第四章 過去からの奪還 第一節 位置について!
角成は家に帰ったは良いが、一体全体何を持って行けば良いのか全く思いつかなかった。
なので、とりあえずは大神様を振動対策のために例の梵字風呂敷で直接包み、さらにそれを角成のTシャツで包んでガタつかないようにして木箱に納め、雨濡れ対策にそれをスーパーの袋に入れて、さらにリュックもビニール袋で包み背負う。
結局角成はそれだけして家から飛び出した。
向かうは玄宗邸。
…………ない。
……入り口が。
角成は、集合場所をどこか聞いてないことを思い出す。
だが『聞いていない』ということが、玄宗邸集合を意味すると勝手に思っていた。
角成は急速にアセる。
その時、角成のスマホが鳴った。
「今どこ?」
玄宗さんだった。
「玄宗さんちの入り口予定地です」
「開いてないやろ、俺もさっき通ったら開いてなかった」
「どこに向かえばいいですか?」
「自転車?」
「はい」
「そこから旧の国道に出て、北に向かって走って。見つけたら合図する」
「わかりました」
角成は国道に向かって、小雨の中、背負った大神様を気遣いながら慎重に急ぐ。
この日はすれ違う車も人もほとんどなかった。
角成は玄宗さんの指示通り、北に向かって自転車で走り続ける。
角成が十五分ほど自転車を走らせたが、まだ玄宗さんは現れない。
もうとっくに隣市に入り、もうしばらくこのまま走ると分かれ道になる。
旧市街の間を抜ける旧国道と、新市街近くを走る新国道のどちらを行けば良いのか、角成はそれを聞いていない。
海香が連れて行かれた方向が、大阪北東部なら旧国道、堺市か大阪市内または兵庫県方面なら新国道。
角成はどちらに行くか迷う。
雨はもうほとんど上がっている。
だが、空にはど~んよりと、郊外のパチンコ店のどハデな広告を反射できるほど低い雲が垂れ込め、今すぐに再び雨が降り出してもおかしくない、そんな空模様だった。
角成は一旦自転車を止めて電話する。
「今分岐にいます、どっちに行けば良いですか?」
「真後ろ」
「えっ?」
玄宗さんが軽の箱バンで、角成の横に急ブレーキで半回転しながら停止した。
軽バンのスライドドアが勢いよく開く。
「お松と父さん、おまっとうさん。さっ乗って!」
強引に般若さんが、角成の腕を引っ張って車に乗せる。
ポツンと自転車が、国道のガードレールの内側にもたれかけたかたちで残された。
「般若さん、自転車が!」
「時には諦めも大事よ、人間は」
「そんなこと鬼のお姉さんに言われたくな……、」
角成がそこまで言って固まる。
助手席から若菜が顔を覗かせていた。
「ちょちょちょちょちょ、なぜ、どうして若菜姉ちゃん!」
「人手が足りへんって玄宗さんが言うから来ちゃった。テヘッ」
「ちょっとぉ、テヘッ、とかそんな、……んもぉ、どうして玄宗さんこんなキケンな、もぉおぉぉぉぉお」
「どうしても車が二台いるから、しょうがなかってん」
「そんな事より早く着替えんとぉ、風邪ひくよ」
般若さんが角成の頭をタオルで優しく拭きながら言った。
「着替えなんか持ってないですよ、持って来たのは……、そのぉ……」
角成は若菜が同乗していることを思い出し、歯切れが悪くなる。
「はい、これ。私の手作り。若菜さんも後ろの荷台で毛布かぶって着替えて。かっくんは目ぇつぶったまま着替える。……コラッ! 玄ちゃんはルームミラー調節し直さない!」
般若さんが一気にまくしたてる。
般若さんが二人に渡したのは、トレーナーと丈がほんの少し長めのスタジャン風のジャンバー、それに少しゆったり目のズボンで、色は全て黒っぽい色だった。
そう書くと別にこれと言った特徴などないのだが、実はこれら全ての材質は厚手のフリースかフェルトだった。
既に般若さんは同じものを身に着けている。
(やはりよく似合ってる) と、角成は以前より……、少し自信なく思った。
そしてそれらの服の色は、角成と若菜が渡された時最初は黒だと思っていたのだが、街灯の明かりが差した時に見るとかなり濃い緑色であることがわかった。
だが角成が最も気になったのは、ズボンを履き替える時に般若さんにお尻をツンツン突っつかれていることが、若菜姉ちゃんにバレないか、だった。
「よし、もう一台の車には俺とセクハラ姉さん乗って行くから、若菜ちゃんとかっくんはこの車で来て」
「わかりました、って言ってもどこに向かうんですか?」
若菜が控え目に聞く。
「カーナビにセクハラ姉さんのパソコンから情報飛んで来るねん。それに従って走ればOK」
玄宗さんが後部座席の般若さんに首を絞められながらフツーに答える。
玄宗さんが言った通り、カーナビが目的地を何度も再設定している。
誰かをリアルタイムで追うというのは、人間の気持ちや覚悟以外にも、機械までもが色々と大変そうだった。
玄宗さんは忘れ物か何かあるらしく、二人を借りているガレージ近くに降ろし、若菜が運転席に、角成が助手席に乗り、玄宗さん達より一足先にカーナビの指し示す方向に急ぐ。
そして、これはいくら人助けとは言え家庭内でのいざこざ。
民事不介入の警察に助けを求める、ことはできない。
それにこの車は一般車両であり、当然緊急車両ではない。
なので交通法規もやはり守らないといけない。
若菜は制限速度……、 ……ではなく、捕まらないであろうと予測されるギリギリ上限っぽいスピード、で急いだ。
「若菜姉ちゃん、今から行く所にどういう種類の人達がいるか聞いてる?」
「うん、聞いてるよ。スジ者っぽい人、または全開でそのスジの人」
「大丈夫? ……って言うか、後ろに下がってて絶対に前に出……」
「あんた何言うてんの? 私が黒帯やってこと忘れたん? カクナリこそ前に出たら足手まといになるんちゃう?」
「そういう問題じゃなくて、お姉ちゃんはやっぱ女で……」
「そう言うアンタはか弱い男の子やろ?」
角成は最も嫌な形で事実・現実を突き付けられた。
角成のスマホが鳴る。
「こちらセクハラ姉さん。今どこ?」
「オッホン、今はえっとぉ、A 病院通過しました」
「OK~い。あと五分以内に追いつきま~す」
「角成、私の知らん間にああいう人達、……カッコイイ大人の人達と知り合って……」
若菜がそう言った時、激しくパッシングしながら猛スピードで一台の軽バンが後ろから迫って来た。
その車は若菜運転の軽バンの追い越し車線側で真横に並んだ。
又しても角成のスマホが鳴る。
「こちらセクねぇ。次の信号で止まったら、かっくんそのまま後部座席に移動して窓開けて」
玄宗さんは五分どころか五十秒で追いついた。
信号待ちで角成はシートベルトを外してシートを倒し、後部座席へ移動する。
角成が急いで窓を開けると、般若さんがリュックを助手席の窓から渡してきた。
「そこに色々入ってるから、その中身についてはおって指示するかんね」
「そこに愛はあるのかい」
角成が渾身のボケをかます。
「ゴメン、そのドラマ見てない。じゃねっ、チュッ」
キッスと共に通話が切れる。
「知っててスカされた」
助手席に戻った角成がぼやく。
「何が?」
「ちょっとね」
角成がそう言って、渡されたリュックの中を覗く。
……真っ暗でリュックの中は何も見えるはずなかった。
角成は手探りでリュックの中から、小さな懐中電灯を見つける。
そこで又してもスマホが鳴る。
「こちらセクねぇ、覗いちゃイヤン」
「気に入ったんですか? その呼び名?」
「うん。懐中電灯点けたってことはリュックの中身見てる?」
「はい、でも何が何だか、どれが何だか……」
「え~っとぉ、とりあえずは無線機入ってるんよ、どれかわかる?」
角成が手に持っていたプラスチックケースを裏返すと、マジックインキで『無線機』と書かれていた。
そこから一つ取り出してみると、普通のヘッドホンより細い配線の両方に、肌色のシップ薬のようなものが付いている。
「それの肌色の粘着剤付いてるシートあるやろ? 『M』って書いてるのがマイク。胸鎖関節の間あたりに貼って」
「どこですか? キョウサカンセツって?」
「喉の下、左右の鎖骨の一番近づいたところ」
角成が言われた通りに貼ってみた。
次はもう片方の『E』って書いてるのがイヤホンね。骨伝導タイプやから耳の後ろに粘着剤付いたパッドコードと一緒に貼り付けてちょ」
角成が言われた通りにする。
「その段取りで、次の信号待ちの時に若菜ちゃんにも付けてあげて」
「次の信号待ちですね、わかりました」
「次に信号で止まったら、もう後はほとんど信号止まらずに行くからね。手際よく付けんともうチャンスないよ」
高速道路の乗り口はこの近くにはない。
角成は少し釈然としなかったが、信号待ちに備えて準備する。
「その前にマイクテストするから、携帯切って私の言う言葉復唱して」
「はい、わかりました」
角成は電話を切る。
「ある日」
「ある日」
「森の中」
「森の中」
「熊さんに」
「熊さんに」
「出会った」
「出会った」
「花咲くっも~り~の~み~ち~」
「熊さんに~で~あ~ぁったぁ~」
「はい、かっくんの負け~。テストOK」
角成はどことなくだが、かなり悔しかった。
前方の信号が赤に変わった。
角成が信号待ちになった瞬間、
「お姉ちゃんちょっと失礼」
そう言って若菜にもマイクとイヤホンを付ける。
そして今度は若菜が先攻だった。
「テストいきますよ~」
「はいよ~」
般若さんが元気に答える。
「鈴木くんは摂津中学出身で、佐藤くんは茨田中学出身です。二人の出身地はどこでしょう?」
「テストじゃなくって、それなぞなぞやんけ」
玄宗さんが突っ込む。
「わかったっ! マチャチューチェッチュチュー」
般若さんは盛大に噛んだ。
「かっくん、若菜さんの首絞めといて。絞め跡残るくらい、思いっっっ切り」
「ええぇっ、それは勘弁して下さい」
般若さんが叫び、角成が困り、若菜が盛大に笑っている。
「遊んでる場合じゃなかった、このままこの無線機の説明を一応しとくね。この無線機から聞こえる音の大きさは常に一定。小さな声で話しても大声で叫んでも、このイヤホンを通して聞こえる声質が多少変わるだけで、ヴォリュームはいつも同じくらい。なので、ささやきで充分皆に聞こえるから、今日は常に小声でお願いね」
「は~~~い」
若菜が緊張感のない返事をする。
「よろしい。あとは、通信距離は場所によって違うけど、平地なら五百メートルくらいはなんとか聞こえるけど、それ超えると送受信共にちょっと難しいみたい。あと、防水がイマイチなんで、水に弱いんよコレ」
「じゃ、雨が強く降ると?」
「うん、ダメになるかも」
「まっ、その前にカタつけりゃええこっちゃし」
玄宗さんが明るく答える。
『カタをつける』
この言葉で、
(これからキャンプに行くのではなく、それなりの人達に刃向かいに行く)
ということを改めて角成が思い出す。
角成はこの車に同乗していることと、そしてこの先の行動を思い浮かべて不安を覚え、思わず身震いした。
「玄宗さん、今から僕たちが向かう先には、やはりそのぉ……、何と言うか……、暴力的な人達がいるかも知れないんですよねぇ」
「そうやね、おるみたいやよ。海香さんのお母さんの話では」
「それはどういう話だったんですか?」
「お父さん、じゃなかった、海香さんのクソオヤジが連れて行く時に、○○会に連れて行ってその後のことを相談するって」
「……はぁ、そうなんですか……」
「何それ? 私海香は嫌い、いんや、大ッ嫌いやけど、それは許されへんわ」
「と、いうことは、今から向かっている先にいるであろう相手って、やっぱり……、やくざ?」
「惜しいっ、かすった! やくざたち、複数形ね」
角成は猛烈にがっかりする。
そういう人達相手に、今から何をするために、カーナビに従って走っているのか。
意識的なのかどうかはわからないが、誰もそのことについて話さない。
人間の不安は、ある程度予想が付く時と、何が起こるかわからない時では、雲泥の差がある。
角成は不安に背中を押されるように、勇気を振り絞って聞く。
「カーナビの指し示す方向が地獄、ってことはないですよねぇ」
そして沈黙。
車のタイヤが時折道路の水を弾き飛ばす音と、エンジンの音だけの世界になる。
「へっくしょん。あー、誰や? 俺の噂してんのは」
「玄宗さん、私らは今ナイショ話もお互い筒抜けですよ」
若菜が勤めて明るく言う。
「じぁ、噂してるのは海香さんかも? 彼女絶対に待ってるよ、玄ちゃんとかっくんと、若菜さ、……若菜ちゃん」
「はんに、ウォッホン、半田さんの言う通りかも」
「せやな、海香っちが待ってるのは、彼女にとっての地獄の入り口で……、かもな。……その、地獄の入口に連れていくのが、実の父親、っていうのが、本気でハラ立つねん、俺は」
いつも陽気な玄宗さんの、静かだが怒りに満ちた声を角成は初めて聞いた。
「あのぉ……」
角成がおずおず切り出す。
「あっちへ行って、そのぉ、話し合いで解決とかは……、やっぱ無理ですか?」
「う~ん、……それはあっちの出方次第やけど、まぁ無理やろな。俺らが『お願いします、海香さんを返して下さい』って言うたら『寝言は寝てる時に言えや、だぁほ』で終わりやろ。なんちゅうても、親子で面接に行ってる訳やもんなぁ」
角成は、がっかりした。
「でもな、かっくん、安心してくれ。乱闘とかは避ける」
「えっ? ということは、こっそりと連れて帰る、……とか?」
「まぁ、そんな感じ。あっちに何人の人間がおって、武装してるとかしてないとか。……武装はないにしても、最低限、相手の人数と、どういう建物におるかで作戦は変わるけど。まぁ、ガッチリと臨機応変に対応するつもりやから、安心して」
(無理っ! 絶対に安心なんか無理っ!)
角成は心の中だけで虚しく抵抗した。
雨の降る幹線道路を、玄宗さんと般若さん、というか、半田さんが乗った車が先を行き、若菜と角成の乗った車が後に続く。
半田さんが言った通り、二台の車は全く信号にかからず進んでいた。
角成が気を紛らわせる、というか、恐怖を紛らわせるために聞く。
「半田さん、信号にかからないのは何か理由があるんですか?」
「かっくん、世の中には聞かない方が良いことってあってね。……たとえば、私がパソコンでどこぞのシステムに潜り込んで、信号機をどうのこうのとかね……」
「げげげっ、本当ですか? その話?」
「あくまで、たとえばの話。……もしくは、玄ちゃんが信号管制センターのお姉さんを騙くらかして、信号の切替をどうのこうの、とかね……」
「何となくどっちも物凄く信憑性ありますよねぇ」
若菜と海香が一瞬で『ぽ~っ』となったのを目の当たりにした角成は、完全に信用してしまいそうになる。
「え~っ、玄宗さんって、女たらしなんですか~?」
「うん、そう」
若菜の疑問に、鬼なお姉さんが間髪入れず答える。
「コラ、俺は鼻とよだれたらしたり、ウンコ漏らしたりしても、女性はたらしたことないぞ!」
「今度閻魔様から、やっとこ借りて来よぉっと」
鬼のお姉さんは容赦なかった。
その直後、鬼のお姉さんの声が、真面目な声に切り替わる。
「どうやら海香さん達が目的地に着いたみたいね。カーナビが目的地定めたみたい」
半田さんはパソコンで海香のスマホの位置を特定し、その情報を逐一カーナビに送る、そういうシステムを使用していた。
海香の現在位置は、ファミレスでスマホの状態を調べた際に、固有の識別子やらなんやらその他もろもろを半田さんは手に入れていたので、それらをもとに算出していた。
カーナビが設定したらしき目的地は、信貴生駒山脈付近の幹線道路から少し入ったところだ。
この辺りは、様々な職種の大中小様々な企業の工場や倉庫がたち並んでおり、夜間には少し道を入ると、拡張された道路の路肩には、車中で仮眠を取る大型・中型トラックがぽつりぽつり停まっている。
カーナビの目的地、海香が待っている地点まであと一キロメートル弱まで来た時、ターゲットはまたしても動き出した。
玄宗さんがいち早く反応し、車をそちらに向けて走らせる。
これから何が起こるか角成も若菜も般若さんも、そして、玄宗さんですら予想がつかない。
不安からか、緊張からか、皆一様に寡黙になる。
「近い、二百メートル前方」
「あの車か? 白いクラウン?」
「玄ちゃん、次の角一旦左折して、若菜ちゃんはそのまま直進」
「はい」
「あいよっ」
玄宗さんが左折し、角成たちの視界から車が消える。
「かっくん、カーナビ見といてや。ちなみに今どこ指してる?」
「今は、僕たちの前方……、みたいです」
角成がこの辺りを通るのは初めて、どころか、地図すら見たことがない場所だった。
道路標示の地名も知らないところばかりだ。
「どうやら、さっきの車みたいね。玄ちゃんは、さっきの道に戻って若菜ちゃんに合流して」
「OK! 待っててな、若菜ちゃん」
「は~いっ」
若菜は物凄く嬉しそうに言った。
角成たちの乗る車の背後に、玄宗さん運転の車がそっと現れる。
「どうかっくん? さっきの白いクラウンは……、違う!」
般若さんが慌てて言う。
「さっきの角曲がったエスティマや! 今逸れた! くっそぉ、情報遅いぞ、この腐れ機械がっ!」
「あっ、コラッ! 俺のカーナビ殴ったら……」
般若さんがモノに八つ当たった。
「GPS情報のやり取りの関係で、ほんの数秒のタイムラグがあるから、くっそぉ~。……若菜ちゃんごめん、ゆっくりでいいからカーナビの指示に従って、さっき曲がった古い白のエスティマの後を追って。お詫びに玄ちゃんに食事おごらせるから」
「うおっしゃぁ、ラッキー!」
「若菜姉ちゃん、テンション上げても、スピードは控え目に……」
角成が控え目に言った。
玄宗さん運転の車が細目の路地を左に入る。
それを若菜はルームミラーで、角成はライトの光軸の移動で、それぞれが玄宗さんの車の挙動を追う。
若菜も少し先の交差点を左に入り、一キロほど先の交差点を左折し、そしてカーナビによるとエスティマが走っているはずの道に右折して出た。
若菜が遅れを取り戻すようにスピードを上げる。
「見えた! 玄宗さん、若菜です。今エスティマの後ろです」
「OK、俺エスティマの二台前。そのまま車間距離充分取って、相手に気づかれんように妙な挙動はくれぐれも取らんこと。OK?」
「OKです」
「それと、ここからほんの一キロくらいで車線が広がる。その地点を過ぎたらエスティマもこの車も追い越して、この先にあるコンビニの駐車場に入って車の中で待機してて」
「わかりました」
道幅が広くなり、若菜が言われた通りスピードを上げてエスティマを追い越す。
角成が追い抜く時に横目で見たが、フロントウインドウ以外、全てスモークガラスだったので内部は全く見えなかった。
「玄宗さん、僕今車の中見ようと思ったんですけど、ダメでしたすいません」
「気にせんでええよ、チンピラの車はみんなあんな感じや」
無線機を通じてそう会話した時に、角成の乗る車が玄宗さんの乗る車を追い越した。
ここから既にコンビニの大きな青い看板が見えている。
若菜が違和感なく入るために、一瞬だけスピードを上げる。
そして、半ば急速に速度を落とし、コンビの駐車場に角成の乗る車が入った。
「ナイスな減速~ぅ、若菜ちゃん」
「あのぉ、すいませ~ん、すいませ~ん」
突然般若さんの叫び声が聞こえる。
コンビに駐車場の前を玄宗さんの軽バンとエスティマが並走する形で通過した。
「これ、落ちましたよ、これ」
般若さんが丸めた何かを開けた車の窓から見せながら叫ぶ。
「停まって下さい、と・ま・っ・て」
スキンヘッドプラスあごひげがエスティマの窓を開けて般若さんの口元を見ている。
うなずいた。
ハザードを出して二台とも路肩に寄り停車する。
「さてと…………」
玄宗さんがエンジンをかけたまま、ゆっくりとシートベルトを外してドアを開ける。
そしてつぶやいた。
「イッツ・ア・ショータァーイムッ!」
第四章 第一節 位置について! 終
第四章 過去からの奪還
第二節 用~意っ!
に続きます。




