エピローグ
令和七年 五月十日(土曜日)
角成は道明寺さん経由で木地師さんに連絡をしてもらい、工房を目指して250CCの単車に乗り高速道路を走っている。
[やっぱしいいね、iP〇dは。音楽を気軽に持ち運べる時代、い~い時代やわ]
燃料タンクのところに付けたバッグの中の大神様が、牙笛を通して角成と会話する。
(大神様がブリ〇ニー・スピ〇ーズ好きって、ホントにいいんですか? 日本の神様が)
[何に心惹かれようが、誰にも咎め立てでけへんよ]
(でも、できればお神楽とか雅楽とか、そっちの方が……)
[何言うてんの、魂は、……我々のソウルは、いつでも自由……、フリーダムやん]
大雨で一度流された桐の箱の中で、大神様の頭蓋骨の耳孔部に、ヘッドフォンを挿し音楽を流し込んでいる。
そして角成は牙笛を耳に挿して、間接的に極小さな音で音楽を聴いている。
あれから玄宗邸の前で単車に乗る練習を重ね、一昨日、学校をサボって中型二輪免許に合格した角成は、単車で木地師さんのところに、大神様の箱を直接取りに向かっている。
般若さんと玄宗さんの努力と頑張りと知恵と工夫で、玄宗邸に乗り入れてしまった単車を何とか外に出せたので、今その単車にまたがっている。
土曜日の早朝の高速道路は空いていた。
サービスエリアで休憩していると、角成の携帯電話が鳴る。
「かっくん、仕事一つ頼める?」
「玄宗さん、お買い物とかお使いとかですか? いいですよ」
「ちゃうねん、魔女の杖の注文入っててん」
「んんん?『まじょのつえ』って言いました? 今」
「マヂに強ぇぇ、とか、イタリア系ハーフの万丈・ノッツェさんとか言うたんとちゃうで」
「わかってますよ。それでどこで売ってるんですか? 魔女の杖って」
「俺に言われたもなぁ、かっくん知らん?」
「質問に質問で返すって、……もぉ」
「ごめんごめん、大神様に『千年に一度の杖どこ?」って聞いて。それでわかるらしいから」
「千年に一度の杖?」
[ミレニアム・オラクル・プラントとかミレニアム・ロッドとか言うやつちゃうん。破魔子さんと何回も探しに行ったわ。うん]
「大神様が『ぼんやり覚えてる』そうです」
「そうか、じゃ、かっくん、それ持って帰ったら莫大な……、それよか、一生笑顔で過ごせるわ。がんばりや」
そう言って電話は切れた。
(大神様、その杖はおばあちゃんとどこで見つけたの?)
[探しに行った、と言うたけど、見つけた、とは言うてへんよ]
(えっ? そうなの……)
[そう、その時は見つからんかった]
(しまった、早合点か)
[あの時はせっかく機が熟したのに、そこの谷を宅地造成のために埋め立てしてしもてて、かれこれもう二、三十年くらい前かな。どうしても必要になって、十年ちょっと前にも来たけど、そういえば、そろそろやね……]
(ホントに? よっしゃ、んじゃぁ帰りにそこに行ってみますか)
[久しぶりに暴れまわれる、最近運動不足やから、楽しみ楽しみ]
(んんん? ちょっと待った! 暴れるって何?)
[かっくん、そろそろ学習しよ。人間、聞かん方が幸せなことって、あるやん]
(現場に行って突然不幸な目に遭うより、予め聞いて不安になった方が……)
[ないない。とにかく暴れたい、何でもいいから暴れたい、黙ってそこに連れてって]
(わかりました。何が起こるか、だいたいでいいから教えて下さいね)
[そんなに話すこともないけど、道中にゆっくり話すわ]
(はいお願いします)
[ブリちゃんのBGMつきで]
その時、角成が辺りを見回して、
「あれっ? ここ……」と独り言を言い、バッグを抱えたままサービズエリアから輪留めのある歩行者専用の脇道を小走りで進む。
⁅かっくんどないしたん? トイレやったら方向逆やよ】
大神様の言葉に返答せず、角成は走る。
舗装がなくなり、砂利道になってしばらく行くと、古いお地蔵様が六体立っていた。
角成は、向かって一番左のお地蔵様の前で跪いて合掌する。
[ ……かっくん、……なんでここ]
角成は照れ隠しに、
「六番目のお地蔵様って、蓑も傘も中古品なのに怒らなかったじゃないですか。だから……」と言ってみた。
[そうか、知ってたんや、ここのこと。そうなんや……]
大神様の声は、感慨深そうな声音だった。
単車に戻った角成は、大神様が入ったバッグをタンクに付ける。
[よっしゃ、安全運転でお願いね]
角成がエンジンをかけ、単車を走らせる。
高速道路を走りながら角成は大神様に聞く。
(おばあちゃんが今の僕見たらどう言うかなぁ)
[さあねぇ、本人に聞かんとわからんし。かっくんが天寿を全うするまでその質問は大事にしまっとき]
(今の僕と、今までの僕と、これからの僕と、どれを聞こう)
[それを決めるのはかっくん自身よ。せやけど、できるだけ過去の自分と未来の自分に恥ずかしない今の自分でおりな。そしたら自ずと答えが出るんちゃう]
(うん、ありがとう。頑張る)
[おう、これからもよろしく~っ!]
(はい!)
[とりあえず、ベッドを取りにレッツゴーで]
(かしこまりましたっ!)
早朝の初夏の風は、皮のジャケットを着ていてもまだ肌寒い。
角成は今までの閉鎖的な人生を、まるで何かを取り戻そうとでもするかのように、この二ヶ月あまりを駆け抜けた。
だが本来の仕事である死神さんのお手伝い『魂を成仏させるための手法』もまだよくわかっていない。
それに、まだまだ様々な修行も、勉強もしなければいけない、ようだ。
これからも色々な事があるだろう。
様々な出会いもあるだろう。
大神様をはじめ、角成のたくさんの大事な仲間と共に。
ソウル・ロンダリング 第一部 完 第二部 饒舌な鏡 に続く
第一部、最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
第二部は、角成クンの許婚が出ますよ~。
お楽しみに~。




