「大丈夫。大丈夫よ」


 他にかける言葉がみつからず、守子の頭を撫でながら「大丈夫」を繰り返す。


バシャーン!!


 私たちの反対側のプールサイドに、二人の人影が水面から這い上がってきた。


「守子、見て! 助かったみたいよ」

「ほ……んとに?」


 ゆるゆると顔をあげ、私の指さす方を見た瞬間、守子はまるで子供のように「わぁーん!」と大声で泣き出した。


 そして小さな声で「良かった……」とつぶやいた。


 

〉〉〉13ノ裏ノ裏、救い


 鉄男とはじめを殺した時は、まだ冷静でいられたのにオカシイナ?


 竜志に成り変わったヤツをみていたら、頭が沸騰したみたいに熱くなっていった。


 憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。


 その三文字の言葉にアタシは身体と心を喰い尽くされ支配されていく。


 もう自分じゃないみたい。


 焼け焦げてしまいそうなくらいの熱い熱い熱いモノを解放した瞬間、訳がわからなくなった。


 脳内が真っ白にスパークする。


 もうなにもわからない。


 と、その時。


【守子、守子、守子……】


 どこからか懐かしい声が聞こえる。


【守子、俺の言葉を聞いて】

「……竜志?」

【うん。竜志だ】

「会いたかった。凄く凄く会いたかったのよ!」

【俺も会いたかった】


 光の帯がアタシに巻きつく。知ってる。この温度と爽やかな柑橘ような香りは竜志。


「竜志! 帰ってくるよね?」


 アタシの問いかけに、光の帯はフルフルと頭を振るように左右に震えた。


「なんで?」

【守子の気持ちは知っていたよ。でももう一緒にはいられないんだ】

「なんで?」


 子供のように同じ言葉を繰り返す。


【死んでしまってる……からね。それに俺は鉄男たちに恨まれても仕方ないことをした。だからせめてアイツらが迷わないように共に行かないといけないんだ。けど長い間、苦しませてしまったお詫びに、守子の憎しみや悲しみも全部、俺が一緒に持っていくよ】


 竜志が額に優しく触れた気がした。ゆっくりとゆっくりと熱さが薄れていく。


「待って!」


 光の帯を掴もうとした手が空をきる。イタミを堪えるようにしながら竜志がゆるく微笑む。


【これでもう……】

【……大丈夫」

「大丈夫よ。守子」


 最後の言葉は、竜志の声とやえ子の声が混じり優しさを含んで重なった。

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