11、不信感
洋二からの電話を切って東京に帰ろうとした矢先、激しく雨が降りはじめた。つけっぱなしのテレビからはニュースキャスターが十年に一度の雨量で洪水警報が発令されたと興奮気味に早口でしゃべってる。チャンネルを変えても大雨情報で埋めつくされ、鉄男とはじめの続報はまったく流れてこなくなった。
そんなわけで、いまだに名古屋に足止めを食らっている。当然ホテルからも出られそうにない。仕方なく会社にも大雨で帰れないことを電話で伝えると、上司はため息を吐きながらも有給にしておくといってくれた。
ブゥー……。ブゥー……。ブゥー……。
『和田山はじめさんの通夜と葬式は明後日に延期』
着信に震えるスマホを見ると、同級生のグループメッセージが届いていた。いつもなら守子や洋二からメッセージが届くはずなのにと、少しだけ違和感を感じる。
同時に、洋二の「気になること」とはなんだったんだろう? と頭をよぎる。
洋二は、いつも慎重でオレが苦手に思ってしまうほど人間をよくみている。たぶん人間以外の周りの物事も、しっかり観察してる。
そんな洋二が気になること。タイミング的には、オレの実家に関係するとか?
「けど特に何も新発見はなかったからなぁ」
あえて言うなら、地下室の「ゆるさない」の文字だが、洋二は知らないはずだ。けど何かが引っかかる。
バフンッとベッドに転がり目を閉じる。スマホも枕元に放った。
ブゥー……。ブゥー……。ブゥー……。
再びスマホが着信に震える。休みの日は、どれだけでも眠れるオレは目を閉じるだけのつもりが、いつの間にか寝てしまっていたようだ。スマホを引きよせメッセージを見て文面を見て固まってしまう。
『ぼくはいまぷーるにいる ぼくのすいそくはあたっ』
洋二からの不自然なメッセージ。かなり焦って文字を打ったのだろうが、それも途中までしか書かれてない。
二時間ほど前に電話をしていたのだ。繋がるかもしれないと思い飛び起きると、すぐさまリダイヤルする。
『はい。金矢です。ただいま近くにいないか電源が入っていないため出られません。ピーと言う発信音の……』
何回、かけても留守電に飛んでしまう。嫌な予感しかしない。
プールって、まさか鉄男が死んだ場所か?
よくよく考えると鉄男とはじめは水に関係する場所で死んでいる。
洋二も、もしかしたら……。
外は、いまだに台風のように荒れている。けど行かなくてはいけない。素早く着替えて、コートを羽織りマフラーをしっかり首に巻く。部屋はオートロックだから、そのまま出かけても大丈夫だろう。廊下を足早に歩きながらスマホを操作してタクシーを呼ぶ。エレベーターで降りても、まだタクシーは来ていない。落ち着かない気持ちを抱えながら広いロビーをウロウロ歩きまわり待っていると、クラクションが聞こえてきた。
「いってらっしゃいませ」
丁寧にお辞儀までするホテルスタッフに、手を振って玄関をでる。
「また会いましたなぁ!」
「ははは……。そうですね」
もはや乾いた笑いしか出ない。この苦手な運転手のタクシーに乗るのは三回目だ。二度あることは三度あるが現実になってしまった。
「こんな嵐ん中、どこいくね?」
「K市の●▲中学校まで頼む」
「……かなり時間かかるんやけど?」
「それでもお願いします」
運転手は何か言いたげだけど、今回も目を閉じて会話を拒否することにした。目を閉じると、もれなくオレは寝てしまう。寝るのが好きだから冬眠もできてしまうかもしれない。
「お客さん、着きましたよ」
「あぁ。ありがとう」
肩を叩かれて目を覚ます。今日も前回と同じように、すぐ目の前に運転手の顔があったが、もう驚くことはなかった。慣れって凄い。カードで支払いを済ませ歩きだす。すでに雨は止んでいたが、土が剥き出しの校庭はぬかるみ靴は泥だらけになっていく。
〉〉〉11ノ裏、過去
露木との電話を終え、出かける準備を始める。着替えながら頭の中の整理もする。
今までは露木竜志だけが怪しいと考えていた。だがそれだけだけでは無いと思いはじめた。
まずは何故ボクが露木を疑っていたか?
それは過去にある。
ボクたち五人、つまり露木竜志、長背鉄男、和田山はじめ、風音守子、そしてボク金矢洋二は幼馴染だった。集落に子供が少なかったのもあるが、いつでも一緒にいた。仲良かったか? と聞かれると微妙なところだ。むしろ性格がまったく違うから喧嘩が絶えなかった。
中学にあがると、それぞれの新しい友人もできていく。次第に疎遠になってしまうのも仕方のないことだとボクは思っていた。
だが露木だけは違った。ボクたちが離れていくのが許せなかったようで、ちょっとのことでボクたちを呼びだしたりしていた。
まぁ、ボクたちも露木の言いなりだったのも悪かったんだが、だんだんと露木は横暴になっていった。
たとえば他の友人と約束をしていてもキャンセルさせて露木に付き合わされたし、家族旅行にいくことがバレたなら無理矢理、露木が家まで押しかけて来て居座ったことさえある。
ボクたちの苛立ちは高校受験で爆発寸前まできていた。
理由はボクたち全員、露木と同じ高校を受験しなくてはならなくなったからだ。
進路相談が始まる前夜、露木の両親がボクたちの家に訪れ「竜志と同じ高校に決めてほしい」と頼みに来た。しかも金まで持参していた。かなりの大金だったようでボクたち四人は同じ高校を受験することになってしまった。
長背鉄男は野球強豪校の推薦を断った。
和田山はじめは科学者を目指したいといっていたが断念することになった。
ボクは弁護士を目指すため東京の高校を受けて寮に入る予定だったのを諦めた。
風音守子の進路だけは最後まで分からなかったが……。何度聞いても「内緒よ」と言って笑っていた。
そして露木の進学予定の高校は、地元では素行の悪い生徒が集まる評判の悪いところだった。露木の成績では、その高校しか受からないだろうと進路指導の先生に言われたそうだ。
夢を打ち砕かれたボクとはじめと鉄男の三人は計画を練って、まずは密かに第二希望の地元の高校だけを受験した。
そして2003年3月25日、火曜日深夜計画を決行した。
中学卒業と高校入学のお祝い花火大会をしようと露木を●▲中学校に呼び出した。最初は乗り気ではなかった露木も、親が外国出張で買ってきた美味いお菓子があると言ったら嬉しそうにボクたちに着いてきた。
そして水が近くにある方が安全だといってプールサイドに誘って、ボクたちは露木を突き落とした。
だからあの日に露木竜志は死んだはずなんだ。その竜志が二十年経った同窓会で現れたのだ。不審に思ってもおかしくはない。だか実際に生きてるのだから、あのあと自力で這い上がって助かったのだろう。と思うことにした。
もう一つ、腑に落ちないことがある。それは露木の実家に行ったときの、守子の怪しい行動だ。両親の部屋で何かを隠していたのを、ボクとはじめはしっかり見ているのだ。
はじめが死んでしまったことで守子への疑いがました。タイミング的に、露木が何かするより守子があやしいと考えた。
「プールに行ってみるか。それとも露木の家に行ってみるか?」
守子が犯人なら、大人しくしていても次はボク。動いて少しでも抵抗しなくてはいけない。
カーテンを開けると、先ほどまで晴れていたのに雨が降りだしていた。




