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013 ◆ 三貴神「月読命」

 俺は月読命となった。あっさりと三貴神になった。

 身体がシュッとツクヨミの姿になる。不思議な感覚だ。

 これから初号機を動かす練習みたいなのが必要そうに感じられた。だが意外にも、ツクヨミの身体になった瞬間から普通に動けた。覚えているのだ。

 覚えている――というのは、実際のところ脳だ。俺の脳は、以前のツクヨミの脳と合体した。合体して脳が半分ずつになるとか、そういうエラーが多発しそうなことではない。イメージとしては律の脳とツクヨミの脳は、二つ並んでいるのだ。

 MRI検査を受けたらとんでもないことになる、みたいなこともない。頭が肥大化して化け物のようになる、ということもない。

 あくまで概念的なことでもって合体している。

 葦原国(人間界)でもどこでも、別の脳にアクセスできる。混乱しないのが不思議だった。脳の回路だとか、どう作られたのだろう。

 ツクヨミの知識は半端じゃない。まるで図書館のようだ。高校程度の数学なら簡単に解いてしまう。反則みたいだ。美衣子のいる大学にも余裕で合格できるだろう。いいのだろうか……。

 ツクヨミがなぜ「から」だったのか、その理由もだいたいわかってしまった。このことについては、誰にも言わないことにすると決めた。ツクヨミが必死に隠していたことだった。黙っておこう。


「はじめましてじゃの、ツクヨミ」

「あ、はじめまして。あれ? テレパシーじゃない?」

「神同士だからの」


 神……なんだよな。試しに手のひらを上に向けて、炎を出してみようと思った。念じてみる。

 ブォアーと炎が出たが、トヨタマの見せてくれた小さな炎とは違い、俺の手のひらから高い高い火柱が上がった。


「あああっっ!」


 と言ったのも束の間、炎はみるみる大きくなっていき、天井を突き破ってどこまで伸びたのか全くわからなくなった。


「うぅぉぉおおおいい! ツクヨミ! 何しとるんじゃぁぁ! 早く消火しないと火事になるぞ!!」

「ど、どうしたらいいんですか」

「水を出せばいいんだけれども……わしのやり方を見ておくのじゃ! ちょっとこれから忙しくなるからなかなか見せられることもないだろうし……それに、りっちゃんとは兄弟だから見ておいてもらおう」

「はぁっ? 兄弟って……?」


 スサノオは水を呼び出し、ブワッと部屋中にぶっかけた。ん? これ、海水かも? まあ、おかげで見事に消火することに成功した。

 ……天井に穴が空いてしまったが。


「老人と高校二年生が兄弟ですか?」

「……そんな風に表現しないでほしいの……おじいちゃん、ちょっとしたことで傷つくからの……」


 それにしても、部屋はぐっちゃぐちゃ、びっしょびしょになってしまった。


「あ……危なかった……」

「葦原国でそれは使わない方が良い。ツクヨミのそれは、圧倒的に強いからの」

「なるほど……それでは、部屋を掃除しますね……」

「そうじゃな。じゃあ、わしは行くことにする。イザナミの代わりに、黄泉国の管理をせねばならぬからの」

「あっ、そうだ! ……どうしてイザナミを簒奪したんですか?」


 色々とありすぎて、大事なことを聞き忘れるところだった。


「それはじゃな……わし、人間だった頃、一度、黄泉国へ行ったんじゃ。死んだと思ったら三途の川だとかそんなのなくて、目の前にイザナミがおった。そして、地獄へ送られた。地獄はもうとてつもない場所じゃ。地獄で5分過ごした後に、葦原国へと戻ったんじゃ。それはの、珍しいことに、わしは死の淵から蘇ったのじゃ」

「……地獄に送られたからイザナミを恨んでいたと?」

「その通りじゃ」


 俺はスサノオの話を聞いて、それだけのことで殺すほどイザナミを恨むようなことなのかと疑問に思ったが、それは聞かないでおいた方がいい気がしたので黙った。


「りっちゃんがどうしてツクヨミになれたかということなんじゃけど……もう一度説明しておく。偶然ではないからの。他の人間では当然、ツクヨミになれんから」

「俺だけがなれるんですよね」

「そう、りっちゃんだけがツクヨミのオーエスを扱える」

「それはどういうことですか?」

「全て偶然ではない」

「何が何だか……」

「ツクヨミ……いや、りっちゃんだった頃じゃな。わしがスサノオ簒奪した直後。もうその時点からアマテラスはツクヨミの適任者としてりっちゃんを指名しておった。そして、アマテラスはりっちゃんをツクヨミと認めた。承認した。……水無月現象の時にりっちゃんがそこに居合わせるようにセッティングしたのも全てアマテラスの思惑どおりじゃ……ただ、わしがスサノオを簒奪したことは想定外だったようじゃが……」

「そうだったのですか……しかし……やっぱりわからない。なぜ俺がツクヨミの適任者なのだろう」

「あの方の考えていることはわからぬが、あらかじめ起こること全てを知っていて、葦原国の人間をパズルのピースをはめ込むようにして操作することができるようなのじゃ」

「予知能力に、強力な何か……」

「底知れぬ方じゃ」


 スサノオは黄泉国へと向かった。

 そして俺は人間の姿に戻った。葦原国にて、人間としての活動をすることにした。この、穴のあいた天井……どうしよう……。


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