019 ◆ 高天原へ
時刻は十八時を過ぎていた。外はまだ少し明るいが、もうすぐ真っ暗になるだろう。そうなったら、ツクヨミとして出勤しなければいけないことになる……たぶん。
特に準備するものはないか。……いや、ネットでちょっと調べものをしよう。検索――というか、最近は専らAIに尋ねる。あんまり良くない、とは思いつつも、既存の検索フォームにキーワードを入力するだけで勝手に回答してくる。純粋なキーワード検索をする、といったことをしようとすればできないこともないが、その必要はないような気がする。
「三貴神って何?」
色々と回答を聞くと、こうまとめられた。
『伊邪那岐命が伊邪那美命の穢れた姿を見て黄泉国から逃げた。黄泉国に行って穢れた伊邪那岐が禊をして穢れを落としたところ、左目からアマテラス、右目からツクヨミ、鼻からスサノオという尊い神が生まれた』
なるほど。ツクヨミはイザナギの右目から生まれた、とされているのか。
目や鼻ってのは人間にとって必要不可欠な部位だ。だから重要な神が生まれた、ということなのだろう。
スサノオには「お友だち」と呼ばれたが、実際のところは兄弟(兄妹)だ。アマテラスとツクヨミとスサノオは兄弟(兄妹)――俺は凄まじい神になってしまったのだと、改めて感じた。
……このことを美衣子に伝えたほうがいいのか、悩んでいる。美衣子は豊玉姫命だ。トヨタマは、自分の主人だったイザナミを殺したスサノオを恨んでいることだろう。そう考えると、ややこしいことになりそうだ。
そろそろ夜の時間だろうな、と思った頃。
『新しいツクヨミ、高天原へ来てください』
と、声が響いた。
待ってましたとばかりに、俺はツクヨミの姿となった。
どうやって高天原に行けばいいのか――そう思った瞬間、ゲートが出現した。明るいゲートで、いかにも高天原へ繋がっていそうだ。
思い切って飛び込む。身体がふわりと浮き、スーッとワープしているみたいになった。おお、めちゃくちゃ楽しい……なんて考えたのも束の間、あっという間に到着する。
そして俺は固まった。
高天原の風景が、あまりにも美しかったからだ。たとえることも難しい美しさで、空の上のようなのだが、ところどころにパーツのように鳥居があったり、他にも様々なパーツがあるが、それらの配置のバランスが完璧だと感じる。それが三百六十度、広がっている。空の上みたいだ。
俺は思わず、くるくると回ってしまっていた。
『新しいツクヨミ、何をしておる。ァ……ッ、ワタシの元へ来なさい』
なんか今、噛まなかったか?
……まぁ、そんなこと気にしている場合ではない。最高神からこのとおり、お呼び出しがかかっているのだ。厳かに静粛に執り行わなければなるまい。
どうやったらアマテラスの元へ行けるのか考える。すると「こちらの鳥居から」というメッセージのような回答が返ってきた。鳥居へ向かって歩き出すと、身体が浮いた。浮いたまま、その鳥居へ向かう。
空を飛んでる……すっげぇ面白い……!
そんなことを考えそうになったが、真面目に行こうと決め、鳥居をくぐり、その先の扉を開いた。




