006 ◇ 「豊玉姫命」
昨日訪れてきた豊玉姫命は、用件らしきこと(この座の半分を譲る、みたいな?)を話し終えると、疲れ切ってローテーブルへ突っ伏して眠ってしまった。私はさすがに寝るわけにもいかず、徹夜して豊玉姫命が何かしないか見張っていた。
二〇三二年六月二日の朝――のはずなのに、あたりは完全に暗く、夜のままだった。世界中の人々と同じく、今までこんな体験はしたことがない。あり得ないことが起こっている。
テレビをボーと眺めていたら、突然明るくなった。朝になった。
そして、テレビは臨時ニュースを報じた。
『臨時ニュース:「ちょっと忙しすぎて本来の仕事に影響が出てしまいました。ごめんなさい」と報告あり。現在、何者からのメッセージかについて調査中』
「何の話!?」
これにはツッコまずにはいられなかった。なんていう臨時ニュースだろう。
私の声(ツッコミの声)でトヨタマが目を覚ました。
「――おはようございます。ワタクシ、豊玉姫命と――」
「――いえ! その話は昨日聞きましたよ?」
「……そうでしたか? どこまで話しましたか?」
「豊玉姫命の座を半分譲り渡すとかどうとか……あと、伊邪那美命がどうとかも言ってました。錯乱状態にあったみたいです」
イザナミ――その名は、ただの昔話ではなく、今なお誰かが避け続けている傷跡のようだった。
「……それは錯乱状態ではありません」
「であれば、どういう状態だったんですか?」
「普通です。普通の状態です。通常状態です」
なるほど……?
そこまで自信満々に言われてしまうと、少しは信じてみようという気にもなってくる。
「佐内美衣子さん」
「美衣子でいいよ」
「美衣子。ワタクシのことはトヨタマと呼んでください。先ほどワタクシが起きる直前、何か取り乱したように大声で叫んでいましたけど、どうなされたのですか?」
「……まず、回りくどいような気がするし同じ歳くらいみたいだから堅苦しい言葉遣いや敬語はお互いにやめよう? ね、トヨタマ。大声で叫んだのは、臨時ニュースが流れたから。その内容がね……『ちょっと忙しすぎて本来の仕事に影響が出てしまいました。ごめんなさい』っていうもので、ついつい叫んでしまったの」
トヨタマはそのことについて何か考えているようだった。――眠る前と同じように頭のおかしい話を聞かされたら、たまったものじゃない……が。
「……そのメッセージを出した人物に心当たりがあります」
「ふぅーん、誰?」
「天照大御神です」
アマテラス――その名は、太陽のように明るいはずなのに、今は重い責任の響きを伴っていた。
……やっぱり……また頭のおかしいことを言っている。こりゃダメだ。治らないかもしれない。
「どうしてアマテラスがやったって思うの?」
「神々のやることはよく知っているんです。ワタクシもまた神なので」
うう〜ん……どんどんおかしな方向に行ってる……。




