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016 ◇ 眠りから覚めて

 律からの電話を受けたあと、私は疲れ切って眠ってしまった。お昼頃に眠り始めた。昼寝のつもりだったのに、目が覚めると十八時。昼寝を通り越して、がっつり眠ってしまったようだ。

 まだ夢の中にいるみたいな感覚が残っている。トヨタマ……話しかけてみようか。


「トヨタマ」

「(おはようございます、美衣子)」


 いるなぁ……。私の中に、もうひとりの神――トヨタマが確実に存在する。常に心の中を覗かれているようで、ちょっと嫌だな……。


「(嫌、ですか?)」

「聞こえちゃったか」

「(その気持ちは分かります。ワタクシは嫌ではないのですけど)」

「ん? 私はトヨタマの考えてること、分かんないけど」

「(……それはたぶん、ワタクシの生まれが辺境の地で、葦原国で人間として生まれた美衣子のほうが、色々と考えすぎることが多いということが関係しているのだと思われます)」

「そうなのかな……高天原で生まれたトヨタマってさ、どんなふうに育ったの?」

「(あ、いえ、高天原ではなく葦原国の海の奥底で生まれました。ちょっと変わったところですので、あまり育ったというイメージはありません)」

「葦原国で生まれたんだ! 海底って……それ、今度詳しく聞かせてほしいな……トヨタマって何歳?」

「(計算すると二七五〇歳くらいですね)」

「ええ……」

「(我が元主・イザナミは三〇七七歳でした)」

「すご……」

「(様々なことを教えてもらいました。特に葦原国の話をよく知っていたので、興味深かったですね)」

「そうだったんだね。あ、そういえば、イザナミって黄泉国にいたんじゃなかった?」

「(そうです。ですからワタクシは当時、高天原にいたのですが、黄泉国へと向かったのです)」

「それって出てこれないんじゃない?」

「(そうですね、今日のようにゲートを開くことができなくなります……無理やり登れば追われますし)」

「ね。そこまでしてイザナミのところに行きたかったの?」

「(はい。イザナミと話すことがすごく楽しかったので、自ら黄泉国へ落ちました)」

「そっか……じゃあ、イザナミのこと、大好きだったんだね」

「(……そうです。大好きでした)」


 身体が、ドクッと波打った。


「うん。それくらい大好きだったのならスサノオのことを――」

「(当然、恨んでますよ。討ち取りたいです。しかし美衣子に影響が出てしまうので)」


 身体が動かせなくなった。トヨタマの感情が強くなると、身体にまで影響が出るみたいだ。


「討ち取りたいって……スサノオってイザナミを簒奪するくらい強い神なんだよね?」

「(ええ。ワタクシと美衣子だけでは絶対に倒せません。ですので、他の神を味方につけます)」

「えっ、それってどの神?」

「相手は三貴神です。三貴神というのはアマテラス、ツクヨミ、スサノオとされています。スサノオ以外――アマテラスかツクヨミ、どちらかを味方につけるくらいのことをしないと、倒せません」

「……それ、相当難しくない? そういった神々は高天原にいるんだよね?」

「(そうです、ほとんどの神々は高天原にいます。ワタクシ……実は、葦原国でいうところの『コネ』があるんです。昔……かなり昔ですけど、アマテラスとよく話していたのです)」

「そうなの? ホントに?」

「(本当です。アマテラスはワタクシの……妹と言っていいくらいに、いつもお姉ちゃんお姉ちゃんって呼んで甘えてきて、すごく可愛かったんです。本当の妹のように思って接していました)」

「えっ……そうだったの? アマテラスって女性なの?」

「いえ、正確には性別はないのですが……可愛い女の子です」

「……まあとにかく、大好きだった人を消されちゃったトヨタマの気持ちは痛いほど分かるから。スサノオのことはね、私もできる限り手伝うよ」

「(……本当に、ありがとうございます……美衣子が美衣子で、良かった……です……)」


 すると右目から一筋の涙がこぼれ落ちた。驚いたが、これはトヨタマの涙なのだろう。それくらいに大好きな神を殺されたのなら……神であろうとも神を憎む――そういうことなのだろう。


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