003 ◆ 三貴神「須佐之男命」
「(おっはようさ〜ん、おや、お兄さん、元気いいねぇ。何かいいことでもあったのかい?)」
「……」
テレパシーというのは、こういう軽妙なニュアンスまで伝わるのだと、当然ながら初めて知った。が、しかし――なんだこれは。この化け物に何を言われる? 殺されるんじゃないか?
「(お兄さん、もしかして無口〜? と、は、言っても、口を使って会話していないから、意識がないのん? つまり無意識ってやつなんかのぉ? そうなのかのぉ〜)」
「(……いや、意識はある)」
「(おお、ちゃんと通じるようになってるやんか、このオーエス)」
「(オーエス……?)」
こういう雰囲気の化け物からのテレパシーならば、色々と質問してもよさそうな気になってくる。見た目こそ恐ろしい人外、化け物だが、殺されることはなさそうに思えた。
「(あの、あなたはどちら様です?)」
「(わし? わしは、たった今スサノオになった老人じゃ。お主が見かけていた、あの老人じゃの。それが元のわし)」
須佐之男命――その名は知っているはずなのに、目の前の化け物と結びつくと、途端に現実味を失った。
「(スサノオ……それは……)」
全然頭に入ってこない。
「(なかなかわからんことじゃろうな。つまりじゃ、わしがスサノオを簒奪したんじゃ)」
「(さんだつ?)」
「(まあ、簒奪っていうことは千年に一度あるかないかのことなんじゃが、要は神の座を奪うということでの)」
「(な……るほど)」
「(普通は神が神を簒奪する。だが今回は、人間が神を簒奪した。史上初らしい、の)」
「(ええっ!? じゃあ今後、スサノオとして知られて、語られている名称については、新しくあなたのお名前に取って代わるということなんですか?)」
「(いやいや、スサノオはスサノオのままで変わらんよ。神っちゅうのは象徴みたいなものだからの。奇しくも、現在の天皇制度と同じようなことになっとる。じゃから、さっき簒奪した時、世界へと臨時ニュースとして様々な方面へ連絡がいったらしい)」
相変わらず分からない。だが事実、俺の目前にこうしてスサノオがいる。見るからに人外であるがテレパシーのような方法で伝えかけてきている。軽妙なタッチで。嘘ではなさそうだ。テレパシーなら余計に嘘はつけないだろう。たぶん。
「(おっと、誰かがこちらに向かって来ている。あんまり人に見られちゃダメっていう決まりがあるらしいので、ここでわしは退散することにする)」
「(あ、はい。……しかし、どうやったらまたこうやってお話することができるんですか?)」
「(お主、若いからもしかして知らんの……?)」
「(……?)」
「(日本では八百万の神と昔から言われ──あっ! おっ、あっ、じゃ──)」
そう言ってスサノオは消えた。




