020 ◇ 思い切って
「(美衣子。ワタクシを前衛にしてください)」
「うん、わかった」
私はその身をトヨタマに委ねるようにした。真っ赤な姿になった。
トヨタマは懐かしい故郷を想いながらも、どうすればアマテラスに会えるのか必死に考えていた。特別な理由がない限り、アマテラスへの謁見は叶わない。
特別な理由、特別な理由、特別な……。
……。
トヨタマは浮きながら、適当な鳥居の前で止まった。鳥居の先の扉をくぐれば、アマテラスの元へ行ける――という可能性がわずかにある。だが、無数にある鳥居の先がどこに繋がっているのか、まったく分からない。偶然アマテラスの元へ辿り着く確率なんて、ほぼゼロだ。
黄泉国へ繋がっている可能性だってある。その時は、今の姿とトヨタマの存在が露見し、死刑執行の対象になってしまうだろう。
それでも他の方法はいくら探しても見つからず、長い時間そうやって高天原をうろうろしていた。
「(トヨタマ。どこかの鳥居の先へ行こう)」
「それは怖いです」
私なりに方法を探してみたが、鳥居をくぐって先へ進む以外の手段は見当たらなかったので、ひとつ、賭けをすることにしようと思った。
「(トヨタマって、賭け事とかしたことないよね?)」
「何ですか? 賭け事というのは」
「(人間界……葦原国では、こういうことをするんだよ)」
そう言って、私は賭け事のイメージをトヨタマに見せた。
「何と……野蛮なことを行うんですね」
「(野蛮というか……ちょっとした商品とかを賭けて何かをするっていうのは、みんな普通にやってるよ)」
「ですから野蛮なんです」
「(んー……でも今回は、他に方法が見当たらないし、見つかりそうにもない)」
「確かに、その通りです」
「(思い切って、扉を開こう! 賭けだよ!)」
「最悪の場合、黄泉国へ行ってしまうという可能性もあります」
「(もちろんそれも含めて。……でも、なんだか大丈夫な気がするんだよね)」
「まぁ……そうですね……確かに、少なくとも黄泉国へは行かないで済むような気がします。どうしてでしょう……」
「(トヨタマはスサノオを討ち取りたいんだよね? そのためには、これくらいの試練は乗り越えないといけないと思う)」
美衣子の言う通りだとトヨタマは考えた。美衣子のように「思い切る」ことはしたことがない……いや、一度だけ、思い切った。二〇〇〇年ほど前に、思い切って黄泉国へ落ちてイザナミのところへ行った。それ以外にはない。それから、思い切っていない。
「(……トヨタマって……二七五〇歳なんだよね?)」
「そうです」
「(それって、神々のほうで考えると、若い方なのかな?)」
「いえ、若くないです。老婆といえる歳です」
「(そうなんだ……なんか同じ歳くらいの感覚でいた)」
「それはそれでいいんです。今のワタクシの姿が豊玉姫命であって、この姿から読み取るような感じでいいんです。それが、ワタクシです」
「(そういう感じなんだね。この姿から考えると、ホントに同い年くらいだ。わかった、そう考えるようにするね)」
「ええ、そうしてください」
「(じゃあ、思い切って、鳥居選んでいける?)」
「……さっきの年齢の話とどう関係があるのかわかりませんが、考えてはいましたよ。では、いきますよ?」
「(うん!)」
適当に飛んでいたトヨタマは、適当な鳥居の前で止まり、鳥居をくぐった。この時にトヨタマは「緊張」という感情を、生まれてはじめて知った。
「では、開いて中に入りますね、美衣子」




