023 ◆ ツクヨミの初仕事
「じゃあ、ツクヨミはお昼寝!」
「ええっ!?」
「お昼寝して!」
「あ、は、はい!」
「部屋があるから案内したげる!」
部屋が用意されているのか!
さすが神。神ってすげぇな。アーちゃん可愛いなぁ……。
「ふぅん」
「ん? どうしました?」
アーちゃんは左手をビシッと上げて近づいてきた。
「案内するから……て!」
「……え?」
「つないで!」
「え! あ、わかりました!」
このようにすでに俺は、先ほどから幾度となくノックアウトしている。
こっちこっち、と、アーちゃんなりに急いでいるようだが、ゆっくりと進んでいく。歩幅が小さいのだ。
手を引っ張られるがまま、まるで俺は酔っ払っているかのような歩き方になりつつ開けっ放しにされている扉を通って案内された部屋は、あまりにも広すぎる高天原に、あえて壁を作って存在しているような形だった。無限に広がる高天原で眠るなんてことは難しい気がしていたが、こういう部屋があるなら安心だ。
美しく綺麗に整った、寸分たがわぬ正方形の部屋に、ベッドが三つ用意されていた。
他には、一番目立つものとして、高天原の鳥居の先にある扉と同じものが部屋に入ってすぐ右側に存在していた。それから、足元に見慣れない長方形の板のようなもの……厚さ一センチほどの物体があったり、ガラス製の小さなローテーブルもあった。 ベッド自体は葦原国にあるものと全く同じような作りだ。
「ツクヨミはここでお昼寝」
「はい、分かりました」
「新しい人だから」
「……新しい人? 新人?」
「そうとも言う、と、思う!」
「そ、そうか、じゃあ新人の俺はそこのベッドに横になってお昼寝すればいいんだね?」
「うむ! お昼寝は、疲れたらいつでもしていい!」
「えっ、そうなんだ……ん? アーちゃんもいつでもお昼寝してるの?」
「してる!」
「あれっ、日中のお仕事は?」
「おしごとエーアイでできるから、いつもお昼寝してる!」
エーアイ……なんということだ……。
俺はベッドに飛び込むようにして入り、横になった。ふかふかだ……。
「……アーちゃんもそこで眠ってよい?」
「っ、わぁっ、かわいぃ……いいよ〜」と声が出た。当たり前だろう。
胸がキュンキュンキュンキュンとしたのと同時に、何故か美衣子の影がよぎった。……どう考えても浮気だとか、そういう話には結びつかない。そもそも美衣子とは付き合ってもいない。いや、だからアーちゃんとどうこうとかそんなことを考えているわけではない。決してそれはない!
つまり、ロリコンではない!
もちろんそんな風に主張しても何の意味もない。そもそも俺はロリコン! だとか、誰かに問われている、言われているわけではない。終。……けれども主張しておかないといけない気がしたのだ。
……てか、自分のことアーちゃんって言うんだな……またそれ、かゎぃ……。
だが、少し考えると高天原なんかでは、誰かが俺の思想を垣間見て喜んでいるといった趣味を持ち得るようなヤツがいても不思議ではなさそうだ。そういった能力、趣味を持っている人、というか神。神と敵対する存在は意外に多い……現在のスサノオなんかが代表的だ。トヨタマからしてみれば仇討ちの対象となるのではないか。
それはいいとして……。
断じて俺は変質者だとかロリコンじゃないんだ!
今回は、今まで生きてきた中で一番可愛い……神……最高神なのだけど、まあとにかく可愛い女の子は可愛いんだ! かわいいんだ! ……何言ってんだろ……まあ要するに、どうしようもないだろう、これって? 子供が可愛い、ってのと同じだ。たぶん。
「やったぁ! いっしょにお昼寝!」
疲れているらしいのに、アーちゃんは飛び跳ねて喜んだ。
……ツクヨミの前ユーザーが消えてからおよそ二〇〇〇年ぶりに新しいユーザーである俺が見つかってツクヨミとなり、こうして血の通った会話をしているのもあって嬉しいのだと思う。
アーちゃんはベッドに上がって律の近くにまでモゾモゾしながら近づいてきた。
「アーちゃんやっと仕事終わったけど、また忙しくなりそう」
「そうなんですね……お疲れ様です」
「うん。すごく疲れた。昨日から、ほとんどお昼寝できてない」
『水無月現象』と『太陽滅殺現象』が立て続けに発生して、その間ずっと起きていたのだろう。エーアイとやらも対処しきれなかったということだろう。全然仕組みはわからないけど。
律はツクヨミの姿を解いて、人間の姿に戻った。隣にアーちゃんがくっついている。
恐る恐る手を伸ばして、身体に触れる。何だか、軽くてふわっとしている……。
突然脇腹をツネられた。
「痛っ! ……んん? どうしたのかなぁ?」
「なんでもない! ……アーちゃんね、あしはらの言葉もだいたい話せるよ!」
「そうなの? すごいね! そうやって二つの言葉を話せる人のことをね、バイリンガルって言うんだ」
「バリリンダ……おなまえ!」
「バイリンガルだね、まあ覚える必要のない言葉だよ」
「おなまえ! りた……あたってる?」
「あっ、俺の名前のこと? 惜しいね、もう少しのところだったけど……」
「り……つ?」
「おお! すごいね、りつで当たってるよ。 あっ、そうだ、ちょっと聞きたいこと、いい?」
「ん。よいよ」
「三貴神ってどういう風に生まれたのか覚えている?」
「知ってる! わがちちイザナギがよみのけがれを落とすために、左目を洗ったらアーちゃんが生まれて、右目を洗ったらツクヨミが生まれて、鼻洗ったらスサノオが生まれた」
「ということは、アーちゃんが一番最初に生まれたのかな? アーちゃんが一番上のお姉さんになるの?」
俺がこんなことを聞いているのは、もちろん、アーちゃんを妹にしたいからだ。今の俺にとって、最重要事項だった。




