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ソウル ロンダリング ある日突然、裏導師 ~南大阪御伽草子~  作者: 富田林 浩二
第四章 過去からの奪還

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第四章 過去からの奪還 第七節 だっこにおんぶ


令和七年 三月二十九日(土曜日)



 この日は朔の日、新月である。

 本来ならば、あきらめの魂をあの世に送るのだが、この日は該当者なしで、玄宗邸での送り出し業務はお休みだった。


 海香は入院中に、ケースワーカーとの話し合いで地元から少し離れた施設に、家族からの虐待を理由として一時的な入所が認められた。

 それには、警察から、というか、布忍からの海香の父母の話も、どうやら判断材料になったらしい。

 また、玄宗さんの母さんのところに行くことも決定していたので、高校の転入試験も欠員試験にギリギリ間に合い、春からその高校に通うことも決まっていた。


 この日はその施設を退所して、岡山の玄宗さんの母の家に行くため、玄宗さんは角成と般若さんとともに、朝早くから荷物をまとめた海香を迎えに行き、四人は高速道路で岡山へと向かう。

 玄宗さんが運転し、海香は希望で助手席、般若さんと角成は後部座席。

 乗車早々海香に角成は、

「これ、何も言わずに受け取ってください」と言って、小さな紙袋を渡した。

「なになに? 中身見ていい?」

 海香は嬉しそうに中を見て、

「いや、……これ……、高いって、あかんよ、返すわ、お金」と言った。

 紙袋の中身は海香が持っていたスマートフォンの最新機種だった。

「この前預かったの、僕が水没で壊しちゃって。あれ契約変えればまだまだ使えたのに、すいませんでした」

 角成の後部座席からの言葉に、海香は恐縮していたが、何度かの押し問答の末、

「それじゃぁ、本当にありがとう……」消え入りそうな声でお礼を言った。

「海香さん、それ、かっくんが電話機買って、私が消し忘れたバックアップデータ使って、前と同じように復元してあるだけで、色々な契約はまだやから、岡山のお店で手続きしてね」

「俺の連絡先は、母さんから聞いて」

 海香は申し訳なさそうな顔で『はい』とだけ言った。


 実は、角成が海香の電話を買ったことで、道明寺さんからいただいたお金は、ほぼ使い切った。

 角成は、それでいいと思っている。

 道明寺さんは『自分のために使って下さい』と言っていた。

 何だかんだで、あのお金があったおかげで、角成は色々と助かった。

 だが、この日は意識的に、借金のことを考えないようにした。


 車内では、海香が十代の女子高生らしくはしゃぎ、般若さんはあれこれと皆の世話を焼いた。

 車内の会話も、海香中心になるが、十代の女子高生にしては、親兄弟の話が出ないのは仕方ないとしても、友人の話が全く出ないことに、特に玄宗さんは違和感を抱いた。

 だがその違和感は意識の奥底深くに、大きなおもりを付けて沈めた。


 日生で母さんは、以前玄宗さんと暮らした古い民家が空いていたので、そこを借りていた。

 近くに車を停めた玄宗さんは、三人を案内する。

 家の佇まいの割に新しいインターホンを押すと、家の中から『はーい』と返事があり、重い木製のガラス戸が、横にカラカラと軽やかに開きながら、

「玄ちゃんおかえり、あんたあっちでヤクザとこに突撃したってホンマ? どんな育ち方したらそんなことできるんよ、ホンマに……」玄宗さんの母さんが、一気にしゃべった。

「母さんただいま。友達連れて来た」

「はい、皆さんいらっしゃい。上がってくださいねぇ~」

 マイペースな玄宗さんの母さんが明るく言う。

 玄宗さん以外、皆一様に緊張しているが、特にここでこれからお世話になる海香は、引きつった笑顔が貼り付いたようになっていた。

 角成は、海香の緊張をほぐそうと何か気の利いたことを言おうとしたが、この中で一番の人見知りにそれは不可能で、海香より緊張した顔で黙ったまま入って行った。

 玄宗さんは皆を簡単に紹介し、母さんが用意した少し遅い昼食を五人で摂る。

 当たり障りのない話が展開するかと角成は思っていたが、突然母さんは海香に、

「下着と靴下、あとで買いに行こ」と言った。

 海香は遠慮がちに、

「あっ、はい……」とだけ言った。

「あと、嫌いな食べ物とか苦手な食べ物ある?」

「えっとぉ……」

 そこに玄宗さんが、

「うちの母さんには、一切の気遣い遠慮なしでいった方が気楽やで」と言った。

「じゃぁ、ピーマンと、なすびと、ふきと、キノコ類と、……」

 まで海香が言った時、

「その都度聞くわ、好き嫌い多いみたいだから。海香さんもう一つ聞くけど、いい?」と、食い気味に言った。

「はい、……どうぞ」

「自分の好き嫌いはそのままでいく? それとも、なくす方向で行く?」

「えっとぉ、どうしよ?」

 海香は困り顔で、角成を見詰めて言った。

「海香姉ちゃんはどうしたいの、ってお母さん聞いてますよね」

 角成は玄宗さんと母さんに向かって聞いた。

「そうよ。この質問に、私の中で正解不正解はないよ。あなたの中での正解不正解はあるかもやけど、いつでも方向転換できるし、うん」

 母さんは明るく言った。

 海香は、

「じゃ、当面は好き嫌い克服で、そっちでお願いします」と言った。

「は~い、んじゃぁそれでメニュー考えるわ、それと、私も仕事してたりで何かと忙しいんで、できることだけでいいから、料理以外の家事は手伝ってね」

 海香は微笑んで元気に、

「はいっ!」と返事した。

「母さん、俺の克服のとき、ピーマンの塩炒め作ってくれたやんか、あれは?」

「あれね、いつでも作れるよ。簡単でおいしいし」

 その会話に海香は、

「ピーマンの塩炒めって……」少し嘲笑気味な言葉が出てしまった。

「あっ、海香っち、いきなりピーマン克服って、開始早々ラスボス攻略って思てる?」

「違うんです、何でもないんです……」

「これから一緒に暮らすんよ、何でも思ったことは、お互い口から出しましょうよ」

 母さんのこの言葉に、海香は遠慮がちに、

「失礼な言い方ですけど……、玄宗さん親子にしてみたら、なんか貧相っていうか、庶民的な料理だなって……、ごめんなさい」少し困った顔で言った。

「海香さん、あなたと私はこれから日常をともにするんよ。それって庶民的で、結構貧乏くさいことばっかりよ、電気消せもったいない、とか。覚悟してね。 玄ちゃん、海香さんいい人で良かった。一気に私の緊張解けたわ」

 玄宗さんの母さんは、玄宗さんに言ったあと、海香をみて『イーッ』と笑った

 海香は、

「はい……」と小さく返事をし、緊張が解けたのか、安心からか、受け入れてくれた言動が嬉しかったのか、どれかはわからないが、涙ぐんだ。

 そして玄宗さんの母さんは、

「あなたのわがままいっぱい頂戴ね。うちは甘え下手な一人息子しか育てたことないから、女の子とわがまま対決したかったのよ。だから、お互い好き勝手に生きましょうね」そう言って、優しく海香の涙をぬぐった。

 母さんのスマホが鳴る。

 母さんが立ち上がって舌打ちして、電話に出て席を外す。

「なんか目ざといな、いつもながら……」

 そう言って部屋から出て行き、すぐに不機嫌な顔で戻って来て、

「あっちの人らが今から来る、って言うたから、バッサリ断った」

「母さんが機嫌良くって、そのぞんざいな態度、ということは、反社な人たち」

「それ、そいつら。玄ちゃんおるって、なんでわかったんやろ」

「あの人らはそれなりに鼻が利くから」

 この母子の『反社』入りの会話に、海香、角成、般若さん、は完全においてきぼりだった。


 ほんの数分後、ヒールで走るカツカツという足音の後、玄関の引き戸が何度もノックされる。

「インターホン鳴らせよ、ホンマに。あいつら嫌がらせに警察呼んだろか」

 そう言いながら母さんは玄関前で、

「玄ちゃんなら帰ったよ。美人の女の子一人残して」そう言って玄関を少しだけ開ける。

「嘘や、玄ちゃんの車まだそこにあった。どこ? 私の玄ちゃん?」

 玄関前でサキちゃんが、小さな声で言っている。

 が、入ろうとはしなかった。

「あ~あ、なんかヤクザとその家族は一歩も敷居またがせへんとか、しょうもないこと言わんといたら良かった。玄ちゃん。サキちゃん来たよ」

 そう母さんが言い終わる前に、玄宗さんは裸足のまま引き戸を開けてサキちゃんのところへ行った。

 サキちゃんは速攻で抱き着き、後ろにいるあねさん、高見ノのあねさんが、

「こら、人妻が白昼堂々なにやってんの。モメても私助けへんよ」と注意した。

 サキちゃんに抱き着かれた玄宗さんは、唇を引き締め、

「うん」と大きくうなずき、

「今日はお二方にお願いがあって……」と言った。

 その言葉にハイテンションなサキちゃんが、玄宗さんを見上げ、

「この前のことのお礼とかお詫びとかやったら大丈夫よ。大阪のなんかいう組の今川とかいうあのハゲ、もう襲撃してけぇへんよ。『復讐しても返り討ちが関の山や』って。しかも、あの時、玄ちゃんの車の中で待機してた奴、凶暴なオーラ放ってて勝てる気ぃせんかった……、て……」そこまで勢いで話してしまったことを、鬼より怖い形相の玄宗さんの母さんを見て、全力で後悔していた。

「玄宗、あんたヤクザと揉め事起こしたんは聞いてたけど、この人らにケツ拭いてもらった、とか、嘘でもないよね。大阪で元気でやってる言うてたけど、あんたヤクザと明るく楽しくやってる、とか、ないよね?」

 玄宗さんの母さんの表情は険しかった。

「うん、……その事に関しては~」

「それ、玄ちゃん言い辛かったら、私からミライさんに話ししよか?」

「いいえ、結構です。息子から直接聞きます。それに、何度も言ってますけど、みんなの前でファーストネームで呼ぶのやめてください、誤解されますんで。高見ノさん」

「ごめん、調子に乗った。ほんまにごめん」

「母さんにはその事、ちゃんと話さんとあかんと思ってた。後で今日来た四人で話するわ」

「えっ? 今日来た四人全員当事者?」

「せやねん、あと一人おったけど、彼女どうしても仕事休まれへんかったから、俺らで来た」

「まだおる? しかも、女性? なんか、きな臭い話なんか、艶っぽい話しなんか、ちょっと興味湧いてきたやんか、嫌やわ、怒ってるのに」

 母さんの怒りは、一旦トーンダウンした。

 冷静になると、人は自分の置かれた立場に気付くことが多い。

「あかん、これって玄関先でヤクザと揉めてる人やんか、私。……今日は特例、二人とも入って。今日だけやよ、今度からは今まで通り絶対に入らんとってや」

「は~い、お邪魔しま~す」

 サキちゃんとあねさんが入る。

 家に入る時、あねさんが玄宗さんに、

「みんなの手前、お母さんあんなこと言うてるけど、何億回もここの家に上がってるから心配せんといてね。でもその時はこっちも気ぃ使って、もっと地味な格好して来るんよ。でも今日は、開店用の顔面の準備済ませてたキミちゃんが突然『なんか玄ちゃんの匂いがする』って手ぇ引っ張って来られたから、ごめんね、なんか」そう言った。

「ちょっとそこのあねさん、余計な事言うんやったら、一人だけ土間に正座……、とか冗談でも言うたらあかんね、ごめん、上がっていつも通りダラダラして」

 玄宗さんの母さんは、やはりフェアーな生き方だった。

「ごめんね、玄ちゃんのお母さん。今度はもっとシンプルな服装……、そうや、ビキニで来るわな」

「そん時は、背中に観音様背負った白グマが出たって猟友会騙して、ハチの巣にしてもらうからな」

 と、いつものように、一般人が笑い辛い言い回しで、母さんがあねさんに反撃した。

 サキちゃんは般若さんを一目見て、

「玄ちゃんのお母さんと一緒に暮らすの? よろしくね」と声をかけた。

「あの、違います。私、今日は付き添いで……」

 般若さんは小さな声で言った。

「うわぁ、ごめん。じゃ、こっちの美人さんね。よろしく~。玄ちゃんの彼女?」

 と言った真顔のキミちゃんに海香は、

「残念ながら違うんですよ、残念ながら……」と言った。

「残念じゃないって。もしも彼女やったら私と高見ノの姉さん、懲役行かなあかんかったもん」

 キミちゃんのその発言に、

「そこのきらびやかな顔面のママ、一般人が受け答えし辛い発言は控えるように、私もでっっっきるだけ控えるから」と、玄宗さんの母さんが言った。

「冗談やからね。あなたに何かあったら、私らがミライさんに一生無視されて、死ぬより辛い目に合うから、何があってもあなたのことは大切にする」

「せんでええ、それは私の仕事や。こっちが世話しても、あんたらには我々一切、何一つ世話にはなれへん。貸しはなんぼ作っても踏み倒してもろて結構、こっちは絶対に借りは作れへんから。……で、思い出した、玄ちゃん、説明して」

 そこに、あねさんが割って入る。

「私から先に言うとくけど、玄ちゃんは私らに何も頼み事……」

「あねさんには聞いてない。私はうちの息子に質問したの!」

「母さん怒らんといて、あねさんは良かれと思って言うてくれただけやから。怒る相手は俺だけにして」

 その言葉に、母さんは一旦静かになる。


 玄宗さんは『海香さんの前で申し訳ないけど……』と前置きし、海香の両親のクズっぷりを、出来るだけ当たり障りのない感じで話し、轟マンション行き当たりばったり奪還作戦は、オカルト部分と高鷲家の人々の名前も省略し、出来るだけ簡潔に話した。

「玄ちゃん、この子、海香さんを無傷で連れ帰ったのはエライけど、なんでそんな無茶したんよ。……かといって、相手がどこの筋の人間か、時間あったら調べて、同門やったらあねさんに渡し舟とか助け船とか頼めたかも、やけど、……アカンよ、これは、こういう人達に一番頼んだらアカン案件やよ、うん。絶対に。でも、玄ちゃん、そんな泥船でよう助けたね」

「俺、日頃の行い悪いのにね」

 そこに、

「しゃべっていい?」高見ノのあねさんが母さんに聞いた。

「一分だけね」

「一分ならじゅうぶん。玄ちゃんのこと、何日か後やよ。私聞いたん。あのぉ、そのぉ、会議会議、そこでうちのダンナ、……主人? が、血の繋がってない兄弟? から『若いモンが素人に恥かかされて、それで助かった』っていう話聞いて、……一分過ぎたけど、まだいい?」

「今その話やめたら、ペンチで唇つねる」

「ありがとう、帰ってタラコちゃんってダンナから呼ばれるのイヤやから続けるね。えっとぉ、……そうそう、今って暴対法キツなって、トップも責任取らされるやんか? 何億も賠償金払わされたり。それ防げたから、ホンマに助かった、って。だから、一人、組抜け……、えっとぉ、円満退社そうそう円満退社、(親指と人差し指で丸を作り、小指を曲げ伸ばししながら)罰金も罰則もなしに円満退社できたのも、それがあったからやねん。そういう訳で、今回私らは眉一つ動かしてない。事後に聞いた時も、眉は吊り上がらず、下がった」

「うん、ということは、今回の一件でうちの息子は、あねさんに迷惑とか手間とかかけてない、ということなん?」

「うん、全く。これは大好きな玄ちゃんのことやけど、忖度とか全くなしの真実やから」

「よかった、あねさんらにも迷惑かけてないんやね」

「母さん、俺、……今回のことで結構懲りた。次同んなじことあっても、どんなに頭に血ぃ昇っても、絶対に警察に助け求めるわ。どんな嘘ついてでも、警察動かすわ」

「うん、ホンマにそうしてな。今回のことも、……そうはいかんから警察より早く行ったんやろけど。もうこんなん無しでお願いします」

 なんとか母さんは、決して納得はしていないが、一応鉾は収めたようである。


 母さんは、食事の片付けを角成と般若さんと海香と共にしている。

 そして、玄宗さんは突然、

「あねさんちょっといい?」

 と、なぜかじっと般若さんを見つめる、高見ノのあねさんに声をかけた。

「はいはい、何?」

「その女の人、じっと見てるけど、なんかあるん?」

「どっかで会った?、……見た?、……違う、なんやろ? なんか記憶というか、……言葉にしにくいんやけど、なんて言うたら……」

「般若の姉ちゃん、ちょっとこっち来れる?」

 玄宗さんが声をかけた。

「はい……」

 般若さんが遠慮がちに、玄宗さん、あねさん、サキちゃんの三人の前に来た。

 サキちゃんが、

「ちょっと、玄ちゃん、その呼び方、私がお風呂で、後ろから声かけられる時の名前やんか」と恥ずかしそうに言った。

「あっ、それじゃぁ、私、名前変えましょうか?」

 そう般若さん言ったが、

「あかんあかん。私も今更レーザー消しとか、皮膚移植とかせえへんけど」とサキちゃんは笑いながら言った。

 その時、

「こらぁ、そこのママ! 私がちょっと目ぇ離したスキにまた極道トーク始めやがって、初対面の人だらけ、ここ」と、玄宗さんの母さんが突っ込む。

「なぁ、あねさん、なんか、……似てない」

「玄ちゃん、そうやねん。顔かたちと違う……なにか。……なんか、そうやねん」

 玄宗さんは、般若さんの背中を押し、立ち上がったあねさんの方に、ゆっくりと押す。

 自然にあねさんが腕を開いた。

 皆が黙って見守る中、開いた腕の中に、般若さんがそっと優しく包まれた。

 なぜか般若さん自身にもわからない涙が、一すじ流れた。

 般若さんは戸惑っている。

 あねさんは、

「サキちゃん、ちょっと……」そう言って、立ち上がったサキちゃんに般若さんを預ける。

「あれ? なに、いい匂い? なんで?」

 サキちゃんはそう言って呆然としている。

「そうや、サキちゃん。あの時の、……サキちゃんの子供のご遺骨、まだあるやろ。あの子、玄ちゃんに預けたら? 玄ちゃん確か前に葬儀屋さんとか、霊園とかに勤めてたよね? そうやんか、そうし。サキちゃんそれが一番安心やろ」

 玄宗さん般若さんの背後から、

「ちょっと失礼」と言いながら、般若さんの両方の耳を手でそっと塞いだ。

 サキちゃんは玄宗さんの言動を全く気にせず、

「里子姉さん、私も今その事考えてた……。玄ちゃんやったら、あの子のことちゃんと守ってくれて、ちゃんと送ってくれる、って。 ……やっと」そう言って、般若さんを優しく抱きしめた。

 角成がそっと、

「サキちゃんさん、その子供さんの、名前、良かったら教えてもらえますか」と言った。

「名前ねぇ。……いつもの散歩道に百日紅(サルスベリ)の見事な木があってね。お腹の中にいてるってわかった病院の帰りにそこ通ったら、まだ残ってた真っ赤な花を見ながら、なんとなくお腹の中の子供は、女の子みたいな気がしてたから『(くれない)』と書いて『べに』って決めたの。抱きしめてあげられなかったけど……」

「あっ、すいません、僕何も知らずに、空気読まず余計な事……」

「違うねん、こうやって思い出しても、もう泣けへんようになったんよ、私。……何と言うても、男の子と女の子の、双子のお母さんやねんから。楽しいこといっぱいあって、もう泣かんでも良ぉなってん。二回の妊娠で子供が二人、完璧やろ。今日も二人とも中学校でクラブ活動してるわ。……せやから、私すごい幸せやねん」

 サキちゃんのこの言葉に、一同ホッとしていた。

「ありがとう、歳は全然違うけど、うちの子らと同んなじ匂いする般若ちゃん」

 サキちゃんはそう言って、笑顔でもう一度抱きしめた。

 般若さんは、玄宗さんが耳から手を離した後も、ぼ~っとしていた。

 玄宗さんは、般若さんの目を見つめ、

「西口 紅ちゃん。ええ名前やな」そう言って大きくうなずくと、笑顔で少し涙ぐんだ。

「なんかいつになく神妙やけどあんたら話はついたん? 玄ちゃんひょっとして、コイツら二人と揉めてる? このあと殴り合いになっても、絶対に素手な。ヤクザ相手に武器使ったらあかんよ。たとえ護身用とか言うてスタンガンとか持ってても、絶対に使用不可やで。その時勝っても、絶対に恨みの大安売りにしかならへんから」

 それを聞いて、玄宗さん、般若さん、そして角成も、下を向いて、気まずい顔を隠した。

「使った? 玄ちゃん、ひょっとして使った? そして買った? 揉めた? まさかね。そんなことしとったら、世間様に顔向け……。今日の世間様は七ぶんの二は反社か。そうか、うちの息子は友達取り返しに、反社相手に女性と武装して突っ込んで行ったかぁ……。一体誰がこんなあほぉな子を育て上げたんか……。まっ、聞かんかったことにしよ。今のところ全員無事みたいやし」

 玄宗さんの母さんは、なぜか嬉しそうに言った。

「しかし、玄ちゃん、アブナイことまで一緒にできるいい仲間たくさん作って、母さんなんかすっごい寂しいわ。ホント、海香さん来てくれて助かった」

「だからいつも言うてるやん、困ったことあったら私らにいつでも……」

「いりません」

 あねさんの好意に、母さんはいつも通りの塩対応だった。


 玄宗さんの母さんは海香を連れて、ウキウキしながら買い物に出かけた。

 角成と般若さんは、家で待っているのも何か違う気がしたので、玄宗さん達と同行することにした。

 サキちゃんと般若さんが、二人並んで前を歩いた。

 角成と玄宗さんとあねさんは、自然と二人から少し離れたところを歩く。

 玄宗さんが、

「あねさん一つ教えて」と言った。

「私らの歳以外やったら何でも答えるよ」

「サキちゃん、酒豪って言うてたよね?」

「そうよ、私の男女問わずの知り合いの中で、アルコールと腕っぷしは一番強い。ちなみにアルコール部門の第二位はたぶんミライさん」

「なんか要らん情報色々付いてきたけど、まぁええか。ほんで、まだ日本酒専門のクラブのママさんしてはるの?」

「そうよ。……それがどうかしたん?」

「ひょっとして、辛口のお酒好き」

「えっ、なんで知ってんの?」

「あと、ブランデーも好き? で、一人酒は絶対にしないし、休肝日は必ず作る」 

「うん、そうやけど、……なんか気持ち悪っ、玄ちゃんストーカー? な訳ないなぁ」

「あねさんとサキちゃんには身体に気を付けて欲しいから、ちょっと聞いてみただけ」

「なんとなくやけど、何で聞かれたかわかるんよ。言葉にはでけへんけど、なんとなく」

 あねさんは少し悩みながらそう言い、

「それよか、古市さんはどう、元気にしてはる?」と聞いた。

「あっ、言うてなかったけ? だいぶ前に嘉介のじーさん亡くなったの」

「聞いてないよ、……そうかぁ、亡くなったかぁ。会いたかったのに」

「そういえば、嘉介のじーさんも、高見ノさんと西口さんに、もう一度会いたい、会って伝えたい事がある、って言うとったわ」

「古市さんねぇ、サキちゃんが紅ちゃん失くしてものすごい落ち込んで、この辺散歩してるときに会って『この頃肩こりひどい』って言うたら、ちょっと失礼って言うて、トントントントンって、両肩二回ずつ軽~く肩たたきしてくれたんやて。それから未だに肩こりしてないって。不思議な話やろ」

「そう言うたら、嘉介のじーさん肩たたき上手やったわ」

「そうなん? 私も去年くらいから物凄い肩凝るんよ。治してもらおと思ってたけど、もうおらんのかぁ~」

 あねさんの言葉を聞いた玄宗さんは、角成を一瞬ちらっと見て、指先をフッと吹く仕草をした。

 角成は察して、服の中から手の中に隠し、牙笛をそっと吹いた。

 あねさんの横に、半透明の若い男性が一緒に歩いていた。

 角成は玄宗さんに向かって、大きくうなずいて、

「あっ、すいません、電話が、……すぐ追いつきますんで」と言って角成は背中を向ける。

 半透明の男性の腕をつかんで連れて行き、路地で向かい合い、言い分を聞く。


 男性はあねさんご夫婦に世話になっていた藤井 寺雄という人で、昨年若くして病気で亡くなったそうだ。

 思い残したことは、

「高見ノの姉さんに、キチンとお礼が言えなかった」ということだった。

 角成が聞き取って、それを伝えれば簡単に解決する話なのだが……。

 実は、古市 嘉介さんの代から『オカルト的な手法での解決は、可能な限り、極力しない』と決めていたので、玄宗さんも破魔子さん(葛葉おばあちゃん)もそれを守ってきた。

 人は誰でも、一度オカルト『不思議な力』に頼ると、何でもそれで解決しようとする。

 安易・安直であるがゆえに、非常に依存性、中毒性が高い。

 だが、葛葉おばあちゃんから譲り受けたものは、未だに一切の手付かずのままで、その事を知らなかった角成は、海香から相談を受けた時に、般若さんからのネタ振りがあったとはいえ、ド派手なパフォーマンスを行い、後日玄宗さんから、この決まりを知らされた。

 角成はその後反省し、それを守ろうと思っていたのだが、今回が初の試みである。


 大神様との脳内協議の結果、角成はコンビニに行き、ペンと便箋を藤井さんに選んでもらい角成が購入し、イートインスペースに座る。

 隣の席に角成が大神様が入ったリュックを置き、そこに藤井さんに座ってもらおうとしたが、

「誰の持ち物でも、その上には座れません」と言ったので、角成は周囲を気にしながら、コンビニがすいていたので、仕方なく椅子の背もたれにリュックを掛け、そこに座ってもらう。

 角成が合掌し、集中力が高まった時、

[そろそろいくよ]と、大神様から声がかかる。

 その瞬間、角成に藤井が憑依した状態になった。

 だが、角成の意識はちゃんとあり、普通に視界も変わらない。

 唯一、左腕の感覚だけなく、ペンを持った左手は、便箋に文字を書いていく。

 角成は右利きだったので、変な感覚だった。

 そして何度か書き直した後、渾身の手紙は書き上げられた。

 あとは、この手紙を高見ノのあねさんに、どんな出まかせをでっち上げて……、少々小細工して……、とにかく、どうにかして自然な感じで読んでもらうか、だった。


 玄宗さんと般若さんは、サキちゃんの部屋の前で待っている。

 すぐにサキちゃんは、小さなガラス瓶と火葬場が発行した封筒に入った火葬証明書を持って出てきた。

 サキちゃんは何かを思い出したようで、また室内に戻り、

「玄ちゃんごめん、これも一緒に供養したげて」と言って、真っ黒なA4の紙が入ったクリアファイルと共に、全て玄宗さんに渡した。

「差し支えなければ、この黒い紙はなに?」

「あっ、その黒い紙二枚の間に挟まってるのが本体。黒い紙は日除け。中身見ていいよ」

 玄宗さんが、そっとクリアファイルを開くと、黒い紙二枚に挟まれていたのは、ハガキほどの大きさの、少し変色しかかった感熱紙だった。

 玄宗さんはそれを見て、

「紅ちゃん? この子が?」と聞いた。

 サキちゃんは黙ってうなずく。

 玄宗さんは横にいた般若さんに、何も言わず見せる。

 少し微笑みながら般若さんが頷き、

「ありがとうございます」と言った。

「じゃ、我々で紅ちゃん大切に預かって帰って、大事に大事に、……しばらく一緒にいます」

 玄宗さんはそう言って、黒地に白で梵字が染め抜かれた、少し大き目のハンカチのような布に、紅ちゃんをふんわりと包み、超音波画像が挟まれたクリアファイルと共に、大切に抱えるように胸元で持った。

「そうしてあげて」

 サキちゃんは安心したように微笑んだ。


 角成は藤井と共に、この時間にあねさんがいるであろう、と藤井が予想したマンションの一室のドアの前にいた。

 角成がインターホンのボタンに指を伸ばすと、

「すいません、私にノックさせてください。いつもそうしてましたんで……」と藤井が言った。

 角成は右手を引っ込め、その代わりに藤井が角成の左腕を使って、三×三回+一回、計十回の独特なノックをした。

 あねさんは『はい』とも何も言わず、目を伏せたままそっと内側からドアを開けた。

「あっ、すいません。歩いていたら、……なんか、看護師さんっていう人から、高見ノさんにって、……あのぉ、手紙、手渡されました」

「あら、それはそれは、ありがとう。目、通していい?」

「どうぞ」

 角成のこの言葉にあねさんは、封筒にも入っていない、四つ折りになっただけの便箋を開く。

 読み終えたあねさんは、

「まだいてる? これ、渡してくれた看護師さん」と言った。

「すぐに行っちゃったので、ちょっとぉ……」

「そっかぁ……。これ、封筒に入ってないから、たぶんその人も内容読んだよね、ちょっと申し訳なかったな。……そうそう、名前聞いてなかったね、キミ何ていうの?」

「河内 角成です」

「かわちくんね、ちょっと恥ずかしいけど、ありがとう」

「はい、あのぉ、……はい」

 角成は内容を見ていたので、変な受け答えになった。

 藤井が書いた手紙の内容は、簡単に言うとお礼の手紙、ではなく、ラブレターだった。

 最初は高見ノ夫妻への感謝の手紙だったが、何度も内容があねさんを慕う言葉ばかりになり、書き直しても書き直してもそうなるので、藤井は内容をラブレターにした。

 あねさんが少し照れながら、

「見た?」と聞いた。

 角成は、

「すいません」とだけ言って、頭を下げる。

「こういうのはフツーは封筒に入れて封するよね。人目に触れないように……」

 あねさんの言葉に、角成は恥ずかしくなった。

 といっても、角成は封筒を買おうとしたが、藤井が封筒に入れなくていい、と言った言葉に従っただけだった。

 だがそこは強引にでも封筒に入れるべきだった、と思った。

「藤井、……あの子に関しては、私ものすごく後悔してるんよ。顔色悪い、って思た時、なんですぐに病院連れて行けへんかったんやろ、って。若いから病気の進行早くって、入院した時はもう……。ホンマに悔やんでも悔やみ切れん……。たぶんこの手紙書く時も、もう便箋に書く力しか残ってない時にこれ書いて、看護師さんに託したんやろね。看護師さんも私がこういう人間やし、内容が内容やから、今まで悩んだやろね……。誰かわからんけど、藤井の想い届けてくれて、ホンマにありがとう、やわ。あの子、藤井の気持ちはしっかり受け取った。親子ほど歳離れてたから、我が子みたいに大事にしたけど、次生まれ変わったら、藤井みたいな素直な優しい人と結婚する、……ようにするわ。覚えとったら、やけどね。まぁ、来世に出会えるように、かわちくん祈っといて。それと、ようこの手紙、私に渡してくれたね。ホンマにありがとう」

 涙目のあねさんは、照れ隠しなのか、大げさに鼻をすする。 

 開いたままの玄関ドアの前に立つ角成の、横に立っている藤井(半透明)は、声も上げず大粒の涙を流していた。

 藤井は泣きながらだが笑顔で、

「もういいです、じゅうぶんです。姉さん忙しい人ですから行きましょう」と言った。

 角成が藤井の言葉に従い、あねさん宅から玄宗さんの実家に戻る。


 帰り道がわからない角成が黙って歩いていると、背後から声がかかる。

「よかった、追いついた。帰り道、わかる?」

 高見ノのあねさんが聞いた。

 角成は、

「ありがとうございます、わかりません」と、笑顔で答えた。

「じゃ、一緒に行きましょ」

 あねさんはそう言って、角成の左腕に腕を絡ませた。

「あねさん、すいません。腕組んでくれるのは非常に嬉しいんですけど、この後問題にならないですか?」

「大丈夫。誰かに見られて何か言われて『新しい恋人』って答えるだけ」

「それ、一番大丈夫じゃない感じがしますけど?」

「ごめんごめん。藤井くんの供養で来てくれた人、って言うよ。大丈夫やからね、これくらい」

 角成は色々な意味で、かなりドキドキしている。

 あねさんは、

「ちょっと聞きたいことがあって追いかけて来たんやけど、いい?」と言った。

「はい……」

「質問は二つあるんよ。一つ目は、ドアにノックしたのは、かわちくん?」

「あっ、……はい」

「あのノックする人、かわちくんで二人目なんよ。玄ちゃんは知らんはずやから違うとして、誰かから聞いたん?」

 角成は返答に困って黙ってしまった。

「答えにくい? それは誰かに教えてもらった、けど言えない、か、本当にテキトーに叩いた、けど、何かカッコ付く言い訳考えてるか、かな?」

「……あそこドアの前に立ったら、……なんとなくあんな感じに手が動いた、というか何というか……」

 嘘ではない。

 ……嘘ではないが、明確な説明ができない返答をした角成は、自分のことながら困惑しながらも、必死に言い訳を考える。

「ほら、あれです、小さい時におばあちゃんと見た時代劇の、締めの手拍子か指拍子がそんな感じだったんで、なぜかそれを思い出して……」

 初対面の、反社の、しかも女性、その人がいる、と思われるドアに、ふざけたノック。

 角成でなくとも、絶対にとれるはずのない、失礼かもしれない行動、なのだが、当事者である反社の女性は、ある理由から失礼とも思わず、

「それって、……藤井と同んなじ理由やわ。ふ~ん、じゃぁ、偶然かな?」と言った。

 そしてあねさんは、優しく微笑み、

「そこ曲がって、道なりに行った突き当りが玄ちゃんち」と言った。

 ……言ったが、腕は離さなかった。

 角成は、

「もう少しだけ、ご一緒してくださいますか?」と言った。

「あら嬉しい。ここで腕を振りほどかれるかと思ってた」

「ご質問、あと一つありますよね?」

「うん、そう、あのね……」

 あねさんがそう言った時、

「こらこらこらっぁ~、そこの歳の差カップル! 道ならぬ恋はあかんやろ!」玄宗さんの母さんが小走りに近付いて来て言った。

「あっ、見つかった。買い物早かったねぇ」

「今からやったら中途半端な時間になるから、玄ちゃんたち見送ってから夕ご飯食べに行くついでにしよかと思って、戻って来た。……というのはアレで、本当はお財布忘れた」

 母さんは、テへへと笑った。

 後ろにいる海香もニッコリした。

 あねさんは まだ角成の左腕を離さなかったが、そのことに関して母さんは何も言わず、

「我々の愛しの玄ちゃん帰ってくるまで、うちで待ってよか」

 そう言って、角成、海香、高見ノのあねさんは実家で待つことになった。


 家に上がると角成が遠慮がちに、

「あのぉ……、あねさん肩こりすごいって言ってましたよね? 僕、肩揉むの、ちょっとだけ自信がありまして……」と、思い付きを言った。

 横で藤井も嬉しそうに頷いている。

「あらそう? じゃ、ちょっとだけ、肩、いい?」

 角成は、

「はい、ダイニングお借りしていいですか?」と言って、

「それとすいません、タオル一枚貸してください」と、藤井の指示で付け加えた。

 あねさんは、

「お願いします」と椅子に座る。

 角成は、

「僕は古市さんほどのスゴイ人間ではありませんので、トントン四回では無理ですけど、心を込めてほぐします」と言い、あねさんは、

「おねがいします。あのね、藤井もよく肩揉んでくれたんよ。上手やった。あの子がおらんようになってからやもん、私がマッサージに行くようになったんは」と言った。

 ここから角成は、両腕を藤井に託す。

 マッサージを始める前に藤井は、タオルを広げて両肩にそっと置き、両手のひらで肩を軽~く擦った後、両肩を拳の甲で、トントントンとリズミカルに叩く。

 あねさんが、

「えっ?」と小さく言ったが、角成は何も言わず、藤井のやり方でマッサージを続ける。

 あねさんが少しだけうつむき目をつむる。

「かわちくん、二つ目の質問、いいかな?」

「はい、どうぞ」

「ここまでの帰り道がわからん人が、どうして、さっきあの家に私がいてるってわかったん?」

「それは、ですねぇ……」

 角成は、

『家に行くときも今も、藤井さん任せ、だからです』と、本当のことをいう訳にもいかず、

「ん~~~」とうなるしかできなくなった。

「あのなぁ、藤井……」

「はい、なんすか、里子ねえさん……」

 角成から咄嗟に出たこの言葉に、

「やっぱり、藤井帰って来てるんやん」

 物凄い涙声であねさんは言い、角成の左手を優しくつかんだ。

「かわちくん、もう一つだけ質問いい?」

「……はい」

「右利き? 左利き?」

「ん~~~っ、……みぎです」

「私、左の方が良く凝るって、言ってなかったよね。左を少し強めに推してつまんで。これって、今私の後ろに立って肩揉んでるの、左ぎっちょの藤井やん」

 あねさんは両手で角成の左手を愛おしそうに握り、角成はじっと黙った。

「なに? 藤井くん帰って来たん? あの子あねさんのことめっちゃ好きやったから、初盆まで待たれへんかったんかな?」

 玄宗さんの母さんが言った。

 あねさんは、

「ミライさん、ちょっとあっち向いてて」そう言い、角成の左手を自分の胸に当てようとした時、

「ただいま~」と、般若さんと腕を組んだサキちゃんが入って来て、

「私何も見てないよ、何も見てないからね」と、あねさんの胸もと未遂の手を、じっと見ながら言った。

「これは、かわちくんに対して、じゃなくって、藤井に対してやから、大丈夫よ」

 あねさんのこの、鼻声の言葉にサキちゃんは、

「えぅ、藤井? ホンマ? 藤井おんの?」と急いで部屋に上がり、角成をくるりと反対側に向ける。

「姉さんのおっぱい揉まんと、私の肩揉んで」

 角成は何も言わず、藤井に任せる。

「嘘やろ……。この人も……、藤井の生まれ変わり? あかんわ、この人も般若ちゃんと同んなじで、年齢合わへんわ。えっ、どうゆうこと?」

 角成は『調子に乗り過ぎた~』と思ったその時、

「おう、かっくん、マッサージの極意、嘉介じーさんから俺が口伝えして、それと、母さんからマッサージ上手な藤井さんの話をあらかじめ伝えてたの、こんなキレイなお姉さん方の前やと言い辛いわな」玄宗さんの助け船が出た。

「えっ、そういうこと?  ……ということは、かわちくん、天才?」

 そう言ったあねさんに、玄宗さんの母さんは、

「あねさん、ホンマに優しいね。そういうことにしといたげて。玄ちゃん放っといたら怪しいことばっかり言うからね」と言った。

 それに対してあねさんは、

「私らの大好きな玄ちゃんがそう言うんやから、そうやと思う、私は。藤井のこと何から何まで再現してくれた、かわちくんの優しさが、今の私には、本当~に嬉しい、……あれっ? 肩こりないやん。ゼロやゼロ。肩首生まれ変わったわ、かわちくんありがとう。お代はさっきの私のおっぱ……」まで言った時、

「ストップ、こちら学生さん。それにさっきは触ってないし、だめぇ、そいうのは、青少年保護なんとか条例とか児童なんとか法とかに引っかかるし、それ以前に倫理観に……って、反社相手に私何言うてんねやろ。コイツらそういうの自分の都合で勝手にねじ曲げたり無視するから反社やった。とにかく若い子に下ネタはアカン」母さんが嬉しそうに言った。

あねさんが立ち上がり、

「かわちくんちょっと待ってて、すぐ戻って来る。私急いで追いかけて来たから、手ブラやねん」と言って、両手を自分の胸に当てた。

「こら、そこの熟女。いい加減おっぱいから離れろ」

 母さんがノリノリで突っ込み、あねさんは走って帰って行った。


角成の中で大神様が、

(人助けいっちょ上がり。で、藤井さんかっくんにお礼言いたいって)と言った。

 角成が、一人になれる場所を、と考えるが、他人の家でそれは難しい。

 悩んだ結果、玄宗さんの車に行こうと思い、

「すいません、あのぉ……、緊張し過ぎて、ちょっと眠気が。……玄宗さんの車で待っててもいいですか?」そう言った。

 玄宗さんは察したのか、

「かっくんも朝早かったからなぁ。はいよ、どうぞ」と鍵を渡してくれた。

 角成は後部座席に座り、奥へと詰めると、藤井も乗り込んで来て、

「かわちさん、月並みな言葉ですけど、もう思い残すことはありません。本当にありがとうございました。煮るなり焼くなり、お好きになさってください」そう言った。

「藤井さん、それは良かったです。煮るも焼くもしませんので、あとはゆっくりしてください」

 そう言ったは良いが、この後どうすれば良いのか、角成にはさっぱりわからなかった。

(かっくん、もし良かったら連れて行くよ)

(えっ? 大神様が?)

(そう、先に玄ちゃんちに行ってくる。また戻って来るし)

「藤井さん、何と言うかそのぉ、……待機場所? みたいな所あるんですけど、よろしければなんですが、そこに先に行っときます?」

「いいですよ、かわちさんの言う通りにします」

「そうですか、……では、あとで神様に連れて行ってもらう、という段取りなんですが……。大神様っていう神様です」

 と角成が言うと、

[よろしくっ!] と、声だけで大神様が挨拶した。


 そのあと、角成が後部座席でうとうとしていると、窓を誰かが優しくノックした。

 角成が顔を上げると、高見ノのあねさんだったので、微笑みながら車外に出た。

「みんなが来る前に、これ、仕舞っといて」

 あねさんはそう言って、封筒を角成に差し出す。

 封筒の厚さに角成が困り顔になり、言葉を探す。

「これ、かわちくんの優しさへのお礼と、藤井の供養。何も言わんと受け取って」

 あねさんがそこまで言った時に、玄宗さん母子と御一行様が現れる。

 角成は困り果てた顔でどうしようか考える。

「かっくんどないしたん? めっちゃ困ってるやん」

 玄宗さんのこの言葉に、角成はどう答えて良いかもわからず、ただ唸るだけだった。

「封筒やろ? かわちくん。もらっとき。一回断って、もう一回言われたら『はい、ありがとうございます』って、気持ち良くもらっとき。・そしたら、出した方も気持ち良いから。二回断ったらアカンよ、出した人が無理強いしたことになって、その人の好意踏みにじったも同然やからね」

 サキちゃんがそう言った。

 玄宗さんが両手を合わせながら、

「あねさん、気に障ったらごめん、先に謝っとく。……かっくん『反社の人から絶対に金品はいただかない』これは一般人の基本な。でもね、この人、高見ノのあねさんとサキちゃんだけは別。この人ら、我々には常にフェアーやねん。だから、今日だけは、ありがたく、……ね」と、葛葉おばあちゃんのように言った。

「あねさん、今日は色々ありがとうございました。僕、お金ないからすごく助かります。本当にありがとうございました」

 ずっと地面を見ながらの、角成の精一杯は間違いだらけだが、現状こんな感じだった。

 角成がお礼を言って顔を上げて、恐る恐るあねさんの顔を見ると、

「よかったぁ~。かわちくんがわからず屋じゃなくって。こちらこそありがとぉ」あねさんはそう言って、角成の左手に少し分厚い封筒を握らせ、そのまま両手で角成の左手を、少し強い力で包み込んだ。

「またこっち方面来るか通るかしたら、絶対に寄ってってな。その時は特別に……、私らの歳こっそり教えたげる」

「かわちくん、それは何回断っても失礼ちゃうからね」

 サキちゃんが結構真顔で言った。

「ミライさん、あっちの山にUFO飛んでる?……」

 あねさんのこの言葉に、玄宗さんの母さんは周りを見渡し、人気が無いことを確認し、

「騙されへんよ、また未成年に条例違反以上のことしようと思って……、あねさん今やったら、身内以外に目撃者おれへんよ。UFOかぁ、最近食べてへんなぁ……」と言って背中を向けた。

 あねさんは、スッと角成を抱き寄せ、

「藤井、今まで守ってくれて、ホンマにありがとう。来世で必ず会おな」と言って、離れ際に角成の左手にそっと頬をあて、その手に少しだけ荒れた両手で強く握手をした。

 角成は握手を藤井に託し、迷い困った顔のまま頭を下げた。

 頭を上げて、改めて角成があねさんの顔をジロジロ見て、

「本日は色々ありがとうございました、……あれ? あねさんなんか、さっきと……」と、いつものように空気を読まない発言をした。

「あっ、ひょっとして、化粧落としてきたのバレた? 今日は仕事臨時休業にして、歓迎会に混ぜてもらおうかと思って、地味な感じに衣装もチェンジしてきた」

 あねさんのこの言葉に、玄宗さんの母さんは振り返り、

「さっきと違ぉて化粧っけないと思たら、やっぱり。今日はゲスト、主役の子がおるんよ。主役の御意向尋ねてからよ」と海香に言った。

「あっ、私なら大丈夫ですよ。ひょっとして、玄宗さんの子供の頃のこととかご存じなんですよね?」

「よ~く知ってるよ。この中では私が一番よく知って……」

「お~い、実母がここにおるぞ~。なんかハラ立って来たから、二人で~、あかんあかん、……海香さん三人で仲良く行こか。……あっ、そうや、料理は一人一・ 五品までな。あねさんいつも大量に注文して『全部食べろ!、絶対に残すな!』って、やるやん。あれは若い衆相手にやってな、私らにはもう絶対にやめて、もったいない」

「あ~あ、ミライさんから無理メシ禁止令出た。わかった、今日が最後ね」

「今日からや!」

 母さんの突っ込みと共に、玄宗さんが運転席に乗り込んだ。

「般若ちゃ~ん、今日はよく来てくれたね。また来てね」

 サキちゃんはそう言って、般若さんを優しく抱きしめた。

「今日は、……優しくしてくれて、ありがとうございました。……ママ」

 般若さんはサキちゃんに抱きしめられたまま、そう言った。

 サキちゃんがそのままで空に浮かぶ雲を見つめて、

「あのね、……さるすべりは百日紅って書く名前の通りで、長いあいだ花咲いて楽しませてくれるけど、また秋が来ると、もう一回、見事な紅葉でみんなを慰めてくれるんよ。……ほんまに、『べにちゃん』って名前にしてよかった……」そう言って目を瞑り、抱きしめる腕に力を込めた。


 あねさんが、運転席の空いた窓から手を突っ込み、車のダッシュボードに封筒を置き、

「ガソリン代、高速代、夕食代。今日はサキちゃんの鼻で玄ちゃんに会えたけど、次から言うてね。お土産用意しとくからね。今回は何もないけど、また、何か考えとくわ」と言った。

「現金でいいですよ、こう見えて車一台オシャカにしたり、クレーンとかレッカー呼んだり、色々かなり貧乏なんで」

 本気交じりの冗談で玄宗さんが言うと、

「ちょっと玄ちゃん! そういう人らにそういう冗談は言わないの」と母さんが注意する。

「あねさん、すいません、調子に乗ってスベりました。今日だけはありがたく頂戴いたします」

 玄宗さんはいったん車から降りて、封筒を手に持ち、きっちりと頭を下げた。

「それよか玄ちゃん、あんたらの襲撃話でミライさん怒ってしもて、流れてしもたけど、何かお願い事あったんと違うの?」

「あぁ、あれはかっくん、……河内くんが聞いてくれたから、もう大丈夫やよ」

「そう、大丈夫やったらええよ。またなんかあったら、いつでも言うてね」

 あねさんは微笑んだ。

 そして、玄宗さん、般若さん、角成と、(半透明の)藤井 寺雄を乗せた車が出発した。

 玄宗さんは運転席の窓から手を振り、般若さんは助手席から身を乗り出し手を振り、後部座席の角成と藤井は、二人して車内で何度も頭を下げた。

「藤井~~~っ、かぁ~わぁ~ちぃ~くぅぅぅ~ん、ありがとぉぉぉっ!」

 あねさんが大声で叫び、声に負けないくらい大きく手を振った。

「やっとや、……やっと大きな声出た。・藤井くんのお通夜の晩から、泣いて泣いて泣き過ぎて声出んようになるまで泣くから、ずっと声出すの辛そうで心配やった……」

 母さんは誰に言うともなくぽつりと言った。

 その時サキちゃんが、

「あっ、玄ちゃん抱っこするの忘れてた! ミライさん、電話かけて呼び戻して、早く早く! 今日私一回しか抱っこしてへん」と言ったが、

「海香さん、今日は何食べたい? 和洋中仏伊、何でもいいよ」と母さんはスルーした。


 車は高速道路を走り、一つ目のサービスエリアで大神様は藤井 寺雄を背中に乗せて、一足先に玄宗邸に向かった。

 角成は気疲れからか、うつらうつらしながら後部座席で座っていた。

 助手席にいる般若さんに、玄宗さんが話しかける。

「般若のねえちゃん、……今更やけど、何も説明せずに連れて来て、ごめんな。びっくりしたやろ」

「それにしても、あの二人が来るって良くわかったね。行く前に知らせたん?」

「母さんが『ヤクザに絶対に直接連絡させへん』って、俺にはあの二人の電話番号未だに教えてくれへんから、あの二人には一切言うてないけど、あねさんのご主人の血の繋がってない兄弟には『近々行く』って言うたから、あの二人は極秘裏に網張ってるんちゃうかなぁ~、って思った」:

「なんか、借金の取り立ての話やったらスゴイ怖い内容やけど、今日はありがたかったね。……玄ちゃんが、なんであんなに強引に『行こ行こ』って誘ってくれたのか、……ありがとう」

「何か覚えてた?」

「玄ちゃんが耳軽く塞いだ時、思い出した。……たぶん、耳塞いで音をこもらせてくれたからわかったんやと思う。……一回も思い出したこともないくせに、不思議やね……お母さんの声って……」

 玄宗さんが聞きにくいことを聞こうとして、運転しながら姿勢を正す。

「今まで、……かっくん来るまで、俺らほとんど喋ったことなかったやんか」

「うん。なんか玄ちゃん来ると、いつも脈拍とか血圧とか高くなるから、変に緊張して、よう話しせんかったんよ」

「そうやったん? 言うてよ。俺、なんかしたんかと思て、よう破魔子さんに聞いたわ」

「そういう意味で、玄ちゃんのことは結構、……苦手やった。でも、どこも嫌いじゃなかったよ。好きやのに苦手やった。破魔子さんから言われててん。玄ちゃんはあなたが欲しがったお兄さんやから、恋愛感情持つのはNGやよ、って。……あと、今後来るであろう弟、かっくんも、恋愛対象と違うからね、も言われてた」

「そうやったんや、俺嫌われてなかったんや、ホンマに良かったぁ」

「あとは誰と恋愛してもいい、って言われたけど……」

「けどなんや?」

「……うん、何でもない」

 般若さんは寂しそうな笑顔で言った。

「……それと、あそこの、嘉介じーさんから受継いだあの家、……あそこに俺が初めて行った時からおったけど、いつから居てたん? 覚えてる?」

「破魔子さん来る前からおったよ。最初は嘉介さんとふたりやったのは覚えてるけど、いつから? 最近は年月日気にするようになったけど、ごめん、何年からとか全く記憶ない」

「どうでもええか、いつからとか。……興味本位でホンマに申し訳ないんやけど、今からする質問に答えたなかったら答えんでええからね」

 般若さんは黙って頷く。

「あそこには嘉介じーさんに連れられて来たん?」

「う~ん、……たぶんそう。今思い出せる最初の記憶は、嘉介さんの向かいに座ってた」

「その時は、子供の姿やった? それとも今みたいな大人の姿?」

 般若さんは視線を落としてしばらく考え、

「……恐らく、たぶんやけど、私このままの姿やった、……かなぁ? 嘉介さんのこと見上げた記憶がないから、たぶん今の姿、……やと思う」

「最初は嘉介じーさんと二人っきり?」

「そこもよく覚えくてなくって、……気が付いたら破魔子さんと源蔵さんが優しかった」

「お旅立ちの時の、出発前の受付と運転手さんの係はいつから? 」

「受付けのスタンプ押しは、結構早くからやってた。……私が運転とかできればやりたい、って、ある日言うたら、嘉介さんが色々連れてってくれて、ダンプとかバスの教習所に連れて行ってくれたり、なんかの資格とか技術とか色々取れるように段取りしてくれてたから、それが一通り終わってから、やったかなぁ。どれくらいかかったか、いつからやったかも覚えてない」

「般若の姉ちゃんが運転するまで、誰が乗り物の操縦してたん?」

「私が受付してた特は、真っ黒のマントの人が乗り物、って言うても、その頃は大型バスだけやったけど、その近くうろうろしてたのを遠くから見てただけで、会ったことも話したこともなかったから、全く誰かわかれへんわ」

「その、誰かわからん人? と交代したんやね」

「うん、なんか『やります』って言うたらみんな喜んだから『やった』みたいな感じ。引継ぎも何も無かった」

「そうやったんや。ありがとう、スッキリした。またあそこの家のことで何かわからんことあったら、その都度聞くわ。その時はまたよろしくお願いします」

「皆に愛されてる玄ちゃんの頼み断るのは、あの人達全員に嫌がらせしてるのと同じやから、出来る限り力になるよ。……それと、かっくん! 起きてるんやろ?」

 後部座席でもぞもぞと、寝起きでボーッとした角成が身体を起こす。

「般若さん、僕からも一つだけ質問いいですか?」

「いいよ、何?」

「般若さんの名前ですけど、これからなんと呼べば良いですか?」

「今まで通り『般若』でお願いしまっす」

「そちらで行くんですね。わかりました」

「うん。偶然やったけど、この名前やとお母さんにおんぶされてるからね……」

 般若さんは嬉しそうに身を乗り出して、後部座席の角成を見た。

「それと、私の本当の名前は『ナイショ』でお願いします。

「「は~い」」

 玄宗さんと角成は同時に答えた。

 角成は大事そうに、紅ちゃんが包まれた布を抱いている。

「かっくん、玄ちゃん、ありがとう。これからも、般若ちゃんをよろしくお願いします」

 般若さんが笑顔で言った。


 トイレ休憩のためにパーキングエリアに入ると、玄宗さんの電話が鳴った。

 発信元は、あの時に車の撤去をしてくれた重機の会社の番号だった。

 その会社の担当さん曰く、

「クレーンとレッカーの移動距離と稼働時間、その他、色々計算が間違っていました。お金のことですので少しでも早く連絡を、と思いまして」とのことだった。

 領収書は後日差し替えとのことらしいが、玄宗さんは金額を何度も聞き返していた。

「かっくん、借金無くなったで。請求金額の計算間違いやって」

「あっ、そうなんですか、こんなこと言うとなんですけど、……すごく助かります。……でも土曜日なのに、担当さん出勤してたんですね」

「せやねん、おかしいよな。土日祝日はその会社休みやし、百歩譲って現場が納期急ぐとかで休日出勤してても、経理の人は……これ、たぶんやけど……、さっきの人ら……、何でもない」

 角成が何か言おうと、息を吸い込んだ時、

「よかったな、かっくんがおっぱい触らんかったから、ご褒美出たんやで。触っとったら、今頃『任侠道』とか書いた額の前で正座させられて、泣いて土下座して……。あの人に限って、そんなん絶対に無い無い」と玄宗さんが言った。

「高見ノさんの組ってそんな感じなんですか?」

「俺一回も行ったことないからわかれへん。今度一緒に事務所訪問する?」

「住居襲撃も事務所訪問も、金輪際絶対に遠慮します。もうあっちの人はコリゴリです」

「なんでぇ、あねさんもサキちゃんも優しかったやろ?」

「コワイ以外無かったです。やっぱし威圧感普通じゃなかったですよ」

「でも、かっくんはすごく気に入られてたから大丈夫、二回までやったら失礼なこと言うても、瀬戸内海の藻くずにならへんと思う」

「言いませんよ、一回も」

 般若さんが『クスッ』と笑い、玄宗さんが豪快に『アッハッハ』と笑った。



第四章 第七節 だっこにおんぶ  終

エピローグ に続きます。

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